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改正番;王宮編

3話,悪役令嬢は転生者だったよう

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シエンナとエスメの側仕えも、それぞれ自身の主を珍獣を見る目で見つめた。そんな複雑な空気の中、エスメが動揺しながらも口火を切った。
「に、日本知ってます?」
「は、はい」
「ジ、ジャパンは?」
「は、はい」
「ハ、ハンバーガーは?」
「は、はい。……いや何でハンバーガー?」
そんな、シエンナ達にとっては意味不明な質疑応答をレイナとエスメはしばらく繰り返し、それをしているうちに2人は意気投合した。
「国外通報とか処刑とかにならないように殿下を避けてヒロインも避けてたのにですよ?!それなのに何ですかいじめって!冤罪も甚だしい、わたくしあんな上司嫌です!!」
エスメはそう言った後、まるで酒を飲むように紅茶を飲み干した。苛つきで興奮しているせいか少し顔が赤い。レイナもカップを片手に喚いた。
「ほんとですよね!アルフィー王子殿下が王なんて無理です無理無理!ていうか断固拒否!ローナ様を後押ししようかしら?あっちの方がまだマシでしょうし」
王位懸賞権第2位で第2王子のローナ・バレンタイン・ティアーズを思い出しながら、レイナは頬に手をあててそう言う。
昔からずっとアルフィーやレイナを目の敵にしていて、王位を本気で狙っている者。それがローナだ。食事に毒を盛ったり、刺客を仕掛けたり、社交界で2人の悪い噂を流したり、他にもいろいろな事。だがどれも牽制で終わった。毒は毒味役が飲んでしまったが大事にならず、刺客は護衛が現れると早々に自害し、悪い噂も噂として済まされていた。
今の所、王族には致命的な害は無く、ローナという確実な証拠も無い。ただ、レイナはローナの事を少なからず恨んでいた。けれどローナとアルフィーと天秤に掛けると天秤が壊れるくらいの差があった為、レイナはああ言っていた。けれどエスメにはレイナとローナの仲が良いように聞こえたようで、こてりと首を傾げた。
「王女殿下は第2王子殿下と仲が宜しいので?」
「…わたくしと仲が良い王族はいませんよ。けれどわたくし専属メイドであるシエンナとはとても仲が良いです。まるで家族のように、ね?」
にこっとレイナが御茶を注ぐシエンナに微笑み掛けると、彼女はいつも通りの無表情で軽く会釈した。その様子を見たエスメはまぁ、と口元を押さえる。
「王女様でもメイドとそのような仲になれるのですのね。わたくしもこのクリスティとそれなりの仲でしてよ」
エスメがそう言った時、ゴホンッとシエンナとクリスティの咳払いが被る。偶然なようで、2人はパチパチとお互いを見た後、それぞれ自身の主に耳打ちした。
「「失礼、状況の把握は?」」
「「あ」」
レイナとエスメの声が被った。耳打ちの意味が無い程大きな「あ」だった為、2人は少し恥ずかしそうにして口元を押さえた。シエンナとクリスティはそんな2人を苦い笑みを浮かべて見つめる。
「申し訳ありません、レイナ様。パーティーでの状況ですが確か、パーティーが始まって入場してきたアルフィー王子殿下は本来婚約者にするはずのエスコートをポーリッシュ嬢にして登場されました。貴族誰も彼も驚いていました。そしてアルフィー王子殿下はわたくしには身の覚えの無い罪を言い、わたくしに婚約破棄を言い渡されました」
「ポーリッシュ嬢は明らかなる悲劇のヒロインでしたね。わたくし初めて見ました、乙女ゲームじゃなくて悪役令嬢ものに転生したのかと思いましたよ」
「ふふっ、そうですね。……あの、個人的な意見ですが、アルフィー王子はポーリッシュ嬢を、その、恋愛的な意味で好きそうには見えませんでした」
「?」
レイナは不思議そうな顔で、エスメを見た。
その訳をエスメがレイナに話すと、レイナは高速で瞬きした。彼女の長い睫毛がパサパサ揺れる。マスカラでもしてんのかと思わずエスメはレイナの睫毛を妬む。けれどレイナはそんなエスメに気付かず驚いた声を出した。
「え?!ポーリッシュ嬢、プライベートでアルフィー王子殿下と1度たりとも会っていなかったのですか?!!」
「はい。むしろポーリッシュ嬢はアルフィー様に媚を売っていましたが、アルフィー様は鬱陶しがっている感じでした」
エスメの言葉に普段無表情なシエンナも大きく目を見開いた。あれだけ大切そうにエスコートしていたのだから、当然だろう。
レイナはその事に沸々と怒りが込み上げて、ドレスのスカートを握り締める。
「エスメ嬢を退けておきながら、アルフィー殿下はあの伯爵令嬢を王妃にするつもりは無いのでしょうか」
「さぁ、どうでしょう。ただわたくしは、わざわざ避けてポーリッシュ嬢の無礼な言動を見逃して差し上げたのに、言い掛かりを付けられた怒りで手を握り締めたら血が出てしまい、その痛さで泣いておりました」
「えっ、めっちゃ痛そうじゃんっ!シエ手当てして上げて!!」
「いえ、構いません。クリスティがすでに救急箱を用意しております。手当てするタイミングが見図れなかったわたくしの落ち度です。申し訳ございません」
シエンナにそう言われたレイナは全然大丈夫だよと返した後、それまでのエスメの姿を思い返した。手を握り締め手のひらを下にし、その姿勢を変えずに話す姿。
レイナは気付いてあげられなかった事に少し罪悪感を抱き、王族な為に頭は下げられないが罪悪感の籠った瞳でエスメに謝罪した。
「ごめんなさい。わたくしがエスメ嬢の痛みに気づけなかった為に、エスメ嬢に長らく不快な思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい」
「いいえ!王女殿下が謝罪なさることなど何一つございません」
エスメが慌ててそう言う。クリスティがエスメの手当てをしている途中、扉がノックされた。入ってきたメイドはレイナとエスメに頭を下げた後、シエンナを手招きする。彼女は執事に付いて部屋を出て、しばらくして戻ってきた。そしてレイナにさりげなく耳打ちする。
「イナ様、お茶会は終了され、貴人の方々は帰られております。この後緊急で王族会議が行われるそうで、第1王子殿下より帰りを急げとの事です」
「分かりました、ありがとう。失礼、コールマン嬢。急用が出来ました為、帰らせて頂きたいのですが、何か言い残した事はございますか?」
「いえ、特にはございません」
「では、コールマン嬢と縁があることを祈って。失礼致します、ごきげんよう」
レイナはそう言って個室を去った。シエンナにエスコートされながら、レイナは屋敷の外に停めてある馬車へ向かう。
レイナは隣で自身をエスコートするシエンナを横目に見上げた。彼女は綺麗な顔立ちをしていた。白に近いクリーム色の髪に赤橙色の瞳を持つ少女。お人形のような容姿で、美しい作法完璧でレイナの身の回りの世話を踊るかのように行う。シエンナは、レイナの自慢のメイドで彼女のの家族だった。過去を思い返していたレイナは、シエンナに笑みを浮かべて微笑み掛けた。
「シエ、いつもありがとう」
「いえ、イナ様の為ならば何なりと」
シエンナはそう言い、珍しく小さく笑みを浮かべた。そうこうしているうちに馬車に付き、エスコート付きで乗り込んで椅子に座る。専属メイドとしてシエンナも向かいの席に座った。
「イナ様、王族会議に出席なさるのは王と王妃、アルフィー様、ローナ様、リアム様だそうです」
「…久しぶりだね。あの子と顔を合わすの」
「王族会議は王命ですから、致し方ありません。私語厳禁ですから特に問題は無いかと」
「…そうだね…」
レイナは何処か寂しそうな瞳をそっと隠した。
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