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第五章 鮭の人無双~環《リンク》覚醒ハイ進行中
永遠の国と医聖
しおりを挟む「ちょうど、今この国には魔術師フリーダヤと聖女ロータス系列の環使いが集まっている。いい機会だから、永遠の国について教えておこうか」
フリーダヤは環創成の魔術師とも呼ばれる、環を開発した男だ。パートナーの聖女ロータスとともに八百年以上生きていると言われるが、アイシャとトオンはまだ会ったことがなかった。
師匠のルシウスは彼らの直弟子で、カズンも祖国を出奔してから何かと世話になったと聞いている。
今日のメンバーだと秘書ユキレラだけが環使いではないが、彼の場合はルシウスの秘書という性質上、同席を許されていた。
「永遠の国って、この円環大陸の中央にあるという?」
「そう。周りを水に囲まれた孤島でね。外界と隔絶しているから、空を飛ぶか空間転移でしか入れないところだ。進化した種族か、〝時を壊す〟を果たした者とその家族や近しい関係者までが入国できる」
「あとは聖女や聖者といった聖なる魔力持ちだ。今のお前たちは全員、入国基準を満たしているから、気が向けば訪れてみるといい」
ということは、環使いとして聖者ルシウスや魔術師フリーダヤ系列の〝関係者〟枠での入国許可が降りるわけだ。
なるほど、とアイシャは隣のトオンと頷き合った。この辺は一応、聖女のアイシャは基礎教育として簡単に学んできており、恋人で世話役のトオンとも情報を共有してあった。
「今では種族として少数化してしまった進化した種族と〝時を壊す〟を果たした者たち中心の小国でね。人口は……一万人いるかいないか。一般の人間から能力や技術が大きく逸脱した者たちの保護と管理を行なっている」
「お前たちも知っての通り、人間社会に必要な各種ギルドの統括本部はすべてこの国の中にあり、例外なく進化した種族が代表を担っている。人間社会に最低限必要なインフラは、カーナを中心とした永遠の国が整えたものだ」
この事実から、永遠の国は円環大陸の支配者たちの国とも呼ばれている。
「ジューアお姉様は魔導具師ギルド本部の長でいらっしゃるのですよね?」
「そうだ。住民の進化した種族のうち、能力に見合った役職にそれぞれ就いている感じだな」
他には冒険者ギルドであったり、生活に必要なスキルに応じたギルドがある。
今日はルシウス邸で留守番中の料理人ゲンジなどは調理師ギルド所属で、これも永遠の国に本部がある。
比較的近年に設立されたものでは〝労働者ギルド〟がある。
近年といっても数百年は前だが、このギルドができたことで世界中の労働環境は劇的に改善されたと言われている。
加入は任意だが、国や王侯貴族に仕える者であっても加入可能で、かつ労働者の必要最低限の権利が守られる。
円環大陸にあった奴隷制度が表向き根絶される流れを生んだギルドでもあった。
「問題は、教会本部の長でね」
「医聖アヴァロニス様ですね。神人の」
「うん、彼はジューアと同年代の進化した種族だ。医を司る聖者で、昔はジューアと仲が良かったが、今は……。ああ、この話はやめておこうか」
隣に座っていたジューアに 湖面の水色の鋭い目で見られて、慌ててカーナ姫が口をつぐんだ。
姉様の元彼……とうっかり呟いたルシウスも睨まれて自分の口を手で塞いでいた。つまりはそういうことだ。
そこからカーナ姫が語ったことは内容がとても重かった。アイシャたちには初耳のことが多く、ルシウスにとっては再確認の事柄だった。
「昔、アドローンの聖女と呼ばれた女がいた。一万年ほど前のことだ。名前はアデルミラ。当時の邪悪な支配者に騙されて〝魔〟に落ちた聖女だ。――アヴァロニスの実の姉だった」
誰もが息を飲んだ。
「アヴァロニスが聖者に覚醒するきっかけでもあった。強姦されて孕んだ胎児ごと生き埋めの城の人柱にされて、息絶える直前に魔に変じた」
「この大陸の歴史上、最悪にして最凶の〝魔〟に変じてな……。三千年前に北部の大国カレイド王国を建国した弓聖のハイエルフが封印したが、余韻が常に円環大陸を漂っていた」
「えっ、それ大丈夫なんですか!? もしかして今もまだ残ってるんじゃ」
慌てるトオンをカーナ姫は「大丈夫」と微笑みで制した。
「数十年前に今のカレイド王国の女王と、君たち環ファミリーが協力して既に滅してある。若き頃の聖者ビクトリノの破邪の力を中核としてね」
「ビクトリノ様が」
そういえば彼は地下ダンジョンの問題が解決した後、所用で一度永遠の国に帰国して、まだカーナ神国に戻ってきていない。
今は暫定的にアイシャと同じ神殿所属神官となっているが、元は永遠の国の教会本部所属の聖者だ。
「もう一人、フリーダヤの弟子だった魔女メルセデスは残念ながら戦いの中で死んでしまった。生きていたらフリーダヤの後継者だったのだが」
それからアイシャたちは医聖アヴァロニスについて、人々に知られていること、知られていないことの両方をざっと教えられた。
神人アヴァロニス。
永遠の国所属の医聖にして、教会本部の長。
進化した種族精霊族の出身で、同じ人格の意識を保ちながら血族に生まれ変わり続けている。
現在は東南部の王族の傍系家門の当主、大魔道士マーリンという別の顔を持つ。
「いろいろあるが、重要なのは姉が魔に堕ちたことをきっかけとして、アヴァロニスに〝預言〟スキルが発現したことだ」
「預言って」
「未来の出来事を100%の確率で見通す、――直観スキルの最高峰。レア中のレアスキルだ。今、持っているのはアヴァロニスだけだね」
どうやらここからが、カーナ姫がアイシャたちを呼んだ話の本題らしい。
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