結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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3デートに出かけました~イケメン歩けばなんとやら①~

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 たまたま、今は10月で東京の夢の国もハロウィンのイベントがやっていた。そんな時期に行ったら絶対にすごい人ごみだろうと思っていたが、私の予想は大当たりだった。


 デート当日の土曜日は、10月というのに汗ばむような暑さだった。天気は快晴で、絶好のデート日和である。

 

 私の服装はいつもの通り、ジーンズに上はTシャツに長袖のチェックシャツという色気もない地味な格好だ。足元は、これまたスニーカー。あいにく星形のブランドは個人的に重いし、値段も高いので、安物のスニーカーだ。これがデートの服装かと言われると何とも言えないが、それしか服を持っていないので仕方ないだろう。

 服装については大鷹さんにも文句を言われてしまった。結婚当初に、お見合いなのにラフな格好で来たことに結構驚いていたそうだ。

 

 そんなことを言われても、これが私のファッションなのだから変えようがない。スカートというものをプライベートで履いたことはあっただろうか。年に1~2回履けばいいくらいの頻度だ。

 中学校、高校の制服はもちろんスカートだった。さらに言うと、今でも仕事場の銀行では制服のスカートを着用して仕事をしている。


 

 スカートはなんか嫌なのだ。男子が女装か何かで履いた時に言うセリフでよくあるが、どうも足がスースーして気になってしまう。だからこそ、普段はズボンをはいている。

 デートくらいスカートを履けという意見もあると思うが、そんなことは私にとっては意味をなさない。すでに結婚もしているので、あとは離婚のみ。服装を気にすることもないのだ。


 もう一つ、スカートついでに服装について言いたいことは、靴である。スカートをはくとなると、どうしても靴はパンプスやヒールなどを合わせることが多くなる。あれも嫌なのだ。背は160センチくらいあるので、わざわざ背を高くする必要はないし、足を長く見せなくても問題はない。どうもその手の靴も私は苦手だ。

 これも、私服で履いた回数は年に1~2回。最近では、もうはかないだろうと思って、靴箱にすらおいてはいない。もっぱら靴はスニーカーで済ましている。

 
 服装ついでに髪型についても説明しておくと、私は常にショートカットヘアである。長くしていた時期もあったが、不器用で髪の毛のアレンジも大してできなかった。ただ後ろに一つに縛るだけだったので、すぐに切ってしまった。

 ドライヤーで乾かすもの面倒くさいし、その後の手入れもいろいろとあるので、これまた最近はずっとショートヘアのままである。この点は、男子がうらやましいほどだ。

 前髪は眉上と決めている。目に入るのは邪魔なのが大きな理由だ。長いと視界が悪いし、視力も悪くなりそうなので、短くしている。短くしていても、残念ながら私の視力は良くはない。ドが付くほどの近眼で、メガネのレンズは、いわゆる牛乳ビンの底並みの厚さである。

 そんなメガネをかけていたら、ただでさえ、暗い性格がさらに暗くなりそうなので、大学からはコンタクトをしている。高校までは、メガネをかけていたので、根暗なメガネキャラだと周りからは思われていただろう。

 前髪が長くて許されるのは、二次元のイケメンキャラや、根暗を演出するための陰キャラやオタクだけだと思っている。




 こう思うと、よく大鷹さんは私と結婚してくれたと感心する。どう考えてもこんな色気もないし、おしゃれでもない私を選ぶ意味がない。

 別に男になりたいという願望はない。ただ、女性らしい服というのが、どうにも私には合わないだけだ。私自信が着るのを拒否している。

 化粧に対しても同じだ。最低限の薄化粧はするが、それ以上はしていない。



 

 ここまで私の服装について話してきたが、大鷹さんの服装は普通だ。私は男性の服装には詳しくないが、きれいにまとまっているという印象を受ける。

 上は水色のリネンシャツに灰色のジャケット。ズボンはベージュのチノパンツ。靴はスポーツメーカーのハイカットの靴で格好良く決めている。結婚前のデートから思っていたのだが、もともと背が高くてスタイルがいいので、何を着ても似合うのがうらやましい。




 

 そんな服装についての回想をしているうちに寝てしまったらしい。目が覚めた時には目的地の最寄り駅まで到着していた。新幹線と電車を乗り継いでやってきた。

 新幹線や電車の中ではなぜかずっと無言だった。大鷹さんはずっとスマホの画面を見つめていた。私から話しかけようにも、何やら話しかけるなオーラが出ていたので話しかけにくくて、手持無沙汰になってしまい、窓の景色と回想をしていたら、寝てしまったというわけだ。


 無言のまま、テーマパークの入場門付近に向かうと、すでにたくさんの人でにぎわっていた。




「知っていましたけど、やっぱり混んでますねえ。」


 事実として私がぼそりとつぶやけば、大鷹さんはびくりと反応する。


「そ、そうですね。でも、楽しいですよ。」


 キョロキョロと辺りを見回し、何かを警戒しているかのような動きを見せる大鷹さん。はて、何か私と居るとまずいことでもあるのだろうか。

 キョロキョロしていたかと思うと、今度はスマホを取り出してじっと画面を見つめている。そして、再度あたりを見回している。





「で、では僕たちも並びましょうか。」

「はあ。」

 そこで、ぴんとひらめいた。これは、もしや、BL、NL限らずよくある展開の一つ。元カノ(元カレ)が来ているということだろうか。それで、私にその存在を隠そうとしている。自分にはその気はないが、相手がまだ未練があるという奴だ。


 いったい、元カノ(元カレ)はどんな人なのだろうか。一度思いついたこの展開が私に大いに楽しい妄想に浸らせる。

 並びながら、大鷹さんの元カノ(元カレ)についてにやにやしながら考えているうちに、時間は過ぎていき、いよいよ中に入ることができた。


 さあ、初めてのテーマパーク兼、デートである。気合を入れていこう。

 私の気合とは裏腹に、空はどんよりと曇り始めていた。今までの快晴の天気はどこにいったのかというほどの悪天候になりつつあった。 中に入って、私はふとあることを思い出す。今までは大したことだとは思っていなかったが、今回に限っては大鷹さんにも言っておく必要があるだろう。







「大鷹さ、ん……。」

「ザー。」 

 私が言葉をかけようとしたその言葉は、雨音にかき消されてしまった。突然、空から大粒の雨が降ってきた。



「あそこにいったん、避難しましょう。」

 大鷹さんの言葉に従い、私たちは急いで、近くの建物の中に入ることにした。ほかの大勢の観光客も急いで私たちと同じように近くの建物に避難を始める。




「いきなりでしたね。来たときはいい天気だったのに。今日の降水確率は確か10%くらいだった気が……。」


「すいません。」


 とりあえず先に謝っておくことにしよう。だって、どう考えても私のせいとしか思えない。



「紗々さんのせいではありませんよ。」

「いや、この雨は私が引き起こしたに違いありません。思い出してください。あの結婚前の悲劇を……。」


 そう、誰が何と言おうと、私はものすごい雨女なのだ。そもそも、家族以外と旅行をしたことがないのだが、たいてい、旅行先では雨が降るというのが当たり前だった。とはいえ、私以外の家族の誰かが雨を降らしているのか、たまたま旅行に行った先が、雨がよく降る気候だったのかはわからない。

 それでも、幼いころの私が自分を雨女と思うには充分だった。そのうえ、学校での修学旅行や宿泊学習でも毎度のように雨が降った。さすがに2泊3日などの泊りがけの旅行がすべて雨でした、なんてことはなかったけれど、晴れて気持ち良く旅行に行ったことがないとなれば、自分が雨女と思いたくもなるだろう。

 日帰りの遠足も同様だ。たいていは曇りのことが多いのだが、半分以上は雨だったと記憶している。その事実を大鷹さんに今こそ言うときだろう。





「悲劇なんてあったでしょうか。」


 首をかしげている大鷹さんは本当に心当たりがないのだろう。


「いえ、よく思い出してください。私たちのデートの天候はどうでした。」


 思い出せるように私が天候を尋ねると、ああとやっと思い出したように手を打つ。




「確かになぜか雨ばかりだったような気がしますが、それがどうかしましたか。」

「どうかしました、なんて甘いものではありません。なぜ、雨ばかりなんだと思いませんでしたか。」


「いや、まあなんで雨ばかりだとは思いましたが、まさかとは思いますが、もしかして気付いてしまいました……。」





「そうなんですよ。わたしが」

「すいません。僕が雨男なばかりに、紗々さんに迷惑をかけてしまって……。」



 大鷹さんの思いがけない発言に、自分が告白しようとしていた言葉を最後まで言うことができなかった。



「いやいや、それを言うなら私の方が謝るべきです。私が雨女なばかりに今日も雨が降ってしまったのですから。」

 慌てて、私も自分のことを正直に話す。大鷹さんが雨男というならば、私も同様の雨女であるということを。

「それならお互い様でしょう。紗々さんが雨女ならば、僕も雨男ということです。だってそうでしょう。二人で行った場所で雨が降るのですから。」






 外では相変わらず、雨が建物の窓にたたきつけるように降っているが、私の心はそれとは裏腹に妙に澄み切っていた。そうだ、大鷹さんはそういう優しい男だった。


「まあ、確かに私と一緒に出かけていて、毎回雨なら、大鷹さんも同罪ということですね。それはそれで大鷹さんと私が同じ、ということでなんだかうれしいです。なんだか親しみを感じます。雨女と雨男という点なのが、微妙ですが。」



 私がにっこりとほほ笑むと、なぜか大鷹さんは顔を赤くしてうつむいてしまった。





 外は雨で、他の観光客はぐちぐちと文句を言っている中、私と大鷹さんの周りの空気が何となく甘い感じでほっこりとしていると、その空気は第三者の介入で台無しとなった。










「攻じゃない。こんなところに珍しい。あら、その子は新しい彼女かしら。」


 しつこいようだが、外は大雨で風も吹き荒れているらしく、ザーザーという雨音以外にゴーゴーと風の吹く音も聞こえてくる最悪の天候である。
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