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第五話 お昼の時間

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明くる朝、今日は汐里ちゃんに起こされる前に起きた。時間にも余裕があるので、着替えてから朝食にした。
「それじゃ、行ってきます!」
汐里ちゃんの攻略は、できるか分からないからなぁ…現状は放置で。というか、皆を均等に愛するなんて…私も罪な女だこと。
「よっ、柚花里」
「ん、剣次」

剣次の爽やかな挨拶を一蹴するのも、いつものやり取りだったなぁ。にしても、毎日30分弱の徒歩通学…意外に面倒だな…。確か、清柏は生徒数が多いから駐輪場が慢性的に不足しているんだっけかな。でもって、一定の距離内に居を構える生徒は原則徒歩…仕方ないか。そんなことを考えて五分、交差点の角になずなが立っているのが見えた。いやー、今日も可愛いなぁ。

「おはよー、なずな!」
「俺との温度差ひでぇな…」
「おはよう柚花里ちゃん。それと、剣次くんも」
「はよ、なずな」
三人になると、話はどんどん弾んだ。なずながC組の先生やクラスの話をしてくれて、私と剣次はA組の話をする。個性あふれる生徒が沢山いて、それだけでも楽しそうな学校生活になりそうだ。

「二人は部活ってどうする?」
ある程度してから、なずなが部活の話を持ち出した。そういえば、中学の時の部活って…なんだっけかな。いや、私のは分かっているよ。吹奏楽部だったもの。縁というか…主人公の部活…なんだっけ?
「俺はもうバスケは御免だね。新聞部とか面白そうじゃね」
「私は…あちこち見てから決めようかな。なずなは?」
「私はね、手芸部なんていいかなって思ってるんだ。お裁縫とか編み物とか」
「おぉ、女子力高いねぇ。可愛いし、似合うんじゃないかな」
ちょっとわざとらしかったかな? まぁ、知ってたし。正直、このタイミングで日本文化研究部って言ってもどうしようもないし。なんで、どうしようもないかは、まだ秘密にしておこうかな。さて、道路に散らばる桜が多くなってきたなぁ。
ということで、学校に着きましたと。ゲームのロード画面に採用されていた、この長い桜並木。生徒を出迎えるのには、最高の景色だ。

「おや、剣次じゃん。お前、女子二人と登校とか、いいご身分すぎだろ!」
むむ? 後ろで剣次が絡まれてる。なんだ?
「なんだよ亘理(わたり)かよ。コイツらは単なる幼馴染みだ。しかも片方は我らが風紀委員だぞ。しかも男には興味ないみたいだし、もう片方も俺じゃ好みに合わないってさ」
「ん? 剣次、そこの男子ひょっとしてA組?」
「あ、おはようございます。俺、亘理(わたり)宗平(そうへい)っていいます。まぁ、出席番号36なんで、なかなか縁がなさそうですが」
「そうね。では、改めて。風紀委員の茜屋柚花里です。こっちの娘は、木谷なずなちゃん。私の嫁よ」
「ちょっと柚花里ちゃん…人前でそれは…め、って言ったじゃん…。あ、その、C組の木谷です」

そっか…背景の一部みたいなものだったモブも、一人の人間で、こうして生きているし誰かと仲良くなる。ゲームの感覚を、あんまり残すのは良くないかも。取り敢えず今は、宗平君が剣次と話しているから、なずなを独占できてラッキーかも。


「テスト終わったー。ねぇ、雛子ちゃん、よかったら一緒にお昼しない?」
国数英の課題テストが終わった直後、私は雛子をお昼に誘った。ちなみな、この流れはゲーム通りだ。真後ろと右斜め後ろの席が女の子のため、このタイミングになると、
A〈剣次とお昼〉
B〈雛子とお昼〉
という選択肢が発生する。今は女の子として、俄然Bを選ぶ。
「あ、わたくしも誘おうとしていましたの。ご一緒しましょ、柚花里さん」
「ねぇねぇ、ウチらもいいかな?」
声をかけてきたのは、出席番号2番と8番の娘で、あれ? 名前が…井出と倉橋っていう名字は覚えてるんだけどなぁ。
「あ、気軽に里穂って呼んで」
「あたしは香奈美」
井出(いで)里穂(りほ)と倉橋(くらはし)香奈美(かなみ)ね。里穂はちょっと日焼けしたショートヘアの女の子で、香奈美はゆる巻き髪で背の低い女の子。どっちかというと香奈美の方が可愛いかな。攻略したくなる。
ま、今はお弁当だ。汐里ちゃんのお手製だもの。美味しいんだろうな。期待に薄い胸を膨らませながら、お弁当箱を開く。小さいものの、二段のお弁当箱には、そぼろになった玉子焼きが乗ったご飯と、沢山の種類のおかずが詰められていた。

「ごちそうさま」
ふぅ、美味しかった。さすが汐里ちゃん。冷めても美味しいように工夫されている。とくに、きんぴらが味の染み方が計算されているね。しかも、レンコンっていうのが、いいポイントだよ。歯ごたえとかさ。
私がお弁当箱を片付けていると、雛子が小さな袋を取り出した。そういえば…
「雛子ちゃん。それ、ガム?」
「えぇ。食後にガムを噛むのがクセなのよ。小さい頃は、キャラメルだったのですが、それだと虫歯になるからと、母に渡されて以来、ずっとなんです」
こんなイベントあったなぁ。ふふ、モグモグしていて可愛いなぁ。お弁当の中身を見ていてもそうだけど、意外に庶民派なんだよね、雛子は。だからこそ、嫌味にならないのかも。そんなことを思いつつ、四人で話していると、
「委員長、そろそろ体育館に行く準備して」
教室の入り口で、先生が知らせてきた。もう昼休みも終わりかぁ。
ま、なかなか充実したスタートだったんじゃないかな。あとは部活と生徒会よ!
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