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第四章 出現! 難易度SSSの新ダンジョン
エナジーバーを作ります
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翌朝、客人を迎えに行くと言ってルシウスは朝早くに秘書ユキレラを連れて屋敷を出ていった。
「故郷で面倒見てた子だね。剣士として鍛えてあげてたらしくて」
「私やカズンの同級生だ。剣聖の素質持ちでな。勘が良くて環もすぐ出せてたっけ」
食堂での朝食時に料理人のゲンジやユーグレン王太子が教えてくれた。
今、カーナ王国は不安定な情勢で国に入るだけなら問題ないが、聖女アイシャのお膝元の王都には入場制限がかかっている。来客の身元保証人として正門まで出向いているそうだ。
ところが朝食を皆が終える頃になっても二人が戻って来ない。
今日も午前中から地下ダンジョンの探索を進めるつもりだったから、パーティーリーダーのルシウスがいないと入れないのだ。
ビクトリノは神殿に行ってしまい、アイシャやトオン、ユーグレンは手持ち無沙汰だった。
なお神人ジューアはまだ寝ている。
「私はユキノ君たちと遊んで時間を潰そうかな」
「あ、俺も行きます。ブラッシングついでに抜けた羽毛を貰ってこよう。護符になるし」
なら私も、とユーグレンやトオンに付いて行こうとしたアイシャを料理人ゲンジが引き止めた。
「アイシャちゃん。これから探索用の携帯食を作るんだけど一緒にどう? 綿毛竜たちでも食べられるやつを研究中なんだ」
「携帯食、ですか?」
アイシャたちは皆環使いなので食料や飲料はアイテムボックス内に入れることができるから、一般的な冒険者たちのような日持ちのする携帯食にこだわる必要はなかった。
「旅の途中のカズン坊ちゃん宛に食べやすいものを開発しててね。良かったらアドバイス貰えないかな」
「私で良かったら」
そこまで言われたら断れない。
飯ウマ属性持ちのゲンジが作るなら、味気ない携帯食もきっと美味になるだろう。
トオンたちと別れてゲンジと厨房に向かうと、作業台の上に既に材料が準備されている。
カーナ王国の特産でもあるナッツ類やドライフルーツ類、それにひまわりやカボチャなどの種類もある。
ゲンジは調理師用の白い作業服に、白髪混じりの角刈りの頭には調理帽を。
アイシャは厨房にあったエプロンを借りて、三角巾代わりのスカーフで黒いオカッパの髪を覆っている。
「これ、ミューズリーの材料ですか?」
「そう。これから作るエナジーバーやシリアルバーには、麦やトウモロコシを加工した穀物と合わせて自分好みの配合にするんだ。俺のオススメは大豆パフ」
大豆パフは皮を剥いたものと、黒豆の二種類ある。それぞれオーブンで焼いて軽めの食感に仕上がっていた。
「家で食べるだけなら溶かしたチョコレートで固めればいいんだけどね。携帯食にするならつなぎにマシュマロを入れてしっかり固める」
ボウルの中にマシュマロと製菓用のホワイトチョコレートを入れたゲンジは、スティック状の火の魔石をアイシャに渡した。
「焦げないようにマシュマロとチョコレートが溶けるぐらいの熱加減でお願いできる?」
「む、難しいですね?」
ボウルの中身全体に熱を行き渡らせるのが結構難しい。
それでも魔石スティックをボウルの上に翳して数分も経つと、マシュマロもチョコレートもとろけてきた。
「溶けたらかき混ぜて、パフを混ぜて」
大さじのスプーンで混ぜている。溶けたマシュマロは強い粘りがあるので普通の木製のヘラでは力加減を間違えると折れてしまうのだ。
大豆のパフに白いつなぎをよく絡めた後で、ワックスペーパーを敷いたパウンドケーキ型に詰めて、上からぎゅ、ぎゅ、とスプーンの背で隙間なく押し込んだ。
厚みはほんの数センチほど。あまり分厚くし過ぎると冷めて固まったときにカットしにくくなってしまうし、食べにくくなってしまう。
同じ手順で二人で手分けして、ミルクチョコレート、ビターチョコレートでも作った。
混ぜ込むのはナッツだけや、ドライフルーツを加えたものなどいくつかのバリエーションで。
はちみつやメープルシロップ、ペースト状にしたナツメヤシをつなぎにした、柔らかめで甘いバージョンも作った。
マシュマロやチョコレートほどしっかりとは固まらないが、食用ペーパーで包めばペーパーごと食べられる。
型に入れて冷蔵庫で冷やせばすぐに固まる。
さっそく一番最初に作った大豆パフのシリアルバーから一センチの厚みでカットして試食してみると。
「! 独特の美味しさですね!」
「ローストした大豆を甘味と合わせると美味いよね」
サクッと軽い感触の大豆パフに絡むホワイトチョコレート。マシュマロが入っている分とても硬いが、その分口の中に留まる時間が長めなので素材をじっくり味わうことができる。
生まれも育ちもカーナ王国のアイシャには初めて食べる味だ。ものすごく後を引く美味しさがある。
なおロースト大豆を粉に挽いたものはいわゆる〝きなこ〟だ。ルシウス邸ではたまに米粉で作った柔らかな団子に、砂糖と混ぜて添えられたものが出てくる。
「美味しいバーができたら、食べるポーション化させようと思ってて」
「!?」
言ってゲンジが自分の環から取り出したのは数本の小瓶だ。
ただの小瓶ではない。
「魔力ポーションに体力ポーション……これは見たことないですね、でも……」
何の変哲もない小瓶に入った一本から、とても不思議な魔力を感じる。
「これ、万能薬の原液なんだ。うんと希釈しても上級ポーションぐらいにはなるからね」
そうだ、忘れていた。この飯ウマ料理人は薬師スキルも持っていたのだ。
「故郷で面倒見てた子だね。剣士として鍛えてあげてたらしくて」
「私やカズンの同級生だ。剣聖の素質持ちでな。勘が良くて環もすぐ出せてたっけ」
食堂での朝食時に料理人のゲンジやユーグレン王太子が教えてくれた。
今、カーナ王国は不安定な情勢で国に入るだけなら問題ないが、聖女アイシャのお膝元の王都には入場制限がかかっている。来客の身元保証人として正門まで出向いているそうだ。
ところが朝食を皆が終える頃になっても二人が戻って来ない。
今日も午前中から地下ダンジョンの探索を進めるつもりだったから、パーティーリーダーのルシウスがいないと入れないのだ。
ビクトリノは神殿に行ってしまい、アイシャやトオン、ユーグレンは手持ち無沙汰だった。
なお神人ジューアはまだ寝ている。
「私はユキノ君たちと遊んで時間を潰そうかな」
「あ、俺も行きます。ブラッシングついでに抜けた羽毛を貰ってこよう。護符になるし」
なら私も、とユーグレンやトオンに付いて行こうとしたアイシャを料理人ゲンジが引き止めた。
「アイシャちゃん。これから探索用の携帯食を作るんだけど一緒にどう? 綿毛竜たちでも食べられるやつを研究中なんだ」
「携帯食、ですか?」
アイシャたちは皆環使いなので食料や飲料はアイテムボックス内に入れることができるから、一般的な冒険者たちのような日持ちのする携帯食にこだわる必要はなかった。
「旅の途中のカズン坊ちゃん宛に食べやすいものを開発しててね。良かったらアドバイス貰えないかな」
「私で良かったら」
そこまで言われたら断れない。
飯ウマ属性持ちのゲンジが作るなら、味気ない携帯食もきっと美味になるだろう。
トオンたちと別れてゲンジと厨房に向かうと、作業台の上に既に材料が準備されている。
カーナ王国の特産でもあるナッツ類やドライフルーツ類、それにひまわりやカボチャなどの種類もある。
ゲンジは調理師用の白い作業服に、白髪混じりの角刈りの頭には調理帽を。
アイシャは厨房にあったエプロンを借りて、三角巾代わりのスカーフで黒いオカッパの髪を覆っている。
「これ、ミューズリーの材料ですか?」
「そう。これから作るエナジーバーやシリアルバーには、麦やトウモロコシを加工した穀物と合わせて自分好みの配合にするんだ。俺のオススメは大豆パフ」
大豆パフは皮を剥いたものと、黒豆の二種類ある。それぞれオーブンで焼いて軽めの食感に仕上がっていた。
「家で食べるだけなら溶かしたチョコレートで固めればいいんだけどね。携帯食にするならつなぎにマシュマロを入れてしっかり固める」
ボウルの中にマシュマロと製菓用のホワイトチョコレートを入れたゲンジは、スティック状の火の魔石をアイシャに渡した。
「焦げないようにマシュマロとチョコレートが溶けるぐらいの熱加減でお願いできる?」
「む、難しいですね?」
ボウルの中身全体に熱を行き渡らせるのが結構難しい。
それでも魔石スティックをボウルの上に翳して数分も経つと、マシュマロもチョコレートもとろけてきた。
「溶けたらかき混ぜて、パフを混ぜて」
大さじのスプーンで混ぜている。溶けたマシュマロは強い粘りがあるので普通の木製のヘラでは力加減を間違えると折れてしまうのだ。
大豆のパフに白いつなぎをよく絡めた後で、ワックスペーパーを敷いたパウンドケーキ型に詰めて、上からぎゅ、ぎゅ、とスプーンの背で隙間なく押し込んだ。
厚みはほんの数センチほど。あまり分厚くし過ぎると冷めて固まったときにカットしにくくなってしまうし、食べにくくなってしまう。
同じ手順で二人で手分けして、ミルクチョコレート、ビターチョコレートでも作った。
混ぜ込むのはナッツだけや、ドライフルーツを加えたものなどいくつかのバリエーションで。
はちみつやメープルシロップ、ペースト状にしたナツメヤシをつなぎにした、柔らかめで甘いバージョンも作った。
マシュマロやチョコレートほどしっかりとは固まらないが、食用ペーパーで包めばペーパーごと食べられる。
型に入れて冷蔵庫で冷やせばすぐに固まる。
さっそく一番最初に作った大豆パフのシリアルバーから一センチの厚みでカットして試食してみると。
「! 独特の美味しさですね!」
「ローストした大豆を甘味と合わせると美味いよね」
サクッと軽い感触の大豆パフに絡むホワイトチョコレート。マシュマロが入っている分とても硬いが、その分口の中に留まる時間が長めなので素材をじっくり味わうことができる。
生まれも育ちもカーナ王国のアイシャには初めて食べる味だ。ものすごく後を引く美味しさがある。
なおロースト大豆を粉に挽いたものはいわゆる〝きなこ〟だ。ルシウス邸ではたまに米粉で作った柔らかな団子に、砂糖と混ぜて添えられたものが出てくる。
「美味しいバーができたら、食べるポーション化させようと思ってて」
「!?」
言ってゲンジが自分の環から取り出したのは数本の小瓶だ。
ただの小瓶ではない。
「魔力ポーションに体力ポーション……これは見たことないですね、でも……」
何の変哲もない小瓶に入った一本から、とても不思議な魔力を感じる。
「これ、万能薬の原液なんだ。うんと希釈しても上級ポーションぐらいにはなるからね」
そうだ、忘れていた。この飯ウマ料理人は薬師スキルも持っていたのだ。
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