婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

文字の大きさ
243 / 306
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

飯ウマ二種類

しおりを挟む
「それで、ゲンジさん。トオンの飯マズは何とかなりそうでしようか?」

 飯ウマ属性持ちで、薬師スキルも持っている料理人ゲンジ。本日の主賓である。
 人の良さそうな顔つきの、角刈り頭で初老の彼だが、飯マズコーヒーがなみなみと入ったマグカップを前に困った顔になっている。

「厳しいねえ。一時的なバッドステータスだったなら解除方法はあったんだろうけど」

 トオンの飯マズ属性は、初代聖女でもあった母親エイリー(マルタ)から受け継いでしまったものだ。
 エイリーが持っていたバッドステータスは下記になる。


『調理した料理がすべて不毛な味になる呪い。
 聖女であるにも関わらず誠意のない男を愛し純潔を捧げたことのペナルティ。解除不可。
(元は料理上手で美味しいもの好き)』


 しかしエイリーの飯マズは、自分の愚かさに対する自縄自縛の側面が強いと思われた。
 ステータスに関する文献を調べてみても、こんな特殊なバッドステータスの例などなかったからだ。

 その息子トオンのバッドステータスはといえば、こうだ。


『飯マズ:母親の聖女エイリーから継承したバッドステータス。調理した料理が激マズになる(味付け時に付与)』


「でも砂糖もミルクも入れてないブラックコーヒーがクソマズになったのはなぜだ?」
「いろいろ実験したの。コーヒーやお茶にお湯を注ぐだけなら問題ないのね。今回の場合、コーヒーを豆から粉にミルで挽くって行為が味付け判定されるみたいで」
「……きついな」
リンクを出しながら実験してたからギリギリ耐えられたけど、途中で消えるほど辛かったわ……」
「そこまで……頑張ったのだな、アイシャ……」

 何をどうやれば飯マズになるか、ならないか。
 その過酷な実験に付き合ったアイシャは既に悟りの境地に達しつつある。無駄に精神力が鍛えられた挙句、結局どうにもならなかった徒労は言葉では表現し難かった。

 しかも、このトオンの飯マズは後に残る。口の中に残る後味は、水を飲んだり、すすいだりしてもしばらく風味が残ってしまうのだ。

清浄魔法クリーン

 範囲指定は口腔内。この場にいる全員、それぞれ浄化魔法を自分にかけて、ようやく飯マズの余韻から解放されたのだった。



 それから、ユキレラが持参したトマトとチーズ風味のミートパイを一切れずつの、軽い朝食を皆で済ませた。

 サクサクのパイ生地に、ハーブのきいたミートフィリングは飯ウマ。
 食べるとほわっと頬が綻んで幸福な気持ちになる、この作り手はおそらく飯マズ実験から逃げたルシウスだろう。
 実際、パイを持たされのは秘書ユキレラだ。

「〝飯ウマ〟にも種類があるんだよ。ルシウス君やカズン坊ちゃんのは、魔力由来の飯ウマ。俺やパン屋のミーシャちゃんは調理の配合バランスの飯ウマ」

 料理人ゲンジの説明に、初めて知ったと皆が驚いている。

「俺やミーシャちゃんの場合は、錬金術的な調合に近いね。季節ごとに変わる野菜や肉、魚の素材、調味料を見て、その時々で最も上手くなるよう調整する。もちろん、お客さんの好みに合わせてね。だからいつでも安定して美味いものが作れる」
「ルシウス様やカズンが魔力由来というのは?」
「本能的に食べることが好きなんだろうね。だから『美味いものを作る』って意図の魔力を出して料理するから、ほとんど自動的に何を作っても飯ウマになる」
「「「「「へえ~」」」」

 つまりは、魔力タイプの飯ウマの作り手は、料理に対する属性付与ということらしい。

 

 食後のお茶を鮭の人が率先して淹れてくれる頃になって、恐る恐るルシウスがやってきた。

「も、もう飯マズ実験は終わった……か?」
「おや、叔父様。逃げたんじゃなかったんですか?」
「に、逃げたかったが、お前たちだけならともかく、ゲンジのオヤジさんまでついていったと聞いて、気が気じゃなかったのだ!」

 そのルシウスが現れたのは厨房のほうからだ。
 今、トオンの古書店の建物内には、国内数ヶ所を繋ぐ転移用の魔導具が設置されている。それを使ってやってきたのだろう。

 転移魔導具は、トオンの古書店、ルシウス邸、旧王城の官邸にある宰相執務室、それに海上神殿の四ヶ所に設置して行き来できるように設定してある。
 他にも、神人たちは単独で転移術を扱えるため、新たな神人ルシウスを始めとして、ピアディ、ジューア、カーナ姫が可能としていた。

 転移術を使えるはずのルシウスが、今回わざわざ魔導具を使って来たのは。

「ぷぅ(われ、とうじょうー!)」
「ピュイッ(ボクもいるよー)」
「ピアディちゃん、ユキノ君!」

 小さなベビーピンクのウーパールーパー神人ピアディと、そのお守り役の綿毛竜コットンドラゴンユキノを伴っていたからだった。




しおりを挟む
感想 1,049

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」

まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。 【本日付けで神を辞めることにした】 フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。 国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。 人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 アルファポリスに先行投稿しています。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。

夢草 蝶
恋愛
 シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。  どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。  すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──  本編とおまけの二話構成の予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。