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第二章 お師匠様がやってきた
お師匠様、リゾットを作りながら考える
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ところで、賎民呪法はなぜ、まだカーナ王国に術式が残存しているのだろうか?
「カーナ王国の邪悪な魔力はアイシャが浄化しているはず」
「……発生するネガティヴな魔力は浄化されたかもしれないけど、術式はそのまま残ってるんでしょ」
「ああ、なるほど」
魔導具は壊れたと聞いていたが、素材本体がまだ残っている。
「カーナ王家は、王都の地下の邪悪な古代生物を賎民呪法の媒体にしてたんだろ? 一部を切り出して端末にして、本体にも少なからず仕掛けを施してたそうじゃないか」
賎民呪法と、聖女聖者と国との契約。
術は契約の魔導具を用いていたそうだが、その魔導具の素材元が、王都地下に埋もれている巨大な古代生物の化石らしい。
かなり広範囲で邪法を仕掛けたと見た。
「なら、賎民呪法の媒体そのものを処理しなくちゃね。頑張れ、聖者“無欠”のルシウスよ」
「……何か格好良い感じに言われたは良いのだが……ううむ」
バターで玉ねぎのみじん切りを炒め、米が油をまとって半透明になるまでこちらも炒めてから、チキンスープを入れて煮込んでいく。
鍋で人数分のリゾットに少しずつスープを足してゆっくり木ベラでかき混ぜながら、ルシウスは呻いた。
アケロニア王国のカフェで別れ際、フリーダヤはきっちりルシウスに釘を刺してきている。
『君が、今の新旧掛け合わせから完全な新世代の環使いになるなら、賎民呪法なんかに巻き込まれることはなくなるけど?』
「……それは私も、考えないでもない」
多分、甥っ子が自分を厭い、指導を受けたがらなかった理由も、その辺にありそうだとは思っていた。
環使いは、少なくとも環を自分の身体の周りに発現させているとき、人間関係の相性というものが無くなる。
自分自身の意識に余計なエゴや執着が消失するから、通常なら発生するような相性の良し悪しを上手く均して人と関わることができるためだった。
環を発現させているとき、賎民呪法の影響を受けない理由は、よくわかる。
そもそも、発現条件が『執着をなくすこと』の環は、人間の意識が『自分は誰それである』と頭の中で語る言葉を止めるものでもある。
そのとき、自分の属する社会やグループなどとの関係性がリセットされる。
社会から超越した存在を特定の社会構造に閉じ込めるほどの力は、賎民呪法にはなかった。
ルシウスが知る限り、環使いの中には、賎民呪法とまではいかないものの、社会の強制力から離脱するために発現を目指した者が多かった。
だから、全体から見ると環使いには平民や貧民層、流浪の民といった社会の下流層が目立つ。
逆にいえば、王侯貴族や富裕層のような、社会の上位に存在して既得権益を享受する層には、環使いはほとんどいない。
例外はルシウスの故郷アケロニア王国で、この国だけはなぜか貴族のルシウス、王族のカズン、その友人二人も貴族出身の令息や令嬢と、特権階級の出身者が環使いとなっている。
(私は、客観的に考えて、環使いだけに特化するメリットを感じない)
魔力使いの新旧にはそれぞれ、メリットとデメリットがある。
新世代の環使いのデメリットは、環発現のための執着落としを過度にやりすぎた場合、人間的な感情や意思を希薄にしてしまうことだろう。
(結果、リーダーシップを取れる魔力使いが少なくなってしまった)
何か目的があれば皆で協力し合うことは、環使いはとても得意だ。連携も上手い。
その代わり、強いリーダーひとりが全体を牽引していくことが、滅多にない。
リーダーとは羅針盤の別名ともいえる。
(環を魔術師フリーダヤが創り出して800年。そろそろ新世代魔力使いの世界も刷新が求められているのではなかろうか)
ここほんの二十数年の間に、ルシウスとアイシャ、二人も新旧の掛け合わせタイプの魔力使いが出ている。
しかも、どちらも聖なる魔力持ちの聖者と聖女。
恐らく、今後どちらかが、魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリーの責任者に任命されるはずだ。
少なくともルシウスはそう見ていた。
「カーナ王国の邪悪な魔力はアイシャが浄化しているはず」
「……発生するネガティヴな魔力は浄化されたかもしれないけど、術式はそのまま残ってるんでしょ」
「ああ、なるほど」
魔導具は壊れたと聞いていたが、素材本体がまだ残っている。
「カーナ王家は、王都の地下の邪悪な古代生物を賎民呪法の媒体にしてたんだろ? 一部を切り出して端末にして、本体にも少なからず仕掛けを施してたそうじゃないか」
賎民呪法と、聖女聖者と国との契約。
術は契約の魔導具を用いていたそうだが、その魔導具の素材元が、王都地下に埋もれている巨大な古代生物の化石らしい。
かなり広範囲で邪法を仕掛けたと見た。
「なら、賎民呪法の媒体そのものを処理しなくちゃね。頑張れ、聖者“無欠”のルシウスよ」
「……何か格好良い感じに言われたは良いのだが……ううむ」
バターで玉ねぎのみじん切りを炒め、米が油をまとって半透明になるまでこちらも炒めてから、チキンスープを入れて煮込んでいく。
鍋で人数分のリゾットに少しずつスープを足してゆっくり木ベラでかき混ぜながら、ルシウスは呻いた。
アケロニア王国のカフェで別れ際、フリーダヤはきっちりルシウスに釘を刺してきている。
『君が、今の新旧掛け合わせから完全な新世代の環使いになるなら、賎民呪法なんかに巻き込まれることはなくなるけど?』
「……それは私も、考えないでもない」
多分、甥っ子が自分を厭い、指導を受けたがらなかった理由も、その辺にありそうだとは思っていた。
環使いは、少なくとも環を自分の身体の周りに発現させているとき、人間関係の相性というものが無くなる。
自分自身の意識に余計なエゴや執着が消失するから、通常なら発生するような相性の良し悪しを上手く均して人と関わることができるためだった。
環を発現させているとき、賎民呪法の影響を受けない理由は、よくわかる。
そもそも、発現条件が『執着をなくすこと』の環は、人間の意識が『自分は誰それである』と頭の中で語る言葉を止めるものでもある。
そのとき、自分の属する社会やグループなどとの関係性がリセットされる。
社会から超越した存在を特定の社会構造に閉じ込めるほどの力は、賎民呪法にはなかった。
ルシウスが知る限り、環使いの中には、賎民呪法とまではいかないものの、社会の強制力から離脱するために発現を目指した者が多かった。
だから、全体から見ると環使いには平民や貧民層、流浪の民といった社会の下流層が目立つ。
逆にいえば、王侯貴族や富裕層のような、社会の上位に存在して既得権益を享受する層には、環使いはほとんどいない。
例外はルシウスの故郷アケロニア王国で、この国だけはなぜか貴族のルシウス、王族のカズン、その友人二人も貴族出身の令息や令嬢と、特権階級の出身者が環使いとなっている。
(私は、客観的に考えて、環使いだけに特化するメリットを感じない)
魔力使いの新旧にはそれぞれ、メリットとデメリットがある。
新世代の環使いのデメリットは、環発現のための執着落としを過度にやりすぎた場合、人間的な感情や意思を希薄にしてしまうことだろう。
(結果、リーダーシップを取れる魔力使いが少なくなってしまった)
何か目的があれば皆で協力し合うことは、環使いはとても得意だ。連携も上手い。
その代わり、強いリーダーひとりが全体を牽引していくことが、滅多にない。
リーダーとは羅針盤の別名ともいえる。
(環を魔術師フリーダヤが創り出して800年。そろそろ新世代魔力使いの世界も刷新が求められているのではなかろうか)
ここほんの二十数年の間に、ルシウスとアイシャ、二人も新旧の掛け合わせタイプの魔力使いが出ている。
しかも、どちらも聖なる魔力持ちの聖者と聖女。
恐らく、今後どちらかが、魔術師フリーダヤと聖女ロータスのファミリーの責任者に任命されるはずだ。
少なくともルシウスはそう見ていた。
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