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改正番;王宮編

5話,エスメ嬢と縁があったよう

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唖然としていた国王の対応は速かった。
「扉を開けよッ!!」
「ハッ!」
国王の言葉に衛兵が素早く扉を開く。扉の向こうには宰相であるアラン・リーが、既に跪いて頭を垂れていた。
「ご機嫌麗しゅう国王陛下。緊急のお話があり、このアラン・リー。参上致しました」
「申せ」
「御意」
空気が凍りつく、先程までとはまるで違う会議室。王族6人は静かに宰相を見た。アランは公爵家の出だが、王族全員に見られる状況はさすがの宰相でも冷や汗を書いていた。
「報告します。伯爵家メイジー・ポーリッシュ嬢の悪事が判明致しました。学院の装飾品の盗み、自分より身分の低い者への虐め等。その証拠はコールマン侯爵が提示しております」
その宰相の言葉に、アルフィーは眉を寄せて立ち上がった。
「そんな…メイジーがっ……?!何かの間違いだろう?!」
そう言うアルフィーに、宰相は緩く頭を横に振る。
「本人は容疑を否認していますが、現在確認している証拠も今のところ問題ございません。処罰ですとポーリッシュ嬢は入牢、ポーリッシュ伯爵家も取り潰しとなりましょう」
「っはぁぁ…」
国王がため息をつき、自身のこめかみを押さえ眉間に皺を寄せた。
レイナは少し考えた後、何かに思い至ったようで勢い良く立ち上がった。王族全員が眉を寄せ彼女を見上げる。
「レイナ、どうした」
国王が低い声でそう言う。この状況で突然立ち上がられたのだ。余程の用で無ければ許さんと言う雰囲気を国王が纏っており、苛立っている事が良く分かる。だが、レイナはその事を気にする事無く国王を見た。
「これ以上、わたくしがここに居る意味も価値もございません。失礼させて頂きます」
レイナは国王にカーテシをした後背を向け、会議室を後にした。会議室前に待機していたシエンナにレイナは視線を向ける。
「離宮に戻ります」
「かしこまりました」
足を止める事無く歩き続けるレイナに、頭を下げたシエンナは彼女の後に続く。
メイジーの逮捕で多くの者が関わったのか、レイナが歩く廊下にはいつも以上に人が居た。白いベールをかけている為普段より王族としての覇気があるからか、レイナが廊下を通る時、メイドや執事、王宮に来ていた貴族達は息を殺して頭を下げている。廊下はまるでレイナ以外居ないかのように、足音以外何も聞こえてこなかった。
「シエ、コールマン嬢との面会を」
「すぐに」
そうシエンナは答えて消える。勿論比喩だが、持ち前の瞬発力で面会の約束を取り付けに行ったのだろう。レイナの後ろには既に、常に一定の距離で控えている護衛兼メイドが2人立っていた。レイナはその日のうちに面会は次の日となった事をシエンナに知らされた。
その日の夜、レイナは久しぶりに兄妹と会った今日の事を思い返し良く寝れず、夜中何度も目が覚めた。その為次の日、レイナは寝不足だった。コクンッコクンッと首から頭が落ちそうになりながら、レイナは朝食を食べる。
「イナ様、大丈夫ですか」
「ぅん…ダイジョブ…」
あくまでも無表情だが、シエンナは心配そうにレイナを見つめる。ふと眠気覚ましになるある事を思い出し、シエンナは口を開いた。
「ではイナ様、眠気覚ましになる事を御伝え致しますね。本来ならもう少し様子を見てから御伝えしようと思っていましたが」
「…なぁに?……」
レイナは目を擦りながらシエンナを見た。目を擦ったおかげで視界はっきりしたが、時間が経つにつれすぐにぼやっとした視界に戻る。そんな状況を、シエンナはたった一言で蹴散らした。
「ローナ王子殿下から婚約の申請が来ました」
「はぁッッッッッッ?!?!?!?!」
レイナはカッと目を見開いた。その頬は真っ青になっていた。青い、それは青い、青に…。
目が大きく開かれ顔が真っ青、シエンナは人外を見る目で自身の主人を見つめるが、それに気付かないレイナはシエンナから伝えられた事に対し喚き散らした。
「嫌だァァァァッッッッッッ!!!無理!!無理っっ!!!ゼェッタイ!!!無理ィィッ!!!!!何で、何でそうなるのか理解出来ない!!」
あまりのうるささにシエンナは無礼も承知で耳を塞ぐ。特に最初の「嫌だァァァァッッッッッッ!!!」は本邸にも轟いていた。本邸の自室で執務をしていたローナは「へぷしッ」とくしゃみをしている。けれどレイナの眠気は一気に覚めていた。何なら目が開きすぎだと言う程に。
レイナは行儀が悪いのを承知でバンッと机に拳を振り下ろした。どこぞの親父か。
「絶対っ!王位をっ!狙ってっ!送ってきやがったっ!婚約申請っ!でしょうがァァァァァっ!!」
シャーッ!と猫が威嚇するかのような表情をした美少女を目の前に、シエンナは淡々と婚約申請について書かれた手紙を封筒から取り出して読み返した。
「そうでしょうね。あの引く手数多なローナ様がこんなイナ様を選ばれる訳がございません」
「ごめんシエ、わたしには貴方がわたしを侮辱しているようにしか聞こえなんだけど?」
「あってますよ」
「あははっ、そっかー、あってるかー。……ん?」
そんなこんなでレイナは朝食を食べ終わり、音を立てずにフォークを置いた。フキンで口の周りを拭く。
「…あれ、いつの間に食べ終わってた?」
「え………大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ!本気で心配するのやめてっ?!」
顔をひきつらせたシエンナにレイナがそう叫んだのだった…。
エスメとの面会の時間になり、レイナは応接間のソファーの端に背中を預け、足をソファーの上で伸ばして寛いでいる。エスメはシエンナを迎えに行っており、応接間にはレイナと紅茶が注がれたカップのみが残されていた。護衛のメイドが何処かには居るが、離宮は王都や王宮から離れている為部屋はとても静かだった。
レイナは暇になってきて、自分の服装に不備が無いか確認した。白の服に青いレースやリボンが付いていて、薄い水色のスカートは膝下まで伸びている。髪は下ろされていて、耳にはサファイアのイヤリングが付けられている。女子力的センス皆無なレイナが選ぶと自作のジャージになる為、服装は全てシエンナが選んだ。
しばらくして、扉がノックされた。レイナは笑みを作って「どうぞ」と声をかける。
「失礼致します」
シエンナが扉を開いて客を中に促すと、エスメがコツリと数歩前に出た後スカートの端を摘み上げた。
「ご機嫌麗しゅう、王女殿下」
「どうぞお座りください」
「有り難き御言葉」
エスメは顔を上げて、公爵令嬢と非の打ち所が無く優雅に席に座った。
クリスティがエスメが持参した菓子を置き、シエンナがエスのカップに茶を注ぐ。レイナとエスメがそれぞれ、お茶とお菓子を毒味を兼ねて口に入れ、レイナが口火を切った。
「コールマン嬢、1つご報告がございます。ポーリッシュ嬢が騎士により取り押されました」
「っ?!と、取り押さえられっ…!?!」
「えぇ。コールマン嬢も御存知無かったのですね。この拘束はコールマン公爵が掲示した、ポーリッシュ嬢の悪事の証拠に寄る物です」
「御父様が……?」
首を傾げ考え込むエスメをしばらく黙って見つめたレイナはそれに、と話を続けた。
「シナリオが完全に違います。アルフィールートだったらコールマン嬢は幽閉。アルフィー王子殿下とポーリッシュ嬢は王を説得して結婚でした。それと思ったのですが、ゲーム内でわたくしのようなキャラは居ましたか?」
レイナの言葉にエスメ嬢は大きく目を見開いた。
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