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第29話【新しい薬】

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「で……できたぁ!!」

 私はクランの専用スペースにある、さらに私専用の部屋、通称【調合部屋】で独り雄叫びを上げた。
 その理由というのも、新しい薬のレシピを見つけることに成功したからだ。

「うーん、この薬は癖がある感じね。使い方を考えないと……」

 出来上がった薬、【剛力の魔薬】の効果をマジマジと眺め、うーんと唸ってしまう。
 新しく出来た薬は強化薬、だけど今までのように単純に何かのステータスを上げる効果ではなかった。

「なに今の!? サラさん大丈夫?」
「あ、セシル。居たんだ。知らなかった。ごめんね大きな声出して。あ! 聞いて! 新しい薬が出来たよ!!」

「え! ほんと!? やったじゃない! どんな薬なの?」
「うーん。それがね。強化薬なんだけど……逆にステータスが下がる効果もあるみたいなんだよね」

 私はセシルに効果を説明する。
 今回作ることの出来た【剛力の魔薬】は、上昇率が今までのものよりも格段に高い代わりに、別のステータスが減少する効果になっている。

 下がったステータスを上手く他の強化薬で補うことも可能だと思うけれど、どういう組み合わせが最適か、なかなか悩むところだ。

「へー。面白いね。全部使ったらどうなるの?」
「まだ一つしか出来てないから、予想になるけど。全部使うなら差し引きで、【神薬】とそんなに変わらない感じね。特化させたい所に使うのが正解だと思う」

「でも出来たってことは良かったじゃない。サラさんの夢の実現に一歩近付いたってことだし」
「うん! あ、でもね……ちょっと今のじゃ効率悪そうなんだよね。素材が多すぎる。これじゃあ量を作るのは無理。もう少し検討したいけど、もう素材がないのよねぇ」

 今回新しい薬を作るのに使った素材は、全てこの前のアップデートで解禁された新エリアのモンスターのものだ。
 出どころはこの前会ったアーサーからもらった素材。

 検討でほぼ全部使ってしまったので、これ以上調べるためには再度素材を入手しなければならない。
 だけど残念なことに、他のみんなも四苦八苦しているのか、未だに市場にはほとんど現れない。

 きっと生産クランが未だに集めるためのクエストを開いているのだろう。
 そうなると自分で取りに行くしかないのだけれど。

「そうなんだ。もし良かったら取りに行こうか? 難しい場所なの?」
「ありがとう。でもね。この前できたばかりの新エリアなんだよね。セシルと私だけじゃ無理かな」

 私の言葉にセシルは気を落としたような顔を見せる。
 相変わらず顔は竜で怖いはずなのに、仕草や雰囲気で人懐っこい犬のように見えてしまう。

「そうなんだ……あ、じゃあさ。みんなにも手伝ってもらうってのはどう?」
「みんなってクランのみんな?」

「そうそう。ほら、前言ったじゃない。クランマスターとしてもサラさんの夢の実現を応援するって。みんないれば行けるでしょう?」
「うん。多分ね。セシルとハドラーのレベル上げにもなるし。でもみんな来てくれるかな? 今回は本当に私の趣味みたいなものだし……」

 ただでさえこれからは攻城戦に出るために、決まった時間を拘束させる可能性が高い。
 私の素材集めのためにみんなを呼んで困らせないだろうか。

「大丈夫だと思うよ。ハドラーは確実に。カインもみんなで何かやりたいって言ってたし。アンナはサラさんに心酔してるみたいだしね」
「そうかな。じゃあ今度お願いしてみようかな」

 そう言っている間にセシルがクラン掲示板、クランメンバーが情報を共有出来るメッセージが書ける場所に、さっさと書いてしまった。
 しばらくすると、さっきまで居なかった他のメンバーが調合部屋に集まってきた。

「なになに。みんなで狩り? しかも新エリア? 行く行く。僕今ちょうど暇だったしさ」
「サラちゃん! 新しい薬出来たんだってね! さっそく試そうよ! わたしゃ今以上に攻撃力が出せるって聞いてワクワクしてるよ!!」

「みんなありがとう。ハドラーも大丈夫?」
「ええ。皆さんとご一緒できるのは楽しいですからね。何よりマスターであるセシルさんからの集合要請ですから」

 みんなが揃いも揃って私の素材集めのために来てくれた。
 それが嬉しくて、私はなんだか胸が熱くなってしまった。

 今まで欲しい素材を集めるのには、露店から買うしかなかった。
 この前セシルが素材集めを手伝ってくれたのは、すごく嬉しかった。

 それでもきっと攻城戦のため、なんて思っていた自分が恥ずかしくなる。
 改めて思う。みんないい人だ。

 私は自分では気付いてなかったけど、まだどこか臆病になっていたんだと思う。
 もっと変わりたい。自分を変えたい。

 人に頼っていいのだと、自分が輪に交じっていいのだと、ここの人たちはそれを私に教えてくれる。
 うん。もう不安に思う必要なんてないんだと思う。

「ねぇ、みんな。ありがとう。大好きだよ!!」

 思わず発せられた言葉に、自分自身が顔を赤く染めてしまった。
 本心だけれど、大好きだなんて大声で人に言ったのは初めてで、恥ずかしさのあまり両手で顔を隠してしまう。

 自分の指のすき間から覗くと、何故かみんなまで恥ずかしそうにしていて、私はおかしくなって笑ってしまった。

「あははは! ちょっと! みんな。恥ずかしがるのは私だけで十分!! とにかく。みんなありがとうね。私、みんなの役に立つ薬、頑張って作るから!」

 私が笑顔でそう言うと、みんな大きく頷いてくれた。
 その後、新エリアで狩りをして、無事に素材を集めることができた。

 新薬の検討を続ければまたすぐに足りなくなると思う。
 だけどもう私は心配しない。

 だって、頼れる仲間が、こんなに温かい仲間がいるんだから。
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