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俯くミラベルの口元が弧を描いたのが、フィオナには見えた。怒りとかはない。今はただ、激しく動揺していた。ヴィレームを見遣ると、無表情で立っている。
大丈夫、大丈夫……ヴィレーム様は、そんな人じゃない。
全身が脈打ち、冷たい汗が背を伝い、息苦しさを感じる。
大丈夫……大丈夫よ。だって、ヴィレーム様は、私の事好きだって、結婚したいって……言ってくれたもの……。僕がいるよって、言ってくれた、もの……。
私は、ヴィレーム様を……信じてる。
暫し、部屋は静まり返る。ほんの僅かな時間だったが、フィオナには恐ろしく長く感じた。そしてその沈黙を破ったのはヴィレームだった。
「分かりました」
頭が真っ白になった。
今まで生きて来た中で、絶望を幾度なく味わってきた……。だがそれらとは比にならない程の絶望が、この瞬間フィオナを襲った。
身体が小刻みに震えてくるのを抑えられない。仮面の下で、冷たい涙が勝手に流れるのを感じた。立っているのさえ、苦しい。今直ぐに崩れ落ちそうだった……。
「なんて、言うとでも思いましたか?」
「⁉︎」
驚きの余りフィオナは一瞬、息をするのを忘れたかのように呼吸が止まった。目を見張り、ヴィレームを呆然と見遣る。
「本当に、何でもかんでも妹君の言う事を間に受けるんですね、貴方方は。それとも、それワザとなんですか?まあ、僕にはどちらでも構いませんが」
冷淡にそう言い捨てたヴィレームは、まるで汚い物でも見るかのように、両親やミラベルを一瞥すると軽快な足取りでフィオナの元まで歩いて来た。
「さあ、フィオナ。用はもう済んだかい?」
コクコクと首を縦振った。すると、ヴィレームは優しく微笑む。
「なら帰ろうか、僕達の家へ」
抱き寄せられて頭を撫でられた。ふわりとヴィレームの匂いに包まれ、酷く安心する。
「待ちなさい。まだ話は終わってませんよ!」
踵を返そうとするヴィレームに対して、母が凄い剣幕で、怒鳴ってきた。
「あぁ、責任?でしたっけ?」
ヴィレームは半笑いで、足元にいたフリュイの首根っこを掴みヒョイっと持ち上げた。フリュイは不機嫌そうだ。
キュル……。
「やったのはコイツですから、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
そう言いながら、フリュイを両親やミラベル達に向かってポイっと放り投げた。
「ヴィ、ヴィレーム様⁉︎」
「ほら、フィオナ。行こう」
ヴィレームは、ヒョイっとフィオナを抱き上げると横抱きにすると、今度こそ踵を返した。
「あ、あのっ、自分で歩けます!と言うよりフリュイは」
「大丈夫、大丈夫。勝手についてくるよ。それに、責任は取らないとね?」
愉しそうに笑った。彼の肩越しに両親やミラベルを確認すると、大変な事になっていた……フリュイが文字通り暴れ回っている。
物凄い勢いで、母やミラベルの足首に噛みつき、父の頭に齧り付いて髪を抜いている……。
「痛い、痛い、痛いっ‼︎やめてよ‼︎」
「何なの⁉︎やめなさい!このタヌキが‼︎」
「っ……わ、私の、貴重な、か、髪がっ⁉︎」
ヴィレームとフィオナが部屋を出ようとすると、ヨハンと目が合った。フィオナは、ハッとする。
「ヨハン、あのねっ」
挨拶の席に姿を現さなかったので、どうしたものかとは思っていたが……まさかこのタイミングとは、実に間が悪い。だが仕方がない。今を逃したら、次はいつになるか分からない。それに、今ならヴィレームもいてくれる。フィオナは、ヨハンに手紙の真意を確かめなくてはと慌てた。
「フィオナ」
だが、ヴィレームに遮られてしまう。有無を言わせない様な声色に、フィオナは口を閉じた。ヨハンを見ても、弟も黙り込むだけで、結局聞けず仕舞いで屋敷を後にした。
大丈夫、大丈夫……ヴィレーム様は、そんな人じゃない。
全身が脈打ち、冷たい汗が背を伝い、息苦しさを感じる。
大丈夫……大丈夫よ。だって、ヴィレーム様は、私の事好きだって、結婚したいって……言ってくれたもの……。僕がいるよって、言ってくれた、もの……。
私は、ヴィレーム様を……信じてる。
暫し、部屋は静まり返る。ほんの僅かな時間だったが、フィオナには恐ろしく長く感じた。そしてその沈黙を破ったのはヴィレームだった。
「分かりました」
頭が真っ白になった。
今まで生きて来た中で、絶望を幾度なく味わってきた……。だがそれらとは比にならない程の絶望が、この瞬間フィオナを襲った。
身体が小刻みに震えてくるのを抑えられない。仮面の下で、冷たい涙が勝手に流れるのを感じた。立っているのさえ、苦しい。今直ぐに崩れ落ちそうだった……。
「なんて、言うとでも思いましたか?」
「⁉︎」
驚きの余りフィオナは一瞬、息をするのを忘れたかのように呼吸が止まった。目を見張り、ヴィレームを呆然と見遣る。
「本当に、何でもかんでも妹君の言う事を間に受けるんですね、貴方方は。それとも、それワザとなんですか?まあ、僕にはどちらでも構いませんが」
冷淡にそう言い捨てたヴィレームは、まるで汚い物でも見るかのように、両親やミラベルを一瞥すると軽快な足取りでフィオナの元まで歩いて来た。
「さあ、フィオナ。用はもう済んだかい?」
コクコクと首を縦振った。すると、ヴィレームは優しく微笑む。
「なら帰ろうか、僕達の家へ」
抱き寄せられて頭を撫でられた。ふわりとヴィレームの匂いに包まれ、酷く安心する。
「待ちなさい。まだ話は終わってませんよ!」
踵を返そうとするヴィレームに対して、母が凄い剣幕で、怒鳴ってきた。
「あぁ、責任?でしたっけ?」
ヴィレームは半笑いで、足元にいたフリュイの首根っこを掴みヒョイっと持ち上げた。フリュイは不機嫌そうだ。
キュル……。
「やったのはコイツですから、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
そう言いながら、フリュイを両親やミラベル達に向かってポイっと放り投げた。
「ヴィ、ヴィレーム様⁉︎」
「ほら、フィオナ。行こう」
ヴィレームは、ヒョイっとフィオナを抱き上げると横抱きにすると、今度こそ踵を返した。
「あ、あのっ、自分で歩けます!と言うよりフリュイは」
「大丈夫、大丈夫。勝手についてくるよ。それに、責任は取らないとね?」
愉しそうに笑った。彼の肩越しに両親やミラベルを確認すると、大変な事になっていた……フリュイが文字通り暴れ回っている。
物凄い勢いで、母やミラベルの足首に噛みつき、父の頭に齧り付いて髪を抜いている……。
「痛い、痛い、痛いっ‼︎やめてよ‼︎」
「何なの⁉︎やめなさい!このタヌキが‼︎」
「っ……わ、私の、貴重な、か、髪がっ⁉︎」
ヴィレームとフィオナが部屋を出ようとすると、ヨハンと目が合った。フィオナは、ハッとする。
「ヨハン、あのねっ」
挨拶の席に姿を現さなかったので、どうしたものかとは思っていたが……まさかこのタイミングとは、実に間が悪い。だが仕方がない。今を逃したら、次はいつになるか分からない。それに、今ならヴィレームもいてくれる。フィオナは、ヨハンに手紙の真意を確かめなくてはと慌てた。
「フィオナ」
だが、ヴィレームに遮られてしまう。有無を言わせない様な声色に、フィオナは口を閉じた。ヨハンを見ても、弟も黙り込むだけで、結局聞けず仕舞いで屋敷を後にした。
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