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ミリアリア……ローズロッド侯爵家出身の王太子妃
クローディア……ローズロッド侯爵家の傍系伯爵家の娘で、ミリアリアの従妹にあたる。
* * *
「色々な検査の結果や状況からかんがみますと、王太子妃は不妊症の可能性が高いと思われます……」
「そんな……」
医師の言葉を聞いて、ミリアリアは目の前が真っ暗になった。足の力が抜けて床にへたり込むと、そのまま泣き崩れる。
常に気丈な姿を崩さないミリアリアの珍しい様子に周囲の侍女も驚き、王太子妃を支えようと側に駆け寄った。
ミリアリアが王太子妃として輿入れしたのは二年前。
夫である王太子、スチュアートの子をなかなか孕めずにいて、さすがにおかしいと思って王宮の侍医に相談した結果がこれだった。
ミリアリアの従妹であるクローディアも、どうしたらいいのかわからないという顔をして黙ったまま、泣きじゃくるミリアリアの背中を撫でていた。
「ミリアリア、泣かないで」
クローディアがミリアリアをぎゅっと抱きしめる。
「……私が貴女の力になるわ」
「ちから?」
「ええ。王太子妃として必要な役割を血族で分ければいいのよ」
泣き腫らした目をそのままに、クローディアを不思議そうに見つめるミリアリアに、クローディアは頷いた。
「貴方は賢いわ。貴方以上に王太子妃にふさわしい人はこの世に存在しない。だから私が王の子を産み、育てればいい」
そう言うとクローディアは笑顔を浮かべて見せた。
「貴女は真面目なのよ。王太子妃の責任を私にも分けてちょうだい。ローズロッド侯爵家から出た女が王の子を産めばいいのでしょう? 貴方が表舞台に立ち、私は日陰の身として貴女を、ひいてはこの王家を支える。私は王家に仕えるこのローズロッド侯爵家に連なる存在なのだから、貴方ができない仕事を私がすればいい」
「貴女はそれでいいの……?」
クローディアの提案は、王の愛人になるということと同じだ。
貴族の娘として嫁ぎ、平穏な家庭を作るということからは遠く離れ、王宮の勢力争いの中に入ることとなるかもしれないのだ。
「私ができるのはあくまでも貴方の代わりに子供を産むだけよ。だから、命を狙われることもないでしょうね、その価値もないから。政治からは遠い場所にいるようにするから。ね?」
そう言ってミリアリアを抱きしめた。ミリアリアはそんな従妹を自分からも抱きしめて目を閉じる。
その目からは、先ほどとは違う種類の、熱い涙が流れ落ちていた。
そして――。
ミリアリアの紹介を受けたクローディアは、王太子妃が許した相手ということで、公然の妾妃という形でクローディアの王宮入りが適うこととなった。
予定通り、クローディアはすぐに身ごもり、ほどなくして男の子が生まれた。
その子はエドワードと名付けられてミリアリアの養子となり、正式に王位継承者として認められ、すくすくと成長していった。
その4年後に高齢だった王は王太子に位を譲り、その即位に伴い、ミリアリアは王妃となった。
戴冠式でも、その他の公式の行事でも、ミリアリアの隣にはいつもクローディアがいて笑顔で彼女を支え、王族のみの個人的な集まりにも喚ばれるほど、クローディアの存在は大事にされていたのである。
そんな中、事件は起きた。
不慮の事故で二人の夫に当たる、王のスチュアートが亡くなったのである。
クローディア……ローズロッド侯爵家の傍系伯爵家の娘で、ミリアリアの従妹にあたる。
* * *
「色々な検査の結果や状況からかんがみますと、王太子妃は不妊症の可能性が高いと思われます……」
「そんな……」
医師の言葉を聞いて、ミリアリアは目の前が真っ暗になった。足の力が抜けて床にへたり込むと、そのまま泣き崩れる。
常に気丈な姿を崩さないミリアリアの珍しい様子に周囲の侍女も驚き、王太子妃を支えようと側に駆け寄った。
ミリアリアが王太子妃として輿入れしたのは二年前。
夫である王太子、スチュアートの子をなかなか孕めずにいて、さすがにおかしいと思って王宮の侍医に相談した結果がこれだった。
ミリアリアの従妹であるクローディアも、どうしたらいいのかわからないという顔をして黙ったまま、泣きじゃくるミリアリアの背中を撫でていた。
「ミリアリア、泣かないで」
クローディアがミリアリアをぎゅっと抱きしめる。
「……私が貴女の力になるわ」
「ちから?」
「ええ。王太子妃として必要な役割を血族で分ければいいのよ」
泣き腫らした目をそのままに、クローディアを不思議そうに見つめるミリアリアに、クローディアは頷いた。
「貴方は賢いわ。貴方以上に王太子妃にふさわしい人はこの世に存在しない。だから私が王の子を産み、育てればいい」
そう言うとクローディアは笑顔を浮かべて見せた。
「貴女は真面目なのよ。王太子妃の責任を私にも分けてちょうだい。ローズロッド侯爵家から出た女が王の子を産めばいいのでしょう? 貴方が表舞台に立ち、私は日陰の身として貴女を、ひいてはこの王家を支える。私は王家に仕えるこのローズロッド侯爵家に連なる存在なのだから、貴方ができない仕事を私がすればいい」
「貴女はそれでいいの……?」
クローディアの提案は、王の愛人になるということと同じだ。
貴族の娘として嫁ぎ、平穏な家庭を作るということからは遠く離れ、王宮の勢力争いの中に入ることとなるかもしれないのだ。
「私ができるのはあくまでも貴方の代わりに子供を産むだけよ。だから、命を狙われることもないでしょうね、その価値もないから。政治からは遠い場所にいるようにするから。ね?」
そう言ってミリアリアを抱きしめた。ミリアリアはそんな従妹を自分からも抱きしめて目を閉じる。
その目からは、先ほどとは違う種類の、熱い涙が流れ落ちていた。
そして――。
ミリアリアの紹介を受けたクローディアは、王太子妃が許した相手ということで、公然の妾妃という形でクローディアの王宮入りが適うこととなった。
予定通り、クローディアはすぐに身ごもり、ほどなくして男の子が生まれた。
その子はエドワードと名付けられてミリアリアの養子となり、正式に王位継承者として認められ、すくすくと成長していった。
その4年後に高齢だった王は王太子に位を譲り、その即位に伴い、ミリアリアは王妃となった。
戴冠式でも、その他の公式の行事でも、ミリアリアの隣にはいつもクローディアがいて笑顔で彼女を支え、王族のみの個人的な集まりにも喚ばれるほど、クローディアの存在は大事にされていたのである。
そんな中、事件は起きた。
不慮の事故で二人の夫に当たる、王のスチュアートが亡くなったのである。
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