婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第三章 カーナ王国の混迷

ユーグレン王太子の正論

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 屋台村でタコスの朝食の後、北西地区にあるルシウスの屋敷へユーグレンを連れて行くと、応対してくれた秘書ユキレラは呆気に取られていたし、当のルシウスは呆れていた。
 いや、むしろ全身からネオンブルーの魔力を放って圧がすごかった。見れば麗しの顔の眉間には皺まで寄っている。

「ユーグレン様。何をやっておられるので?」
「ヒッ。る、ルシウス様、怒らないでください! ごめんなさい! 仕方ないじゃないですか、私だってカズンとヨシュアの後を追いたかった! 私だけ置いてけぼりだったんですよ寂しくて!」

 ああ、この二人はそういう力関係か~とアイシャとトオンは生温かく笑った。
 自分たちと同じく、ユーグレンもルシウスがお師匠様なのだ。まだまだ師を超えるどころではない。むしろそんな日が来るかも疑問だ。

「……そ、それで、ヨシュアはどうなったのです?」
「甥っ子ならカズン様を追ってる途中。まだ会えていないようですな。しばらく時間がかかるでしょう」
「えええええ!? あのヨシュアが!? 国を出てもう半年以上ですよ!?」



 応接室に通されユーグレンがルシウスと話している間、アイシャたちは秘書ユキレラにお茶を入れてもらって話が終わるのを待っていた。

「鮭の人は多分、リンク自体を重要視してないのよ。旧世代の魔法の大家のご当主なのでしょ? 私もカズンに会わなかったらリンクを使おうなんて考えもしなかったもの」

 カーナ王国の聖女アイシャこそ、旧世代魔力使いの代表だった。
 この国も魔力使いは旧世代ばかりだったから、初めて見たリンク使いもカズンだったわけで。

「鮭の人も大変だよね。リンクが使えないって、それだけ頭が硬いってことだろ?」

 話題の鮭の人ことリースト侯爵ヨシュアは、トオンがクーツに扮して国王となった即位後、アケロニア王国の代表として祝いの品を持って挨拶に来てくれた人物でもある。

 いま思えば確かにルシウスとよく似た驚くほど麗しい青年だった。
 ただその顔にはルシウスにはない黒縁眼鏡がかかっていたけれど。

 お目当てだったカズンが旅に出た直後だと知って、挨拶もそこそこに速攻で帰ってしまった潔い人物でもあった。
 アイシャとトオンは、彼が送ってくれた最高美味の鮭のお礼を言う間もなかった。

「聖女の私の権限で、カズンや鮭の人を支援したほうがいいのかしら」

 カズンが追う虚無魔力の持ち主は、聖女のアイシャや聖者のルシウス、ビクトリノにとっても共通の敵だ。
 あんなものが野放しになっていたら、人は安心して生活できない。

 いつか必ずどこかで対峙する予感があった。



 そのままルシウス邸で昼食をご馳走になり、いつものようにルシウスと、今回は新たにユーグレンを伴って共和制実現会議のため王城へ。
 今回はユーグレンの紹介と顧問就任の報告が主だったので議題を進めることもなく、顔合わせだけで一時間もかからず終了した。

 誰もが、いきなり登場した〝アケロニア王国の王太子〟なるビッグネームに圧倒された。
 しかもユーグレンは黒髪だけでなく瞳まで真っ黒。これは円環大陸広しといえどもとても珍しい。アイシャも黒髪だが目は茶色だ。
 また、本人は端正な顔立ちで大柄だ。穏やかな雰囲気の青年ではあったが、落ち着いた深みのある声で堂々と自己紹介する姿に引き込まれた者は多い。

 特にユーグレンは、近年円環大陸で唯一の〝大王〟の称号持ちだったヴァシレウス大王のひ孫でもある。
 すっかり会議室内はその威光にひれ伏してしまった。

 立場だけならカズンも似たようなものだったが、彼は宰相以外の重鎮とはほとんど顔を合わせていなかった。
 そのため、大半の首脳部メンバーにとって他国の王族の存在をここまで強く感じることになったのは初めての経験になる。

 ましてやユーグレンは王太子。次期アケロニア王国の国王である。
 これは下手なことはできないし言えない、と誰もが思ったことだろう。

 終わった後、宰相の執務室で会議の主要メンバーたちからユーグレン王太子に、カーナ王国の現状や問題点の詳細が伝えられた。

 彼はその場では特に自分の意見を言うことはなく、一通り話を聞くに留めていた。



 解散してルシウスとも別れ、南地区の古書店まで戻ってきた頃には陽も暮れていた。

「お疲れ様でした。……あまり良い雰囲気ではなかったでしょう? 巻き込んでしまって、あなたには申し訳ないことをしたわ」

 常備しているホーリーバジルのハーブティーを入れてアイシャが謝罪したが、ユーグレンは謝る必要はないと謝罪を受け取らなかった。

「顧問を引き受けたのは私の意思だ。だが、そんなことより」

 ユーグレンはカップを受け取り熱いハーブティーを一口すすった後で、じーっと黒い瞳でアイシャ、そしてトオンを見つめた。

「君たちはもっと真剣になったほうがいい。退位したとはいえ国王と王妃だったんだろう? この国の重要人物として、もっと積極的に今後について関わるべきだよ」

 ど正論だ。痛いところを突かれた。




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