婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

文字の大きさ
87 / 306
第二章 お師匠様がやってきた

賎民呪法に対策はあるのか?

しおりを挟む
 フリーダヤの説明はいつも冗長なようでいて、本質を直接語るものだ。
 ここまで聞くとルシウスにも色々と悟るところがあった。

「今のアイシャとトオンが安定しているのは、退位したとはいえ一度は国王と王妃になったから、ですか」
「ご名答。結果的に賎民呪法のフィールド内における最上位者になったんだ。今はある種の無敵モードだよ。今のうちにできる限り、魔力使いとして必要なことを教え込んであげておくれ」

 アイシャもトオンも、赤レンガの建物に戻ってきてしばらくはトラブル続きだったようだが、現在は本人たち自身も生活も安定している。
 リンクの使い方だけでなく、魔力使いとして必要な知識も技術も物覚えが良い。

 ルシウスがいるからでもあるだろうが、アイシャもトオンも話に聞いていたほどは、今のところ鬱屈を感じさせていない。



 そして、ここまで賎民呪法の話を聞いて、ルシウスは最も重要なことに気づいた。

「トオンの母親、聖女エイリーも私と同じように自動的に賎民呪法に巻き込まれていたというわけですな?」
「それはもう。カズンから聞いたけど、消滅寸前の辺りなんてほんと、意味不明な言動も多かったみたいじゃない。特に彼女は自分が作った魔導具を賎民呪法に転用されてたわけだし。悪影響は人一倍強かったと思うよ」
「……?」

 そこでルシウスは何か引っかかるものを感じた。

「ちょっと待て。聖女エイリーは初代国王の妃だったのだろう? ならば賎民呪法の影響内では上位者のはず」

 なのに、なぜ500年も迷走を続ける羽目に陥ったのか?

 フリーダヤは良いところに気がついた、とニンマリと笑った。

「カーナ王家にとって、彼女は王族ではないんじゃない? 確か500年前の時点で離縁されて臣下に下げ渡されたんだっけ?」
「しかし、一度でも王妃となった者ですよ? 離縁されたからといって格が落ちるはずがない」
「その辺のことは私にもわからないけど。調査してみたら?」

 軽く丸投げされて、ルシウスは眩暈がしそうだった。
 そんなにあっさり振られても。



「……このままでは、カーナ王国に戻ったら私はまた賎民呪法の影響を受けてしまう。どう対処したら良いのでしょうか?」

 また酒を飲んでバタンキューするダメなオッサン化してしまう。
 ちなみに酒を断つつもりは今のところない。酒は人生の潤いである。

 その質問に、フリーダヤは髪と同じ薄緑色の目を少しの間だけ閉じて考え込んだ。
 人差し指で軽く自分のこめかみを叩いている。
 頭部のそのあたりに、目立たないぐらいの光量で薄っすら細いリンクが浮かんでいる。
 正確には、指先はリンクに触れてそこから情報を導き出しているようだ。

「……いくつか、やりようはある。私やロータスみたいに、特定の国や団体に所属しないことが円環大陸全土で周知されてる者は、人々の意識の力がバリアになるから影響はないね」

 実際、以前このフリーダヤはカーナ王国王都のトオンの古書店までふらっと訪れてルシウスと少し話をして帰って行ったことがある。
 そのときは、特に何か異常が出ている様子はなかった。



「ビクトリノもたまにカーナ王国に行くけど、あの子は“教会本部の大司祭”って社会的に強固な立場があるからねえ」
「………………」
「君はアケロニア王国の貴族としてカーナ王国に行ったわけじゃないから、現地の現役の王侯貴族たちから貴族と認識されてない」

 その辺はルシウスにも自覚があった。

「むう。今からでもカーナ王国の社交界に顔でも出せと?」
「それでもいいけど、単純にリンクを出したまま生活してたらいいんじゃないの? まあ君の場合、元々持ってる魔力が多くて強いから、リンクも輝いてて目立つだろうけど」

 ルシウスはリンク使いとして本能タイプなせいで、細かな魔力操作には向いていない。
 フリーダヤは知性タイプで、こうして自分のリンクの光の強弱や細さ太さを臨機応変に変えるような操作はお手のものだ。



 あとは、と視線を斜め上に上げながらフリーダヤはまた少し考えた。

「お貴族様の君のほうが詳しいだろ。服装を整えることだね」

 特に王侯貴族や神職の装束は、身にまとう本人の役割を固定する呪具がルーツだ。
 だからこそ、武器になる。

「あの建物で暮らす限り、庶民の分を超える服装は難しいかと。リンクを出し続けるやり方で行きます」
「うん。良い選択だ」

 宿屋に滞在している物好きな貴族の立場を押し通してもよかった。

 だが、それだとあの古書店で暮らしている家主のトオンと恋人のアイシャに負担と迷惑をかけることになる。

 というわけで、ルシウスにはまた余計な課題が増えてしまった。



しおりを挟む
感想 1,049

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

婚約破棄をありがとう

あんど もあ
ファンタジー
リシャール王子に婚約破棄されたパトリシアは思った。「婚約破棄してくれるなんて、なんていい人!」 さらに、魔獣の出る辺境伯の息子との縁談を決められる。「なんて親切な人!」 新しい婚約者とラブラブなバカップルとなったパトリシアは、しみじみとリシャール王子に感謝する。 しかし、当のリシャールには災難が降りかかっていた……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。