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プロローグ

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うら若い少女に似つかわしくない仮面を付け、学院の門を潜る。明るい金色の長い髪に地味な形のドレス、真っ白な仮面の作り物の唇が一際赤く目を引く。

彼女はフィオナ・ヴォルテーヌ侯爵令嬢だ。幼い頃、顔の半分以上を覆う程のアザができて以来、外出する際は必ず仮面をつけている。その所為で、周囲の人間達は不気味がり誰一人近付こうとする者もいない。

ほら見て、フィオナ様よ。

いつ見ても不気味ね。

あの仮面の下……どんなに悍ましいのかしら。

噂だと、顔が歪んで変形してるんだろう?

いや、違うだろう?凄いアザがあるって聞いたぞ。

どちらにしても、醜女に変わりないな。


フィオナがただ歩いているだけで周囲は騒がしくなる。本人等はひそひそと話しているつもりなのだろうが、確り聞こえている。だがまあ、聞こえていると知った所で別段気にも留めないだろうが。

そんな異様な空間の中、フィオナは物ともせず淡々と歩いて行く。

何時もの事だ。


昼休み、他の生徒が昼食を食べる中フィオナだけは図書室へと向かう。基本屋敷の外では食事を摂らない。水分くらいは摂取するが、周囲に誰もいないか念入りに確認をしてからようやく飲む事が出来る。だがそれも素早く行う。油断は出来ない。たかだかお茶や水を飲むだけで大袈裟だと思うかも知れないが、誰かにこの悍ましい仮面の下の素顔を見られたらと思うと気が気ではない。

屋敷の自室から一歩外へ出れば、落ち着いて過ごせる事はない。本当ならば自室に引き篭もり、学院へ通ったり、外へなど出たくはない。だが両親はそれを決して赦さない。

病気でもないのに、何を甘えた事を……。

そんな厳しい両親は他の兄弟姉妹達には滅法甘い。フィオナには姉、妹、弟がいる。姉のエリーズは一度結婚し家を出たが、直ぐに離婚し出戻った。原因は姉の浮気や我儘らしいが、それでも両親は相手が悪いと豪語して「可哀想なエリーズ」と話す。
弟のヨハンは控えめな性格で、優しい。家族の中で、唯一まともな存在だ。ヴォルテーヌ侯爵家の跡取り故、両親はそれはもう大事に扱っている。
最後に妹のミラベルは、兎に角超が付く程の我儘で手が付けられない。性格も兄弟姉妹の中で一番最悪と言える。だが両親は「ミラベルは、本当に可愛い」と口癖の様に話している。妹が何をしようと怒った所を見た事がない。
そして何より、フィオナの顔のアザの出来た原因でもある。それなのにも関わらずミラベルは誰よりもフィオナを見下し嘲笑う。

「ふふ、お姉様って本当に醜いわね」



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