純愛なんかに手をだすな

谷絵 ちぐり

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お茶会

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自殺じゃない、そう言い切ったディアドリを制服警官二人は唖然と見ていた。
何言ってんだこの子供は、といち早く正気に帰った若い一人が声を上げる。

「君!子どもがいていい場所じゃない。早く出て行きなさい」

若い制服警官がつかつかとディアドリに歩み寄ってその腕を掴んだ。
ごめんなさい、とつい出てしまった言葉は小さく聞こえなかったのか制服警官はそのまま引きずるように退出させようとした。

「おい、いいんだ。その子は・・・俺の助手だ」
「いやいや、あのねぇ、あなたも本来なら入ってもらっちゃ困るんですよ」
「いいから、その手を離せ。それで、トルナード部長刑事を呼んでこい」
「はぁ?あなた、何言ってんだ」
「いいから。アーサー・ペイズが呼んでるって言ってこい」

アーサーはシッシッと追い払うように手を振って、若い制服警官からディアドリを取り返した。
若い制服警官はアーサーを睨んだが、もう一人の制服警官に促されその場を後にした。

「ディー、腕は痛くないか?強く掴まれたりしてないか?」
「は、はい。大丈夫、です」
「良かった。・・・ディー、前にも見たことがあるのか?」

こくんと頭が落ちるように頷くディーの背中をアーサーは優しく撫でさする。

「ほんとに自殺だったらあんなに綺麗じゃない」
「ん、俺もそう思うよ。もちろん、こんな形の事故なんてないだろう。これは悪意だよ」
「・・・はい」

アーサーは室内のものを触らないよう残った警官に言い、自分は吊るされたマルクの検分に戻った。
デイアドリはそれを部屋の入口からぼんやりと眺める。
時折気遣わしげに向けられるアーサーの視線には、大丈夫だの意志をこめて頷く。


「ディー!!」

どれほどの時間がたったのだろうか、意外とそんなに経ってはいないのかもしれない。
呼ばれて振り向くとエリックがバタバタと駆けてきた。

「ディー、どうした?なにがあった?」
「えっと・・・」
「トルナード部長刑事、お知り合いですか?」
「あ、あぁ。友人だ」

若い制服警官は面食らい、ディーを見てバツの悪そうな顔をした。

「エリック、来てくれ」
「アーサー先生!どういうことですか!ディーをこんな現場に連れてきて」
「話は後だ。こりゃ自殺じゃない」

は?とエリックは吊り下げられたマルクを見た。
アーサーはひとつひとつエリックに説明する。
首を見せ、指先を見せて納得したところでやっとマルクは解放された。
床に寝かされ、皆で祈る。

「他殺で間違いないですか?」
「あぁ、そうだと思う」

運び出されていくマルクを見つめながらエリックとアーサーは話す。

「遺書は?」
「それらしきものはそこにあるよ」

ん?と疑問に思いながらエリックが机の上から手に取った紙切れには『先にいくよ。ごめんね』と書かれていた。

「いや、これは・・・」
「な?それを遺書といっていいものかどうか」

苦笑いのアーサーにエリックも同じように返しながら、それを袋に入れた。

「で?アーサー先生。呼んでもいないのに現場にいて、更にディーまでいるとはどういうことですか?」
「あぁ!」

ぽんと手を打って忘れてた、とアーサーはディーの肩を抱いて出ていこうとした。

「待て!」
「エリック、今からホープ婦人とお茶をするんだ」
「それとこれとなんの関係があるんだ」
「ディーはグリーン婦人のおつかいで来たんだよな?俺と二人で」

アーサーに肩を抱かれたディアドリは、そうですと肯定する。

「では、私も行く」
「なんで」
「近所から話を聞かねばならん」
「それはもう制服警官が聞いてたぜ」

なぁ?と人の悪そうな笑みを浮かべたアーサー。
同意を求められたらそうだと答えるしかない、実際そうだったのだから。
けれど、エリックはなんだかイライラとしていそうだしアーサーはニヤニヤ笑いが止まらない。
なんなの、仲が良いの?悪いの?どっちなの?とディアドリはこっそりため息をついた。



だいぶ待たせてしまったであろうにホープ婦人はにこやかに出迎えてくれた。
鞄から預かった荷物を渡す。
リボンに差し込まれたカードを見て、ホープ婦人は微笑んだ。

「初めまして、ディー。いらっしゃい」
「え?」
「新しいお友達を紹介します、とカードに書いてあるわ」

うふふとウィンクしたホープ婦人に促されて入った部屋のテーブルにはアップルパイが用意されていた。
網目状の艶々としたシナモンの香りが微かに香るずしりと重そうなアップルパイ。
目の前でホープ婦人がナイフで切り分けてくれる。
サクリと音がして中に黄金色のりんごがたっぷり詰まったそれが皿にのる。

「さぁさ、召し上がって」
「いただきます」

フォークをいれるとパリっと微かな音が聞こえて、口に運ぶとりんごの香りが口いっぱいに広がって甘い果汁が喉を流れ落ちる。

「どう?」
「とっても美味しいです」

大人三人から囲まれて、しかもその三人がみんなにこやかにしているものだからなんだか気恥しい。
マグカップに入ったお茶をふうふうと冷ます振りをしてその視線から逃れた。

「で?マルクさんはどうだったの?」
「あぁ、うん。最近変わったことはなかったかい?」

もぐもぐとアップルパイを食べながらアーサーが警察のようなことを聞く。

「変わったっていうか、ご結婚されたのよ?奥さんいたでしょう?」

カシャン、とアーサーの手からフォークが落ちる。
エリックは飲んでいた茶が喉につっかえたのかゴホゴホと咳き込んだ。
ディアドリはそういえばあの家に奥さんはいなかったな、と思い出していた。
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