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「小さな時から、俺はずっと君たちを見ていた。なんで横から来たそいつがかっさらっていくんだよ」
「ランドル?!」

 幼なじみがいきなり怒り出してエルドラは当惑してしまった。怒っている理由も理解できない。

「それに、そんな取り決めおかしいだろ?! 時代遅れも甚だしいじゃないか」
「時代遅れだとしても我が家のような土地成金は、その方が都合がいいのよ。私たちも納得しているし。むしろ私とプリシラ二人とも女だし双子だし、私たちで遺産問題を争うより、責任もって管理してくれる親族一人に任せる方がいいわ。むしろハルバートには迷惑を押し付けることになるとすら思っているのに……」
「ならその役割は俺でもいいじゃないか」

 ランドルがいきなり自分の胸を叩く。

「俺がこの家も爵位も全て相続するよ」
「貴方、自分が何を言っているかわかっているの? 血族以外は出る幕がない話だって言ってるのよ!」
「関係なくないだろ!? 俺はプリシラと結婚するんだし、君のことも俺が面倒みると言ってるだろ? 直系全てが俺のものになるんだから、俺がこの家の当主となるのがふさわしいよ」
「!?」

 この人は何を言っているのだろう。意味が分からない。
 もっと不気味なのは、彼はその理論が間違っていなくて最良の案だと思い込んでいるところだ。どうだ、と満足気な顔をしてエルドラを見るランドルの姿に怖気ついてしまった。

 しかも、今までエルドラは勘違いをしてことに気づいた。

 ランドルはエルドラとプリシラを双子扱いせず、それぞれ見てくれていたと思っていたが、それは一人の個人として尊重していたわけではなく、二人で一つ、という認識だったのだ。
 こちらはこういうもの、あちらはああいうもの、そのように区別をし、性格の違う二人を異色なものを楽しむようにして、ペアであることを前提としていたため、エルドラが別のところに嫁ぐのを良しとしないのだ。

 そして、ランドルがエルドラではなくプリシラを選んでプロポーズをしたのはきっと、プリシラなら断らないという性格を読まれていたからだろう。
 彼は今まで、エルドラかプリシラがこの家の爵位を継ぐものだと勘違いしていたようだから、双子の二人ともと結婚しようと……それがたとえ、書類上はできなくとも、実質的にできる、と思っていたのだ。
 三人で過ごしてきたから、ずっとこの関係が変わらず、二人ともを手に入れようと。

「そうだろう? エルドラ」
「ひっ……」

 気持ち悪い。そう思って、一歩自分に近づいてきたランドルから、エルドラは身を引いた。

「…………」

 それまで、黙ったままランドルとエルドラのやり取りを見ていたプリシラが、エルドラの前に出る。

「プリシラ……?」

 妹の後ろ姿を見て、エルドラが思わず声をかけた。次の瞬間。

 ばしっ!!

 大きく手を振りかぶったプリシラが、ランドルの顔に勢いよく平手打ちをした。

「貴方と婚約解消いたします」

 凍えるような軽蔑しきった目でランドルを見つめたプリシラが言う。

「な、なんだと!?」
「とはいえ、まだ私たちは婚約式は行っていませんから、よかったですわ。婚約のお祝いを持ってきてくれたハルバートにはこの事を告げて、お祝いは持って帰っていただきましょう。つまり、私たちはたった今から他人同士です」

 プリシラがランドルによそよそしい態度になっている。それはまるで自分と相手は無関係だとでもいうかのように。
 こんな様子のプリシラを見るのが初めてなランドルは動揺しているが、エルドラだって同様だ。
 今まで、プリシラが怒る前にエルドラが怒っていたから、プリシラが怒りを露わにすることがなかっただけで、やはり、プリシラの中にもエルドラの勝気さは存在していたのだ。

「……そうね。それがいいわ」

 エルドラもゴミでも見るような目でランドルを見つめて、ドアに手をかける。

「では、お帰りいただいていいですか? 正統なるこの家の継承者を閉めだしたままではいられないので。部外者である貴方はとっとと出て行ってください」
「なんだと、この俺を……っ それに親の許可なく婚約破棄できるとでも」
「不法侵入だと衛兵を呼びますよ?」

 エルドラがにっこり笑って扉を開けると。

「どうしたの!? ドア閉められてびっくりしたよ」

 何もわかっていないハルバートが笑顔で入ってくると同時に、それと対照的な憤怒にまみれた表情のランドルが、ハルバートの横を逃げるようにして、出て行った。
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