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4、オニイサマとオトウサマ
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ホールは熱狂に包まれていた。
下位学年の第三位の成績者優秀者から順に名前が読み上げられ、褒賞としてメダルとサッシュが授与されている。第三位は琥珀色、第二位は藤色、第一位は翡翠色だ。
それぞれが嬉しそうにメダルを壇上で掲げ、恭しく居並ぶ王族に礼を取ると、背中を向けないように気を付けながら優雅に下がっていく。
レヴィローズたちが入場したのは、二学年の成績優秀者が全て読み上げられ、王から激励の言葉を駆けられ終わったころ合いだった。本来なら既に会場入りしていなければならないが、今回はクリステアの事前の根回しのおかげで多少の遅れを特例的に許されている。
何せレヴィローズのパートナーが見つからなかったのは周知の事実だからだ。
同級生たちが慮って気を利かせてくれたのだろう。
ありがたいことだ。
ニルヴェルトにエスコートされながら、三学年の成績上位者たちが控えている場所まで足を進めていると、階段を下りていく下級生の頭向こうに、今宵は第二王子の婚約者として王妃の傍らに控えているクリステアと目が合った。
軽く片手をあげて微笑む彼女は、やはりどう見ても儚げな花の妖精のようだ。
「さすがに妙なことは起こさないと思うけど」
先日の花園で第二王子をゴミ虫とか称したのはきっと、レヴィローズの聞き違いだったに違いない。あんなに上品かつ儚げで庇護欲をそそられるような面立ちの親友が、第二王子が涎を垂らして喜びそうな言葉を発するはずがない。
きっとそうだ。
気のせいだ。そうに違いない。
そう自分に言い聞かせつつ、もう一度彼女に視線を注げば、いつもと少し雰囲気が異なることに気が付く。
ふわふわとした美しい髪を丁寧に結い上げた彼女は、妖精のようでもあるが、凛とした美しさも同時に纏っていた。
最初は王家に準ずる者のみが使用を許される淡い藤色のドレスのせいかと思ったのだが。
「どうかされましたか?」
「ひゃっ」
耳元に低い音が落ちてきて、反射的にレヴィローズは身を固くし、過剰反応しすぎたと反省して息を抜く。
「すみません。じっと何かをご覧になっていたので、つい気になって」
咎めるような声音でなく、何かを探るような声にふっと息を吐いてレヴィローズは扇子で口元を隠しながらこそっと耳打ちするような距離で答える。
「クリステアの服装がいつもと少し違っていたので、つい」
「ああ。言われてみれば、なんだか違う気がします」
淡い水色の瞳にとてもよく映えているが、薄桃や淡い黄色など明るい色合いがよく似合う彼女にしては珍しいセレクトだった。
「俺はてっきり第二王子を見ているのかと」
「御冗談がお好きですのね」
うふふ。と社交辞令用の笑みを顔に張り付けて、レヴィローズは心の中で毒を吐く。
できることなら二度とご尊顔を拝謁したくないくらいですー。
王妃の傍らには侍従長に指示を出している王の姿があり、その右隣に王太子とその婚約者。さらにその横に第二王子と二歳年下の第三王子が会話を楽しんでいる様子が目に入った。
こうして遠方から見れば、仲睦まじい家族の見本のような姿である。
その第二王子の中身がアレだと気づいた時の他の家族の心境はいかばかりか。
怖すぎて考えたくないなー、やだなーと思いながらニルヴェルトに促されて歩を進めていると。
「レヴィ」
見知った声に足を止めた。
見やれば同じ緋色の長い髪を赤いリボンでひとくくりにしている兄の姿があった。
金色の瞳を嬉しそうに細めて、騎士の礼を取る。
「エストア兄様」
「やあ。僕の可愛い黄金の薔薇。今日は一段と美しいね」
「お兄様は相変わらず恥ずかしげもなくよく口が回りますわね」
「おや、僕のことは褒めてくれないのかい?悲しいな」
「お兄様はいつもよりずっと素敵です。騎士の盛装が黙っていればよくお似合いですもの」
多少げんなりするところはあってもいつも通りの優しい兄の手放しの誉め言葉にふっと心が軽くなる。
「ところでこれは一体全体ドウイウコトナンダイ?僕の可愛い妹の今夜のパートナーが君だとは。いったいどういう風の吹き回しなのか、じっくり聞かせてもらってもいいかなニール」
「身に余る光栄をいただき感謝いたしております。エストア」
「え?兄様とニーグランド卿はお知り合いだったのですか?」
そんなこと、ひと言も聞いてないんだけど。
ぱらりと開いた扇越しに兄を厳しく見つめていると、エストアはむっとした表情を崩さないままニルヴェルトに少し詰め寄る。
「エスコートはここから、兄である僕が、代わってあげよう」
「誠にありがたいお申し出ではありますが、パートナーとしてご指名を受けたのは俺ですので」
「いやいや。君では荷が勝ちすぎではないかな?どうせ主の命令に粛々としたがっただけの表面的なエスコート役だろう。心がこもっていない安っぽいパートナーより、真の愛を以て妹を引き立てるこの兄が役目を担った方が君にとってもいいんじゃないかな」
「いえいえ。美しく聡明なレヴィローズ嬢のエスコートをお任せいただく栄誉に嬉しさのあまり、正直昨日から一睡もできませんでした。ありがたく、心を尽くしてお役目を全うしたい所存でございますので」
引っ込んでいてください、オニイサマ、と言われたところでエストアのこめかみにピキリと青筋が立つ。
「えーと。ちょっとニール君はあっちで、僕とお話をしようか。父を交えて」
「え!お父様も来ているのですか!?陛下の警護任務はどうなっているのですか」
「その陛下の警護任務のために、王の背後に控えてこちらを睨んでいるのが、我が家の父だよ」
全く気配を感じなかったが、兄の指先を追えば確かに、かなり遠くの王の椅子のその後ろに大熊のようなどっしりとした男が立っていた。表情はあまりよく見えないが、ギラギラとした黄金の目がまるで野獣のように光っている。
「わぁ。ホントダー」
思わず素がぽろりと漏れてしまい、しくじったとレヴィローズは軽く咳払いをしてごまかした。
「後でオトウサマにもご挨拶に行かなければ」
「騎士団長、騎士団長だよー。君の上司であって君のお父様じゃないからねー。そこ間違えないようにねー」
「大切なお嬢様のエスコート役をお任せいただいたのですから、オトウサマにご挨拶に行かなければ」
今許されるならこの場で君をぶん殴りたいよ、と真顔で物騒な冗談を述べた兄にぎょっとしてレヴィローズは兄を見咎める。
仕事の都合をつけて、しょうがなく、なり手のいなかったエスコート役を嫌な顔一つせず引き受けてくれた協力者になんてこと言うのだ、この兄は。
「兄様、そのおっしゃりようはあんまりです」
相手が見つからなかった理由までは知らないだろうから、下手なことを言わないように気を付けねばならないことは十分承知だが、何故ニーグランドに食って掛かっているのか意味不明だ。ここはパートナーとして是正しておかねば。
レヴィローズはドレスの裾をつつっと持ち上げて、兄に足早に近づくと踵を上げて兄の耳元にこそこそと口を寄せる。
「わたしがご迷惑だとは承知していながらお願いしたのですから、そのようなことは曲がり間違ってもおっしゃらないでください」
「え?レヴィ、君が?君がこの朴念仁を??」
朴念仁って誰のことを指して言っているのだろう。
ここまでのニーグランドのエスコートは完璧だし、兄のような女心が欠片もわからないような唐変木ではない。口数は少ないかもしれないが、自分の問いかけには嫌な顔一つせず、むしろ非常に優しい笑顔でもって応じてくれている。
それより問題は、列をなしてダンスを希望する女性たちを甘い言葉と笑顔一つであっさりといなし、結局誰とも踊らずパーティーを終えるような人間の方だ。
むっつりと不機嫌そうに眉根を寄せた妹に対し、エストアは信じられないものでも見るようにニルヴェルトに目をやった。
「おまっ!」
ニヤリ、と口の端を引き上げた古くからの知人の表情にエストアは口を開こうとし、慌てて閉じる。
レヴィが小首を傾げて見上げてくるが、諸悪の元凶は背後で薄く笑みを零してクツクツと意地悪く微笑んでいるだけだ。まるでこちらが墓穴を掘るのを楽しんで眺めているような鬼畜ぶりにエストアは軽く絶望する。
愛する実の妹が、まさかこんなやつを選ぶなんて兄としては絶対に許せない。
とはいえ、弱みを握られている身の上としてはこれ以上安易に口に出すことはためらわれ、最後のひと足掻きにと妹にささやかな忠告をして警戒を促すように誘導することにした。
「レヴィ」
「?何ですか、兄様。そろそろ呼ばれる頃合いなので移動したいのですが」
きょとりと見上げる警戒心のまるでない雛鳥のような妹に、エストアは込み上げてくるものを必死で抑え込みながら、その華奢な両肩に優しく手をかけ、念押しに念押しするように言葉を繰り返す。
「何か困ったことがあったら、いつでもお兄様に声をかけなさい」
「困ったこと…」
目下のところとんでもない騒動に巻き込まれていて、今日の行動次第では命を落としかねない難事に巻き込まれているところでございますが、相談に乗ってくださいますか。
とはとても言えない。
大切な家族である兄や父を巻き込むことだけはできないのだ。
「いいかい?何があっても兄様はお前の味方だからね」
「はいはい。兄妹愛の語らいはまた後でしていただくとして、レヴィローズ嬢、そろそろ呼ばれる頃合いですよ」
ニルヴェルドに先を促され、名残惜し気に振り返れば兄は非常に複雑な表情でため息交じりにこちらを見送った。
下位学年の第三位の成績者優秀者から順に名前が読み上げられ、褒賞としてメダルとサッシュが授与されている。第三位は琥珀色、第二位は藤色、第一位は翡翠色だ。
それぞれが嬉しそうにメダルを壇上で掲げ、恭しく居並ぶ王族に礼を取ると、背中を向けないように気を付けながら優雅に下がっていく。
レヴィローズたちが入場したのは、二学年の成績優秀者が全て読み上げられ、王から激励の言葉を駆けられ終わったころ合いだった。本来なら既に会場入りしていなければならないが、今回はクリステアの事前の根回しのおかげで多少の遅れを特例的に許されている。
何せレヴィローズのパートナーが見つからなかったのは周知の事実だからだ。
同級生たちが慮って気を利かせてくれたのだろう。
ありがたいことだ。
ニルヴェルトにエスコートされながら、三学年の成績上位者たちが控えている場所まで足を進めていると、階段を下りていく下級生の頭向こうに、今宵は第二王子の婚約者として王妃の傍らに控えているクリステアと目が合った。
軽く片手をあげて微笑む彼女は、やはりどう見ても儚げな花の妖精のようだ。
「さすがに妙なことは起こさないと思うけど」
先日の花園で第二王子をゴミ虫とか称したのはきっと、レヴィローズの聞き違いだったに違いない。あんなに上品かつ儚げで庇護欲をそそられるような面立ちの親友が、第二王子が涎を垂らして喜びそうな言葉を発するはずがない。
きっとそうだ。
気のせいだ。そうに違いない。
そう自分に言い聞かせつつ、もう一度彼女に視線を注げば、いつもと少し雰囲気が異なることに気が付く。
ふわふわとした美しい髪を丁寧に結い上げた彼女は、妖精のようでもあるが、凛とした美しさも同時に纏っていた。
最初は王家に準ずる者のみが使用を許される淡い藤色のドレスのせいかと思ったのだが。
「どうかされましたか?」
「ひゃっ」
耳元に低い音が落ちてきて、反射的にレヴィローズは身を固くし、過剰反応しすぎたと反省して息を抜く。
「すみません。じっと何かをご覧になっていたので、つい気になって」
咎めるような声音でなく、何かを探るような声にふっと息を吐いてレヴィローズは扇子で口元を隠しながらこそっと耳打ちするような距離で答える。
「クリステアの服装がいつもと少し違っていたので、つい」
「ああ。言われてみれば、なんだか違う気がします」
淡い水色の瞳にとてもよく映えているが、薄桃や淡い黄色など明るい色合いがよく似合う彼女にしては珍しいセレクトだった。
「俺はてっきり第二王子を見ているのかと」
「御冗談がお好きですのね」
うふふ。と社交辞令用の笑みを顔に張り付けて、レヴィローズは心の中で毒を吐く。
できることなら二度とご尊顔を拝謁したくないくらいですー。
王妃の傍らには侍従長に指示を出している王の姿があり、その右隣に王太子とその婚約者。さらにその横に第二王子と二歳年下の第三王子が会話を楽しんでいる様子が目に入った。
こうして遠方から見れば、仲睦まじい家族の見本のような姿である。
その第二王子の中身がアレだと気づいた時の他の家族の心境はいかばかりか。
怖すぎて考えたくないなー、やだなーと思いながらニルヴェルトに促されて歩を進めていると。
「レヴィ」
見知った声に足を止めた。
見やれば同じ緋色の長い髪を赤いリボンでひとくくりにしている兄の姿があった。
金色の瞳を嬉しそうに細めて、騎士の礼を取る。
「エストア兄様」
「やあ。僕の可愛い黄金の薔薇。今日は一段と美しいね」
「お兄様は相変わらず恥ずかしげもなくよく口が回りますわね」
「おや、僕のことは褒めてくれないのかい?悲しいな」
「お兄様はいつもよりずっと素敵です。騎士の盛装が黙っていればよくお似合いですもの」
多少げんなりするところはあってもいつも通りの優しい兄の手放しの誉め言葉にふっと心が軽くなる。
「ところでこれは一体全体ドウイウコトナンダイ?僕の可愛い妹の今夜のパートナーが君だとは。いったいどういう風の吹き回しなのか、じっくり聞かせてもらってもいいかなニール」
「身に余る光栄をいただき感謝いたしております。エストア」
「え?兄様とニーグランド卿はお知り合いだったのですか?」
そんなこと、ひと言も聞いてないんだけど。
ぱらりと開いた扇越しに兄を厳しく見つめていると、エストアはむっとした表情を崩さないままニルヴェルトに少し詰め寄る。
「エスコートはここから、兄である僕が、代わってあげよう」
「誠にありがたいお申し出ではありますが、パートナーとしてご指名を受けたのは俺ですので」
「いやいや。君では荷が勝ちすぎではないかな?どうせ主の命令に粛々としたがっただけの表面的なエスコート役だろう。心がこもっていない安っぽいパートナーより、真の愛を以て妹を引き立てるこの兄が役目を担った方が君にとってもいいんじゃないかな」
「いえいえ。美しく聡明なレヴィローズ嬢のエスコートをお任せいただく栄誉に嬉しさのあまり、正直昨日から一睡もできませんでした。ありがたく、心を尽くしてお役目を全うしたい所存でございますので」
引っ込んでいてください、オニイサマ、と言われたところでエストアのこめかみにピキリと青筋が立つ。
「えーと。ちょっとニール君はあっちで、僕とお話をしようか。父を交えて」
「え!お父様も来ているのですか!?陛下の警護任務はどうなっているのですか」
「その陛下の警護任務のために、王の背後に控えてこちらを睨んでいるのが、我が家の父だよ」
全く気配を感じなかったが、兄の指先を追えば確かに、かなり遠くの王の椅子のその後ろに大熊のようなどっしりとした男が立っていた。表情はあまりよく見えないが、ギラギラとした黄金の目がまるで野獣のように光っている。
「わぁ。ホントダー」
思わず素がぽろりと漏れてしまい、しくじったとレヴィローズは軽く咳払いをしてごまかした。
「後でオトウサマにもご挨拶に行かなければ」
「騎士団長、騎士団長だよー。君の上司であって君のお父様じゃないからねー。そこ間違えないようにねー」
「大切なお嬢様のエスコート役をお任せいただいたのですから、オトウサマにご挨拶に行かなければ」
今許されるならこの場で君をぶん殴りたいよ、と真顔で物騒な冗談を述べた兄にぎょっとしてレヴィローズは兄を見咎める。
仕事の都合をつけて、しょうがなく、なり手のいなかったエスコート役を嫌な顔一つせず引き受けてくれた協力者になんてこと言うのだ、この兄は。
「兄様、そのおっしゃりようはあんまりです」
相手が見つからなかった理由までは知らないだろうから、下手なことを言わないように気を付けねばならないことは十分承知だが、何故ニーグランドに食って掛かっているのか意味不明だ。ここはパートナーとして是正しておかねば。
レヴィローズはドレスの裾をつつっと持ち上げて、兄に足早に近づくと踵を上げて兄の耳元にこそこそと口を寄せる。
「わたしがご迷惑だとは承知していながらお願いしたのですから、そのようなことは曲がり間違ってもおっしゃらないでください」
「え?レヴィ、君が?君がこの朴念仁を??」
朴念仁って誰のことを指して言っているのだろう。
ここまでのニーグランドのエスコートは完璧だし、兄のような女心が欠片もわからないような唐変木ではない。口数は少ないかもしれないが、自分の問いかけには嫌な顔一つせず、むしろ非常に優しい笑顔でもって応じてくれている。
それより問題は、列をなしてダンスを希望する女性たちを甘い言葉と笑顔一つであっさりといなし、結局誰とも踊らずパーティーを終えるような人間の方だ。
むっつりと不機嫌そうに眉根を寄せた妹に対し、エストアは信じられないものでも見るようにニルヴェルトに目をやった。
「おまっ!」
ニヤリ、と口の端を引き上げた古くからの知人の表情にエストアは口を開こうとし、慌てて閉じる。
レヴィが小首を傾げて見上げてくるが、諸悪の元凶は背後で薄く笑みを零してクツクツと意地悪く微笑んでいるだけだ。まるでこちらが墓穴を掘るのを楽しんで眺めているような鬼畜ぶりにエストアは軽く絶望する。
愛する実の妹が、まさかこんなやつを選ぶなんて兄としては絶対に許せない。
とはいえ、弱みを握られている身の上としてはこれ以上安易に口に出すことはためらわれ、最後のひと足掻きにと妹にささやかな忠告をして警戒を促すように誘導することにした。
「レヴィ」
「?何ですか、兄様。そろそろ呼ばれる頃合いなので移動したいのですが」
きょとりと見上げる警戒心のまるでない雛鳥のような妹に、エストアは込み上げてくるものを必死で抑え込みながら、その華奢な両肩に優しく手をかけ、念押しに念押しするように言葉を繰り返す。
「何か困ったことがあったら、いつでもお兄様に声をかけなさい」
「困ったこと…」
目下のところとんでもない騒動に巻き込まれていて、今日の行動次第では命を落としかねない難事に巻き込まれているところでございますが、相談に乗ってくださいますか。
とはとても言えない。
大切な家族である兄や父を巻き込むことだけはできないのだ。
「いいかい?何があっても兄様はお前の味方だからね」
「はいはい。兄妹愛の語らいはまた後でしていただくとして、レヴィローズ嬢、そろそろ呼ばれる頃合いですよ」
ニルヴェルドに先を促され、名残惜し気に振り返れば兄は非常に複雑な表情でため息交じりにこちらを見送った。
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