この声が君に届くなら

折原さゆみ

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32妹は知っている

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【ねえ、夜奏楽ちゃん、光詩先輩って好きな人がいるの?】

「ドウシタノ急に?」

【なんか、陸上部の子が、光詩先輩っていう、かっこいい人がいたとか言っていて、好きな人がいるって】

「ふうん」

 夜奏楽とアリスは、夜奏楽の部屋でテスト勉強に取り組んでいた。床に置かれた簡易机に二人は向かい合って座り、テキストを広げている。体育祭の一週間後にテストがあるということで、二人は早めのテスト勉強をしていた。アリスが光詩に聞かれたくない話しがあるということで、今日は珍しく夜奏楽の部屋で勉強をしていたのだった。アリスが深刻な表情で何を言い出すかと思えば、自分の兄の好きな人の話だ。


【ねえ、聞いてる?】

 明確な回答を得られなかったことにしびれを切らしたアリスが、珍しく声を荒げて夜奏楽に問い詰める。

「聞いてるけど、別にお兄ちゃんに好きな人がいても、不思議ではないでしょ。アリスは何に怒っているの?もしかして、お兄ちゃんのことす」

【それ以上、言わないで!】

「まったく」

 心の中で夜奏楽はため息を吐く。親友のアリスが兄の光詩に好意を持っているのは知っている。そして、その兄もアリスのことが好きなことも。夜奏楽は親友と兄が恋人同士になることをひそかに応援している。しかし、すでに両想いであるにも関わらず、当人二人は互いの気持ちに驚くほど鈍感である。

「それはそうとして。アリスは体育祭に何の種目に出るの?やっぱり陸上部だから、100m走とかリレーとかに出るの?

 夜奏楽が兄の好きな人はアリスだと教えてもいいが、それでは面白くない。やはり、互いが自分の力で相手の気持ちに気付いた方がいい。そのため、別の話題を振ることにした。

【は、話をそらそうとしても】

「そらしてはないよ。体育祭でお兄ちゃんにかっこいいところを見せたら、アリスの魅力に気付いて、その好きな人のことなんかより、アリスのことを好きになるんじゃないかなと思って」

【そ、それは】

 アリスは中学校の頃から陸上部で短距離のエースとして活躍していた。高校でも陸上部に入り、一年生ながらも大会に出させてもらえることになった。体育祭でも活躍すること間違いなしだ。

「本当なら、同じクラスで一緒に仲間として戦いたかったけど、違うクラスだから、ライバルだねえ」

 兄の光詩とは同じ団で仲間だが、アリスは残念ながら違うクラスで団の色も違っている。応援することはするが、あまり大っぴらに敵の応援もしにくいだろう。それでも、兄にはアリスのことを全力で応援してほしかった。

【夜奏楽ちゃんの言う通り、私は100mとリレーに出るけど。でも同じ団ではないし、魅力に気付いてもらうのは……】

「まあまあ、そんなこと言わないで」

 アリスも光詩と夜奏楽と違う色になってしまったことにようやく気付いたようだ。

なんだか、面白い展開になりそうだ。夜奏楽は体育祭がとても楽しみで待ちきれなかった。目の前の挙動不審のアリスと、兄妹で付き合っていると誤解されている光詩と夜奏楽。

(これがきっかけで付き合ってくれればいいんだけど)

 夜奏楽は少しだけ彼らの恋の手助けをすることにした。
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