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帰り道
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バタバタと帽子を被りながら出ていく二人をホープ婦人はのんびりと見やりながら言う。
「ディー、あの二人はどうしたのかしら」
アップルパイに夢中のディアドリはもごもごと、奥さんを探しに行ったのかもと首を傾げた。
「いなかったの?」
茶をゴクリと飲み込んで頷く。
あらまぁ、と頬に手のひらをあててホープ婦人も首を傾げた。
「お買い物かしら」
どこまでものんびりした人である。
「奥さんはどんな人なんですか?」
「そうねぇ、なんだか派手な人よ。髪なんかくるんくるんに大きく巻いててね、こう、胸元がよく見える服を着てたわ」
「へぇ、マルクさんって人は?」
「郵便配達をしててね、真面目な人だったけど・・・なにか悩みでもあったのかしら。でもねぇ、結婚したばかりで自殺なんてねぇ」
そんなことあるかしら?とホープ婦人はまた首を傾げた。
新婚というのは普通は幸せなものだと思う。
いつまでが新婚というのか、それはわからないが好きあって結婚したのだからそこから死を選ぶなんて普通はしないだろう。
やはりあれはアーサーのいう悪意ある何者かの仕業なのだ。
「ディー、おかわりは?」
「いただきます!」
良いお返事ね、口に手をあててふふふと笑うホープ婦人と過ごす時間はなんだか気持ちがいい。
心がポカポカになる気がする。
この街に来てから良いことばかりだ。
海でびしゃんこになってしまったけれど。
ほんの少し冷めてしまったアップルパイは今度はしっとりとして美味しかった。
誰かに好きなお菓子を聞かれたらアップルパイと答えよう。
好きなお菓子ができるなんて自分の人生はまだまだ捨てたものじゃないな、とディアドリはまた一口頬張った。
「ディー、一人で帰れる?」
メアリーに渡してね、とまた届け物を渡されながらディアドリは頷いた。
またね、と手を振るホープ婦人に手を振って
帰る、またグリーン婦人の所へ帰る。
なんだかこそばゆい。
来た道を戻る。
戻る、帰る、またね。
また行ってもいいのだろうか、またあのアップルパイを食べられるのだろうか。
「ディー!!」
「アーサーおじさま・・・」
前方から走って来るのは今朝出会ったばかりの人で、でももうずっと知ってる人みたいな錯覚を起こさせる人。
はぁはぁぜぇぜぇと息を荒らげて走ってくる。
「おじさま、もう歳だね」
「何言ってる、まだいける三十歳だ。こう見えてもモテるんだぞ」
くたびれたジャケットに古めかしいループタイ、シャツは皺が寄っていて帽子はくたくただ。
でも顔の造作はなかなか良い。
「ダメな男が好きな人はいるからなぁ」
「失礼なやつだな」
顔を見合わせてふっと息が漏れる。
そして、笑いながら並んで歩く。
「奥さんいた?」
「うん」
「奥さんが犯人?」
「いや、死んでた・・・おっと気をつけろ」
びっくりして小石に蹴つまづきそうになった。
支えてくれた腕は太くて思わずそれにすがりついた。
「な、なんで?」
「ありゃ、毒だな」
「どこで?」
「波止場の奥まった、なんて言ったらいいかな。こう倉庫があってだな、その裏に管理人の小屋があって、そのまた向こうの・・・」
「別にそこまで聞いてないよ」
「そうか?」
「波止場ってことは船に乗ろうとしてたの?」
どうだかな、とアーサーはディーが転ばないように今度は手を繋いだ。
「荷物なんかはちっこいバック一つ持ってなかった」
「盗られちゃったってこと?」
「そうだなぁ。それか、最初から持ってなかったか」
「ふぅん。あ、派手な人だった?」
「あ?野暮ったいおさげに眼鏡で地味な女だったよ」
ん?とディアドリは首を傾げた。
ホープ婦人から聞いたこととまるで逆だ。
「なんだ?」
「ホープ婦人が奥さんは派手な人だったって」
なんだそりゃ、とアーサーは空いた手でほりほりと頬をかいた。
ただの自殺だと思ったものがややこしくなってるな、とディアドリは思った。
思ったけど自分がどうにかできるわけじゃない。
──トルナード部長刑事大活躍!
ふっと新聞の見出しを思い出した。
なんとなくだけどあの人が解決するんじゃないかな、ふわっと浮かぶエリックの顔。
潮の匂いがうっすら鼻につき始めた頃、グリーン婦人の家はもうすぐそこだ。
「ありゃエリックだな」
顔を上げると確かにエリックがグリーン婦人の家の前でうろうろと行ったり来たりしている。
なんだろう?
「ディー、気をつけろよ?あいつはαだからな」
だから?とアーサーを見るもニヤリと笑うだけだった。
「ディー、あの二人はどうしたのかしら」
アップルパイに夢中のディアドリはもごもごと、奥さんを探しに行ったのかもと首を傾げた。
「いなかったの?」
茶をゴクリと飲み込んで頷く。
あらまぁ、と頬に手のひらをあててホープ婦人も首を傾げた。
「お買い物かしら」
どこまでものんびりした人である。
「奥さんはどんな人なんですか?」
「そうねぇ、なんだか派手な人よ。髪なんかくるんくるんに大きく巻いててね、こう、胸元がよく見える服を着てたわ」
「へぇ、マルクさんって人は?」
「郵便配達をしててね、真面目な人だったけど・・・なにか悩みでもあったのかしら。でもねぇ、結婚したばかりで自殺なんてねぇ」
そんなことあるかしら?とホープ婦人はまた首を傾げた。
新婚というのは普通は幸せなものだと思う。
いつまでが新婚というのか、それはわからないが好きあって結婚したのだからそこから死を選ぶなんて普通はしないだろう。
やはりあれはアーサーのいう悪意ある何者かの仕業なのだ。
「ディー、おかわりは?」
「いただきます!」
良いお返事ね、口に手をあててふふふと笑うホープ婦人と過ごす時間はなんだか気持ちがいい。
心がポカポカになる気がする。
この街に来てから良いことばかりだ。
海でびしゃんこになってしまったけれど。
ほんの少し冷めてしまったアップルパイは今度はしっとりとして美味しかった。
誰かに好きなお菓子を聞かれたらアップルパイと答えよう。
好きなお菓子ができるなんて自分の人生はまだまだ捨てたものじゃないな、とディアドリはまた一口頬張った。
「ディー、一人で帰れる?」
メアリーに渡してね、とまた届け物を渡されながらディアドリは頷いた。
またね、と手を振るホープ婦人に手を振って
帰る、またグリーン婦人の所へ帰る。
なんだかこそばゆい。
来た道を戻る。
戻る、帰る、またね。
また行ってもいいのだろうか、またあのアップルパイを食べられるのだろうか。
「ディー!!」
「アーサーおじさま・・・」
前方から走って来るのは今朝出会ったばかりの人で、でももうずっと知ってる人みたいな錯覚を起こさせる人。
はぁはぁぜぇぜぇと息を荒らげて走ってくる。
「おじさま、もう歳だね」
「何言ってる、まだいける三十歳だ。こう見えてもモテるんだぞ」
くたびれたジャケットに古めかしいループタイ、シャツは皺が寄っていて帽子はくたくただ。
でも顔の造作はなかなか良い。
「ダメな男が好きな人はいるからなぁ」
「失礼なやつだな」
顔を見合わせてふっと息が漏れる。
そして、笑いながら並んで歩く。
「奥さんいた?」
「うん」
「奥さんが犯人?」
「いや、死んでた・・・おっと気をつけろ」
びっくりして小石に蹴つまづきそうになった。
支えてくれた腕は太くて思わずそれにすがりついた。
「な、なんで?」
「ありゃ、毒だな」
「どこで?」
「波止場の奥まった、なんて言ったらいいかな。こう倉庫があってだな、その裏に管理人の小屋があって、そのまた向こうの・・・」
「別にそこまで聞いてないよ」
「そうか?」
「波止場ってことは船に乗ろうとしてたの?」
どうだかな、とアーサーはディーが転ばないように今度は手を繋いだ。
「荷物なんかはちっこいバック一つ持ってなかった」
「盗られちゃったってこと?」
「そうだなぁ。それか、最初から持ってなかったか」
「ふぅん。あ、派手な人だった?」
「あ?野暮ったいおさげに眼鏡で地味な女だったよ」
ん?とディアドリは首を傾げた。
ホープ婦人から聞いたこととまるで逆だ。
「なんだ?」
「ホープ婦人が奥さんは派手な人だったって」
なんだそりゃ、とアーサーは空いた手でほりほりと頬をかいた。
ただの自殺だと思ったものがややこしくなってるな、とディアドリは思った。
思ったけど自分がどうにかできるわけじゃない。
──トルナード部長刑事大活躍!
ふっと新聞の見出しを思い出した。
なんとなくだけどあの人が解決するんじゃないかな、ふわっと浮かぶエリックの顔。
潮の匂いがうっすら鼻につき始めた頃、グリーン婦人の家はもうすぐそこだ。
「ありゃエリックだな」
顔を上げると確かにエリックがグリーン婦人の家の前でうろうろと行ったり来たりしている。
なんだろう?
「ディー、気をつけろよ?あいつはαだからな」
だから?とアーサーを見るもニヤリと笑うだけだった。
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