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思いがけない時期の王の崩御に王宮は縦に横に大騒ぎとなった。
「王がこんなに早くお隠れになるとは!」
「まだエドワード様はお小さいのに」
大騒ぎをして混乱する臣下の間でただ一人、ミリアリアは冷静に指示を飛ばしていた。
顔色は真っ青だが取り乱すことなく、じっと唇を噛んで堪え、悲しみをこらえて政務をこなしている。
そんな様子のミリアリアに、クローディアは不安そうな顔をしながらおそるおそる声をかけた。
「ミリアリア、大丈夫? この後、エドワードが王位に就くのよね?」
王位が空白になる期間は少ない方が混乱が抑えられる。しかし、王太子であるエドワードはまだ幼少である。
「いいえ、私が女王となるわ」
「女の貴方が!? そんなことしたら臣下はついてこないんじゃないの? それならエドワードに王位を継がせて貴方は摂政となれば……」
クローディアの悲鳴のような声に、落ち着いた瞳のミリアリアは、じっと従妹を見つめる。
「そもそも王妃というものは、王の代わりに政務を執ることができる唯一の存在なの。王が執務を執れなくなった瞬間から、臣下に命令を出せるのは正式な結婚式を挙げた私だけなのよ」
「でも……!」
「今までと大して変わらないわ。どうして貴方はそんなに反対するのかしら?」
「だ、だって……今までは王がいらして、貴女は王の代理人という立場だったからこそ、皆が貴女に従っただけで……それがこの国の女の限界じゃないの」
「今は政治に慣れていない者に政務を任せる方が不安よ。エドワードというワンクッションを入れれば、情報の通りも悪くなる」
隙を見せたら食われる。それが王宮の恐ろしいところなのだ。
「そう……わかったわ、応援する」
どことなくじれったそうな顔をしていたが、クローディアはミリアリアの言葉に頷く。それしかないのだ。
クローディアを一瞥してからミリアリアは家臣たちを呼び寄せた。
エドワードを守り、国を守る。王家に嫁いだ者の決心を伝えるために。
ミリアリアの提案は家臣たちにも受け入れられ、思ったよりすんなりと、彼女が次代の王となることは決まっていった。この混乱した状況を打破するのはそれが最適解だと誰もが感じていたのだろう。
しかし、どの者も胸のうちで、彼女の即位はまだ幼少であるエドワードが大人になるまでの暫定的なものだろうと思っていた。
* * *
ミリアリアが王妃でなく王となってしばらく経ったある日、クローディアはミリアリアに執務室に呼ばれた。
なんだろうと不思議そうな顔で立ち尽くしているクローディアに、ミリアリアはまっすぐに見つめて問いかけた。
「エドワードの出自についてそろそろ教えてもらえないかしら。エドワードは本当に王の子なの?」
「なんですって!? 当たり前じゃないの!」
「……貴方、私が合理的な性格しているの知っているわよね。私が自分が不妊症かもしれないということに、二年間も本当に気づかなかったと思う?」
「……え? どういう意味?」
「私ね、貴方以外にも王に私の身代わりとして何人か私の侍女を差し出していたのよ。でも誰も妊娠しなかったの」
ミリアリアが自分は子供を身ごもれない可能性を感じたのは、結婚して半年くらいたった時だった。
政敵になりえないような貴族の家の娘を選び抜いて、酒を飲ませた王の寝所に侍らせたのだ。
深酒をすると意識が飛ぶ夫の酒癖を周知しているからこそできたことだろう。
いずれも王のお手付きになった後、身ごもっても大丈夫な健康な女性たちだったのだが、誰も懐妊しなかった。
「彼女たちはその後、結婚して子供を産んでいる人ばかりなのよ。彼女たちに問題がないというのは明らかだわ」
ふっと息を吐いてじっとクローディアの顔を見つめる。
「王がこんなに早くお隠れになるとは!」
「まだエドワード様はお小さいのに」
大騒ぎをして混乱する臣下の間でただ一人、ミリアリアは冷静に指示を飛ばしていた。
顔色は真っ青だが取り乱すことなく、じっと唇を噛んで堪え、悲しみをこらえて政務をこなしている。
そんな様子のミリアリアに、クローディアは不安そうな顔をしながらおそるおそる声をかけた。
「ミリアリア、大丈夫? この後、エドワードが王位に就くのよね?」
王位が空白になる期間は少ない方が混乱が抑えられる。しかし、王太子であるエドワードはまだ幼少である。
「いいえ、私が女王となるわ」
「女の貴方が!? そんなことしたら臣下はついてこないんじゃないの? それならエドワードに王位を継がせて貴方は摂政となれば……」
クローディアの悲鳴のような声に、落ち着いた瞳のミリアリアは、じっと従妹を見つめる。
「そもそも王妃というものは、王の代わりに政務を執ることができる唯一の存在なの。王が執務を執れなくなった瞬間から、臣下に命令を出せるのは正式な結婚式を挙げた私だけなのよ」
「でも……!」
「今までと大して変わらないわ。どうして貴方はそんなに反対するのかしら?」
「だ、だって……今までは王がいらして、貴女は王の代理人という立場だったからこそ、皆が貴女に従っただけで……それがこの国の女の限界じゃないの」
「今は政治に慣れていない者に政務を任せる方が不安よ。エドワードというワンクッションを入れれば、情報の通りも悪くなる」
隙を見せたら食われる。それが王宮の恐ろしいところなのだ。
「そう……わかったわ、応援する」
どことなくじれったそうな顔をしていたが、クローディアはミリアリアの言葉に頷く。それしかないのだ。
クローディアを一瞥してからミリアリアは家臣たちを呼び寄せた。
エドワードを守り、国を守る。王家に嫁いだ者の決心を伝えるために。
ミリアリアの提案は家臣たちにも受け入れられ、思ったよりすんなりと、彼女が次代の王となることは決まっていった。この混乱した状況を打破するのはそれが最適解だと誰もが感じていたのだろう。
しかし、どの者も胸のうちで、彼女の即位はまだ幼少であるエドワードが大人になるまでの暫定的なものだろうと思っていた。
* * *
ミリアリアが王妃でなく王となってしばらく経ったある日、クローディアはミリアリアに執務室に呼ばれた。
なんだろうと不思議そうな顔で立ち尽くしているクローディアに、ミリアリアはまっすぐに見つめて問いかけた。
「エドワードの出自についてそろそろ教えてもらえないかしら。エドワードは本当に王の子なの?」
「なんですって!? 当たり前じゃないの!」
「……貴方、私が合理的な性格しているの知っているわよね。私が自分が不妊症かもしれないということに、二年間も本当に気づかなかったと思う?」
「……え? どういう意味?」
「私ね、貴方以外にも王に私の身代わりとして何人か私の侍女を差し出していたのよ。でも誰も妊娠しなかったの」
ミリアリアが自分は子供を身ごもれない可能性を感じたのは、結婚して半年くらいたった時だった。
政敵になりえないような貴族の家の娘を選び抜いて、酒を飲ませた王の寝所に侍らせたのだ。
深酒をすると意識が飛ぶ夫の酒癖を周知しているからこそできたことだろう。
いずれも王のお手付きになった後、身ごもっても大丈夫な健康な女性たちだったのだが、誰も懐妊しなかった。
「彼女たちはその後、結婚して子供を産んでいる人ばかりなのよ。彼女たちに問題がないというのは明らかだわ」
ふっと息を吐いてじっとクローディアの顔を見つめる。
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