婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

公開制裁と鮭の人の嘘

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 それから宰相の鮭の人は、公開制裁の開催の告知を関係各所に行った。

 実施まで半月とかけていない。
 開催は六月下旬。四季のある円環大陸の西部も梅雨どきで、雨こそ降っていなかったがどんよりした曇りの日のことだった。

 断罪の場は、旧王都教会だった王都神殿の前の広場となった。ここは祭やバザーなど催事にに使うこともあってスペースが広い。ちょっとした運動場ぐらいの広さがある。

 見学者は絞ったが、それでも数百名が集まった。

 首脳部の大臣たち、官僚は全員。
 旧王城勤めでそのまま官邸勤めになっていた職員たちも大半が。
 国内に残っていた主だった貴族家の当主らも参列している。
 騎士団や兵団は、幹部と彼らの主要な部下たち。
 新聞社の社長、幹部、記者たち。
 首都の各地域における顔役と、商会連合の役員たち。

 一般からの見学希望者は多かったが、さすがに全員は入れなかったので抽選となっている。

 あえて他国の使者たちは入れなかった。聖女投稿と同じで、後日、記事にまとめられた新聞が届いたほうがインパクトがあると判断したためだ。

 ルシウスや鮭の人が率いるリースト家は、秘書ユキレラを筆頭にスタッフに回っている。

 広場の神殿建物側に急遽舞台を作り、そこに罪人、男女十三名を跪かせたまま、開催時間を待つ。騎士が両サイドで監視しているため身動きもできない状態だ。
 観客から罪人たちへの罵声は放置だ。主に一般見学者エリアからの罵声が大きいが、しばらくそのまま騒がせておくことにする。



「すごいわ。こんなに集まったのね……」

 アイシャたちは舞台の端、幕の裏側に控えて、開始時間まで待機だ。
 今回は新しく作った聖竜騎士団の赤い軍服ではなく、聖女用の白い聖衣ローブ姿で臨む。

 そのアイシャの前に、おもむろに宰相の鮭の人ヨシュアが膝をついた。

「アイシャ様。今回、オレは一つだけ嘘をつきます。事前の懺悔になりますが、聖女様のお赦しを賜りたく」
「えっ!? ひ、人を傷つける類のものなら……」

 やめてほしい、と頼む前に鮭の人が事情を語った。

「罪人たちと観衆に多少の印象操作を仕掛けます。万が一、国民に不利益を与えるようなことあらば、このヨシュア・リーストがすべての責任を負います」
「そこまで言うのでしたら……。この聖女アイシャ、懺悔を受け取りましょう」

 見た感じ、鮭の人から悪意は感じなかった。
 それに彼は人前に出るときは、群青の魔力を帯びたリンクを足元に出現させている。

 リンク使いがリンクを出しているとき、その人物は世界と調和していると言われる。
 彼を信じることに、アイシャは不安を感じなかった。



 さあ、いよいよ公開制裁の始まりだ。

 ウルトラマリンの礼服をまとった青銀の髪の宰相、鮭の人は舞台の端からまず観衆たちに胸に手を当てて一礼した。
 容貌の麗しさはもちろん、礼法の美しさにも会場内がどよめく。

 鮭の人は舞台に向かって右側に設えられた壇上に移動し、まず趣旨を説明していった。

 今回行うのは聖女アイシャへの虐待を犯した罪人たちへ、見せしめを兼ねた〝制裁〟であること。

 本来なら当時王太子の婚約者だった聖女アイシャは準王族。その彼女への傷害罪、侮辱罪、不敬罪。旧王国の刑法ならば極刑でもおかしくないことなどを、わかりやすく朗々と通る声で解説した。

「ですが、我らの慈悲深き聖女アイシャは残酷な重罰は望まなかった。新たなカーナ神国でも神人ピアディの下知により死刑制度は廃止されております。――ではどのようにして、罪人たる彼らは罪を償えばよいのか?」

 とそこへ、よちよちと舞台の端から神人ピアディが歩いてきた。

 よちよち……よちよち……

 鮭の人に辿り着くまでに陽が暮れてしまいそうだ。

「ピュイッ、ピー!(ピアディ!)」

 後ろから慌てたお守り役の子供サイズの綿毛竜コットンドラゴンユキノが付いてきて、すかさずもふもふの両手で持ち上げ、鮭の人に手渡す。

 鮭の人は受け取ったピアディをぷにっと抱き上げ、観衆に向けて、虹色を帯びたネオンイエローの魔力に光るウーパールーパーを頭上に掲げた。

「ぷぅ!(そこでわれが申したのだ。目には目を、歯には歯を。聖女にしかけた行為をおのれも受ければ反省するであろうと!)」

 舞台上で跪かされている罪人たちは、主に聖女アイシャへの飲食物を汚し、それを食させた者たちである。

 観客から怒号が上がる。
 だが宰相はすかさず両手を前に出して、それ以上騒がぬよう制した。
 動作だけでピタッと会場内が静まる。皆が彼に注目している証拠だ。

「まず、この罪人たちが聖女アイシャにどのような汚物を食させたか、確認いただきます。同種のコーヒーを用意致しました。どなたか試飲にご協力いただけますか?」

 会場のあちこちから手が勢いよく上がる。
 その中から鮭の人はバランスよく無作為に男女二十名弱をピックアップし、舞台の下に招いた。

 選ばれたのは新聞記者や官僚、騎士団や兵団、首都の各地域の代表者たち、一般聴衆など各所属と部門から数名ずつ。

 挙手した中には元宰相のベルトラン公爵もいたが、彼は高齢で何かあっては危険だからと、息子が代わりに試飲することになった。

 一人一人にスタッフが紙コップに入ったホットコーヒーを渡された。コーヒーは紙コップの容量の半分ぐらいずつ注がれている。

「では皆様、ご試飲を」

 宰相の合図で一気に飲み込む。あちこちでグフッ、ゲフッと咽せる声が聞こえた。

 ざわ、と会場内に不穏などよめきが広がる。
 地面にしゃがみ込んで激しく咳き込む女性まで出た。

「とても不味いでしょう。ですが、聖女アイシャが何年にも渡って飲食を強要されてきた腐った食事よりは、はるかにマシなのです」

 アッ、とアイシャは思わず声を上げかけて、慌てて両手で口を塞いだ。
 見ると、隣にいたトオンやカズン、ユーグレンにルシウスも納得した顔になっている。

「なるほど。これがヨシュアの〝嘘〟か」
「……トオンの飯マズのほうが、以前彼らに食べさせられたものより、ずっとずっと………………なのに」

 周りで誰が聞き耳を立てているかわからない。肝心なことはアイシャも口に出さないよう気をつけた。

 飯マズコーヒーを試飲した者たちに、スタッフから口直しの水の入った新しい紙コップと、砂糖菓子が手渡される。

 彼らが何とか飯マズの衝撃から立ち直り、元の席に全員が戻ったことを確認してから鮭の人はアナウンスを続けた。

「それではご入場いただきましょう。聖女アイシャ、守護者・神人ルシウス、本件の見届け役として同盟国アケロニア王国のユーグレン王太子殿下にお越しいただきました。皆様、拍手でお迎えください!」









※トオンとカズンは舞台の裏側でお留守番。

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