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改正番:学院編

22話,コールマン邸を訪れるよう

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レイナは招待状を受け取って数日後、彼女は招待された通りにコールマン公爵家の屋敷を訪ねる。
馬車からシエンナのエスコートにより降りると、そこにはコールマン公爵と夫人とエスメ、そしてユルゲンが深く御辞儀をしていた。
「コールマン家を代表し挨拶させて頂きます御機嫌麗しゅう。ようこそおいでくださいました、王女殿下。本日は晴天に見舞われ何よりです。これも王女殿下が神に愛されている故でしょう」
「まあ、ふふっ。御機嫌麗しゅう、コールマン公爵。お招きありがとうございます。相変わらず口が御上手ですね。アルフィー王子殿下の件は誠に申し訳ありませんでした。同じ王族として、お詫び申し上げます」
「っいいえ!レイナ様が謝る事はございませんっ。今回非があるのはポーリッシュ元男爵令嬢ですから。それより、今日は王女殿下に有意義な時間を過ごして頂きたく存じます。エスメ、もてなしを頼むぞ。それでは私達はこれにて失礼致します」
「失礼致しますわ、レイナ様。ごきげんよう」
「えぇ、ごきげんよう。閣下、夫人」
扇子で口元を隠したコールマン夫人と穏やかな笑みを浮かべたコールマン公爵はレイナに再び頭を下げ屋敷に戻っていった。
そしてその場に残ったのは、レイナとエスメとユルゲン。後は彼等の従者達。今日レイナは乙女ゲームについての重要な話をしに来た為、ユルゲンが立ち去るのを待つが彼はエスメの横に無表情で立ちぴくりとも動かない。エスメはその事を気にする様子も無く笑みを浮かべてカーテシーをし、改めてレイナに挨拶をした。
「御機嫌麗しゅう、レイナ様。御久しぶりです。本日は御足労痛み入ります」
「構いません、エスメ。御招きありがとうございます。……コールマン卿も、御久しぶりですね」
話の流れをユルゲンという話題に持っていかせる為に、レイナは優雅に微笑んだ。願わくばこの場から退席させたいと。エスメはユルゲンの腰に手を当て押し、彼を1歩前に出させる。
「御機嫌麗しゅう。御無沙汰しております、王女殿下」
「えぇ。前に会ったのは学園でしたか?御姉様をエスコートするなんて、御優しい弟君ですね。エスメ」
そう王女然とした様子でレイナはエスメに微笑み掛けた。それはいつものあの騒々しくうざったい性格とは掛け離れており、エスメは若干引きながら笑みを浮かべ、えぇ、と言葉を返す。
そして王女の前にも関わらず笑みの1つも浮かべない、ユルゲンをちらりと横目に見た。
レイナから彼を見ると、無表情で何を考えているのか良く分からず、かっこいいというより可愛いという感じの少年という事しか分からない。少なくとも社交的では無い事は分かるが。
エスメは特にその事を注意する事は無く、レイナを屋敷の中に促した。
通されたのはエスメの自室だった。自室と言っても寝室とは別な為、2人きりという訳でもなくユルゲンが入った所で世間的には何の問題も無い。そう、世間的には。
「コールマン卿、本日はこの後、何か用事が御有りなのでは?次期コールマン公爵閣下はさぞかし御忙しいのでしょうね」
「いえ、日常の中で特に忙しいと感じる事はありません。今日は数刻後にリアム……、第3王子殿下がいらっしゃる予定ですが、まだ時間に余裕がありますので」
「っ……、リアム、が?」
サファイアのような青い目を見開き、レイナは呆然とそう問う。ユルゲンはこくりと頷き、クリスティが注いだ紅茶に口を付けた。
レイナはまだ驚いた様子を見せながら口を開き、そして閉じた。リアムについて口出しできる程、レイナはリアムともユルゲンとも仲が良くない。詳しく聞き出そうにも、特に気になると言った事も無く聞く理由も無かった。
そして今、彼女の視線は1人の者に釘付けとなっている。まぁ王女足る者、ガン見とまでは行かないが、笑顔を浮かべて黙って長い間そちらを向いている。視線を向けられている者とその理由は、その場に居る全員が勘づいていながらも、何も言われない事をいい事に誰も何も言っておらず行動もしていなかった。
このままでは埒が明かないと思ったレイナは小さく深呼吸をして勇気を持ち、完璧笑顔パーフェクトスマイルを浮かべながら口を開く。
「本日はエスメと秘密の御話をしようと思い、わたくしは来たのですけれど…」
そう言ってレイナは頬に手を当てこてりと首を傾げ、ユルゲンを見る。誰に向かっているかは明らかだ。
彼女のその美しいその動作に、慣れない者ならば思わず見惚れてしまうだろう。けれどその言動を向けられた張本人であるユルゲンは無表情で、持っていたカップを音を立てずに置いた。そして下げていた視線を上げレイナをその緑色の目に映す。
ちなみに彼はレイナと出会った時から今この瞬間までずっと、エスメの隣をキープしていた。そう、ずっとである。エスメに懐いている、つまりはシスコン化している事は確実だろうとレイナは予想しながら、ふわふわとした白い髪に隠れ気味なユルゲンの目と自身の目を合わせた。
「コールマン卿、申し訳無いのですが、退席を御願い出来ますか?それと、人払いを。これからする話は、第1王女と公爵令嬢の話ですので」
レイナとエスメという個人的な事で済む話では無い。
そんなレイナの言葉の何かにユルゲンは苛立ちを覚えたようで少し眉を上げながら言葉を返した。
「姉上も元々はそのおつもりでした。が、寛大な御心で私の我が儘を聞いてくださったのです。私に関する話でもあるから、と。王女殿下、私に関する事ならば、私が聞く事に何の支障がありましょうか。それとも、説明し納得させられるような理由も無く次期公爵である私を排除しようと?」
そう挑発的に言ったユルゲンの表情は相変わらず無表情だった。ユルゲンの言い分ではこれ以上何かを言う事は出来ないと判断し、レイナは笑みを浮かべたままユルゲンから視線をスライドさせエスメを見る。そしてエスメもユルゲンから視線をスライドさせ明後日の方を向いた。とても息ピッタリな動作である。
けれど視線を反らせどそこに存在している事には変わり無い。レイナは笑みを深めながら口を開いた。
「エスメ?」
「ななななな何でございましょう?」
あまりの怯えよう。
別に悪い事をしているつもりの無いレイナは少し罪悪感を感じる。別にユルゲンが居ても問題なく話せる方法は思い付いている為、レイナは一言エスメに文句を言おうと思っていただけなのだが、仕方ないかとレイナは小さくため息を付き頷いた。
「…はぁ、分かりました。コールマン卿が居ても問題ありません」
「あっ!ありがとうございますっ!!」
先程まで白々しくも別の方向を見ていたエスメはぐるりとレイナに視線を向け、パァッとした明るい表情を浮かべる。そんなエスメにレイナは苦笑しながら人差し指を立てた。
「1つ、エスメに質問しても宜しいですか?」
「えぇ、構いませんが、何でしょうか」
金色の髪を揺らして首を傾げたエスメにレイナは笑みを浮かべながら違和感なく、いつも通りに言葉を発した。
「エスメは、英語が話せますか?」
「っ……!!は、はい」
エスメは顔を強張らせてレイナに答えた。
この世界に英語という言語は存在していない。日本語とこの世界の言語に違いは無く、これまで生きてきた記憶にもアルファベットは無くその事だけは確信出来る。ただし完璧王女パーフェクトクイーンは完全に英語からの産物と見れるが、これはこの世界の言語の一部となっており、英語から来たなんて話は無く他の言葉と同じくで元々この世界の言語として存在していた。少なくとも英会話ならば部分的に理解されたとしても他の単語が邪魔をするだろう。
レイナはエスメの答えに満足そうに頷き口を開いた。
I want to talk about your brother貴方の弟について話したい事があります
「っ……。sorry申し訳ありません.
It's been 17 years since I regained my memories前世の記憶を取り戻してから単語of my previous life, 17年経つ為、so it will take some time for me to understand.理解するのに時間がかかります。I understand about that.それについては了解しましたplease continueどうぞ話を続けてください
「……OK分かりました
そう言ったレイナは1度、ふぅ、と一息吐き、再び口を開いた。
First of all, regarding the otome game, まず乙女ゲームについてなのですが、Jurgen is basically a villain who kills people.ユルゲンは基本的に人を殺す悪役になります
As I thought…やはりそうですか…
自身の名前が呼ばれた事に気が付いたのか、ユルゲンはぴくりと肩を震わせる。顎に手を当てるエスメをレイナは紅茶を飲みながら見つめた。
And the one who seduces him is the assassin そして彼をそそのかすのが暗殺者、
"Poor Child"プア・チャイルドです
エスメはレイナの言葉に俯きその顔に影を落とす。
プア=チャイルド、勿論本名では無い。可哀想な子供、そう彼自身が名付けた名前だ。英語なのは運営の意向であり、彼自身は何となく付けたのだろう。
プアは自身を傷付けた世界に復讐すべく、権力者をそそのかし国を潰そうとする。まずその代表例がウィンドリス王国だ。まあ王族には元々そんな素質があったのだがそれを倍増させ、今は彼等に各国へ戦争を仕掛けさせようとしている。そして今の狙いはティアーズ王国。そそのかすとしたら、心に闇を抱えた者。
ゲームではユルゲンだが、現実だとリアムも有り得るか…。
そう考えているとエスメがちらりとユルゲンを見たのがレイナの視界に映った。
Esme, do you have any contact with Jurgen and エスメ、今のところユルゲンと彼とのhim so far?接触はありますか?
No, there isn'tいえ、ありません
首をゆるりと振るエスメにレイナは無表情で菓子を口に含むユルゲンを横目に見ると、立ち上がった。
The first thing you can do is find the pua.ひとまず出来ることはプアを見つけ出す事です。I apologize for this today.今日はこれで失礼しますね。It's difficult to talk when a third party is present第3者が居ては話しづらいですから
レイナがそう言うと、エスメは苦笑しながら見送りますと立ち上がった。
「ありがとうございます、エスメ。コールマン卿、本日はこれで失礼致しますね」
「えぇ、有意義な時間をありがとうございました」
ユルゲンはそう言って立ち上がり、レイナに頭を下げる。レイナは笑みを浮かべながらそれにカーテシーを返し、ごきげんようとエスメと共にその場を後にした。
廊下を歩きながら、レイナは視線を移動させる事なくエスメに話し掛ける。
「エスメも出来る事をやっておいてください。わたくしも可能な範囲で調べておきますが、あまり深入りしない方が宜しいかと」
「……分かりました、ありがとうございます」
それからは無言だった。馬車が止められた場所へ繋がる玄関の扉が使用人により開かれた時、ちょうどそこに馬車が止められる。王族しか乗れない、黒い馬車だ。けれどレイナが乗ってきた馬車では無い。
その時、馬車の扉が開かれた。そこに居たのは……。
「……リアム……」
レイナの口からぽろりとその名が溢れる。そう、そこには黒と青の扇子を持った少年が居た。
「姉、上っ……」
彼は黒い髪を揺らし、青い目を大きく見開いた。
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