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第60話 危険を冒してギルドを裏切った彼女は、僕を敵のアジトへいざなう

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「なんてこった……」

 僕は自分で自分に治癒魔法を掛け、何とか傷を治した。
 フィナを助け出さなければ……
 そう思い、立ち上がる。
 目の前には鬱蒼とした森。
 フィナはその中のどこかにいる。
 だがそこで、ふと僕はネスコの言葉を思い出した。

「森のモンスターは強力だ。お前達のレベルじゃまだかなわない」

 僕は今、レベル53だ。
 その僕でもかなわないなら、森の中にはどれくらい強力なモンスターが潜んでいるのか。
 あのミチヤス達は森の中から出て来た。
 ということは、彼らのレベルだと太刀打ち出来るということか。
 どちらにしても、僕は今、二つの問題を抱えていた。

 一つは、森の中でモンスターに遭遇したら命は無いということ。
 もう一つは、森の中でのフィナの居場所が分からないということ。

 どちらの問題も、解決は難しい。
 アドバイスが欲しいと思い、ネスコに通信を飛ばしてみるが、彼は忙しいらしく応答が無い。
 フィナにも通信を飛ばしてみるが、こちらも応答が無い。
 僕は背筋が震えた。
 ビッシリ木々が生えた森は、生き物の様だ。
 無数の枝葉が日光を遮り中は暗い。
 黒い入り口が僕を待ち受けている。
 どちらにしても留まる訳には行かない。

「よし!」

 僕は意を決して森に入ることにした。
 その時、

「ユウタさん!」

 勢い良く森から飛び出して来た小柄な影は、僕の前で転倒した。
 身にまとった白いローブには木の葉っぱや枝が付いている。

「セレスさん」
「はぁはぁ……さっきはすいませんでした」

 彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
 ウエンディと自分のことを謝っているのだろう。

「……仕方ないよ」

 そうは言ってみたが、彼女達に裏切られたことは僕の心に苦く残っている。

「ユウタさん、フィナさんのところへ案内します」
「え?」
「私、忘れ物を取りに行くと言って、ここに戻って来たんです」

 なるほど。
 セレスは身の危険を冒し僕のために、ここに来てくれたのか。



 無数の木々の葉で空は塞がれ、昼だというのにまるで夜の中を歩いているかの様だった。

「この森には強力なモンスターがいるって知ってた?」
「え? そうなんですか?」

 幸い、まだ遭遇したことは無いらしい。

「そうなんですか。ギルマス達もまだここでモンスターと出会ったことはないと思います」

 セレス曰く、この森の奥にある洞穴にギルドの拠点を作っているとのこと。
 どうやら本格的にこの狩り場でレベル上げと素材集めを行うつもりらしい。

「いずれは転移扉までの街道を作り、街に素材を輸送出来る様にしたいって言ってます」
「そうなんだ」
「全て、親ギルドのDEATHの言いなりになってるだけなんですけどね」

 DEATHか。
 五大ギルドの一つで、野蛮な集団だと聞いたことがある。
 そんなギルドが辺境まで攻めてきたら、亜人間にとってえらいことなる。

「あそこです」

 セレスの指差す先に、彼らの拠点である洞穴があった。
 僕らは茂みに身を潜めていた。

「私がギルマス達の気を逸らします。その間にユウタさんは洞穴の奥に捕らえられているフィナさんを助け出してください」
「分かった。ありがとう」

 僕はセレスの手を握り、大きく頷いた。

「ユウタさん……」
「何だい?」
「その、いつかまた会えるといいですね……」
「うん」

 セレスの顔は真っ赤だった。

「じゃ、行ってきます」

 意を決したかの様に彼女は立ち上がった。
 その時、背後から聞きたくない声がする。

「お前ら、何やってる?」

つづく
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