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11価値観の押し付け
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月日は流れ、あっという間に光詩の高校生活も一年が終わろうとしていた。相変わらず光詩の声は通常には戻らない。声はいつまでたってもガラガラのしわがれ声のままだ。
中学校と同じで高校に行くのが憂鬱な毎日だった。春の自己紹介以来、光詩は学校にマスクをつけていくのが習慣となった。マスクをつけていると、多少の声の可笑しさは風邪で喉の調子が悪いとごまかせる。
とはいえ、学校でまったく話さないということはありえない。授業で先生に問題を解くように言われたり、係りの仕事でクラスの前で話したりするなど話さざるを得ない状況がある。そのたびに起こるクラスメイトの失笑にも、慣れてはいけないとは思いつつも、すっかり心がマヒして何も思わなくなった。
中学校と同じ状況が高校でも続いていた。
「ねえ、川越君は進路希望、何を書いた?文系、理系はどっちにするの?」
高校一年生の冬ということで、昼休みに教室で授業の予習をしていたら、進路についてクラスメイトの女子に質問された。光詩が通う高校は、第一志望していた高校よりもランクは下がるが、それでも大学進学率を重視する高校だった。そのため、二年生で、文系理系とクラス分けがある。
同じクラスになりたいのだろうか。たまに、興味本位で光詩に質問する生徒はいるが、今回も同じだろう。光詩の見た目に惹かれて近寄ってくる生徒は多い。進路を聞かれるのは最近だが、その前は趣味や好きな食べ物などを聞かれることもあった。そのたびに、光詩は同じ言葉を口にする。
『お゛まえ゛に教え゛る必要は、な゛い』
別に自分が何をどうしようが相手には関係のないことだ。友達ほど親しくもないのに、趣味や進路のことを答える必要はないだろう。自分のことを笑う人間に答えることはないと、冷静な部分の自分がいた。すでに高校生活が一年を終わろうとしているのに、懲りないクラスメイトはまだ数名残っていた。
「な、顔がいいからって、調子に乗らない方がいいんじゃないの?顔が良くったって、声がだめじゃあ、意味ないから」
その女子生徒は他のクラスメイトに頼まれて光詩に質問したのだろう。怒ったよな顔で教室の中心で話しているグループの輪に入り、自分の質問の結果を報告していた。
どうして、クラスメイトはそろいもそろって同じような返しをするのだろう。いつも、彼らの回答は似たり寄ったりだ。顔と声は別物であり、意味ないとは彼らの勝手な思い込みだ。それを光詩に押し付けないでほしい。
「はあ」
女子生徒が立ち去ると、光詩は大きなため息を吐く。クラスメイトに進路をわざわざ教える必要はないが、担任には進路希望調査票を提出しなければならない。締め切りはもう間近に迫っている。しかし、光詩はまだ提出しておらず、進路先の記入欄は空欄だった。
(さすがに今日、家に帰ったら家族に相談しよう)
光詩は家族のことを頭に思い浮かべ、苦笑する。きっと、家族は自分の味方になってくれるはずだ。そして、何か良いアドバイスをもらいたい。
中学校と同じで高校に行くのが憂鬱な毎日だった。春の自己紹介以来、光詩は学校にマスクをつけていくのが習慣となった。マスクをつけていると、多少の声の可笑しさは風邪で喉の調子が悪いとごまかせる。
とはいえ、学校でまったく話さないということはありえない。授業で先生に問題を解くように言われたり、係りの仕事でクラスの前で話したりするなど話さざるを得ない状況がある。そのたびに起こるクラスメイトの失笑にも、慣れてはいけないとは思いつつも、すっかり心がマヒして何も思わなくなった。
中学校と同じ状況が高校でも続いていた。
「ねえ、川越君は進路希望、何を書いた?文系、理系はどっちにするの?」
高校一年生の冬ということで、昼休みに教室で授業の予習をしていたら、進路についてクラスメイトの女子に質問された。光詩が通う高校は、第一志望していた高校よりもランクは下がるが、それでも大学進学率を重視する高校だった。そのため、二年生で、文系理系とクラス分けがある。
同じクラスになりたいのだろうか。たまに、興味本位で光詩に質問する生徒はいるが、今回も同じだろう。光詩の見た目に惹かれて近寄ってくる生徒は多い。進路を聞かれるのは最近だが、その前は趣味や好きな食べ物などを聞かれることもあった。そのたびに、光詩は同じ言葉を口にする。
『お゛まえ゛に教え゛る必要は、な゛い』
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「な、顔がいいからって、調子に乗らない方がいいんじゃないの?顔が良くったって、声がだめじゃあ、意味ないから」
その女子生徒は他のクラスメイトに頼まれて光詩に質問したのだろう。怒ったよな顔で教室の中心で話しているグループの輪に入り、自分の質問の結果を報告していた。
どうして、クラスメイトはそろいもそろって同じような返しをするのだろう。いつも、彼らの回答は似たり寄ったりだ。顔と声は別物であり、意味ないとは彼らの勝手な思い込みだ。それを光詩に押し付けないでほしい。
「はあ」
女子生徒が立ち去ると、光詩は大きなため息を吐く。クラスメイトに進路をわざわざ教える必要はないが、担任には進路希望調査票を提出しなければならない。締め切りはもう間近に迫っている。しかし、光詩はまだ提出しておらず、進路先の記入欄は空欄だった。
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