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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
13.神人たち、創成の揺籠を語る
しおりを挟む旧カーナ王国は〝カーナ〟王国というぐらいだから、神人カーナ姫に由来する国だ。
ところがこの国は建国から五百年間ずっと、王家が聖女に命じて魔物を排除する結界を国土の周囲に張り巡らせていた。
そのせいで、竜の獣人のカーナ姫は長いことカーナ王国に立ち入ることができなかった。
結界が獣人と魔物を分けず同類に扱う種類だったせいだ。
結界の種類や賎民呪法なる邪法を行使し続けてきた歴史から見ると、立ち入りを防止するだけではない。カーナ姫を捕獲して、聖女たちのように邪法の犠牲や生贄にしようとしていた節がある。
これに関しては表沙汰にならず良かったと関係者は皆胸を撫で下ろしていた。露呈していたら本当に国は破滅していた。
カーナ姫は円環大陸の支配者の国、〝永遠の国〟の長老なのだ。彼女を害することは永遠の国に住む他の進化した種族たちや信奉する各国が許さないだろう。
旧カーナ王国は、カーナ姫のかつての嫁入り先、魚人族の国があった場所だ。
国名を古の偉大な大王の名前から取ってポセイドニアという。ピアディが浮上させた海上神殿も同じ名前だ。
ましてやこの土地は地下に実の息子の亡骸が埋まっていた場所だ。邪悪に堕落したとはいえ、息子は息子だった。
その邪悪な古代生物の化石と化していた息子を浄化し、国土全体に仕掛けられていた邪法を解除した聖女アイシャと仲間たちに、カーナ姫はとてもとても深く感謝していた。
そのカーナ姫は長めのショートボブの黒髪と琥珀の瞳の優美な少女だ。
実年齢は数十万年と言われるが、外見年齢は神人ジューアの少し上、今の聖女アイシャの少し下といったところか。十代後半ぐらいだろう。
本来なら蛇体の黄金龍に変化する獣人の青年男性だが、母方のユニコーンの血を活性化すると女性体になれる。
旧カーナ王国ではカーナ〝姫〟の伝説のほうが有名なため、この国に滞在する間は女性体でいることを選んでくれていた。
旧王国がカーナ神国となり獣人すら弾く結界が消えた後、カーナ姫はアイシャたちが呼ぶ前に巨大な黄金龍の姿で皆の前に姿を現していた。
すぐに少女の姿に変じたのでアイシャたちが龍を見たのはそれっきりだ。
それからカーナ姫は極力表に出ず、親友の神人ジューアと一緒に海上神殿と王都神殿を往復して何やら動いていたようだ。
そのカーナ姫が夏に入る前に、アイシャを始めとした面々を海上神殿に呼び寄せた。
アイシャにトオン、カズンやユーグレンといった古書店組と、ルシウスと秘書ユキレラ、それに神人ピアディを連れた鮭の人だ。
「創成の揺籠……ですか?」
初めて聞く単語にアイシャは飴茶の目を瞬かせた。
「この国に最後の一機が残っていたんだ。ピアディを入れたまま」
カーナ姫が言うには、創成の揺籠とは超古代から伝わる魔導具メディカルマシーンだそうだ。
「もう現存する機体はないと思っていたが、ピアディの入っていた小型機が残ってて幸いだった。だが修復が必要だ」
「私が修復を行なっている。だが使えるようになるまではまだ時間が必要だ」
「ジューア様が海上神殿にこもってたのは、そのためだったんですね」
それまではルシウス邸で弟といることが多かったのに、カーナ姫の訪れ以降ほとんど姿を見なかったのはそのせいだったようだ。
「創成の揺籠は、ありとあらゆる肉体や心の不具合を癒す装置だ。私とジューアの限界が来る前に見つかって、本当に良かった。――これを見てほしい」
おもむろにカーナ姫は着ていた白い聖衣を脱ぎ、セパレートタイプのシャツをたくし上げ、スカートはウエスト部を少し下げて下腹部を露わにした。
それを見て皆、息を飲んだ。
白い腹のへその下には、――大きく引き攣れた赤い傷跡が残っている。
「古の時代、私は一人目の子供は創成の揺籠で夫と共に創った。二人目は事情があってこの身に孕んだのだが、生まれる前に身体が男に戻りかけてしまい……仕方なく腹を抉って胎児を取り出すしかなかった。これはそのときの傷だ」
「抉ってとは、手術などではなくですか?」
「ああ。そのとき周りに医師も治癒師もいなかったから。このとき女の私は子宮を失った」
「………………」
すぐに服を戻し聖衣を羽織り直して、カーナ姫は傍らにいたジューアを見た。
頷いてジューアも着ていた白いワンピースに手をかけた。こちらは潔く一気に脱ぎ去ろう……としたところで、すかさず弟のルシウスが大判のバスタオルで姉の右半身を隠した。
ジューアが露わにしたのは左半身だ。
あっ、とアイシャたちは声を上げかけた。
華奢で肉の薄い少女の肉体は左上腕、左胸部、左脚がなかった。いや、あるのだが、欠損部位がすべて透明な魔法樹脂で補われている。
「私とジューアの肉体は限界が近い。これらの欠損は神人に覚醒する前のものだから、完全回復薬のエリクサーでも癒せなかったんだ」
だが、まだ死ぬわけにはいかない。
「私もジューアも必死で揺籠を探していた。立場的にまだまだ簡単に死ぬわけにはいかないからね」
「その、神人に寿命はないと聞いていますが……?」
「本来ならばね。でも我らのように肉体に欠陥があると限度があって」
恐らく自分たちは神人の重要情報を教えられている。迂闊なことは言えなかったが好奇心から恐る恐るトオンが訊ねると、簡単に答えてくれた。
「何としてでも揺籠を修復して、肉体を正常に戻したい。急がねばならない理由ができたんだ」
そう言うカーナ姫の顔は深刻そう少し強張っていた。
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