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8話※ 甘く苦い日々(一輝×菖)
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古いアパートの一室、夜8時。
一輝はずらっと並んだたまごサンドを見てゲンナリした表情を浮かべる。
「またぁ!?何なのお前、しかもなんつー量作って……」
「えへへ……悪い、ちょっと夢中になっちゃって」
菖は一応形だけ申し訳なさそうに笑うと、頭を掻いた。ここ最近、菖はノクターンのメニューを参考に、メモに残した改良レシピを自宅で試し続けていたのだった。
強制的に付き合わされている一輝は、3日連続で並んだたまごサンドを見て目を逸らす。申し訳程度に用意された唐揚げに、真っ先に一輝は手を伸ばした。
「一輝、こっちのサンド食ってみて。お前が不味いって言った和風たまごサンド、ちょっとアレンジして上手くなったから」
「もうさ、こう連続で出されると麻痺して分かんねえんだわ。もう限界、食いたくないって舌が言ってる」
「そこを何とか!なあ自信作なんだって!」
一輝は頼み込まれて、仕方なくたまごサンドの一つを手に取る。確かに数日前に食べさせられた、刻んだらっきょうだかなんだかを入れてあった挑戦的なたまごサンドより、味がまとまっていると一輝は感じる。歯応えを感じるのは、また何か漬物でも入れたのだろうか。もうそれを聞き出す興味も一輝からは薄れているのだが。
「んー、うまいよ。前のやつより」
「だろ!良かった、きゅうりの漬物入れてみたの、ピクルスっぽく、でも和風っぽくしたくてさ、だからマヨじゃなくて…」
熱っぽく語る菖を無視して、一輝はもくもくとたまごサンドを頬張る。菖に細かい感想を求められる前に食べてしまおうという算段だった。
菖も薄々、一輝が自分の料理の実験台に飽きてきていることは気がついていた。申し訳なさも少し感じるが、まあ料理人と暮らすってこういうことなんじゃないのか、飯作ってやってるだけ喜んでほしいと開き直りつつも合った。
「今食いたくないなら弁当用に包んでやろうか?」
「勘弁、昼飯くらいは好きなもん食わせて」
一輝はそう言って笑う。いつの間にか長く暮らすうちに、2人の会話は熟年の夫婦のような響きを持つようになっていた。菖はほんの少し、それが嬉しかった。
夜も更けた頃、菖がドライヤーを使っていると、一輝が黙って後ろから抱きしめる。
幼馴染にしては親密な行為。菖はドライヤーを持つ手に力が入る。
「………なに、邪魔なんだけど」
「んー。なあ、最近美容室行った?パーマの匂いする」
「え?結構前だよ。ちょっともう落ちてきてるし、ほら」
菖はドライヤーを止めると、髪を軽く書き上げて見せる。いつも髪がかかって隠れがちな耳が一輝の目に入った。ドライヤーの熱風に包まれて赤くなったそこを、黙って一輝は甘噛みする。
「わ、ちょ、な……なに」
「なんとなく」
耳元でぼそっと喋られるのは、菖は苦手だった。そわそわするし、何となく背骨のあたりがむずむずして落ち着かなくなる。
一輝の声は普段より低かった。菖はこれから一輝が何をしようとしているのかを察すると、ろくに抵抗もせずにほんの少しだけ腰を一輝に押し付ける。
一輝は洗面台に手をつかせて、立ったままで菖を犯した。
ぐ、と侵入する熱い塊に、菖は息を詰まらせる。わずかな痛みと違和感を、ものすごい速さで快感が追い抜いて行って、腹の奥から頭の芯までを甘く痺れさせた。
「ん、ぅ………あ、ああ」
息を吐いた時に、悩ましげな声が菖から漏れる。一輝は揶揄うように菖の顎を掴むと、ぐっと持ち上げて鏡越しに目を合わせた。
「な………おま、ふざけ……っ」
「いーじゃん。かわいいよ、しょう」
茶化すような一輝の言葉に、菖の顔はかっと赤くなる。鏡の中の自分は蕩けた顔をしていた。一輝が腰を動かすとびくりと体が震え、無意識に自分の熱を持ったそこに手が伸びる。
一輝はその姿が目に入ったのか、さらに腰を激しく動かした。菖の甘い声が脱衣所に響く。一輝は強く腰を押し付けて、菖の奥で苦しげに呻くと熱を注ぎ込んだ。
2人は汗だくになったまま、浴室に戻る。菖はさっきシャワーを浴びたばっかなのにと一輝を小突いて、壁に寄りかかって息を整えた。
「足ガクガクじゃん、お前運動しねーから」
「……バカ、爪先立ちでずっと立たされたら、誰だって……」
「はは。それにまだ勃ってるし。イってなかったの?」
「ちょ、ばか、ぅ、んん………っ」
一輝は楽しげに菖を揶揄うと、中途半端に熱を持ったままの菖のそこを手のひらで包み、慣れたように擦り始める。淡々とした、自分のそれを処理するような手慣れた手つき。それが余計に菖の羞恥心を煽る。
「や、やめ………いい、自分でする……っ」
「いいよ、甘えとけって。もうイきそうじゃん、ほらビクビクしてる」
「言うなよ…….あ、ばか、もういい、手……っ!」
一輝は菖の静止を聞かずに、指先に力を入れて先端を強く擦る。その瞬間、菖は腰をガクガクと震わせ、浴槽のタイルに向かって白濁を吐き出してしまった。
菖は肩で息を吐いて一輝を睨む。一輝は揶揄うように笑うと、さっさと先に浴槽から出て行った。
菖は黙ってお湯を浴びると、クリーム色の古ぼけた色のタイルに飛び散った自分のそれをぼうっと眺めた。
一輝のカラッとした笑い声と、今さっき耳元で感じていた熱い呼吸を思い出す。
いつまでこんな事をするつもりなんだろうという焦りと、淡く抱き始めた一輝への期待。菖はそれを自覚したまま、浴室にしゃがみ込んだ。
一輝はどうせ、責任を取りたがらない。俺が何言ったってあいつは、俺たち親友じゃん、で押し通す。
だって一輝は役者で、舞台に立つためなら何だってできる男で、夢に向かってなら何だってできる男だ。俺が一輝の憧れる部分であり、尊敬している部分。だから一輝は今、恋人なんか作るわけがない。
絶対怪しまれない立場にいる、都合のいい男。
菖はどこかで自分をそう位置付けていた。一輝にそんな意図が無くたって、菖の立場はもうそれ以外の何者でも無かった。他でもない菖自身が、その立場を受け入れてしまっていた。
菖は体を拭くと、部屋着に着替えて自室に戻る。その途中で一度、一輝の部屋に黙って入った。
一輝はまだベッドに入らずに起きている。どうしたんだよと驚く一輝に、菖は黙って軽いパンチを鳩尾に入れた。
「いって、おい……なんだよ!」
「なんでもない、おやすみ」
軽い暴力は、2人にとっての切り替えの儀式でもある。
2人の日常は時々、こんなふうに綱の上を渡り歩くような危険を孕むようになっていたのだった。
一輝はずらっと並んだたまごサンドを見てゲンナリした表情を浮かべる。
「またぁ!?何なのお前、しかもなんつー量作って……」
「えへへ……悪い、ちょっと夢中になっちゃって」
菖は一応形だけ申し訳なさそうに笑うと、頭を掻いた。ここ最近、菖はノクターンのメニューを参考に、メモに残した改良レシピを自宅で試し続けていたのだった。
強制的に付き合わされている一輝は、3日連続で並んだたまごサンドを見て目を逸らす。申し訳程度に用意された唐揚げに、真っ先に一輝は手を伸ばした。
「一輝、こっちのサンド食ってみて。お前が不味いって言った和風たまごサンド、ちょっとアレンジして上手くなったから」
「もうさ、こう連続で出されると麻痺して分かんねえんだわ。もう限界、食いたくないって舌が言ってる」
「そこを何とか!なあ自信作なんだって!」
一輝は頼み込まれて、仕方なくたまごサンドの一つを手に取る。確かに数日前に食べさせられた、刻んだらっきょうだかなんだかを入れてあった挑戦的なたまごサンドより、味がまとまっていると一輝は感じる。歯応えを感じるのは、また何か漬物でも入れたのだろうか。もうそれを聞き出す興味も一輝からは薄れているのだが。
「んー、うまいよ。前のやつより」
「だろ!良かった、きゅうりの漬物入れてみたの、ピクルスっぽく、でも和風っぽくしたくてさ、だからマヨじゃなくて…」
熱っぽく語る菖を無視して、一輝はもくもくとたまごサンドを頬張る。菖に細かい感想を求められる前に食べてしまおうという算段だった。
菖も薄々、一輝が自分の料理の実験台に飽きてきていることは気がついていた。申し訳なさも少し感じるが、まあ料理人と暮らすってこういうことなんじゃないのか、飯作ってやってるだけ喜んでほしいと開き直りつつも合った。
「今食いたくないなら弁当用に包んでやろうか?」
「勘弁、昼飯くらいは好きなもん食わせて」
一輝はそう言って笑う。いつの間にか長く暮らすうちに、2人の会話は熟年の夫婦のような響きを持つようになっていた。菖はほんの少し、それが嬉しかった。
夜も更けた頃、菖がドライヤーを使っていると、一輝が黙って後ろから抱きしめる。
幼馴染にしては親密な行為。菖はドライヤーを持つ手に力が入る。
「………なに、邪魔なんだけど」
「んー。なあ、最近美容室行った?パーマの匂いする」
「え?結構前だよ。ちょっともう落ちてきてるし、ほら」
菖はドライヤーを止めると、髪を軽く書き上げて見せる。いつも髪がかかって隠れがちな耳が一輝の目に入った。ドライヤーの熱風に包まれて赤くなったそこを、黙って一輝は甘噛みする。
「わ、ちょ、な……なに」
「なんとなく」
耳元でぼそっと喋られるのは、菖は苦手だった。そわそわするし、何となく背骨のあたりがむずむずして落ち着かなくなる。
一輝の声は普段より低かった。菖はこれから一輝が何をしようとしているのかを察すると、ろくに抵抗もせずにほんの少しだけ腰を一輝に押し付ける。
一輝は洗面台に手をつかせて、立ったままで菖を犯した。
ぐ、と侵入する熱い塊に、菖は息を詰まらせる。わずかな痛みと違和感を、ものすごい速さで快感が追い抜いて行って、腹の奥から頭の芯までを甘く痺れさせた。
「ん、ぅ………あ、ああ」
息を吐いた時に、悩ましげな声が菖から漏れる。一輝は揶揄うように菖の顎を掴むと、ぐっと持ち上げて鏡越しに目を合わせた。
「な………おま、ふざけ……っ」
「いーじゃん。かわいいよ、しょう」
茶化すような一輝の言葉に、菖の顔はかっと赤くなる。鏡の中の自分は蕩けた顔をしていた。一輝が腰を動かすとびくりと体が震え、無意識に自分の熱を持ったそこに手が伸びる。
一輝はその姿が目に入ったのか、さらに腰を激しく動かした。菖の甘い声が脱衣所に響く。一輝は強く腰を押し付けて、菖の奥で苦しげに呻くと熱を注ぎ込んだ。
2人は汗だくになったまま、浴室に戻る。菖はさっきシャワーを浴びたばっかなのにと一輝を小突いて、壁に寄りかかって息を整えた。
「足ガクガクじゃん、お前運動しねーから」
「……バカ、爪先立ちでずっと立たされたら、誰だって……」
「はは。それにまだ勃ってるし。イってなかったの?」
「ちょ、ばか、ぅ、んん………っ」
一輝は楽しげに菖を揶揄うと、中途半端に熱を持ったままの菖のそこを手のひらで包み、慣れたように擦り始める。淡々とした、自分のそれを処理するような手慣れた手つき。それが余計に菖の羞恥心を煽る。
「や、やめ………いい、自分でする……っ」
「いいよ、甘えとけって。もうイきそうじゃん、ほらビクビクしてる」
「言うなよ…….あ、ばか、もういい、手……っ!」
一輝は菖の静止を聞かずに、指先に力を入れて先端を強く擦る。その瞬間、菖は腰をガクガクと震わせ、浴槽のタイルに向かって白濁を吐き出してしまった。
菖は肩で息を吐いて一輝を睨む。一輝は揶揄うように笑うと、さっさと先に浴槽から出て行った。
菖は黙ってお湯を浴びると、クリーム色の古ぼけた色のタイルに飛び散った自分のそれをぼうっと眺めた。
一輝のカラッとした笑い声と、今さっき耳元で感じていた熱い呼吸を思い出す。
いつまでこんな事をするつもりなんだろうという焦りと、淡く抱き始めた一輝への期待。菖はそれを自覚したまま、浴室にしゃがみ込んだ。
一輝はどうせ、責任を取りたがらない。俺が何言ったってあいつは、俺たち親友じゃん、で押し通す。
だって一輝は役者で、舞台に立つためなら何だってできる男で、夢に向かってなら何だってできる男だ。俺が一輝の憧れる部分であり、尊敬している部分。だから一輝は今、恋人なんか作るわけがない。
絶対怪しまれない立場にいる、都合のいい男。
菖はどこかで自分をそう位置付けていた。一輝にそんな意図が無くたって、菖の立場はもうそれ以外の何者でも無かった。他でもない菖自身が、その立場を受け入れてしまっていた。
菖は体を拭くと、部屋着に着替えて自室に戻る。その途中で一度、一輝の部屋に黙って入った。
一輝はまだベッドに入らずに起きている。どうしたんだよと驚く一輝に、菖は黙って軽いパンチを鳩尾に入れた。
「いって、おい……なんだよ!」
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