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改正番;王宮編

4話,王族会議が開かれたよう

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王宮本邸に着き、レイナはシエンナのエスコートで馬車から降りた。近くにはアルフィーが乗っていたのであろう馬車が停められている。
宝石があしらわれた、汚れが見えず、建てられたばかりかというような真っ白い城。久しぶりの王宮本邸を見上げ、レイナは静かに唾を飲み込んだ。シエンナから受け取った白い生糸で作られたベールを被る。そのままシエンナのエスコートで王族と王族が許した者のみの出入りが許される、王宮の入り口に向かった。そこには、大勢の人が連なって道を開き、跪いて頭を垂れていた。
「「「お帰りなさいませ、レイナ王女殿下」」」
ざっと数えて30人ほど居るメイドや執事、衛兵に迎えられ、レイナは少し萎縮する。が、ベールの下で笑顔を浮かべ、
「只今戻りました。御迎えありがとう」
と威厳のある声音で迎えてくれた者達に礼を言い、シエンナのエスコートで優雅に歩を進めた。
王女たるもの、気軽に下の者に話しかけてはならない。
最近は滅多に王宮に来ないレイナだが、幼少期の頃は良く使用人にも挨拶をしていた。その為、その頃から働いている者達はレイナにかなりの好印象を抱いていた。それが新入りにも受け継がれ、レイナの評判はすこぶるいい。
それ事態は良い事なのだが、そのせいでこれまで一体何人の使用人がレイナ事件の共犯になっただろうか…。
シエンナはそんな事を思いながら、レイナ事件を思い返す。
王のデザートにオレンジが無かったり…
「すみません!レイナ様に自分のデザートに回してとねだられて!」
料理人が謝った。
王と王妃が夫婦喧嘩すると庭の木に王妃LOVEという形を作られたり…
「すみません!レイナ様にこれで国が平和になるとねだられて!」
庭師が謝った。
国王の肖像画で、彼の髪が白髪になっていたり…
「レイナ」
「はい」
「国王で無くともやり過ぎだ」
「はい、大変申し訳ございませんでした。この度の責は全てわたくしに…」
レイナが正座して誠心誠意謝った。
シエンナはそんな事を思い返しながら、無表情ながらも懐かしいなと内心苦笑していた。
そんなうちに王族会議の行われる貴人会議室に着き、コンコンとレイナはその部屋の扉をノックした。
「レイナ・エヴァンズ・ティアーズ。只今到着致しました」
「入れ」
扉の前に立っていた衛兵により、扉は開かれる。
レイナがコツコツと優雅に貴人会議室に入ると、即座に扉は閉められた。相変わらず会議室の警備は厳重だ。シエンナは入室していない。
レイナはベールを外し、ドレスのスカートを摘み上げて頭を垂れる。
「ご機嫌麗しゅう、国王陛下、王妃様、アルフィー王子殿下、ローナ王子殿下」
「「「うむ」」」
「どうぞ座って」
「有り難き御言葉」
レイナはアルフィーの隣とローナに挟まれ、王妃と向かい合う席に着いて、ベールをかける。
丸い円型のテーブルで、王の隣には王妃とアルフィーが、王の反対側にはローナが座り、ローナの隣にはレイナとリアムが座っていた。リアムはレイナが座った事を確認すると、レイナの元へ優雅に歩み寄り、胸に手を当てて頭を垂れる。
リアムはベールを取り、長い睫毛を震わせ、サファイアのように綺麗な濃い青色の瞳を隠し黒色の髪を揺らしてレイナに挨拶した。
「ご機嫌麗しゅう、レイナ姉上」
「どうぞ座ってください」
「有り難き御言葉です」
リアムは自分の席に戻り着席してベールをかける。これで本日集められた王族は全員揃った。本来ならば、先代や王の兄弟を招くべきだろうが、緊急で、そして関係の無い者を招く余裕がなかった為王族6人のみだ。
国王の御前では私語は慎む。その為、アルフィーは何かレイナに言いたそうだったが、レイナの手を握るだけに踏みとどまった。もっと前で踏みとどまって欲しかった。セクハラだよセクハラと内心喚きながら、レイナはその手を不快そうに見つめた。
「では、会議を始める」
「「「「「御意」」」」」
王妃と王子、王女全員がそう言う。室内には側仕えも衛兵も居ない。つまり王族のみの空間、常人が入り込めば息も出来なくなるような雰囲気だ。
「まずアルフィー。事の状況を説明せよ」
「御意。私はパーティーが始まると同時に、メイジーをエスコートし会場に入場致しました」
「ローナ、リアム。間違いないか?」
「えぇ、全く異常ございません」
「その通りです」
ローナは何処か胸を張って、リアムは淡々と答える。国王はその答えに頷き、2人から再びアルフィーに視線を戻した。
「続けよ」
「はい。そこで、私は元婚約者であるエスメ嬢の悪事を暴き、婚約破棄を宣言致しました」
「ローナ、リアム」
「悪事が事実かは存じませんが、兄上が行われた事は間違いございません」
「同意見です」
先程と同じ態度で2人はそう言う。国王は再びアルフィーに視線を戻す。
「して、悪事とは何だ、アルフィー?」
「エスメ嬢は自分の手を汚さずこれ等の事を行いました。メイジーの食事に毒を盛る、彼女の物を隠し困らせる、裏で完治に至るまでかなりの月日が掛かる程手を上げる等。報告資料はこちらです」
「ふむ…」
国王はアルフィーから受け取った資料に目を通す。その時、ある者が声を上げた。
「それについて意見がございます」
「ほう、申せ」
「レイ?」
普通の令嬢ならば惚けるような、甘ったるいアルフィーの声を無視し、レイナは国王にエスメから聞いた事を申し出た。
「わたくしはエスメ嬢から直接御話を伺いましたが、全く身に覚えの無いそうです。それに、アルフィー様は自分の手を汚さず、とおっしゃいましたが、本当にそうでしょうか。実際に行った者がエスメ嬢に罪を擦り付けているのでは?」
「ふむ…」
国王がそれもまた一理、と頷いた時、アルフィーの指先が優しくレイナの手の甲を撫でた。ゾワッと鳥肌が立ったレイナが、絡められた状態で握られた手を振りほどこうとする。けれど振りほどけない事に、苛立ちを感じていると、ローナがふと口を開いた。
「アルフィー兄上、先程からレイナの手を握られていらっしゃいますが、婚約者がいらっしゃる身でどういう事でしょう?」
いもうとだから別にいいだろう」
義妹いもうとの間違いでは?」
「何を言う。だよねぇ?レイ」
アルフィーがレイナの耳元でそう囁く。気持ち悪いくすぐったさに、思わずヒッ!と言葉を溢してしまいそうになった口をベール越しに即座に手で押さえる。アルフィーの手に爪を立てながら、レイナはひきつった笑みを浮かべアルフィーを見た。
「お止めくださいませ、アルフィー様」
「レイ、私は君と繋がっていたい」
「は?」
「んんっ!」
国王が咳払いし、アルフィーはベールの下で少し顔を歪めた後、名残惜しそうに掴んでいたレイナの手を離した。レイナは解放された手を見つめ、グーパーと動かす。
あぁ、自由っていいな。
感じる場面が最悪だが、と思いながらレイナは、握られていた手をハンカチで拭く。出来れば石鹸使って洗い流したい所だったが、会議中の為レイナは我慢した。
「それについて、アルフィーの報告資料にはエスメが直接手を下した事例は無いな。それに、これだけの者達が居て全員が令嬢のせいにしている訳でもあるまい」
「…そうですね。国王陛下の仰る通りでございます」
アルフィーはふっと笑みをそう答える。それと見たローナは軽く眉を寄せ、視線を国王に移し口を開いた。
「国王陛下、アルフィー兄上は証拠が揃っていない状態で婚約破棄をされましたが、今後についてどうなさるおつもりで?」
「公の場で盛大に婚約破棄を宣言してしまったのだ。後戻りは出来ん」
「その事について、1つ疑問に思った事がございます」
「何だ?」
国王がレイナに先を促す。レイナは国王からアルフィーに視線を移し、口を開けた。
「エスメ嬢からの報告によりますと、アルフィー様とメイジー嬢はプライベートで会った事が無いようですね」
「…あまり事を公にしたく無かっただけだ、一応婚約者の居る手前だったし学園では毎日会えて手紙のやり取りもしていた。十分だろう?それより、エスメ嬢からの報告とは?」
「そのままの意味ですが?」
にっこりとした作り笑顔で首を傾げてレイナはアルフィーにそう言い放つ。
え?マジ?ヤバッ、こんなのもわかんないの??という意味の皮肉だ。ギャルかよ。
アルフィーはそれこそ怒りは露にはしないが、完全にここに居ないだれかに対して苛立っているであろう雰囲気を纏っていた。
そんな中、鶴の一声というのか何というか、会議室の外から焦った声がかかった。
「王族の皆様!ポーリッシュ嬢が取り押さえられされましたぁっ!!」
叫ぶかのような声。ほとんどの者がその言葉を聞き唖然とした。ただ1人、ベールの下で笑みを浮かべる者を除いて。
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