8 / 17
お茶会
しおりを挟む
自殺じゃない、そう言い切ったディアドリを制服警官二人は唖然と見ていた。
何言ってんだこの子供は、といち早く正気に帰った若い一人が声を上げる。
「君!子どもがいていい場所じゃない。早く出て行きなさい」
若い制服警官がつかつかとディアドリに歩み寄ってその腕を掴んだ。
ごめんなさい、とつい出てしまった言葉は小さく聞こえなかったのか制服警官はそのまま引きずるように退出させようとした。
「おい、いいんだ。その子は・・・俺の助手だ」
「いやいや、あのねぇ、あなたも本来なら入ってもらっちゃ困るんですよ」
「いいから、その手を離せ。それで、トルナード部長刑事を呼んでこい」
「はぁ?あなた、何言ってんだ」
「いいから。アーサー・ペイズが呼んでるって言ってこい」
アーサーはシッシッと追い払うように手を振って、若い制服警官からディアドリを取り返した。
若い制服警官はアーサーを睨んだが、もう一人の制服警官に促されその場を後にした。
「ディー、腕は痛くないか?強く掴まれたりしてないか?」
「は、はい。大丈夫、です」
「良かった。・・・ディー、前にも見たことがあるのか?」
こくんと頭が落ちるように頷くディーの背中をアーサーは優しく撫でさする。
「ほんとに自殺だったらあんなに綺麗じゃない」
「ん、俺もそう思うよ。もちろん、こんな形の事故なんてないだろう。これは悪意だよ」
「・・・はい」
アーサーは室内のものを触らないよう残った警官に言い、自分は吊るされたマルクの検分に戻った。
デイアドリはそれを部屋の入口からぼんやりと眺める。
時折気遣わしげに向けられるアーサーの視線には、大丈夫だの意志をこめて頷く。
「ディー!!」
どれほどの時間がたったのだろうか、意外とそんなに経ってはいないのかもしれない。
呼ばれて振り向くとエリックがバタバタと駆けてきた。
「ディー、どうした?なにがあった?」
「えっと・・・」
「トルナード部長刑事、お知り合いですか?」
「あ、あぁ。友人だ」
若い制服警官は面食らい、ディーを見てバツの悪そうな顔をした。
「エリック、来てくれ」
「アーサー先生!どういうことですか!ディーをこんな現場に連れてきて」
「話は後だ。こりゃ自殺じゃない」
は?とエリックは吊り下げられたマルクを見た。
アーサーはひとつひとつエリックに説明する。
首を見せ、指先を見せて納得したところでやっとマルクは解放された。
床に寝かされ、皆で祈る。
「他殺で間違いないですか?」
「あぁ、そうだと思う」
運び出されていくマルクを見つめながらエリックとアーサーは話す。
「遺書は?」
「それらしきものはそこにあるよ」
ん?と疑問に思いながらエリックが机の上から手に取った紙切れには『先にいくよ。ごめんね』と書かれていた。
「いや、これは・・・」
「な?それを遺書といっていいものかどうか」
苦笑いのアーサーにエリックも同じように返しながら、それを袋に入れた。
「で?アーサー先生。呼んでもいないのに現場にいて、更にディーまでいるとはどういうことですか?」
「あぁ!」
ぽんと手を打って忘れてた、とアーサーはディーの肩を抱いて出ていこうとした。
「待て!」
「エリック、今からホープ婦人とお茶をするんだ」
「それとこれとなんの関係があるんだ」
「ディーはグリーン婦人のおつかいで来たんだよな?俺と二人で」
アーサーに肩を抱かれたディアドリは、そうですと肯定する。
「では、私も行く」
「なんで」
「近所から話を聞かねばならん」
「それはもう制服警官が聞いてたぜ」
なぁ?と人の悪そうな笑みを浮かべたアーサー。
同意を求められたらそうだと答えるしかない、実際そうだったのだから。
けれど、エリックはなんだかイライラとしていそうだしアーサーはニヤニヤ笑いが止まらない。
なんなの、仲が良いの?悪いの?どっちなの?とディアドリはこっそりため息をついた。
だいぶ待たせてしまったであろうにホープ婦人はにこやかに出迎えてくれた。
鞄から預かった荷物を渡す。
リボンに差し込まれたカードを見て、ホープ婦人は微笑んだ。
「初めまして、ディー。いらっしゃい」
「え?」
「新しいお友達を紹介します、とカードに書いてあるわ」
うふふとウィンクしたホープ婦人に促されて入った部屋のテーブルにはアップルパイが用意されていた。
網目状の艶々としたシナモンの香りが微かに香るずしりと重そうなアップルパイ。
目の前でホープ婦人がナイフで切り分けてくれる。
サクリと音がして中に黄金色のりんごがたっぷり詰まったそれが皿にのる。
「さぁさ、召し上がって」
「いただきます」
フォークをいれるとパリっと微かな音が聞こえて、口に運ぶとりんごの香りが口いっぱいに広がって甘い果汁が喉を流れ落ちる。
「どう?」
「とっても美味しいです」
大人三人から囲まれて、しかもその三人がみんなにこやかにしているものだからなんだか気恥しい。
マグカップに入ったお茶をふうふうと冷ます振りをしてその視線から逃れた。
「で?マルクさんはどうだったの?」
「あぁ、うん。最近変わったことはなかったかい?」
もぐもぐとアップルパイを食べながらアーサーが警察のようなことを聞く。
「変わったっていうか、ご結婚されたのよ?奥さんいたでしょう?」
カシャン、とアーサーの手からフォークが落ちる。
エリックは飲んでいた茶が喉につっかえたのかゴホゴホと咳き込んだ。
ディアドリはそういえばあの家に奥さんはいなかったな、と思い出していた。
何言ってんだこの子供は、といち早く正気に帰った若い一人が声を上げる。
「君!子どもがいていい場所じゃない。早く出て行きなさい」
若い制服警官がつかつかとディアドリに歩み寄ってその腕を掴んだ。
ごめんなさい、とつい出てしまった言葉は小さく聞こえなかったのか制服警官はそのまま引きずるように退出させようとした。
「おい、いいんだ。その子は・・・俺の助手だ」
「いやいや、あのねぇ、あなたも本来なら入ってもらっちゃ困るんですよ」
「いいから、その手を離せ。それで、トルナード部長刑事を呼んでこい」
「はぁ?あなた、何言ってんだ」
「いいから。アーサー・ペイズが呼んでるって言ってこい」
アーサーはシッシッと追い払うように手を振って、若い制服警官からディアドリを取り返した。
若い制服警官はアーサーを睨んだが、もう一人の制服警官に促されその場を後にした。
「ディー、腕は痛くないか?強く掴まれたりしてないか?」
「は、はい。大丈夫、です」
「良かった。・・・ディー、前にも見たことがあるのか?」
こくんと頭が落ちるように頷くディーの背中をアーサーは優しく撫でさする。
「ほんとに自殺だったらあんなに綺麗じゃない」
「ん、俺もそう思うよ。もちろん、こんな形の事故なんてないだろう。これは悪意だよ」
「・・・はい」
アーサーは室内のものを触らないよう残った警官に言い、自分は吊るされたマルクの検分に戻った。
デイアドリはそれを部屋の入口からぼんやりと眺める。
時折気遣わしげに向けられるアーサーの視線には、大丈夫だの意志をこめて頷く。
「ディー!!」
どれほどの時間がたったのだろうか、意外とそんなに経ってはいないのかもしれない。
呼ばれて振り向くとエリックがバタバタと駆けてきた。
「ディー、どうした?なにがあった?」
「えっと・・・」
「トルナード部長刑事、お知り合いですか?」
「あ、あぁ。友人だ」
若い制服警官は面食らい、ディーを見てバツの悪そうな顔をした。
「エリック、来てくれ」
「アーサー先生!どういうことですか!ディーをこんな現場に連れてきて」
「話は後だ。こりゃ自殺じゃない」
は?とエリックは吊り下げられたマルクを見た。
アーサーはひとつひとつエリックに説明する。
首を見せ、指先を見せて納得したところでやっとマルクは解放された。
床に寝かされ、皆で祈る。
「他殺で間違いないですか?」
「あぁ、そうだと思う」
運び出されていくマルクを見つめながらエリックとアーサーは話す。
「遺書は?」
「それらしきものはそこにあるよ」
ん?と疑問に思いながらエリックが机の上から手に取った紙切れには『先にいくよ。ごめんね』と書かれていた。
「いや、これは・・・」
「な?それを遺書といっていいものかどうか」
苦笑いのアーサーにエリックも同じように返しながら、それを袋に入れた。
「で?アーサー先生。呼んでもいないのに現場にいて、更にディーまでいるとはどういうことですか?」
「あぁ!」
ぽんと手を打って忘れてた、とアーサーはディーの肩を抱いて出ていこうとした。
「待て!」
「エリック、今からホープ婦人とお茶をするんだ」
「それとこれとなんの関係があるんだ」
「ディーはグリーン婦人のおつかいで来たんだよな?俺と二人で」
アーサーに肩を抱かれたディアドリは、そうですと肯定する。
「では、私も行く」
「なんで」
「近所から話を聞かねばならん」
「それはもう制服警官が聞いてたぜ」
なぁ?と人の悪そうな笑みを浮かべたアーサー。
同意を求められたらそうだと答えるしかない、実際そうだったのだから。
けれど、エリックはなんだかイライラとしていそうだしアーサーはニヤニヤ笑いが止まらない。
なんなの、仲が良いの?悪いの?どっちなの?とディアドリはこっそりため息をついた。
だいぶ待たせてしまったであろうにホープ婦人はにこやかに出迎えてくれた。
鞄から預かった荷物を渡す。
リボンに差し込まれたカードを見て、ホープ婦人は微笑んだ。
「初めまして、ディー。いらっしゃい」
「え?」
「新しいお友達を紹介します、とカードに書いてあるわ」
うふふとウィンクしたホープ婦人に促されて入った部屋のテーブルにはアップルパイが用意されていた。
網目状の艶々としたシナモンの香りが微かに香るずしりと重そうなアップルパイ。
目の前でホープ婦人がナイフで切り分けてくれる。
サクリと音がして中に黄金色のりんごがたっぷり詰まったそれが皿にのる。
「さぁさ、召し上がって」
「いただきます」
フォークをいれるとパリっと微かな音が聞こえて、口に運ぶとりんごの香りが口いっぱいに広がって甘い果汁が喉を流れ落ちる。
「どう?」
「とっても美味しいです」
大人三人から囲まれて、しかもその三人がみんなにこやかにしているものだからなんだか気恥しい。
マグカップに入ったお茶をふうふうと冷ます振りをしてその視線から逃れた。
「で?マルクさんはどうだったの?」
「あぁ、うん。最近変わったことはなかったかい?」
もぐもぐとアップルパイを食べながらアーサーが警察のようなことを聞く。
「変わったっていうか、ご結婚されたのよ?奥さんいたでしょう?」
カシャン、とアーサーの手からフォークが落ちる。
エリックは飲んでいた茶が喉につっかえたのかゴホゴホと咳き込んだ。
ディアドリはそういえばあの家に奥さんはいなかったな、と思い出していた。
17
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
《完結》僕の彼氏は僕のことを好きじゃないⅠ
MITARASI_
BL
彼氏に愛されているはずなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。
「好き」と言ってほしくて、でも返ってくるのは沈黙ばかり。
揺れる心を支えてくれたのは、ずっと隣にいた幼なじみだった――。
不器用な彼氏とのすれ違い、そして幼なじみの静かな想い。
すべてを失ったときに初めて気づく、本当に欲しかった温もりとは。
切なくて、やさしくて、最後には救いに包まれる救済BLストーリー。
続編執筆中
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
【bl】砕かれた誇り
perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。
「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」
「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」
「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」
彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。
「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」
「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」
---
いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。
私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、
一部に翻訳ソフトを使用しています。
もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、
本当にありがたく思います。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる