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3.彼らの関係
☆その9、お友だちには慰めてもらおう①
しおりを挟む部屋に来てほしいと誘ったのは私のほうだ。
彼は何も聞かずに車を回してくれた。
この人が、私の部屋に来たのは片手で数えられるくらい。会社からなら彼の家の方が近いし、きれいだし、広いから。それに背の高い彼では、うちのシングルベッドは窮屈だった。
ごちゃっとした、普通の女の一人暮らし。
そこにこの人がいるのは、違和感でしかない。
「エンボちゃ……」
電気もつけないまま、玄関で、キスをした。
背伸びして、よだれを欲しがって、口を開けた。
忘れさせてほしい。めいっぱい甘やかされて、溺れて、なにもかも全部塗り替えたい。ねえ、おねがい、シよ? 馬鹿みたいに訳わかんなくなるエッチ、今日はもう、何回だってしていいから。あなただってそういうの、好きでしょう?
ぱち。
「っえ」
玄関の白熱灯がぴんぴんと音を立てて光る。しらけるほどの明るさに目がしみて、まばたきを繰り返した。気づけば、彼の胸にすがっているのは私だけで、彼は腕ひとつ、唇ひとつ動かしてくれていない。どうして。
「久遠さ……」
「あいつの事、思い出してんの」
「え……」
「俺をあいつの代わりにすんの」
「……」
「まだ好きなの、あいつのこと」
冷ややかな声に背筋が凍った。
違う、そうじゃない。
慰めてほしいだけ。
代わりだなんて思ってない。ただ最悪になってしまった五年間を、この部屋での記憶を消してしまいたい、上書きしたいだけ。気持ちなんてもう微塵もなくて、むしろ……ーー
そう言いたいのに言葉が出ない。彼は音もなく私から離れて、かと思えば何も言わずに、まだ電気のついていない部屋の奥まで行ってしまった。ぎし、とベッドに腰掛ける音。
どうしよう。怒ってる。
足がすくんで動けない。
「いいよ、おいで」
冷ややかさはそのままの声。
怖いのに足が動く。だって、いいよって言ってくれた。だから行かなくちゃ。行かなくちゃまた、突き放される。
部屋のへりに足がかかって。
「この部屋で、あいつとヤッてたんだよね」
また、動けなくなる。
「あいつのこと、なんて呼んでたの」
「久遠さん、なに言っ」
「答えろって」
「っ、……Uくん」
「ふぅん、Uくんね……セックスは? あいつ淡白だったって言ってたけど」
彼はエッチの最中、時々、わざと元カレのことを聞いてくることがあった。どっちが良い? と詰め寄られて、彼の方が良いと散々鳴かされて。でもそれはプレイの一環だった。スパイスみたいなもので、セックスの内容も、Uくんの名前すら出なかった。今は違う。
どうして? いつもなら甘やかしてくれるのに。とろけさせて、何もかも忘れるくらい甘い快楽に溺れさせてくれるのに。
今は……
「どっちから誘うの?」
「別れる前は……わたしから……」
「じゃあ誘って」
まるで蛇に睨まれた蛙だ。
この人が怖くて、冷たくて、たまらない。
「この部屋で、あいつにしたみたいに、俺を誘ってよ」
「久遠さん」
「ヤリたいんでしょ?」
……震えながら手が動く。
逃げ出したい。いっそ逃げてしまいたい。嫌だと突っぱねることだって出来るはずなのに、私はニットワンピースを脱いで、ストッキングを外して、下着姿になった。ピンクのレースの上下セット。彼の足の間に、座り込む。ジッパーを下げて……
「ッ……」
大きい。何もしてないのに。
Uくんはこうはいかなかった。付き合い始めは別だけど、別れる頃には、自然に勃つなんて本当に稀で。だから……
「で。どうすんの」
「……ん、ふ……ぅ」
こうして……咥えて、勃たせなきゃ、応じてくれなかった。唇でしごいて、舌で尿道を刺激して。ああ、顎が外れそう。前はもっと楽にできたのに、大きさが違うだけでこんなにつらい。
唾液を絡ませて、吐きかけるギリギリまで含んで、上下に動かす。長さもあるから、喉の奥まで入れても全部は咥えきれない。一度でもえずいてしまえば何もかも拒絶されそうで、それは嫌で、必死だった。
この人のものを咥えたのはこれが初めてではないけれど、こんなに緊張するのは今回が初めてだ。いつもならすぐに褒めてくれて、頭を撫でて、もういいよと言ってくれるのに。
今日は何も言ってくれない。
ねえ、もうゆるして。
いつもみたいにしようよ。こんなに勃ってるんだもの。いいでしょ? へたくそな私の前戯より、普通にエッチした方が気持ちいいよ。
恐るおそる、でも一抹の期待をこめて目線を上げた。そして後悔した。浅ましい私の考えなんて、全て見抜かれてるんだって、その目ですぐ理解できたから。
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