この声が君に届くなら

折原さゆみ

文字の大きさ
33 / 72

33好きな人が居たらどうする?

しおりを挟む
「ねえ、アリス。私、用事を思い出したから、お兄ちゃんと家に居てくれる?」

【突然ドウシタノ?用事なら私もつき合うよ】

「いいの、いいの。大した用事じゃないから」

 夜奏楽はいったん、家に兄の光詩とアリスの二人きりにすることにした。幸い、両親は出かけていて、不在だったので好都合だった。急いで外出の準備をすると、仕上げとばかりに光詩の部屋にお菓子を持っていくようアリスに頼み込む。当然、突然決めた計画のため、用事などない。適当に外で時間をつぶそうと思っていた。

「それで、お願いなんだけど、お兄ちゃんにお菓子と飲み物を持って行ってくれる?お兄ちゃんさ、勉強に集中すると空腹も忘れて、真剣にやりだして休憩も入れずにやるからさ。勉強もいいけど、適度な休憩も必要でしょ」

【ま、まあ、それは構わないけど】

「じゃあお願い。お兄ちゃんには私から言っておくから」

 おぜん立てはした。アリスは夜奏楽の言うことを聞いて、お菓子と飲み物を光詩の部屋に持っていくだろう。後は、光詩にも事情を説明するだけだ。アリスが自分にこれ以上不信感を持たないように、夜奏楽は部屋を出て、兄の部屋に向かった。



「トントン」

 扉をノックする音で、光詩は解いていた問題集から視線を挙げた。集中して問題を解いていたせいで、時間を忘れていたようだ。時計を見ると、ちょうどおやつ休憩にちょうど良い時間となっていた。

 今日は珍しく、夜奏楽が自分の部屋でアリスと一緒に勉強をすると言っていた。そのため、光詩の部屋に二人が来ることはなかった。

(アリスが家に来ているのに、オレの部屋に来ないのは少し、寂しい)

『さ、さびしい゛って、な゛に゛を゛言っている゛んだ!』


「お兄ちゃん、入ってもいい?」

 ノックしたのに、返事がなかったことにしびれを切らした夜奏楽が、部屋越しに光詩に声をかける。

『だ、大丈夫だ』

 光詩は妹の部屋の入室を許可する。すぐに夜奏楽が扉を開けて部屋に入ってきた。どうやら、先ほどの独り言は聞こえていなかったようだ。特に言及されることはなかった。しかし、夜奏楽は驚くべきことを言いだした。

 
「ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんって、アリスに好きな人が居たらどうする?」

 光詩はその質問にすぐに答えることができなかった。質問の意図が理解できずに問い返してしまう。

『ア゛リ゛スに゛好きな゛人が居たら゛?』

「深く考えなくてもいいよ。ただ、お兄ちゃんはアリスに好きな人が居たらどんな気持ちになるかってこと」

 部屋に入ってきた夜奏楽は、勝手に光詩のベッドにダイブしてゴロゴロし始めた。よく見ると、いつもの部屋着のピンクのスウェットではなく、ベージュの半そでパーカーに七分袖のジーンズを履いている。これからどこかに出かけるのだろうか。

 それにしても、突然、妹は何を言い出すのか。妹の親友に好きな人がいても不思議ではない。光詩がどんな気持ちになろうが、夜奏楽には関係はない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

処理中です...