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勘違うということ

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恋人とは、恋しく思い相思相愛の相手のことをいう。
ふむ、と侑は考える。
ここまではいっていない、恋しいの意味がまずよくわからない。
家族への恋しさは理解できても、他人への恋しさはさっぱりわからないのだ。
うむむ、と考えこういう時は先人の知恵を借りるのが一番と侑はリビングに降りた。
リビングではパソコンを前に武尊が仕事をしていて、その横で周平が大の字で昼寝をしていた。

「武さん、これがいいの?」
「うん、これがいいの」

画面から視線を外して目だけで笑う。
映画見ていい?と聞くといいよと言われたので、侑は配信サービスの画面をいそいそと開いた。
見るのは『アオハルの向こうで君を待つー大学生編ー』
高校で結ばれた主人公カップルの大学生編は、お付き合いすれ違い再確認とてんこ盛りの内容だ。
進学先が離れた二人がすれ違う切なさ、子どもから大人へ成長する様子が描かれている。

「武さん」
「ん?」
「今気づいたんだけどさ、好きって言われてねぇわ」
「へぇ」
「俺、もしかして恥ずかしいやつかもしれん」

テレビ画面では雨が降りしきる中『好きだ!』という告白シーンが感動的に流れている。
好きだとも言われてないのに、付き合ってもいいとはなんという自意識過剰なんだろうか。
ん?でも考えといてってそういうことじゃないのかな?と考えてハッと侑は思いついた。

──僕でもいいじゃない

あれは和明からしてもということでは?これは、きっと練習なのだ。
アルファにフラレ続けた侑にひとつの案を提案したのかもしれない。
侑はアルファと付き合うことの、和明はオメガとの関わり方を学ぶ為。
なぁんだ、そっかぁと妙に納得した侑なのだった。



竹田家のリビングにはマナベからもらった大きな予定の書き込めるカレンダーが貼ってある。
9月の末日、バリバリと一枚剥がしたそれの10月第一週の日曜日には花丸が赤字でマークしてあった。

「シュウ、あの花丸はなに?」
「あれは・・・」

その日の夕飯時カレーを頬張りながら周平が答えようとしたその時、すっくと侑が立ち上がり拳を天高く突き上げた。

「秋のGI戦線開幕だぁぁあああぁぁぁああ!!」

「「 そういうこと 」」

周平と大和が頷き、侑が雑多に金が放り込まれた瓶に向けてビシィッと人差し指を突き立てる。
瓶の金は馬券代なのだ。
なるほど?と武尊が頷くのと、縁側の掃き出し窓が開くのは同時だった。

「なに、うるさいんだけど」
「和明!」

どうしたの?と輝かんばかりの笑みを顔に貼り付け、侑は駆け寄り上目遣いで瞳を潤ませた。
この顔をすれば大概のアルファの鼻の下が伸びたのだ。
残念ながら伸びっぱなしというわけにはいかなかったが。

「なに、なんなの」
「え、可愛くない?」
「はぁ?僕の前でそんなのしなくていいよ」

ポンと侑の頭に和明の手が乗って、腹減ったと和明はリビングにずかずかと上がり込んだ。
あれ、なにか間違えた?

「カレー?」
「うん、食べる?」
「こたつ新しいね」
「武さんが買ってくれたんだ」

いいじゃんと座り込む和明を見ながら、侑は未だに感触の残る頭に手をやっていた。
頭のてっぺんにカイロを置かれたみたいにぽかぽかして、熱が染み込んでくる。

「あっくーん、カレー食べないの?」
「・・・食べる」

頭に手をやったまま侑はゆっくりと座って、カレーの続きを食べた。

「なんで頭に手え乗せてんの?」
「・・・なんか、出ていきそうで」
「なにが?」
「わからんけど、ぬくいの」

ふはっと笑った和明の口にカレーが吸い込まれていく。

「和明、なにしにきた?」
「週末、おじいちゃんとこ泊まろうと思って」
「ふうん」
「さっきなんでうるさかった?」
「あぁ、日曜日にGI見に行くんだ」
「は?競馬?」

そうそうと頭に手を乗せた間抜けな格好のまま侑は頷いた。
いい加減どけろ、と頷いたタイミングで手は下ろされてしまったが。

「お弁当なにしよっか。武さん、入れてほしいのある?」
「豚肉でアスパラ巻いたやつ」
「おにぎりとおいなりさんも作ろ」
「てか、なんで競馬?」

訝しげな和明にそれはだって、と松竹梅は顔を合わせてこくりと頷きあった。

「お見合いパーティにいたんだよね、生産牧場の跡継ぎが」
「馬主も結構いたな」
「話が面白くてさ」

「「「 はまっちゃった 」」」

楽しみだねぇ、と言い合う松竹梅とは対照的に面白くない顔なのは武尊と和明だ。
自分以外のアルファのことでニコニコ笑う姿なんて見たくない。

「僕も行く」
「勉強は?」
「一日休んだくらいでどうにかなるような頭じゃない」
「そっか、弁当なに入れてほしい?」
「唐揚げとか」

任せろと笑むのを見て和明は今度はひかなかった。
またひとつわからないことが増えた侑であった。



※あっくんの恋愛偏差値は15くらい
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