婚約破棄されたら、最強魔導師が『ようやく俺のものになるな』と笑いました

ほーみ

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 社交界の華ともてはやされていた私、リリアーナ・エヴァンジェリンは、今まさに婚約者である第三王子――レオナード・フォン・ルーベンス殿下から婚約破棄を告げられていた。

「リリアーナ、お前との婚約は今日をもって解消する」

 宮廷の大広間に響き渡る冷ややかな声。そこには、何の迷いもない。
「理由をお聞かせ願えますか?」
 私は努めて冷静に問いかけた。周囲には既に噂好きな貴族たちが集まり、興味津々といった様子で私たちを見つめている。

「理由は簡単だ。お前は冷たく、傲慢で、愛のない婚約者だったからな。それに比べ、エリスは心優しく、純粋で、俺を心から愛してくれている」

 レオナードは隣に立つ令嬢――エリス・カーライルに微笑みかけた。彼女は儚げな美しさを持つ公爵令嬢で、最近になって急激に王宮での影響力を増している人物だ。

「リリアーナ様、申し訳ありません。私はただ、殿下をお支えしたいと――」

 エリスはしおらしく涙を浮かべながら私に頭を下げた。その姿を見た周囲の貴族たちが「まあ、なんて健気な……」「これではリリアーナ様のほうが悪者のようでは?」とひそひそ話している。

 だが、私は動じなかった。
「……承知しました。では、この婚約破棄を正式に受け入れます」
 そう告げると、広間がざわめいた。誰もが私が取り乱すと思っていたのだろう。だが、私はそんな浅はかな女ではない。

 そして、この瞬間を待ち望んでいた男が一人――

「リリアーナ、お前はやっと自由になったな」
 突如として広間の空気が一変した。低く響く声が、私の背後から聞こえてくる。
 ――ルシアン・ヴァルフォード。
 漆黒のローブをまとった男が、悠然と歩み寄る。彼の金色の瞳が妖しく光り、薄く笑みを浮かべていた。

「ルシアン……?」
 レオナードが眉をひそめる。宮廷内の誰もが、この男のことを知っている。帝国最強の魔導師。王宮付きの宮廷魔導師でありながら、ほとんど姿を現さず、謎めいた存在。


「お前、何のつもりだ?」
「何のつもりもない。ただ、ようやく俺のものになるな、と思っただけだ」
 彼は私を見つめながら、愉快そうに笑った。


「お前のものだと……? ふざけるな、リリアーナは――」
「リリアーナ”だった”、だろう? お前が捨てた瞬間から、彼女はお前のものではなくなった。……だから、俺がもらう」
 ルシアンはゆっくりと私の手を取った。大きな手が驚くほど熱い。

「俺はずっと待っていたんだ。お前が婚約者という鎖から解き放たれる日をな」
 金色の瞳が、逃がさないと言わんばかりに私を見つめる。


「っ……! ふざけるな!」
 レオナードが怒りを露わにするが、ルシアンは意に介さない。

「ふざけてなんかいないさ。リリアーナ、お前には選択肢がある。ここに残るか――それとも、俺と来るか?」


 その問いに、私は……
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