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――数日後。
結婚の申し入れに対して、リエルが直接申し上げたいことがある、と手紙をしたためた結果、イシュタール伯爵家の代理人がやってきた。
さりげなく「結婚の申し入れ」という言葉を出して蒸し返し、まだ婚約は非成立ですよと匂わせたのだが、引っかかってくれたようである。
おかげでうっかり婚約の口約束をしていまった父の失態は取り返しがついたようで、まずは安心だが気を引き締めていかないと。
それにしても、結婚の申し込みだというのに、結婚する本人が来ないであくまでも使者を仲立ちにさせている時点で、伯爵家の無責任さとこちらを軽視している具合がわかるようで不快感が増すばかりである。
しかしリエルはぐっとそれをこらえ、優雅に使者に向かって礼の限りを尽くす。
「以前は申し訳ございません。父が早合点して、私への結婚の申し入れと勘違いしたようですわね」
そう言って晴れやかに笑ってみせた。
「我が家にはもうオウムはいませんの。あのポスターを貼ってからもう随分と経ちますし、オウムは以前から別のところにやっておりますわ」
そう。リエルはオウムを受け入れているから求婚されているのだ。それなら、オウムがいなければ求婚される理由はない。
「それならば、オウムはどこに……」
そう使者がオウムの行先をきくのは当然だろう。もっとも使者としてはどうでもいいような内容かもしれないが。
「あのオウム、しばらくの間は毎日耳を楽しませていただいていたのですけれど……よーくお話を聞いていたら、とある女性の名前を覚えていたのですよね。送り先が間違っていたようなのに気づき、謹んでオウムをお譲りしたのです。――ガーネット伯爵家のディアヌお嬢様に」
リエルがそう伝えると、使者の顔が凍りついた。
ガーネット伯爵家のディアヌ嬢。
伯爵家というほどほどの地位の家柄だというのに、権力はピカ一と言われている家門の一人娘だ。
とんでもなくワガママな娘で、パーティーで周囲に当たり散らしてグラスを投げているところをリエルも何度も目撃している。
それと、少々体型がふくよかであるため、その体重を小さな足で支えることがしづらいのか、当たり屋か!?と思うレベルでぶつかってくる。パーティーのような人込みの中では困るレベルだ。
素行も態度も悪い相手なら、貴族社会から村八分されてもおかしくないのに、そのようなパーティ―には必ず招待されているのはわけがある。ガーネット家は裏社会と繋がっていると噂があるのだ。それも相当確率の高い信ぴょう性の元で。
一連のオウム事件がイシュタール伯爵家の仕業とわかって調べたら、色々な情報が手に入ってきた。
イシュタール伯爵家も、オウムを置いてプロポーズする相手の家は吟味していたようだ。
選から漏れていた時点で、マーキュリーがディアヌをどのように判定していたかわかるような気がするが、その辺りはリエルの知ったことではないので気にしない。
誰を愛しているか言わないオウムなら、こちらの任意の名前を覚えさせてしまえばいいだけだ。もちろんリエル以外で。
この段階でマーキュリーに釣り合いそうな爵位の家で、確実に婚約者がいない女性で心当たりはディアヌしかいなかったので、オウムにディアヌという名前を覚えるよう訓練させたのであった。結構あっさりと覚えてくれたので、やはりオウムは賢い鳥だと思う。
仮に覚えなかったとしても、そう言っていたが忘れただけだと言い張るつもりだったが。
ディアヌとリエルでは身分差もあるし、あまりいい噂をきかない相手なため、リエルが直接彼女と面識を持っていない。それならオウムをどうすればディアヌ受け取ってもらえるだろうか。
貴族は知らない相手からの荷物を軽々しく受け取ったりはしないものだ。
だから、真似したのである。イシュタール伯爵家のやり方を。本人が拾うように仕向けて。
ただしリエルの場合はオウムの安全を考慮して、侍女経由で相手方の侍女が確実に受け取ることができるようにしたのだけれど。
その時にそれとなく『こちらは本当は内緒ですが、イシュタール伯爵家からです』と伝わるようにして。
リエルと違い、自分に贈られたものだと誤解したディアヌはそれはそれは感激したようだ。
オウムはリエルよりふさわしい場所にたどりつくことができたはずだと、リエルは使者に向かってとびきりの笑みを見せた。
結婚の申し入れに対して、リエルが直接申し上げたいことがある、と手紙をしたためた結果、イシュタール伯爵家の代理人がやってきた。
さりげなく「結婚の申し入れ」という言葉を出して蒸し返し、まだ婚約は非成立ですよと匂わせたのだが、引っかかってくれたようである。
おかげでうっかり婚約の口約束をしていまった父の失態は取り返しがついたようで、まずは安心だが気を引き締めていかないと。
それにしても、結婚の申し込みだというのに、結婚する本人が来ないであくまでも使者を仲立ちにさせている時点で、伯爵家の無責任さとこちらを軽視している具合がわかるようで不快感が増すばかりである。
しかしリエルはぐっとそれをこらえ、優雅に使者に向かって礼の限りを尽くす。
「以前は申し訳ございません。父が早合点して、私への結婚の申し入れと勘違いしたようですわね」
そう言って晴れやかに笑ってみせた。
「我が家にはもうオウムはいませんの。あのポスターを貼ってからもう随分と経ちますし、オウムは以前から別のところにやっておりますわ」
そう。リエルはオウムを受け入れているから求婚されているのだ。それなら、オウムがいなければ求婚される理由はない。
「それならば、オウムはどこに……」
そう使者がオウムの行先をきくのは当然だろう。もっとも使者としてはどうでもいいような内容かもしれないが。
「あのオウム、しばらくの間は毎日耳を楽しませていただいていたのですけれど……よーくお話を聞いていたら、とある女性の名前を覚えていたのですよね。送り先が間違っていたようなのに気づき、謹んでオウムをお譲りしたのです。――ガーネット伯爵家のディアヌお嬢様に」
リエルがそう伝えると、使者の顔が凍りついた。
ガーネット伯爵家のディアヌ嬢。
伯爵家というほどほどの地位の家柄だというのに、権力はピカ一と言われている家門の一人娘だ。
とんでもなくワガママな娘で、パーティーで周囲に当たり散らしてグラスを投げているところをリエルも何度も目撃している。
それと、少々体型がふくよかであるため、その体重を小さな足で支えることがしづらいのか、当たり屋か!?と思うレベルでぶつかってくる。パーティーのような人込みの中では困るレベルだ。
素行も態度も悪い相手なら、貴族社会から村八分されてもおかしくないのに、そのようなパーティ―には必ず招待されているのはわけがある。ガーネット家は裏社会と繋がっていると噂があるのだ。それも相当確率の高い信ぴょう性の元で。
一連のオウム事件がイシュタール伯爵家の仕業とわかって調べたら、色々な情報が手に入ってきた。
イシュタール伯爵家も、オウムを置いてプロポーズする相手の家は吟味していたようだ。
選から漏れていた時点で、マーキュリーがディアヌをどのように判定していたかわかるような気がするが、その辺りはリエルの知ったことではないので気にしない。
誰を愛しているか言わないオウムなら、こちらの任意の名前を覚えさせてしまえばいいだけだ。もちろんリエル以外で。
この段階でマーキュリーに釣り合いそうな爵位の家で、確実に婚約者がいない女性で心当たりはディアヌしかいなかったので、オウムにディアヌという名前を覚えるよう訓練させたのであった。結構あっさりと覚えてくれたので、やはりオウムは賢い鳥だと思う。
仮に覚えなかったとしても、そう言っていたが忘れただけだと言い張るつもりだったが。
ディアヌとリエルでは身分差もあるし、あまりいい噂をきかない相手なため、リエルが直接彼女と面識を持っていない。それならオウムをどうすればディアヌ受け取ってもらえるだろうか。
貴族は知らない相手からの荷物を軽々しく受け取ったりはしないものだ。
だから、真似したのである。イシュタール伯爵家のやり方を。本人が拾うように仕向けて。
ただしリエルの場合はオウムの安全を考慮して、侍女経由で相手方の侍女が確実に受け取ることができるようにしたのだけれど。
その時にそれとなく『こちらは本当は内緒ですが、イシュタール伯爵家からです』と伝わるようにして。
リエルと違い、自分に贈られたものだと誤解したディアヌはそれはそれは感激したようだ。
オウムはリエルよりふさわしい場所にたどりつくことができたはずだと、リエルは使者に向かってとびきりの笑みを見せた。
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