婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第三章 カーナ王国の混迷

アイシャ情報誌のヒント

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 ユーグレンはこのままアイシャたちからリンクのレクチャーを受けたいとのことで、二階の宿屋に滞在することになった。

 カズンやルシウスが滞在していた、階段上がってすぐの左側の部屋だ。
 クローゼットとシングルベッド、小さな机と椅子だけの部屋である。トイレやシャワーは部屋にはなく、建物共通のものを使う。

「狭いワンルームだけど大丈夫ですか? もっと程度の良い宿も紹介できますけど」
「心配は無用だ。旅の間は野宿もしてたし、アケロニアの王侯貴族は軍人研修を受けているから過酷な環境にも耐性がある。それに清潔な良い部屋だ。ありがたく使わせてもらう」

 こういうところはカズンやルシウスと同じだ。身分に驕らず出来の良い人たちだなと思う。
 こちらの倒れた王家のクーツ王太子やアルター国王とは比べ物にならない。明らかに格が違う。

 なお、古書店二階の宿は一泊あたり小銀貨一枚(約千円)。
 食事は一食につき銅貨一枚(約百円)。食堂でのお茶など飲み物は基本セルフサービスで、酒類は自腹の調達推奨。
 なお、おやつ類はサービスである。最近はアイシャがパン屋のミーシャおばさんに教わって週の半分は焼き菓子やタルト、パイなどを焼いている。



 少し遅くなってしまった夕食を取りながら、ユーグレンにアイシャたちの事情を話した。

「国政に関する助言ならできると思う。……ところでカズンやヨシュアのことをもっと教えてくれないか」

 聖女投稿事件の頃の話はカズン本人からの手紙で知っているそうだが、その後のことは彼も詳しくないそうだ。

「カズンなら手紙があるから後で見てみるといいですよ。鮭の人のことは……」
「カズンを追ったはいいけど、まったく追いつけないそうなの。私もルシウスさんも、リンクに目覚めたら追いかけっこが終わると見てるのだけど」

 夕食はチキンスープと牛肉と玉ねぎのクミンスパイス炒め、パン屋で買って来たコーンのトルティーヤだ。
 簡単でボリュームがあるので炒め物はよく作る。
 失敗も少ない料理なので、調理スキルを覚えてまだ数ヶ月のアイシャにも作りやすかった。

 話といっても、アイシャたちが知っている鮭の人の話はほとんど叔父のルシウスからの受け売りだ。
 それでもユーグレンには初めて知る内容が多かったらしく喜んでいる。
 カーナ王国滞在時にもう一冊ファンクラブ会報が作れそうだと、嬉しそうなほくほく顔になっていた。

「あっ。この人オタクだ、鮭の人オタク」

 先ほど貰った鮭の人の情報誌は分厚かった。基本データから活動履歴までぎっしり内容が詰まっていた。
 あれを全部このカズンとよく似た男(しかも大国の王太子様)が書いたというのだから驚きである。

(ファンクラブ……会報……そうか、その手があったか)

 アイシャ専門の情報誌があっても良いのではないか、とトオンはふと気づいた。

 大反響を巻き起こした〝聖女投稿〟でわかるように、カーナ王国の国民は誰もがアイシャに注目している。

 現在でもカーナ王国の新聞には聖女アイシャの活動報告が掲載されるが単発が多く、シリーズにはなっていない。
 今日はどこそこの孤児院を慰問しただの、軍事訓練を視察しただのの結果報告ばかりだった。

(ユーグレンさんが作ったみたいな本格的なやつじゃなくてもいい。アイシャの人となりや考えをもっとわかりやすく、誇張も誤解もないように国民に伝えられるような)

 そう考えていくと、アイシャのことだけでなく、この国の成り立ちや問題点をわかりやすく整理した冊子も作れないかとふと思った。

(あんまりにも酷すぎて一般公表できないことも多い。だけど初代聖女エイリーおふくろのことも含めて、国民が知ってたほうがいいことは知らせるべきだと思うんだ)

 後でアイシャとも話し合おう。
 ついでに、ファンクラブ会報作りの先輩ユーグレンにも詳しくノウハウを聞き出すつもりのトオンだった。



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