婚約破棄で捨てられ聖女の私の虐げられ実態が知らないところで新聞投稿されてたんだけど~聖女投稿~

真義あさひ

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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中

アイシャ、力の回復

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 アイシャたちが帰った後、オネストはルシウスへ向き直った。

「記録に残る歴史上、ネオンレッドの魔力の持ち主は二人目ですね。一人目は」
「〝アドローンの聖女〟だな」
「ご存じでしたか」
「姉の神人ジューアが当時の関係者だったそうで教えてもらったんだ。アイシャはアドローンの聖女が身籠っていた胎児の転生体らしい」

 そこまではオネストも知らなかったようだ。銀縁の丸眼鏡の下のアイスブルーの目を瞬かせている。

 アドローンの聖女は、呪術によって強烈な魔の媒体にさせられた、妊娠したまま生き埋めの人柱にされた古の時代の聖女だ。
 約一万年前の凶事と伝わる。今では教会や神殿関係者、一部の王侯貴族らしか知らない歴史上の大事件。
 浄化に特化した弓聖によって封印され、その弓聖によって北の大国カレイド王国が建国されるまでは、肉体が滅んでもなお、円環大陸の北部を汚染し続けた呪詛を残した女性でもある。

「恨みながら死んだ聖女の子供の転生体だが、近年になって封印されていた北のカレイド王国でカーナ様が浄化した後に解放され、転生したそうだ。……魂の来歴はどうあれ、良い子だと思う。だが」
「あまり良い境遇とは言えなかったようですね。幸運値が低いのではないでしょうか?」
「ああ。2しかない。今はリンクが使えるようになってだいぶ凶作用を抑制できている。このまま修行するべきだろうな」

 ステータスはすべて十段階で平均値は5だ。5を下回るとそのステータスに関わる能力に何らかの不具合が出やすい。

 これらの事実を踏まえると、聖女アイシャが虐げられ、冤罪で追放されてなお加害者たちを恨まず耐えたことはまた違った意味を帯びてくる。

「〝聖女投稿事件〟でも安易に負の感情に身を委ねることは、なさらなかった。強い方ですね」
「怒りぐらいは発散させても良いと思うがね。だが、もう怒りをぶつける相手は誰も残っていない。王族は皆死に絶え、教会関係者たちも追放されたし、自滅した者たちも多い」
「……アイシャ様にこのことはお伝えされたのですか?」

 と訊かれてルシウスは無言になった。伝えていない。

「知ったからといって、どうなるものでもなし。まあ幸運値2は低すぎるので、より具体的な対策を取りましょう」
「ヨシュア様」

 それまでルシウスの隣に座ってあまり口を開かなかった鮭の人が、自分の青い軍服の上着の内ポケットに手を突っ込んだ。

「ぷぅ……ぷぅぅ……ぷぃぃ……」

 ぷにっと取り出したのは半透明ピンクのボディを持つ神人ピアディだ。
 可愛らしい寝息を立てて夢の中だ。
 オネスト神官と聖女アイシャの会談に『われもわれも、われもゆく!』と強引についてきたものの、鮭の人の体温が心地よくて眠ってしまっていたようだ。

「ピアディ様は幸運値10のラッキーサラマンダーです。定期的に祝福を賜り、装備させていただきましょう」
「装備、ですか」
「装備です」

 言って鮭の人は再び内ポケットに神人ピアディを収めた。装備完了である。
 この時点で幸運値3の鮭の人はラッキーサラマンダー効果で6までステータスアップしていた。



  ☆ ☆ ☆



 神殿から古書店への帰り道、アイシャたちは翌日の朝食用のパンを買いに南地区のパン屋に寄った。
 そこでいつもの飯ウマパン職人のミーシャおばさんに声をかけられた。

「アイシャちゃん。今年はレモンが豊作で、いま市場にたくさん出回っててさ。うちも安く仕入れたから、夏から下半期にかけてレモンの菓子パンやお菓子を店に出すよ。良かったら毎日店を覗きに来ておくれ」
「レモンですか? ……ぜひ!」

 アイシャがレモンなど柑橘系を使ったお菓子や料理が好きなことは、地元ではよく知られている。

 どんなお菓子が良いか聞かれて、飴色の茶の瞳を輝かせて、好きなおやつをいくつもピックアップしている。

「レモンの香りと甘酸っぱさが感じられるものが好きなんです。ルシウスさんが前に作ってくれたライムバーをレモンでとか」

 むしろレモンバーのほうが一般的だ。

「皮を削って入れるマドレーヌとかは?」
「好きです。バターとアーモンドの風味も良いですよね。レモンクッキーも昔から好物で」
「レモンの量が多いからジャムやレモンカードも作ろうかなって。レモネードもいいよね。原液を作って瓶詰めで販売するつもり」
「いいですね! うちにも一ダースお願いします!」

 レモン果汁に砂糖を加えて水で薄めるだけの誰でも作れるレモネードでも、飯ウマ持ちのミーシャが作れば味が変わる。
 今から楽しみだとアイシャの顔はほんのり染まって緩んでいる。

「可愛いなあ。アイシャ」

 そんなアイシャを少し離れたところから腕組みして、文字通りの〝彼氏面〟したトオンが見守っている。






→そろそろカズンとユーグレンはお邪魔かもしれないと思い始めた……(二人は恋人たちの家に居候してる形)
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