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道中は危険に溢れている!
道中は危険に溢れている!④
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朝食後、二人がかりで馬車に荷物を運び入れる。そろそろ出発の頃合いだ。
ステラはポピーの元に駆け寄った。
「ではポピー様、お元気で!」
「何か困った事があれば手紙で知らせよ」
「はい!! 何から何まで有難うございます!」
「ポピー様、お土産期待してて下さいねー!!」
「レイチェルよ。ステラを頼むぞ」
「ラジャー!!」
御者台に二人並んで座り、レイチェルが手綱を握った。
馬車はユックリと動き出す。
ステラは客車の屋根に手を置き、後方に立つポピーに手を振る。
(紹介状まで書いてもらったんだから、ちゃんと目的を果たさないとな……。次にポピー様に会った時に、いい話を聞かせられるように)
建物の角を曲がり、彼女の姿は見えなくなった。
少々の寂しさを感じてしまうが、自分から望んだ旅なのだから、耐えるしかない。
御者台に腰を下ろすと、バッグがモゾモゾと動き、中からアジ・ダハーカが顔を覗かせた。
「ふぅ……。いきなりあの恐ろしい女が来たから、焦ったわい」
前聞いた話だと、どうやら彼はフラーゼ家周辺に住んでいた頃にポピーと遭遇し、物凄い力で抱きしめられ、魂が抜けかけたらしい。
普段はクールな彼女なのに、意外な一面があるようだ。
今思えば、誰かさんとの血筋を感じなくもないが、そのあたりは考えない方がいいだろう。
「優しい人だと思いますけどね」
「そうだよ。アジ・ダハーカは女を見る目がなさすぎ」
ステラとレイチェルが口を揃えてポピーを擁護したからか、黒猫はツンとした表情で再びバッグの中に潜った。
その可愛い様子に吹き出してから、レイチェルに問いかける。
「国境を越えるまでに二日間、そこからミクトラン帝国の帝都まで三日間かかるんでしたっけ?」
「うん。でも一度リスバイ公爵のカントリーハウスに行く事になったよね? だからー、国境越えた後一日かけてリスバイ公領に行く感じかな」
「ふむむふ。やっぱり国外への旅はすっごく時間がかかるんですね」
「遠い分、珍しい物にも出会えるし、楽しいよ!」
「楽しみです!」
自分が生まれた地、ミクトランはどのような所なのだろうか。
聞く話によると、雪と氷に覆われる程に寒冷な気候らしいが、今はまだ九月なので、流石にまだ雪は降っていないだろう。
短い夏の終わりに、人々がどのように暮らしているのか、この目で見てみたい。
ボンヤリと考え事をしているうちに、馬車が王都を抜ける。
遠くに見える王城の尖塔を眺めていると、感慨深い気分になった。
修道院育ちの自分を温かく受け入れてくれた、懐の深い街。
シトリーの件で非常事態になり、ステラは特殊なフレグランスで自分なりに対処してみたけれど、この街の平和に少しは貢献出来たんじゃないだろうか。
そうだったらいいな、と思いながら、小さくなっていく尖塔をいつまでも見続けた。
◇
宿屋に一泊しつつ、馬車を走らせ、ついに国境に面するドリュリ領までやって来た。
比較的安全だった今までの道中と異なり、ここにきてチラホラとモンスターの姿が散見されるようになった。
街道沿いに広がる広大な湖で長い首を持ち上げているのは、馬の五倍程も大きい生物だ。
噴水の様に水を撒き散らす所為で、ステラ達まで濡れてしまう。
「うぅ……、冷たい……。腹が立ちますが、側に行ったらペシャンコですね」
「フン……、あんなのは図体がデカイだけの雑魚だ。何も怖がる必要はない」
ステラとレイチェルの間に居たため、アジ・ダハーカは殆ど濡れておらず、余裕をかます。
しかし、彼の話を聞いていると、自分が今猫の姿なのを忘れてしまっているように思えてならない。
「動きがトロイから、見た目程の脅威はないはず! そんな事よりー、この湖の向こうに金木犀の名所があるからそこで休憩入れよ!」
「金木犀って図鑑で見たことあります。たしか凄くいい香りなんですよね! 開花の時期って今くらいなんでしたっけ?」
「そうみたい! 以前九月にこの辺に来たら満開だったの。たぶん今もいい感じだと思うよ。話のネタにも出来るから、絶対行くべき!」
「そうなんですね。案内して下さい!」
広大な湖を北に走ると、無数の樹木が立ち並ぶ林に到着した。
しかし、レイチェルが言うような花は咲いておらず、そればかりか、葉も繁っていない。
生命力が弱まっているように見えるのは、病気か何かだからだろうか。
「あれ~? おかしいな。どうかしちゃったのかな?」
「樹木の病気かもしれないです。残念ながらそういうのを治すスキルはないんですよね」
「ステラちゃんの香水作りの参考になったらいいなって思ったのに~、残念!」
花が咲いていないのは確かに残念だが、レイチェルの気持ちが嬉しくて、ニマっと笑顔になる。
折角だからここで昼ごはんにしようという流れになり、先程の街で購入したバケットや惣菜を馬車から運びだす。
ステラがコップに水を注いでいると、金木犀の林をウロチョロしていたアジ・ダハーカがやってきた。
「おい、こっちに来てみろ。ちょっとヤバイんじゃないのか? ここ」
「ん? どうしました?」
ステラはポピーの元に駆け寄った。
「ではポピー様、お元気で!」
「何か困った事があれば手紙で知らせよ」
「はい!! 何から何まで有難うございます!」
「ポピー様、お土産期待してて下さいねー!!」
「レイチェルよ。ステラを頼むぞ」
「ラジャー!!」
御者台に二人並んで座り、レイチェルが手綱を握った。
馬車はユックリと動き出す。
ステラは客車の屋根に手を置き、後方に立つポピーに手を振る。
(紹介状まで書いてもらったんだから、ちゃんと目的を果たさないとな……。次にポピー様に会った時に、いい話を聞かせられるように)
建物の角を曲がり、彼女の姿は見えなくなった。
少々の寂しさを感じてしまうが、自分から望んだ旅なのだから、耐えるしかない。
御者台に腰を下ろすと、バッグがモゾモゾと動き、中からアジ・ダハーカが顔を覗かせた。
「ふぅ……。いきなりあの恐ろしい女が来たから、焦ったわい」
前聞いた話だと、どうやら彼はフラーゼ家周辺に住んでいた頃にポピーと遭遇し、物凄い力で抱きしめられ、魂が抜けかけたらしい。
普段はクールな彼女なのに、意外な一面があるようだ。
今思えば、誰かさんとの血筋を感じなくもないが、そのあたりは考えない方がいいだろう。
「優しい人だと思いますけどね」
「そうだよ。アジ・ダハーカは女を見る目がなさすぎ」
ステラとレイチェルが口を揃えてポピーを擁護したからか、黒猫はツンとした表情で再びバッグの中に潜った。
その可愛い様子に吹き出してから、レイチェルに問いかける。
「国境を越えるまでに二日間、そこからミクトラン帝国の帝都まで三日間かかるんでしたっけ?」
「うん。でも一度リスバイ公爵のカントリーハウスに行く事になったよね? だからー、国境越えた後一日かけてリスバイ公領に行く感じかな」
「ふむむふ。やっぱり国外への旅はすっごく時間がかかるんですね」
「遠い分、珍しい物にも出会えるし、楽しいよ!」
「楽しみです!」
自分が生まれた地、ミクトランはどのような所なのだろうか。
聞く話によると、雪と氷に覆われる程に寒冷な気候らしいが、今はまだ九月なので、流石にまだ雪は降っていないだろう。
短い夏の終わりに、人々がどのように暮らしているのか、この目で見てみたい。
ボンヤリと考え事をしているうちに、馬車が王都を抜ける。
遠くに見える王城の尖塔を眺めていると、感慨深い気分になった。
修道院育ちの自分を温かく受け入れてくれた、懐の深い街。
シトリーの件で非常事態になり、ステラは特殊なフレグランスで自分なりに対処してみたけれど、この街の平和に少しは貢献出来たんじゃないだろうか。
そうだったらいいな、と思いながら、小さくなっていく尖塔をいつまでも見続けた。
◇
宿屋に一泊しつつ、馬車を走らせ、ついに国境に面するドリュリ領までやって来た。
比較的安全だった今までの道中と異なり、ここにきてチラホラとモンスターの姿が散見されるようになった。
街道沿いに広がる広大な湖で長い首を持ち上げているのは、馬の五倍程も大きい生物だ。
噴水の様に水を撒き散らす所為で、ステラ達まで濡れてしまう。
「うぅ……、冷たい……。腹が立ちますが、側に行ったらペシャンコですね」
「フン……、あんなのは図体がデカイだけの雑魚だ。何も怖がる必要はない」
ステラとレイチェルの間に居たため、アジ・ダハーカは殆ど濡れておらず、余裕をかます。
しかし、彼の話を聞いていると、自分が今猫の姿なのを忘れてしまっているように思えてならない。
「動きがトロイから、見た目程の脅威はないはず! そんな事よりー、この湖の向こうに金木犀の名所があるからそこで休憩入れよ!」
「金木犀って図鑑で見たことあります。たしか凄くいい香りなんですよね! 開花の時期って今くらいなんでしたっけ?」
「そうみたい! 以前九月にこの辺に来たら満開だったの。たぶん今もいい感じだと思うよ。話のネタにも出来るから、絶対行くべき!」
「そうなんですね。案内して下さい!」
広大な湖を北に走ると、無数の樹木が立ち並ぶ林に到着した。
しかし、レイチェルが言うような花は咲いておらず、そればかりか、葉も繁っていない。
生命力が弱まっているように見えるのは、病気か何かだからだろうか。
「あれ~? おかしいな。どうかしちゃったのかな?」
「樹木の病気かもしれないです。残念ながらそういうのを治すスキルはないんですよね」
「ステラちゃんの香水作りの参考になったらいいなって思ったのに~、残念!」
花が咲いていないのは確かに残念だが、レイチェルの気持ちが嬉しくて、ニマっと笑顔になる。
折角だからここで昼ごはんにしようという流れになり、先程の街で購入したバケットや惣菜を馬車から運びだす。
ステラがコップに水を注いでいると、金木犀の林をウロチョロしていたアジ・ダハーカがやってきた。
「おい、こっちに来てみろ。ちょっとヤバイんじゃないのか? ここ」
「ん? どうしました?」
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