婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

文字の大きさ
252 / 306
第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

思い出のチョコレートケーキ

しおりを挟む
 元々が四角いホールケーキなので、スクエア型にカットして小皿に分けていった。
 断面には分厚めにチョコレートクリームが挟まっている。スポンジもチョコレート味のようだ。

「生クリームとココアシロップまで……!」

 カズンが感動に打ち震えている。

 ケーキの箱の中、サイド部分にホイップクリームのチューブと、シロップの小さなボトルが入っていた。
 小皿に分けたそれぞれのケーキに、生クリームをぎゅーっと鮭の人が絞っていく。
 これにはアイシャとトオンのテンションも上がっていった。

「わああ……」
「えっ、そんなに!? そんなにクリームのせちゃっていいの!?」

 太めに絞り出されたホイップ生クリームでマウンテンを作る。倒れるギリギリまで盛るのがコツだ。

「ゼリーとフルーツまで!?」

 箱の中にはまだまだオプションが入っていた。

 別容器には小さなブロックにカットされたコーヒーゼリーが。また別の容器にはシロップ漬けの果物、チェリーとミカンが入っている。
 フルーツを生クリームに乗せて、上からココアシロップでデコレーションした。
 更に、砕いたナッツをパラパラとふりかけて出来上がり。

 見た目は庶民的だ。デコレーションされたパティシエの高級ケーキと比べれば確かに地味だったが、目の前で次々盛られていく様子には心が躍る。

「こんなの、絶対おいしいやつ!」
「オレとカズン様の学生時代のお気に入りだったんです。青春の味ってやつですね」

 普段から親しんでいると忘れがちだが、カズンは他国の王族で、ヨシュアは高位貴族の家の当主で今はこの国の宰相閣下である。
 その二人が美味というなら、間違いなく絶品のはず。

 そして、期待は良いほうに裏切られた。

「お、お高いお店の味がする……!」

 チョコレートクリームのケーキ本体は甘くコクがあり、完成度の高いチョコレートケーキだった。
 ――そう、完成された味だったのである。

 ユーグレンも一口食べて驚いていた。

「これはガスター菓子店のショコラの味じゃないか」
「そうだ。引退したショコラティエが代々店主になってる喫茶店でな。庶民向けの店だから、コーヒーとセットなら銀貨一枚で頼めるのだ」
「あそこの客層は庶民も貴族も区別なかったですねえ。お小遣い貰ったらまずこのお店にいきましたもんね。ここは軽食もなかなかで。玉子サラダのサンドイッチやトーストも美味かったです」
「ハムサンドもな。何げに野菜サンドが新鮮で美味かったんだなこれが!」
「お前たちばっかり外食を楽しんでたのか。ずるいぞ!」

 アケロニア勢三人が気安い会話を繰り広げる横で、アイシャとトオンはマイペースにケーキを堪能していた。

「上の生クリームも美味しい……。こんなにたくさんの生クリーム、夢みたい」
「お、コーヒーゼリーは無糖だ。これなら甘いもの苦手な人もいけそうだね」

 小さめカットだったからすぐ食べ終わってしまったが、チョコレートと生クリームの幸福な余韻はしばらく皆の中に残った。

「ガスター菓子店って、確か前にカズン宛に大箱で送られてきたやつだよな?」
「ああ。送り手はこいつだ」
「そうでした! ユーグレンさんはお高いチョコレートの人!」

 アイシャの茶の瞳と、トオンの蛍石の薄緑の瞳に感謝の色が浮かぶ。

 もう一年以上前、聖女投稿事件の頃にカズンが分けてくれた、あの高級チョコレートは本当に美味だった。
 艶々のトリュフは、チョコレートそのものも、中のクリームやキャラメル、プラリネやマジパンなどナッツ系やフルーツ系にウエハース入りのものなど、とにかくどれを食べても最高だったのだ。

 あの頃、カズンがカーナ王国を去った後、タッチの差で謁見しにきた当時の鮭の人からの献上品の中にも大箱があった。
 それからしばらく、アイシャとトオンは大事に少しずつお茶の時間に食べて癒しにしていたものだった。

「残りは置いていきますので、皆さんで早めに召し上がってくださいね」

 残ったホイップ生クリームでウインナーコーヒーにしたり、コーヒーゼリーをアイスのカフェラテにクラッシュして入れても美味しくいただけるそうだ。

「暑い季節はケーキを凍らせてもいけるんだ、これが」

 この調子なら古書店の面子だけで今日明日中には食べきってしまいそうだ。
 ケーキの管理は厨房の主に再就任したカズンに任せて、アイシャたちはこの後ルシウス邸に向かう鮭の人を見送ったのだった。


しおりを挟む
感想 1,049

あなたにおすすめの小説

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません

冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」 アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。 フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。 そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。 なぜなら―― 「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」 何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。 彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。 国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。 「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」 隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。 一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。