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本編
60.新しい一歩
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卒業コンサート当日、会場にファンの皆さんからのお花やプレゼントが沢山届いていて、始まる前からうるっとしてしまった。今日は泣かないって決めてるのに……
卒業を発表してから3ヶ月、長いかなと思ったけれどあっという間だった。
本番前のリハを終えて、ステージから客席を眺める。デビュー当時はこんなに大きな会場で卒業コンサートができるなんて考えたこともなかったな、と思うと感慨深い。
私の卒業コンサートではあるけれど、一人一人が輝いてファンの皆さんに見つけて欲しいなと思う。
「みんなと立つ最後のステージ、全力で楽しみたいと思います。では、最後の円陣、行きますよ! 工藤陽葵卒業コンサート、行くぞー!」
「「「おー!」」」
ステージに上がればいつも応援してくれているファンの方々の色々な表情が見える。それぞれ色んな思いで今日を迎えてくれたんだろうな。
今日のコンサートで今までの感謝を伝えたいし、ずっと覚えていてもらえるステージにしたい。
「今日は私の卒業コンサートにお越しいただきありがとうございます! 配信をご覧の皆さん、見えてますか? 一緒に最高の思い出を作りましょう!」
あっという間に前半の全体曲が終わって、ユニットコーナーになる。思い出深い曲もあれば新しい曲も入れて昔からのファンの方にも、最近知ってくれた方にも楽しめる内容になっていると思う。
美月とのユニットを希望する声も多かったけれど、今回は他のメンバーを優先した。そのかわりに全体曲でイチャイチャしようねって言ってある。
ユニットコーナーが終わって、美月と2人でトロッコに乗って手を振っていると、私たち2人のうちわとキスして、の文字を見つけた。
「美月、あれ見て」
「ん? どれ??」
「左斜めにいる、私たちのうちわ持ってくれてるファンの方たち分かる?」
ちょうど間奏だったから美月の腕を引いてうちわを持ってくれているファンの位置を伝える。
「うん。皆で同じうちわ持ってくれている方たち?」
「そうそう。うちわになんて書いてある?」
「……キスして」
「しちゃう?」
ニヤリと笑って美月を見れば照れてるのか目が泳いでる。
さすがに口にはしてくれないだろうけれど、頬ならどうかな? 美月に頬を近づけて、人差し指を当ててアピールしてみる。
「待って、本当に? もう凄い悲鳴が聞こえてくるんだけど……」
「ほら、期待されてるよ」
うちわを持ってくれているファンの方を見れば私たちが気づいたことに喜んでくれているみたい。手振っておこう。
美月は横で唸ってるし、私からしちゃおうかな、と思っていたら肩を抱き寄せられて頬に美月の唇が触れた。
ちら、と美月を見れば顔を覆って照れていて可愛すぎる。
「まさか本当にしてくれるなんて」
「あー、やばい、恥ずかしい」
トロッコを降りてからも見つめあったり、ハートを作ってみたりとここぞとばかりに絡みに行ったし、美月ももうキスをして吹っ切れたのか、最後だからか積極的に来てくれて、ファンの皆さんにも喜んでもらえたんじゃないかな。
楽しい時間はあっという間で、アンコールまで終わりステージには私だけが残っている。
「改めて、アンコールありがとうございました。今日のこの卒業コンサートは本当に沢山の方に協力を頂いて、無事に迎えることが出来ました。一緒にステージに立ってくれたメンバー、裏で支えてくれたスタッフさん、そしてこの会場と配信で応援してくださったファンの皆さんのお陰で悔いなく卒業することが出来ます。本当にありがとうございます。アイドル人生の中で出会えた皆さん、そして経験した全てが大切な宝物です。今日でアイドルとしての工藤陽葵は最後になりますが、これからも皆さんに応援してもらえるような存在になれるように頑張ります。次のキャプテンは望実ちゃんに託してありますので、みんなで新しいグループを作り上げて、アイドルとして過ごす時間を楽しんで、輝いて欲しいなと思っています。辛いこともあったけれど、それ以上に楽しいことばかりで、このグループで活動できたことは私の誇りです。引き続き、グループの事を愛して頂けたら嬉しいです。今まで私を応援してくれて、本当にありがとうございました」
アンコールを終えてステージを降りると、ああ、終わったんだな、と胸がいっぱいになった。途中で泣きそうになったけれど、なんとか泣かずに、最後まで笑顔でやりきった。
「みんな泣いてるじゃんー!」
先にステージを降りていたメンバーは最後の挨拶をモニターで見ていてくれたようで、泣いてくれているメンバーも多い。
「最後の挨拶聞いてみんなこんなですよ!」
「完全に泣かせに来てたよね」
「ファンのみなさんも今頃泣いてますよ」
それぞれそんなことを言ってくるけれど、別に泣かせてやろうなんて思って最後の挨拶をしたわけじゃないんだけどな。
美月を探したくなるけれど、顔を見たらほっとして泣いてしまいそうだからぐっと我慢する。
「卒業おめでとうございます! これからも応援しています」
「ありがとう! 里香ちゃんのことも応援してる」
「ソロデビュー楽しみにしてます!」
「まだ準備できなくてやばい! 未央ちゃんにがっかりされないように頑張るね!」
「コンサートが決まったら絶対行きます!」
「咲希ちゃん来てくれるの? 嬉しい! コンサートできるように頑張るー!」
「一緒のグループで活動できて幸せでした!」
「え、幸せだなんて言ってくれるの? 私も美結ちゃんと一緒に活動できて幸せだったよ! ありがとう!」
メンバー1人ずつと写真を撮りながら、一言二言会話をする。卒業を発表してから個別で話す時間は作ってきたつもりだけれど、もっと沢山話したかったな、と思ってしまう。
「……ぐすっ、うう、ひまりさんー!!」
「おお……美南ちゃん大丈夫?」
美南ちゃんの番が来たと思ったらびっくりするくらい泣いている。
「もう、美月さんとの絡みを見ることが出来ないと思うと辛すぎます……卒業されてからもずっとラブラブでいてください!」
「待って、それで泣いてるの?」
「いや、もちろん陽葵さんの卒業が悲しいっていうのもありますけど」
「なんかついでな感じ」
さすが美南ちゃん、最後までブレない……
「美南がすみません……」
「望実ちゃん、美南ちゃんも、グループのこともよろしくね。望実ちゃんらしく、気負わずにね」
「はい! 私らしく頑張ります」
美南ちゃんの次に待っていた望実ちゃんが申し訳なさそうに言ってくる。3期生で先輩も後輩も居る状況で、間に立ってキャプテンを務めるのは大変だと思うけれど、望実ちゃんなら大丈夫だと思う。
「陽葵、卒業おめでとう。これからもよろしくね!」
「凛花、ありがとう。こちらこそ! まあ、すぐに会うけどね」
凛花とは近いうちにご飯に行こうと話をしているし、同期で他のメンバーよりは会う機会が多いだろうからこれからも仲良くして欲しい。先に卒業して待ってるよ!
「陽葵さん、ありがとうございました! ずっと大好きです!」
「柚葉ちゃん、ありがとう。私もー!」
柚葉ちゃんが元気よく駆け寄ってきてくれて、好きだと言ってくれた。柚葉ちゃんは美月と同期で仲がいいからこれからも会うと思う。持ち前の明るさでグループを引っ張っていって欲しい。
最後に美月の番が来て、優しく見つめられたら涙腺が緩んでしまった。
「……っ、みつきたんお疲れー!!」
「ぉわっ……陽葵ちゃん、今日までお疲れ様」
顔を見られないように抱きつくと私の勢いに驚いたみたいだけれど、しっかり抱きとめてくれて背中をさすってくれる。
「凄くかっこよかったよ。陽葵ちゃんはいつまでも私の憧れ。今日まで頑張ってくれてありがとう」
「ぐすっ……美月が泣かせてくるー」
本当は顔を見ただけで泣いてたって美月にもきっと気づかれてると思うけれど。顔を上げれば涙を指で拭ってくれて優しく笑ってくれる。こうなるのが分かってて、皆と写真を撮り終わるまで待っててくれたのかな。
「わぁ、そんなに泣かないで……すみません、誰かティッシュくださいー!」
涙が止まらない私に美月がおろおろしているけれど、一度溢れた涙はなかなか止まってくれなかった。
「落ち着いた?」
「ん。ありがとう」
落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた美月から離れればホッとしたように笑われてちょっと照れくさい。こんなに泣くはずじゃなかったのに。カメラにも撮られてたみたいだし、使われたら恥ずかしいな……
最後に、お世話になったスタッフさん達にも挨拶をして、コメントを撮ってもらってこれで本当に終わり。グループでやりたいことは全部できたし、これからは自分の夢を追いかけよう。
最後の瞬間まで見届けようと少し離れて待っていてくれる美月を見れば、目を細めて笑ってくれて、美月がそばに居て笑ってくれるだけで何だってできる気がする。
「美月、お待たせ」
「これから陽葵ちゃんが好きな物、なんでも食べに行こうー!」
「うわ、迷うー。焼肉かお寿司か……あ、ラーメンもいいな」
「ふふ、かわい。存分に悩んで。順番に全部食べに行こうね」
いつもそばで支えてくれてありがとう。これからもずっと一緒にいてね。
卒業を発表してから3ヶ月、長いかなと思ったけれどあっという間だった。
本番前のリハを終えて、ステージから客席を眺める。デビュー当時はこんなに大きな会場で卒業コンサートができるなんて考えたこともなかったな、と思うと感慨深い。
私の卒業コンサートではあるけれど、一人一人が輝いてファンの皆さんに見つけて欲しいなと思う。
「みんなと立つ最後のステージ、全力で楽しみたいと思います。では、最後の円陣、行きますよ! 工藤陽葵卒業コンサート、行くぞー!」
「「「おー!」」」
ステージに上がればいつも応援してくれているファンの方々の色々な表情が見える。それぞれ色んな思いで今日を迎えてくれたんだろうな。
今日のコンサートで今までの感謝を伝えたいし、ずっと覚えていてもらえるステージにしたい。
「今日は私の卒業コンサートにお越しいただきありがとうございます! 配信をご覧の皆さん、見えてますか? 一緒に最高の思い出を作りましょう!」
あっという間に前半の全体曲が終わって、ユニットコーナーになる。思い出深い曲もあれば新しい曲も入れて昔からのファンの方にも、最近知ってくれた方にも楽しめる内容になっていると思う。
美月とのユニットを希望する声も多かったけれど、今回は他のメンバーを優先した。そのかわりに全体曲でイチャイチャしようねって言ってある。
ユニットコーナーが終わって、美月と2人でトロッコに乗って手を振っていると、私たち2人のうちわとキスして、の文字を見つけた。
「美月、あれ見て」
「ん? どれ??」
「左斜めにいる、私たちのうちわ持ってくれてるファンの方たち分かる?」
ちょうど間奏だったから美月の腕を引いてうちわを持ってくれているファンの位置を伝える。
「うん。皆で同じうちわ持ってくれている方たち?」
「そうそう。うちわになんて書いてある?」
「……キスして」
「しちゃう?」
ニヤリと笑って美月を見れば照れてるのか目が泳いでる。
さすがに口にはしてくれないだろうけれど、頬ならどうかな? 美月に頬を近づけて、人差し指を当ててアピールしてみる。
「待って、本当に? もう凄い悲鳴が聞こえてくるんだけど……」
「ほら、期待されてるよ」
うちわを持ってくれているファンの方を見れば私たちが気づいたことに喜んでくれているみたい。手振っておこう。
美月は横で唸ってるし、私からしちゃおうかな、と思っていたら肩を抱き寄せられて頬に美月の唇が触れた。
ちら、と美月を見れば顔を覆って照れていて可愛すぎる。
「まさか本当にしてくれるなんて」
「あー、やばい、恥ずかしい」
トロッコを降りてからも見つめあったり、ハートを作ってみたりとここぞとばかりに絡みに行ったし、美月ももうキスをして吹っ切れたのか、最後だからか積極的に来てくれて、ファンの皆さんにも喜んでもらえたんじゃないかな。
楽しい時間はあっという間で、アンコールまで終わりステージには私だけが残っている。
「改めて、アンコールありがとうございました。今日のこの卒業コンサートは本当に沢山の方に協力を頂いて、無事に迎えることが出来ました。一緒にステージに立ってくれたメンバー、裏で支えてくれたスタッフさん、そしてこの会場と配信で応援してくださったファンの皆さんのお陰で悔いなく卒業することが出来ます。本当にありがとうございます。アイドル人生の中で出会えた皆さん、そして経験した全てが大切な宝物です。今日でアイドルとしての工藤陽葵は最後になりますが、これからも皆さんに応援してもらえるような存在になれるように頑張ります。次のキャプテンは望実ちゃんに託してありますので、みんなで新しいグループを作り上げて、アイドルとして過ごす時間を楽しんで、輝いて欲しいなと思っています。辛いこともあったけれど、それ以上に楽しいことばかりで、このグループで活動できたことは私の誇りです。引き続き、グループの事を愛して頂けたら嬉しいです。今まで私を応援してくれて、本当にありがとうございました」
アンコールを終えてステージを降りると、ああ、終わったんだな、と胸がいっぱいになった。途中で泣きそうになったけれど、なんとか泣かずに、最後まで笑顔でやりきった。
「みんな泣いてるじゃんー!」
先にステージを降りていたメンバーは最後の挨拶をモニターで見ていてくれたようで、泣いてくれているメンバーも多い。
「最後の挨拶聞いてみんなこんなですよ!」
「完全に泣かせに来てたよね」
「ファンのみなさんも今頃泣いてますよ」
それぞれそんなことを言ってくるけれど、別に泣かせてやろうなんて思って最後の挨拶をしたわけじゃないんだけどな。
美月を探したくなるけれど、顔を見たらほっとして泣いてしまいそうだからぐっと我慢する。
「卒業おめでとうございます! これからも応援しています」
「ありがとう! 里香ちゃんのことも応援してる」
「ソロデビュー楽しみにしてます!」
「まだ準備できなくてやばい! 未央ちゃんにがっかりされないように頑張るね!」
「コンサートが決まったら絶対行きます!」
「咲希ちゃん来てくれるの? 嬉しい! コンサートできるように頑張るー!」
「一緒のグループで活動できて幸せでした!」
「え、幸せだなんて言ってくれるの? 私も美結ちゃんと一緒に活動できて幸せだったよ! ありがとう!」
メンバー1人ずつと写真を撮りながら、一言二言会話をする。卒業を発表してから個別で話す時間は作ってきたつもりだけれど、もっと沢山話したかったな、と思ってしまう。
「……ぐすっ、うう、ひまりさんー!!」
「おお……美南ちゃん大丈夫?」
美南ちゃんの番が来たと思ったらびっくりするくらい泣いている。
「もう、美月さんとの絡みを見ることが出来ないと思うと辛すぎます……卒業されてからもずっとラブラブでいてください!」
「待って、それで泣いてるの?」
「いや、もちろん陽葵さんの卒業が悲しいっていうのもありますけど」
「なんかついでな感じ」
さすが美南ちゃん、最後までブレない……
「美南がすみません……」
「望実ちゃん、美南ちゃんも、グループのこともよろしくね。望実ちゃんらしく、気負わずにね」
「はい! 私らしく頑張ります」
美南ちゃんの次に待っていた望実ちゃんが申し訳なさそうに言ってくる。3期生で先輩も後輩も居る状況で、間に立ってキャプテンを務めるのは大変だと思うけれど、望実ちゃんなら大丈夫だと思う。
「陽葵、卒業おめでとう。これからもよろしくね!」
「凛花、ありがとう。こちらこそ! まあ、すぐに会うけどね」
凛花とは近いうちにご飯に行こうと話をしているし、同期で他のメンバーよりは会う機会が多いだろうからこれからも仲良くして欲しい。先に卒業して待ってるよ!
「陽葵さん、ありがとうございました! ずっと大好きです!」
「柚葉ちゃん、ありがとう。私もー!」
柚葉ちゃんが元気よく駆け寄ってきてくれて、好きだと言ってくれた。柚葉ちゃんは美月と同期で仲がいいからこれからも会うと思う。持ち前の明るさでグループを引っ張っていって欲しい。
最後に美月の番が来て、優しく見つめられたら涙腺が緩んでしまった。
「……っ、みつきたんお疲れー!!」
「ぉわっ……陽葵ちゃん、今日までお疲れ様」
顔を見られないように抱きつくと私の勢いに驚いたみたいだけれど、しっかり抱きとめてくれて背中をさすってくれる。
「凄くかっこよかったよ。陽葵ちゃんはいつまでも私の憧れ。今日まで頑張ってくれてありがとう」
「ぐすっ……美月が泣かせてくるー」
本当は顔を見ただけで泣いてたって美月にもきっと気づかれてると思うけれど。顔を上げれば涙を指で拭ってくれて優しく笑ってくれる。こうなるのが分かってて、皆と写真を撮り終わるまで待っててくれたのかな。
「わぁ、そんなに泣かないで……すみません、誰かティッシュくださいー!」
涙が止まらない私に美月がおろおろしているけれど、一度溢れた涙はなかなか止まってくれなかった。
「落ち着いた?」
「ん。ありがとう」
落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた美月から離れればホッとしたように笑われてちょっと照れくさい。こんなに泣くはずじゃなかったのに。カメラにも撮られてたみたいだし、使われたら恥ずかしいな……
最後に、お世話になったスタッフさん達にも挨拶をして、コメントを撮ってもらってこれで本当に終わり。グループでやりたいことは全部できたし、これからは自分の夢を追いかけよう。
最後の瞬間まで見届けようと少し離れて待っていてくれる美月を見れば、目を細めて笑ってくれて、美月がそばに居て笑ってくれるだけで何だってできる気がする。
「美月、お待たせ」
「これから陽葵ちゃんが好きな物、なんでも食べに行こうー!」
「うわ、迷うー。焼肉かお寿司か……あ、ラーメンもいいな」
「ふふ、かわい。存分に悩んで。順番に全部食べに行こうね」
いつもそばで支えてくれてありがとう。これからもずっと一緒にいてね。
応援ありがとうございます!
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