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第三章 カーナ王国の混迷
「鮭の人はカズンに早く辿り着け!」
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あっさりと聖女のアイシャの促しで環に目覚めたユーグレン王太子。
「ステータスを見てみて。何か変化が出てるかも」
「あ、ああ」
言われるままにステータス画面を出したユーグレンが「うっ」と呻いた。
「ユーグレン・アケロニア。アケロニア王国王太子、薬師リコの弟子、……ステータスなどに変わりはない、が……こ、これは……」
「うわあ。ユーグレンさん、ステータス全部平均値以上か! さすが大国の王太子」
横からユーグレンのステータスを覗いたトオンが驚いている。
一般的に使われている人間用のステータステンプレートは、本人の持つ力を十段階評価で表示する。最低が1、最高が10。平均は5だ。
体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運の六項目。
ユーグレンはすべてが6以上ある。
だがステータス値より特筆すべきものが称号や職業欄にあった。
王太子の身分や薬師リコの弟子に加え、大剣使い、そしてタンクという戦闘での盾役の項目が増えているそうだ。
「タンクって。いくらなんでも一国の王太子を盾にゃできないよ」
そして、極めつけがあった。
「賢者!? そりゃすごい!」
「でもまだグレー表示だから可能性の段階ね。けど意識して知恵を磨いて叡智を環から引き出せるよう修行を積めば……」
「わ、私が、賢者……?」
本人は見ているアイシャたちが気の毒になるほど動揺している。
「アケロニアの次期国王は賢人王かあ。ますます繁栄するんだろうね」
「先が楽しみよね」
「頼む、あまりプレッシャーをかけないでくれ。潰されそうだ」
何やら言い訳しているが、アイシャは構わずユーグレンのステータス画面を指差した。
「賢者の詳細情報はあります?」
「……いや、クリックしても何も出てこない」
「定期的に確認してみると良いわ。経験を積むと少しずつ開示されてくるはずだから」
ユーグレンの胸回りに出た環は、帯状の円環で白く輝いているのは他の環使いたちと同じ。
まとう魔力は真紅だ。アイシャやビクトリノはネオングリーン、トオンは蛍石の薄緑色、ルシウスはネオンブルーだしその姉神人ジューアは夜空色。
寒色や中間色ばかり見てきたので、ここまで鮮やかな暖色は初めて見た。
「む? この色は母と同じだ」
「てことはアケロニア王国の女王様と?」
「お母様譲りの魔力なのね。環が色付きの魔力を帯びる人は魔力が多いそうよ。さすが魔法魔術大国の王太子って感じ」
同じ環使いでも、料理人のゲンジなどは魔力が弱く、白く発光するだけの円環だ。
元々魔力使いや、適性のない一般人はそのような環になる。
強く大きな魔力を持つ者だと、本人の気質や特質、血筋の特徴を反映した色を帯びる。
「環の感覚はどう? 魔力が充実してるんじゃないかしら」
「ああ……とても心地よい感覚だ。胸が暖かくて強い自信を感じる」
胸元に手を当ててユーグレンがじっと感覚を確かめている。
さてここからが、環使いのボーナスタイムだ。
「ユーグレンさん。環は覚醒したてのとき莫大な魔力が集まるの。何かご自分にとって良い誓いや願いを祈るよう勧めるわ」
「誓いや願い?」
「そうそう。俺たちのときはこの国の長年の穢れの浄化を行ったんだ。ほらほら、早くしないと魔力が拡散しちまう。早く!」
「え、え、ええと……」
「本音でね」
急かされて慌ててユーグレンは自分の胸元の環に触れた。
途端、脳髄が痺れるような高揚感が襲ってくる。
だがその刺激はすぐに鎮静して、すっと冷静になった。
「ヨシュア……カズンも、早く会いたい!」
願った瞬間、ユーグレンの環が一際強く輝いた。
「お?」
トオンの胸回りにも環が出現していた。出そうとは思っていなかったのだが。
「ユーグレンさんの覚醒の余波ね。私の環も活性化してる」
見るとアイシャの腰回りにもネオングリーンの魔力を帯びた白く輝く環が出ている。
「トオン、良い機会だから私たちも何か意図しましょ」
「何がいいかな?」
「ユーグレンさんに便乗するなら、『鮭の人がカズンに会えるように』?」
「『鮭の人が早く環使えるように』とか?」
鮭の人? とユーグレンが顔面に疑問符を貼り付ける中、アイシャとトオンは鮭の人、鮭の人と何やら祈念の文句を工夫している。
「よし、これで行こう。せーの」
「「鮭の人はカズンに早く辿り着け!」」
宣言した直後、ピカーッと目を開けていられないぐらいふたりの環が輝いた。
ユーグレンの覚醒したての環にまでビリビリと痺れと振動が伝わってくるほど強い魔力の反応だった。
「あの、その『鮭の人』とはいったい?」
「ああ、ヨシュアさんのことですよ。ほら、ご実家は鮭の名産地で、カズンがいた頃から美味しい鮭をたくさん送ってきてくれたので」
「私たちは彼に敬意を表してそう呼んでるの」
美味しいは正義。美味しい鮭を与えてくれた鮭の人にアイシャもトオンも無条件で好意を抱いている。むしろ崇め奉る勢いで。
「……そうか。ならばそんな君たちにこれを進呈しよう」
言って、いそいそと荷物からユーグレンが取り出したのは一冊の分厚めの冊子だった。
「え、何ですこれ。『リースト侯爵ヨシュア・ファンクラブ会報総集編』!?」
「旅に自分用と布教用に持参していたのだ。受け取ってほしい」
「は、発行総責任者ユーグレン・アケロニア……えっ、ユーグレンさんは鮭の人のファンクラブ会長!?」
中を開いてみると、鮭の人ことヨシュアの経歴や足跡、そして最近では円環大陸でも一般的になってきた写真という、実物そのままを絵にできる魔導具で撮影された人物写真が多数掲載されていた。
「つまりこのアケロニアの三人は」
「鮭の人がカズンを追ってる。ユーグレンさんは鮭の人のファン。カズンは……」
「カズンは親父さんの仇を追ってるんだろ? はは、三角関係かと思った~」
図形の形に綴じていない。
故郷では仲が良かったそうだし、早く再会できたらいいねとアイシャとトオンは思った。
※「わ、私がプリ◯ュア……?」ではなくて賢者様(可能性)
※なお鮭の人ファンクラブ会報は古書店にアイシャたちが作った家庭用の祭壇にお祀りされます。ご利益ありそう。
「ステータスを見てみて。何か変化が出てるかも」
「あ、ああ」
言われるままにステータス画面を出したユーグレンが「うっ」と呻いた。
「ユーグレン・アケロニア。アケロニア王国王太子、薬師リコの弟子、……ステータスなどに変わりはない、が……こ、これは……」
「うわあ。ユーグレンさん、ステータス全部平均値以上か! さすが大国の王太子」
横からユーグレンのステータスを覗いたトオンが驚いている。
一般的に使われている人間用のステータステンプレートは、本人の持つ力を十段階評価で表示する。最低が1、最高が10。平均は5だ。
体力、魔力、知力、人間性、人間関係、幸運の六項目。
ユーグレンはすべてが6以上ある。
だがステータス値より特筆すべきものが称号や職業欄にあった。
王太子の身分や薬師リコの弟子に加え、大剣使い、そしてタンクという戦闘での盾役の項目が増えているそうだ。
「タンクって。いくらなんでも一国の王太子を盾にゃできないよ」
そして、極めつけがあった。
「賢者!? そりゃすごい!」
「でもまだグレー表示だから可能性の段階ね。けど意識して知恵を磨いて叡智を環から引き出せるよう修行を積めば……」
「わ、私が、賢者……?」
本人は見ているアイシャたちが気の毒になるほど動揺している。
「アケロニアの次期国王は賢人王かあ。ますます繁栄するんだろうね」
「先が楽しみよね」
「頼む、あまりプレッシャーをかけないでくれ。潰されそうだ」
何やら言い訳しているが、アイシャは構わずユーグレンのステータス画面を指差した。
「賢者の詳細情報はあります?」
「……いや、クリックしても何も出てこない」
「定期的に確認してみると良いわ。経験を積むと少しずつ開示されてくるはずだから」
ユーグレンの胸回りに出た環は、帯状の円環で白く輝いているのは他の環使いたちと同じ。
まとう魔力は真紅だ。アイシャやビクトリノはネオングリーン、トオンは蛍石の薄緑色、ルシウスはネオンブルーだしその姉神人ジューアは夜空色。
寒色や中間色ばかり見てきたので、ここまで鮮やかな暖色は初めて見た。
「む? この色は母と同じだ」
「てことはアケロニア王国の女王様と?」
「お母様譲りの魔力なのね。環が色付きの魔力を帯びる人は魔力が多いそうよ。さすが魔法魔術大国の王太子って感じ」
同じ環使いでも、料理人のゲンジなどは魔力が弱く、白く発光するだけの円環だ。
元々魔力使いや、適性のない一般人はそのような環になる。
強く大きな魔力を持つ者だと、本人の気質や特質、血筋の特徴を反映した色を帯びる。
「環の感覚はどう? 魔力が充実してるんじゃないかしら」
「ああ……とても心地よい感覚だ。胸が暖かくて強い自信を感じる」
胸元に手を当ててユーグレンがじっと感覚を確かめている。
さてここからが、環使いのボーナスタイムだ。
「ユーグレンさん。環は覚醒したてのとき莫大な魔力が集まるの。何かご自分にとって良い誓いや願いを祈るよう勧めるわ」
「誓いや願い?」
「そうそう。俺たちのときはこの国の長年の穢れの浄化を行ったんだ。ほらほら、早くしないと魔力が拡散しちまう。早く!」
「え、え、ええと……」
「本音でね」
急かされて慌ててユーグレンは自分の胸元の環に触れた。
途端、脳髄が痺れるような高揚感が襲ってくる。
だがその刺激はすぐに鎮静して、すっと冷静になった。
「ヨシュア……カズンも、早く会いたい!」
願った瞬間、ユーグレンの環が一際強く輝いた。
「お?」
トオンの胸回りにも環が出現していた。出そうとは思っていなかったのだが。
「ユーグレンさんの覚醒の余波ね。私の環も活性化してる」
見るとアイシャの腰回りにもネオングリーンの魔力を帯びた白く輝く環が出ている。
「トオン、良い機会だから私たちも何か意図しましょ」
「何がいいかな?」
「ユーグレンさんに便乗するなら、『鮭の人がカズンに会えるように』?」
「『鮭の人が早く環使えるように』とか?」
鮭の人? とユーグレンが顔面に疑問符を貼り付ける中、アイシャとトオンは鮭の人、鮭の人と何やら祈念の文句を工夫している。
「よし、これで行こう。せーの」
「「鮭の人はカズンに早く辿り着け!」」
宣言した直後、ピカーッと目を開けていられないぐらいふたりの環が輝いた。
ユーグレンの覚醒したての環にまでビリビリと痺れと振動が伝わってくるほど強い魔力の反応だった。
「あの、その『鮭の人』とはいったい?」
「ああ、ヨシュアさんのことですよ。ほら、ご実家は鮭の名産地で、カズンがいた頃から美味しい鮭をたくさん送ってきてくれたので」
「私たちは彼に敬意を表してそう呼んでるの」
美味しいは正義。美味しい鮭を与えてくれた鮭の人にアイシャもトオンも無条件で好意を抱いている。むしろ崇め奉る勢いで。
「……そうか。ならばそんな君たちにこれを進呈しよう」
言って、いそいそと荷物からユーグレンが取り出したのは一冊の分厚めの冊子だった。
「え、何ですこれ。『リースト侯爵ヨシュア・ファンクラブ会報総集編』!?」
「旅に自分用と布教用に持参していたのだ。受け取ってほしい」
「は、発行総責任者ユーグレン・アケロニア……えっ、ユーグレンさんは鮭の人のファンクラブ会長!?」
中を開いてみると、鮭の人ことヨシュアの経歴や足跡、そして最近では円環大陸でも一般的になってきた写真という、実物そのままを絵にできる魔導具で撮影された人物写真が多数掲載されていた。
「つまりこのアケロニアの三人は」
「鮭の人がカズンを追ってる。ユーグレンさんは鮭の人のファン。カズンは……」
「カズンは親父さんの仇を追ってるんだろ? はは、三角関係かと思った~」
図形の形に綴じていない。
故郷では仲が良かったそうだし、早く再会できたらいいねとアイシャとトオンは思った。
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