この声が君に届くなら

折原さゆみ

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31どういう関係ですか

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「まさか、お兄ちゃんと同じ団になるなんて思わなかったよ。しかも、私もお兄ちゃんも同じマスコットづくりなんてビックリ」

『お゛れ゛も、夜奏楽がマ゛スコットづくり゛な゛んて、思わ゛な゛かった。応援団とかを゛や゛る゛のだと」

「そういうのって面倒くさいからね。それに、私、部活の方が忙しいから、応援団みたいな練習が大変なのはパス」

 体育祭の準備は順調に進んでいた。体育祭では、各団の色を使ったイメージキャラクターを作ることになっていて、光詩と夜奏楽はそのマスコットづくりの係りになっていた。一年生から三年生までの縦割りで決められた生徒たちが、同じ場所で学年関係なく協力して作成していた。

 放課後、光詩たちは廊下の渡り廊下で材料を広げてマスコットづくりに精を出していた。団によって作成する場所が決められていて、渡り廊下には他の団も少し離れた場所で作業していた。

「ねえねえ、川越さん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 光詩と夜奏楽の団は黒色で、マスコットはパンダとなった。今はパンダの目の部分の部品を作っていた。光詩たち兄妹は、はたから見たらかなり密接して作業に勤しんでいた。互いの肩が接するほどの距離を不思議に思ったのか、夜奏楽のクラスメイトの女子が声をかける。

「何?今、ちょうどいいところなんだけど」



「ええと、その、ずいぶんと先輩と仲がいいみたいだけど、その、先輩とはどういう、関係なのかなと」

 夜奏楽は不愛想に返事をするが、声をかけた女子は意を決し、光詩との関係を質問する。いきなり兄との関係を問われた夜奏楽は首をかしげる。しかし、質問の意図をすぐに理解して、意地悪そうに微笑む。何か、良からぬことを考えていそうな顔だ。嫌な予感がした光詩は慌てて、夜奏楽の口を塞ごうと手を伸ばすが間に合わない。

「ああ、光詩先輩のこと?確かにかっこいいもんねえ。でも、先輩は好きな人がいるみたいだから、あきらめた方がいいよ。ちなみにその好きな人は、むぐっ」

『な゛、な゛何をい゛って』

 光詩の手を塞ぐ前に夜奏楽は演技がかった仕草でクラスメイトに、自分の兄との関係をほのめかす。大嘘もいいところである。実際には二人は兄妹であり、好きとかそういう恋愛感情はない。

 光詩と夜奏楽はよく似ているが、彼女たちは光詩の容姿に気を取られていて、彼らが兄妹だと気づかない。二人とも色素の薄い茶髪で肌の色が白く、すらっとした細身の体型をしていた。

「そ、そうなんだ。そっかあ」

 夜奏楽のクラスメイトは頬を紅くして、彼女の言葉を真に受けていた。何とか、最後の方で口を塞ぐことに成功したが、すでに彼女と光詩たちの間には誤解が生じていた。彼女たちはそのまま他のクラスメイトの女子のもとへ向かい、何やらこそこそと話し合っていた。皆、夜奏楽と仲良くしていた光詩の存在が気になっていたらしい。

『お゛、お゛ま゛え、さっきはなに゛いって』

「いいじゃん、別に。実際、お兄ちゃんは私のこと、好きでしょ!」

『そう゛いう゛問題じゃな゛い!』

 光詩が怒っても、夜奏楽は気にするそぶりはなく、マスコットづくりの作業を再開していた。このまま、誤解されたままで、何も起きなければ問題はない。しかし、何か良からぬことが起きそうだと思った。光詩の予想はこの後、当たることになるが、今の彼にはどんな影響があるのかわかるはずもなかった。
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