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1章 脱出、そして新しい私

2 聖女の資格

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 男二人と、頭一つ分ほど背が低い女とでは、どうしても足の長さ的に不利になる。
 レティーシアは一人ではぁはぁと息を切らしながら、必死になって二人に食いついていった。
 彼らはそれでもレティーシアに考慮して早歩きなのだが、レティーシアはほぼ走っている状態だ。それでも走りながらレティーシアは二人に話しかける。

「私の所属は教会ですよ。それなら教会に保護を求めれば……」

 レティーシアの立場は現在は聖女だ。
 聖女の認定は教会が行い、表向きはそこの預かりになっている。王宮で長いこと住んでいるが教会の管轄の下なのだ。
 そんなレティーシアをちらっと見るが、リカルドは足を緩めずに、舌打ちをした。

「いや、君は聖女としての資格をはく奪された」

「!?」

 リカルドの言葉にレティーシアの体が震える。

「今、兄上の手の者に掴まれば、君はいち侯爵令嬢として家門の罪の連座として処刑されるんだ。教会は新しい聖女を認定し君を破門した。破門された異端は裁判もなしに処刑することができるからな」

「異端ですって!? 私は聖女である前に侯爵家の娘なのですよ!?」

 レティーシアの声は怒りで震えている。

 レティーシアは特別な聖女だった。まず、建国以降、初の貴族出身の聖女であった。
 聖女はこのジェーヴァ王国内の民の中から生まれると言われ、なぜか女性にしかその力が授からない。
 その力はこの国の王族の力の安寧と権能の増強。そして聖力の使用である。
 聖女の持つ聖なる力は一部の貴族が持つ魔力とは別種のものであるが、その力は聖女によって違っているのも魔力によく似ている。
 他にも聖女自身も知らない力が備わっていて、それは竜の血を持つ王族にのみわかっているという。それが何かまでは教えてもらえてないが――。

 だから聖女の認可は教会が行うが、聖女の選定は王族が行っているのだ。

 王族であるエドワードがレティーシアを聖女ではないと言えば、教会が彼女を聖女ではないとするのはまだわかる。そうなればただの貴族の娘に戻るだけだ。

 しかしそこで異端……つまり教会の教義に反した者と認めたとなれば違う。教会はレティーシアを罪人だと言ったのも同じなのだ。

 名誉と体面を重んじる貴族、しかも高位貴族である侯爵家から破門されるような娘が出たと言われるのは、死にも等しい侮辱だ。
 そして、聖女としてのレティーシアを知る人が、レティーシアを異端であると思うはずはないのだ。

「エドワード様は本当に狂っておしまいになっているのですか!? そんな脆弱な理由で高位貴族を感情的に処刑なんかしたら暴動が起きますよ!」

 レティーシアは自分が国民にどう見られているかを理解している。おごりでもうぬぼれでもなんでもなく、レティーシアの人気は高いのだ。
 そしてその国民人気と比例するかのように貴族からの人気も高い。
 貴族から出た聖女ということで、貴族文化や社会に対して知識も造詣も深く、マナーや社交にも長けている。宮中で暮らしているために優雅さもあり、一国の王女に等しい教養も見についている。

 プライドが高い貴族は生まれの身分が低い者に対してこうべを垂れるより、よほど感情的に納得してレティーシアが聖女であることを受け入れられたのだ。

 それに比べてエドワードの人気は低い。

 それは仕方がないことかもしれない。知に優れた第二王子、武勲に優れた第三王子に比べて、エドワードは影が薄かったのだから。悪いわけではない。他の王子に比べて凡庸すぎるのだ。
 だからこそ、レティーシアと並び立たせようと王は思っていたようだが、エドワードはレティーシアをあまり好ましく思っていなかったようだ。

 レティーシアはそれに気づいていたが、政略結婚というものはそういものだとも感じていたため、なんとも思っていなかった。
 貴族として育ってきていて、それが当たり前だったのだから。

「わかってる! わかっているけれど、我々は兄上の言葉に逆らうことはできないんだ……」

 そう言うリカルドの表情は苦しそうだった。
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