85 / 105
八十四話〜返事〜
しおりを挟む今日もまた応接間にて三者面談を行っていた。昨日に引き続き置物と化しているユーリウスだが、今日は会話を聞く余裕もない。
昨日はあれからエレノラと顔を合わせる事はなく、悶々としながら夜を過ごし殆ど眠る事が出来なかった。
今朝ようやく彼女と応接間で顔を合わせる事が出来た。たった一晩がとても長く感じた。
昨日の事もあり気不味く感じるが、まるで何事もなかったかのように彼女はいつも通りだった。
「ーーありがとうございました」
その日の夕刻、最後の一人を見送りようやく面談は終了した。
テーブルの上の書類を揃え立ち上がるエレノラを呆然と見つめていると、その事に気付いた彼女はこちらへ視線を向ける。
「お疲れ様でした。後は私の方で処理をしますので、ユーリウス様は休んで下さい」
「……エレノラ、少し話がしたい」
一晩中、彼女の素っ気ない態度の原因を考えた。
やはりこれまでのユーリウスの愚行を許せないのだろうかと悩みながらも、ある事が脳裏に浮かぶ。それはアンセイムの事だ。
今から二週間程前、フラヴィが屋敷に押しかけてきた翌日ーー
ユーリウスは頬を腫らした状態で出仕した。
当然アンセイムは驚き理由を聞いてきたので、正直に事の顛末を話した。
無論体裁が悪い事は承知の上であり、他の人間には口外するつもりはない。だがアンセイムには知って貰った方が都合がいいだろう。
フラヴィとの再婚があり得ない事を告げた上で、待たせていた返事をする事にした。
『殿下、以前提案されたエレノラを側妃にされたいとの件ですが、申し訳ありませんが私はエレノラと離縁するつもりは毛頭ありません。ですからエレノラの事は諦めて下さい』
『……それは残念だ。どうやら随分と心境の変化があったみたいだな』
『長らくお待たせしたにも拘らず申し訳ありません』
そんなやり取りをした後はアンセイムの口からエレノラの名を聞かなくなっていたので少しは安堵していたものの、例の診療所で未だにエレノラとアンセイムが会っているとの報告は受け懸念はあった。
ただ悶々として過ごしてはいたが、以前とは状況が違うためか心のどこかで大丈夫だと悠長に構えていたのかも知れない。
呼び止め彼女へ近付くと、エレノラはその分後退をする。内心ユーリウスは地味にショックを受けた。
「何故、逃げるんだ」
「逃げてなんていません」
そう言っている間にもユーリウスが足を一歩二歩と踏み出すと、彼女は一歩二歩と後退をする。
「どう見ても逃げているだろう」
「どう見ても逃げていません」
「嘘を吐くな」
「ユーリウス様の目が悪いんじゃないですか?」
はぐらかそうとする言葉に苛立ちが募る。
そして後退しながら器用に扉へ向かっている事に気付き、一瞬視線を外した隙をつき俊敏な動きで距離を詰め壁際に追いやる。
更に目を見張り慌てる彼女の顔の横に手を付き逃げ場を塞ぐ。
「何をするんですか⁉︎」
「君が逃げようとするからだ」
「ですから逃げてなんて……」
真っ直ぐにすみれ色の瞳を見つめると、戸惑った様子で視線を逸らされた。やはりいつもの彼女らしくない。その事に妙に胸が騒ぐ。
「昨日の返事が聞きたい」
「……」
「私の事が許せないのは分かっている。だが機会を与えてくれないか? 必ず良い夫になると約束する。だからっ」
「ユーリウス様」
冷静に話さなくてはと思いながら、徐々に感情的になってしまう。そんな中、彼女に言葉を遮られた。
「本当は今回の件が落ち着いたらお伝えするつもりでしたが……」
その瞬間、頭の中に警鐘が鳴り響いた。防衛本能だろうか。
これ以上聞きたくないと急激な焦燥感に駆られた。
「エレノラっ、先に私の話をーー」
「私と離縁して下さい」
その瞬間、頭が真っ白になった。
何を言われたのか理解出来ない。いやしたくない。
瞬きを忘れ目を見開いたまま微動だに出来ず、呼吸すら止まってしまったように思えた。
「勿論この件は最後まで責任を持ちます。それと私の生家であるフェーベル家の再建のお話ですが、こちらはアンセイム様にお任せする事になりましたので手を引いて頂いて結構です。お気遣い頂き、ありがとうございました」
その後も彼女は「公爵様にはアンセイム様からお話をしてーー」話を続けていたが、まるで頭に入らなかった。
663
あなたにおすすめの小説
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
【完結】不倫をしていると勘違いして離婚を要求されたので従いました〜慰謝料をアテにして生活しようとしているようですが、慰謝料請求しますよ〜
よどら文鳥
恋愛
※当作品は全話執筆済み&予約投稿完了しています。
夫婦円満でもない生活が続いていた中、旦那のレントがいきなり離婚しろと告げてきた。
不倫行為が原因だと言ってくるが、私(シャーリー)には覚えもない。
どうやら騎士団長との会話で勘違いをしているようだ。
だが、不倫を理由に多額の金が目当てなようだし、私のことは全く愛してくれていないようなので、離婚はしてもいいと思っていた。
離婚だけして慰謝料はなしという方向に持って行こうかと思ったが、レントは金にうるさく慰謝料を請求しようとしてきている。
当然、慰謝料を払うつもりはない。
あまりにもうるさいので、むしろ、今までの暴言に関して慰謝料請求してしまいますよ?
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる