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3章 アドルファス帝国編
44話 戦艦美砂、ヨーソロー、です
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――*――
オサムが意識を失ったところ。(美砂視点)
「オサム君!!!『ヒール』」
オサム君、オサム君が、オサム君が!!
守ってくれたオサム君の身体が溶かされて、腕も足も……崩れ落ちて……。
オサム君が死んじゃう!
ヒールでなんとか身体の欠損は治ったけど、オサム君が起きない……。僕のせいだ、僕のせいで……。
オサム君の胸に耳を当てて、何度も、何度も心臓が動いていることは確認した。
生きてる……はずだよね?死なない……よね?
「おい、貴様!早く朕を助けるのでおじゃる!特別に朕の妾にしてやっても良いぞぇ!」
この豚は何を言ってるのかな?かな?
僕が……僕がこんな豚を助けようと思わなければ。
皆が触手になった枢機卿と戦ってる。オサム君がいない分、剣聖さんが頑張ってくれているみたいだけど押されてるみたいだ。
動きが速すぎてエリーズさんの魔法も当たらないみたい、このままじゃ負けちゃう。
崩れ落ちてくる瓦礫から、死んでしまったように目を瞑って動かないオサム君を守り、考える。
僕、守って貰ってばっかりだ……。
オサム君から、優先順位を間違えないように言われてたのに、結局迷惑をかけてる。
――*――
「やめろ!」
「オサム君!!」
あれ……。俺また……なんか意識を飛ばす度に賢音のことを思い出してる気がするな。
美砂に助けられたってことかな?あの腕……俺のだったのか……。
「オサム君!ごめんなさい……、僕がこんな豚に気を取られたから!」
美砂が俺に抱きつきながら、美砂らしからぬことを言ったので自分の耳を疑ってしまう。今、この豚って言ったよな?
「僕はもう間違えない!皆を優先する!」
違うだろ、それは違うな。
「違うよ、美砂は今回何も間違えてない」
「でも……僕のせいでオサム君が……」
「違うだろ。美砂はとっつぁん坊やの命と自分の危険を秤にかけて、助けに行くことを選んだんだ」
「うん」
「つまり、その判断の時点では俺は一切関係ない。美砂は自分の信念によって、自分の命をベットしただけだな」
美砂は俯いているがしっかり聞いてくれているので、そのまま続ける。
「その後、美砂の命が危険だと思ったから、俺が俺の信念で自分の命をベットして助けに行ったんだ。その俺の判断に美砂の判断が入り込む余地なんてない」
「うん……うん……」
美砂の目から涙が溢れる。
「今回の件は俺のミスだよ、むしろ、死ぬ前に回復してくれてありがとう。おかげで俺のミスは帳消しになったな」
「オサム君ありがとう。でも今度は、僕が守るよ」
美砂はとても強い、何か決意に溢れた目をしている。
「戦えるのか?」
「うん、僕も戦うよ」
「分かった」
さっきから空気が破裂するような音が響いているが、これ触手卿か?あー、鞭と同じだな、触手の先端が音速を越えてるんだろう。
それにこの複雑な動き……剣聖はなぜあんなに無駄な動きなく避けているんだ?
「おい熊井殿!目が覚めているなら見ていないで戻ってくるでござる!」
「剣聖、なぜそんなにスムーズに避けることが出来る。そんな避け方、触手の動きや粘液のはね方まで分かっていないと無理じゃないか?」
「流れている流体の状態を計算しろ!」
「おい!それはナビエ・ストークス方程式の滑らかな解が常に存在するってことか!?」
「何を言っている分からないでござる!だが、触手の元の位置を見ておけば全て計算出来るであろう」
馬鹿言ってんじゃねえ、暗算で乱流の計算なんて出来るか!
「おい、それも一子相伝か?」
「これ、は!記憶、がある、でござる!拙者もそろそろ限界が……」
「美砂、剣聖の回復を」
「う、うん」
「剣聖、代わる。三分休んでくれ、その後はまたすぐに働いて貰うぞ」
「お主は人遣いが荒いでござるな。まあ、あの物の怪を倒せるなら構わんか」
俺は剣聖と入れ替わりで触手卿の気を引く。
さて、最初と比べるとまた随分と触手が増えているな。今までの触手魔人と同じように、物理攻撃が効きづらいのは相変わらずみたいだな。
では魔力や魔素はどうか。
俺はエーテルサーチを発動して魔素の動きを捉える。
コイツ魔素を吸収しているな。魔素を吸収して、魔法を使わず魔素のまま利用する存在?俺と同じ……?いやいや違うな。
この世界の基本は、魔素を吸収した身体が魔素を魔力に変換し、術者の意思で魔力を魔法へ変換する二段変換になっている。
俺は魔力は持っていて、魔法への変換が出来ない存在。触手卿はそもそも魔力への変換が出来ない存在だと考えれば、近いけど別物だろう。
だが、起源が別とは考えづらい……か。
攻撃するなら魔法……いや魔力そのものか、イメージは出来てきたな。
「美砂俺の横に全力で『シールド』張って」
「え?うん!『シールド』」
俺は張られたシールドを全力で殴るが、シールドはビクともしない。この強度ならいけそうだな。
「え……?オサム君何してるの?」
「剣聖交代だ!作戦を伝える」
俺は剣聖とハイタッチして、イメージ共有魔法を使って作戦を伝達する。
「あい分かった、やってみよう」
剣聖と代わった後は美砂の所へ戻り、美砂に作戦の全体像を伝えた。
「戦えるんだな?この作戦には美砂が必須だ」
「うん、皆を守るよ」
俺はイメージ共有魔法を発動し、美砂に撃って欲しい魔法を伝達する。
「オサム君……この『戦艦美砂』のイメージって必要?」
「絶対必要!」
「それから、発射する人は僕じゃなくてサンダース軍曹なの?」
「美砂は戦艦だからな!」
「貴方たち真面目にやってますの!?」
ほら、美砂が余計な確認するからエリーズに怒られたじゃないか。
「よしやるぞ、サンダース軍曹!」
「は、はい、ライトニング教官……」
「私の事は艦長と呼べ!」
「は、はい……ライト、ニング……艦長」
「敵艦隊、右舷十度水平方向に接近中!サンダース軍曹、主砲照準確認せよ!」
「せ、戦艦美砂……右舷十度……よう……そろ」
イメージ共有魔法通りにシールドを発動させ、俺たちの脇には直径二メートルある大口径実体弾砲の大筒が出来上がった。
しかし、共有したセリフを恥ずかしそうに顔を赤らめながら口にする美砂に、なっていないと指摘を入れる。
「美砂!真面目にやれ!この世界の命運はお前に託されたと言っても過言では無いんだぞ!お前声優舐めてんのか!」
「ねえ、やっぱり変だよこれ何の話!?」
「ちょっと!早くして下さいますか!?」
「熊井殿、作戦はまだか!?」
「ほら続き!戦艦美砂、主砲用意!」
美砂はようやく意を決したようで、イメージ共有魔法で送ったセリフを口にしていく。
「戦艦美砂、主砲装填!エネルギーを充填します」
俺は現実世界でもまだ存在しない火薬を創造する。
世界最強の火薬と言われるオクタニトロキュバンは、炭素の正八面体に二酸化窒素を八つ無理やり付けたようなもんだ。
製造コストが高すぎて量産に向いていないため、現代でもほとんど使われていないそうだが、今回は更に単価を上げてみる。
正十二面体構造の炭素のそれぞれに二酸化窒素を合計二十個付け、無理やり美砂のシールドで閉じ込める。
計算上、これで現代火薬の百倍以上の威力になるはずだ。
「戦艦美砂、火薬生産魔法『正十二面体構造火薬』によるエネルギー充填完了しました!」
「よし!発射の合図を待て!剣聖、待たせたな!」
「分かったが、後で覚えているでござる!お主らは遊び過ぎだ」
剣聖が作戦通りに天井を斬り、天井を落として道を作る。そして、触手卿から俺と美砂までの一本道が出来上がった。
触手卿が俺たちに気づいたのか、真っ直ぐ近づいてくる。
「サンダース軍曹!引き付けて……引き付けて、主砲発射!」
「戦艦美砂、主砲発射!」
美砂の合図と共に、俺たちの脇に鎮座するシールドで作られた主砲が発射された。
その瞬間大きな爆発音と衝撃波のようなものを受けて目を閉じると、目を開けたときには触手卿の中心に大穴が開いていた。
外周薄めのドーナツになった触手卿は、自重によって潰れていく。
どうやら決着が付いたようだが、辺りを見回すと、皆も城もボロボロである。
俺はその場に座り込み、美砂にお礼を言った。
「ありがとう」
「お礼を言うのは僕だよ、戦わせてくれてありがとう」
美砂は憑き物が落ちたように満面の笑みでお礼を返してくれる。うん、守れてよかった……かな。
「オサム様!さっきの魔法はなんですの!?」
「美砂の『シールド』と火薬生産魔法で、高濃度魔力を包んだ『シールド』を弾として飛ばして、触手卿に魔力自体をぶつけてみたんだ」
「それって、魔力で魔力を包んで飛ばしたってことですの?一体どんな意味が……」
「意味ならそこに転がってるじゃないか」
俺は潰れた触手卿を指差してみると……触手卿がモゾモゾと動いていた!
「全員!散れ!」
俺の掛け声で皆は触手卿を囲うように散開する。
おいおい、倒せてなかったとか無しだぜ?
触手卿を見ていると何やら変形を始め、城を崩しながら巨大化していき、最終的に大きな木となった。
目の前に生えた黒々とした大木は幹がとても太く、出来たばかりだというのに長い樹齢を感じさせる。そして葉っぱなどは生えておらず、幹と同じ色の枝だけが歪な形で伸びている。
この木は……ザックーム……だと?
間違いない、降魔薬研究工場の資料にあったザックーム。触手卿はザックームになったんだ。
ザックームの周りは腐り落ちたように崩れており、直接触るのは良くなさそうだな。
「枢機卿が居なくなってしまったぞぇ?お前達!帝国での破壊活動は不問にしてやるから、代わりに宣戦布告取り下げるでおじゃる!」
ザックームを分析していると、空気の読めないとっつぁん坊やが邪魔をしてくる。
「殺すか」
「待たれよ!奴には取らせなければならない責任があるでござる」
確かに、剣聖に任せた方が間違いはないんだろう。
俺はため息をつき仲間達に目をやると、失ったものはなく、目的だけはしっかり果たせたことを思い出した。
「じゃあ、王国へ帰ろうか」
オサムが意識を失ったところ。(美砂視点)
「オサム君!!!『ヒール』」
オサム君、オサム君が、オサム君が!!
守ってくれたオサム君の身体が溶かされて、腕も足も……崩れ落ちて……。
オサム君が死んじゃう!
ヒールでなんとか身体の欠損は治ったけど、オサム君が起きない……。僕のせいだ、僕のせいで……。
オサム君の胸に耳を当てて、何度も、何度も心臓が動いていることは確認した。
生きてる……はずだよね?死なない……よね?
「おい、貴様!早く朕を助けるのでおじゃる!特別に朕の妾にしてやっても良いぞぇ!」
この豚は何を言ってるのかな?かな?
僕が……僕がこんな豚を助けようと思わなければ。
皆が触手になった枢機卿と戦ってる。オサム君がいない分、剣聖さんが頑張ってくれているみたいだけど押されてるみたいだ。
動きが速すぎてエリーズさんの魔法も当たらないみたい、このままじゃ負けちゃう。
崩れ落ちてくる瓦礫から、死んでしまったように目を瞑って動かないオサム君を守り、考える。
僕、守って貰ってばっかりだ……。
オサム君から、優先順位を間違えないように言われてたのに、結局迷惑をかけてる。
――*――
「やめろ!」
「オサム君!!」
あれ……。俺また……なんか意識を飛ばす度に賢音のことを思い出してる気がするな。
美砂に助けられたってことかな?あの腕……俺のだったのか……。
「オサム君!ごめんなさい……、僕がこんな豚に気を取られたから!」
美砂が俺に抱きつきながら、美砂らしからぬことを言ったので自分の耳を疑ってしまう。今、この豚って言ったよな?
「僕はもう間違えない!皆を優先する!」
違うだろ、それは違うな。
「違うよ、美砂は今回何も間違えてない」
「でも……僕のせいでオサム君が……」
「違うだろ。美砂はとっつぁん坊やの命と自分の危険を秤にかけて、助けに行くことを選んだんだ」
「うん」
「つまり、その判断の時点では俺は一切関係ない。美砂は自分の信念によって、自分の命をベットしただけだな」
美砂は俯いているがしっかり聞いてくれているので、そのまま続ける。
「その後、美砂の命が危険だと思ったから、俺が俺の信念で自分の命をベットして助けに行ったんだ。その俺の判断に美砂の判断が入り込む余地なんてない」
「うん……うん……」
美砂の目から涙が溢れる。
「今回の件は俺のミスだよ、むしろ、死ぬ前に回復してくれてありがとう。おかげで俺のミスは帳消しになったな」
「オサム君ありがとう。でも今度は、僕が守るよ」
美砂はとても強い、何か決意に溢れた目をしている。
「戦えるのか?」
「うん、僕も戦うよ」
「分かった」
さっきから空気が破裂するような音が響いているが、これ触手卿か?あー、鞭と同じだな、触手の先端が音速を越えてるんだろう。
それにこの複雑な動き……剣聖はなぜあんなに無駄な動きなく避けているんだ?
「おい熊井殿!目が覚めているなら見ていないで戻ってくるでござる!」
「剣聖、なぜそんなにスムーズに避けることが出来る。そんな避け方、触手の動きや粘液のはね方まで分かっていないと無理じゃないか?」
「流れている流体の状態を計算しろ!」
「おい!それはナビエ・ストークス方程式の滑らかな解が常に存在するってことか!?」
「何を言っている分からないでござる!だが、触手の元の位置を見ておけば全て計算出来るであろう」
馬鹿言ってんじゃねえ、暗算で乱流の計算なんて出来るか!
「おい、それも一子相伝か?」
「これ、は!記憶、がある、でござる!拙者もそろそろ限界が……」
「美砂、剣聖の回復を」
「う、うん」
「剣聖、代わる。三分休んでくれ、その後はまたすぐに働いて貰うぞ」
「お主は人遣いが荒いでござるな。まあ、あの物の怪を倒せるなら構わんか」
俺は剣聖と入れ替わりで触手卿の気を引く。
さて、最初と比べるとまた随分と触手が増えているな。今までの触手魔人と同じように、物理攻撃が効きづらいのは相変わらずみたいだな。
では魔力や魔素はどうか。
俺はエーテルサーチを発動して魔素の動きを捉える。
コイツ魔素を吸収しているな。魔素を吸収して、魔法を使わず魔素のまま利用する存在?俺と同じ……?いやいや違うな。
この世界の基本は、魔素を吸収した身体が魔素を魔力に変換し、術者の意思で魔力を魔法へ変換する二段変換になっている。
俺は魔力は持っていて、魔法への変換が出来ない存在。触手卿はそもそも魔力への変換が出来ない存在だと考えれば、近いけど別物だろう。
だが、起源が別とは考えづらい……か。
攻撃するなら魔法……いや魔力そのものか、イメージは出来てきたな。
「美砂俺の横に全力で『シールド』張って」
「え?うん!『シールド』」
俺は張られたシールドを全力で殴るが、シールドはビクともしない。この強度ならいけそうだな。
「え……?オサム君何してるの?」
「剣聖交代だ!作戦を伝える」
俺は剣聖とハイタッチして、イメージ共有魔法を使って作戦を伝達する。
「あい分かった、やってみよう」
剣聖と代わった後は美砂の所へ戻り、美砂に作戦の全体像を伝えた。
「戦えるんだな?この作戦には美砂が必須だ」
「うん、皆を守るよ」
俺はイメージ共有魔法を発動し、美砂に撃って欲しい魔法を伝達する。
「オサム君……この『戦艦美砂』のイメージって必要?」
「絶対必要!」
「それから、発射する人は僕じゃなくてサンダース軍曹なの?」
「美砂は戦艦だからな!」
「貴方たち真面目にやってますの!?」
ほら、美砂が余計な確認するからエリーズに怒られたじゃないか。
「よしやるぞ、サンダース軍曹!」
「は、はい、ライトニング教官……」
「私の事は艦長と呼べ!」
「は、はい……ライト、ニング……艦長」
「敵艦隊、右舷十度水平方向に接近中!サンダース軍曹、主砲照準確認せよ!」
「せ、戦艦美砂……右舷十度……よう……そろ」
イメージ共有魔法通りにシールドを発動させ、俺たちの脇には直径二メートルある大口径実体弾砲の大筒が出来上がった。
しかし、共有したセリフを恥ずかしそうに顔を赤らめながら口にする美砂に、なっていないと指摘を入れる。
「美砂!真面目にやれ!この世界の命運はお前に託されたと言っても過言では無いんだぞ!お前声優舐めてんのか!」
「ねえ、やっぱり変だよこれ何の話!?」
「ちょっと!早くして下さいますか!?」
「熊井殿、作戦はまだか!?」
「ほら続き!戦艦美砂、主砲用意!」
美砂はようやく意を決したようで、イメージ共有魔法で送ったセリフを口にしていく。
「戦艦美砂、主砲装填!エネルギーを充填します」
俺は現実世界でもまだ存在しない火薬を創造する。
世界最強の火薬と言われるオクタニトロキュバンは、炭素の正八面体に二酸化窒素を八つ無理やり付けたようなもんだ。
製造コストが高すぎて量産に向いていないため、現代でもほとんど使われていないそうだが、今回は更に単価を上げてみる。
正十二面体構造の炭素のそれぞれに二酸化窒素を合計二十個付け、無理やり美砂のシールドで閉じ込める。
計算上、これで現代火薬の百倍以上の威力になるはずだ。
「戦艦美砂、火薬生産魔法『正十二面体構造火薬』によるエネルギー充填完了しました!」
「よし!発射の合図を待て!剣聖、待たせたな!」
「分かったが、後で覚えているでござる!お主らは遊び過ぎだ」
剣聖が作戦通りに天井を斬り、天井を落として道を作る。そして、触手卿から俺と美砂までの一本道が出来上がった。
触手卿が俺たちに気づいたのか、真っ直ぐ近づいてくる。
「サンダース軍曹!引き付けて……引き付けて、主砲発射!」
「戦艦美砂、主砲発射!」
美砂の合図と共に、俺たちの脇に鎮座するシールドで作られた主砲が発射された。
その瞬間大きな爆発音と衝撃波のようなものを受けて目を閉じると、目を開けたときには触手卿の中心に大穴が開いていた。
外周薄めのドーナツになった触手卿は、自重によって潰れていく。
どうやら決着が付いたようだが、辺りを見回すと、皆も城もボロボロである。
俺はその場に座り込み、美砂にお礼を言った。
「ありがとう」
「お礼を言うのは僕だよ、戦わせてくれてありがとう」
美砂は憑き物が落ちたように満面の笑みでお礼を返してくれる。うん、守れてよかった……かな。
「オサム様!さっきの魔法はなんですの!?」
「美砂の『シールド』と火薬生産魔法で、高濃度魔力を包んだ『シールド』を弾として飛ばして、触手卿に魔力自体をぶつけてみたんだ」
「それって、魔力で魔力を包んで飛ばしたってことですの?一体どんな意味が……」
「意味ならそこに転がってるじゃないか」
俺は潰れた触手卿を指差してみると……触手卿がモゾモゾと動いていた!
「全員!散れ!」
俺の掛け声で皆は触手卿を囲うように散開する。
おいおい、倒せてなかったとか無しだぜ?
触手卿を見ていると何やら変形を始め、城を崩しながら巨大化していき、最終的に大きな木となった。
目の前に生えた黒々とした大木は幹がとても太く、出来たばかりだというのに長い樹齢を感じさせる。そして葉っぱなどは生えておらず、幹と同じ色の枝だけが歪な形で伸びている。
この木は……ザックーム……だと?
間違いない、降魔薬研究工場の資料にあったザックーム。触手卿はザックームになったんだ。
ザックームの周りは腐り落ちたように崩れており、直接触るのは良くなさそうだな。
「枢機卿が居なくなってしまったぞぇ?お前達!帝国での破壊活動は不問にしてやるから、代わりに宣戦布告取り下げるでおじゃる!」
ザックームを分析していると、空気の読めないとっつぁん坊やが邪魔をしてくる。
「殺すか」
「待たれよ!奴には取らせなければならない責任があるでござる」
確かに、剣聖に任せた方が間違いはないんだろう。
俺はため息をつき仲間達に目をやると、失ったものはなく、目的だけはしっかり果たせたことを思い出した。
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