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3.彼らの関係
その8、お友だちには助けてもらおう②
しおりを挟む「え?」
「だから、やり直したいんだって!」
なにそれ。
「なにそれ……」
「さっきのキーホルダー問い詰めたらさ、今誰とも付き合ってないんだって! 良かったじゃんA子、モトサヤして、結婚式呼んでよ!」
なにそれ。
なにそれなにそれなにそれ。
心臓が、ああ、破裂しそう。喉の奥からなにかこみ上げてくる。ぐわんぐわんと、フライパンで殴られたみたいな衝撃だ。
立っていられない。
だめ、たって。がんばるんでしょ、わたし。
「……カバン、取ってきてくれない?」
「え、なんで?」
「お化粧、なおしたいの」
「~~わ、わかった!」
後ろ姿を見送ってすぐ手が動いた。
ぽろん、ぽろん、ぽろん。
出ないかな、迷惑かも……おねがい、出て。おねがい。
『おつかれ。同窓会終わったの?』
出てくれた……
『あれ? エンボちゃん?』
よかった。出てくれた。声が聞けた。
『……今どこにいるの?』
どうしてそんなこと聞くの。
『分かった。すぐ行く。15分くらいで着くから』
いいよ。来なくていいよ。
『……やっぱり車で行く。5分で着くから、大通りの交差点にいて。いい?』
「はいA子、持ってきたよ! あれ、電話?」
「ありがとう。先戻っててくれる?」
彼女が素直に頷いてくれてよかった。
個室居酒屋でよかった。
食べ飲み放題でよかった。
こっそり廊下を歩いてレジへ向かい、自分の分だけ店員さんにお金を預けて外へ出た。……大通りの交差点。久しぶりに履いた6センチヒールが痛い。夜風が沸騰していた頭を冷やしてくれる。
彼の車……私、しらない。向こうは分かってくれるだろうか。そもそも本当に来てくれるだろうか。こんな、モブのために。
1分。でも来て欲しい。
3分。お願いだから……きてほしい。
「A子!」
背後から、今一番聞きたくない人の声が聞こえた。振り向きたくない。もう駅まで走って逃げようか。あの交差点の信号が、青になったら、
「A子ちゃん」
低くも高くもない、染み込むような声で。ほとんどなにも見ていなかった私の視界は完全に黒になった。舌が柔らかくとろけて、唇でうんと甘やかされる。たっていられない。
いいんだ。
もうたっていなくて、いい。
「お待たせ。遅くなってごめんね」
「くおん、さ……」
「車乗って。さあ、帰ろっか」
誰もが見惚れてしまうような笑顔で、エッチのときみたいなすごく甘い声で、言われて、どこかのお嬢さんみたいにエスコートされる。頭の中は真っ白なまま乗り込んだ。扉が閉まる直前。
「すみません。A子、体調が悪いみたいなんで持って帰りますね」
打って変わって事務的な声。
閉まる。世界からの隔離。
彼はすぐ隣に乗りこんで、車はなめらかに動いた。静かになると古傷をえぐられるように、さっきの出来事が反芻されて心が折れる。
やり直したい?
なにそれ。
好きな子ができたんじゃなかったの? たった三ヶ月で別れたの? それとも初めから彼が盛り上がってただけで付き合ってもいなかったとか。ああ、どっちでもいい。どっちでもいいけど。
感情があふれてしまいそう。
三ヶ月前の、あの気持ちが。
みじめだった。五年も付き合って、結局は選ばれなかったんだって。それでも無理して幸せを願って身を引いた、寒々しいあの夜。ひとりきりではどうにかなってしまいそうで、人の気持ちは変えられないって言い聞かせながら歌を歌っていたあの、夜。
言い争うなんてしたくなかった。
最後はきれいに終わりたかった。
五年の思い出を台無しにしたくなかったから、別れをちゃんと受け入れたのに、どうして!
「エンボちゃん」
隣から伸びてきた手と手を繋ぐ。あったかい。指の間が彼の指でぴったりと埋まって、握り返す。ちょっとの隙間もないほど強く、手を繋ぎ合う。
「呼んでくれてありがとう」
「……」
「嬉しかった」
ああ。
こんな、優しい人の隣で。知りたくなかった気持ちがどろどろ溢れ出して止まらない。
『お互いちゃんと付き合ってたんだし、好きだったんでしょう?』
さすが茉実……私のこと、よく分かってる。
腹わたが煮え繰り返る。はじまりはどうであれ、私は、あの五年間は幸せだった。今回、あんな風に他人づたいに復縁を匂わされて、冷静でいられなくなるくらいには楽しかった。
あの五年は、こんな風に粉々に崩されていい思い出じゃなかった。
ああ、わたし怒ってる。怒れるくらい、ちゃんと
五年間、ちゃんと、すきだったんだ。
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