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蒼の皇国 編
もう二度と手放さぬように
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創造神カノンとの戦いの後、コウイチは倒れるように眠りに落ちた。
目を覚ましたのは2日後。
殺風景な病室で看病してくれる人もいなかった。
結構頑張ったなのなぁ、と少ししょんぼりしていると病室の扉が静かに開いた。
入室してきた人物は驚いた素ぶりなく、優しく微笑んで目を細めた。
「コウイチさん、目を覚ましたんですね」
艶やかに輝く長い黒髪に夜空を映し取ったようなキラキラとした黒い瞳、そして2つの黒を映させるようなくすんだ黒のドレス姿の少女。
記憶にあるエルフ少女とは大きく異なるが、紛れもなくアイリスだ。
「……少し、久しぶりだな」
コウイチは自分のしでかした責任の重さを噛み締めながら微笑んで返す。
すると、アイリスはため息をついた後、ベッドに飛び乗りコウイチの肩を押さえ付けて馬乗りになった。
「なっ、ちょ……!?」
「なんですか、その態度は? あなたは悪いと思うような事をしたのですか? 自分の行動に胸を張れないのですか?」
「……そう言われてもな」
黒剣:夜天を渡した事でアイリスの人生を大きく変えてしまった。軽い気持ちで渡していいようなものでは無かった。
後悔が無い、と言えば嘘だ。
正直な所、どんな顔をすれば良いか、どんな言葉をかければいいか分からない。
「私はあなたに感謝しているんですよ?」
「どうして? 俺のせいでお前の人生滅茶苦茶になったんだぞ? 恨まれても感謝される様なことはないだろ」
「それが違います」
アイリスは首をゆっくりと横に振り、顔を寄せてくる。
唇と唇が数センチまで接近する。
コウイチの心臓の音は聞こえてしまいそうなほどに高まる。
目と目が合う。
「この力が無ければ真祖の吸血鬼に対しての劣等感を抱いていたでしょう。
この力がなければ創造神と戦い、今この結果を勝ち取っていなかったでしょう。
この力が無ければ今こうしてあなたに馬乗りになっていません。以前の私は自分の気持ちを素直に伝えるのが苦手でした。あなたと一緒に居たいと思っていても言葉には出来ずにいたんです。
あなたがこの力をくれたから今の私が在るんです」
コツン、と額と額が合わせられる。
同時にコウイチの心臓の音が更に跳ね上がる。
「あなたの力を欲しがる人は沢山います。最初は隠していたのに九尾の狐が嗅ぎつけ、更にはメアリが個人的に手を出し始める。今では蒼龍皇に真祖の吸血鬼までも参戦してきた。
どいつもこいつもわたしに無いものばっかり持っていて何も勝ち目が無い。もし、この力が無かったらわたしは今ごろ自信を無くして塞ぎ込んでいたと思う」
「そんな事ないだろ。アイリスは、その……俺に好みストライクゾーンな訳ですし」
「それを言ってくれた事ないじゃない」
「そんなの言えるワケないだろ!?」
「じゃあ!? 少しの間だったけどわたしの船で寝泊まりしてたのに、何で手を出さなかったの!! お風呂だって覗きにこなかったじゃない!?」
「行けるか! お前は命の恩人だし……気になってる子に嫌われたくないだろ!?」
「そんな理由で?」
「そんな理由って……純粋な童貞のチキンハートを舐めんなよ?」
しばしばの沈黙の後、どちらからとも無く笑い声が溢れてくる。
実にくだらない。
たったひと言あれば運命は大きく変わっていたに違いない。
アイリスが精霊になる事も無ければ、創造神カノンに敗北していたかもしれない。
「遠慮した結果、ですね」
「そうだな」
肩の荷が軽くなった一方でコウイチの心に重苦しい何かがのしかかって来る。
その正体はタイミングを逃した謝罪の言葉だ。
感謝の言葉で殴られた後に謝罪の言葉なんて出せる訳がない。
「コウイチさん、今あなたの感じているソレはわたしからの罰です。一生かけてわたしに返してくださいね」
アイリスの数センチ先にある唇が悪戯っぽく三日月を作った。
「まったく、酷い女だ」
「はい、酷い女です。そんなわたしでも愛してくれますか?」
コウイチはアイリスの背中に両手を回し、
もう手放す事がないように、
しっかりと抱きしめて、
その数センチを引き寄せた。
目を覚ましたのは2日後。
殺風景な病室で看病してくれる人もいなかった。
結構頑張ったなのなぁ、と少ししょんぼりしていると病室の扉が静かに開いた。
入室してきた人物は驚いた素ぶりなく、優しく微笑んで目を細めた。
「コウイチさん、目を覚ましたんですね」
艶やかに輝く長い黒髪に夜空を映し取ったようなキラキラとした黒い瞳、そして2つの黒を映させるようなくすんだ黒のドレス姿の少女。
記憶にあるエルフ少女とは大きく異なるが、紛れもなくアイリスだ。
「……少し、久しぶりだな」
コウイチは自分のしでかした責任の重さを噛み締めながら微笑んで返す。
すると、アイリスはため息をついた後、ベッドに飛び乗りコウイチの肩を押さえ付けて馬乗りになった。
「なっ、ちょ……!?」
「なんですか、その態度は? あなたは悪いと思うような事をしたのですか? 自分の行動に胸を張れないのですか?」
「……そう言われてもな」
黒剣:夜天を渡した事でアイリスの人生を大きく変えてしまった。軽い気持ちで渡していいようなものでは無かった。
後悔が無い、と言えば嘘だ。
正直な所、どんな顔をすれば良いか、どんな言葉をかければいいか分からない。
「私はあなたに感謝しているんですよ?」
「どうして? 俺のせいでお前の人生滅茶苦茶になったんだぞ? 恨まれても感謝される様なことはないだろ」
「それが違います」
アイリスは首をゆっくりと横に振り、顔を寄せてくる。
唇と唇が数センチまで接近する。
コウイチの心臓の音は聞こえてしまいそうなほどに高まる。
目と目が合う。
「この力が無ければ真祖の吸血鬼に対しての劣等感を抱いていたでしょう。
この力がなければ創造神と戦い、今この結果を勝ち取っていなかったでしょう。
この力が無ければ今こうしてあなたに馬乗りになっていません。以前の私は自分の気持ちを素直に伝えるのが苦手でした。あなたと一緒に居たいと思っていても言葉には出来ずにいたんです。
あなたがこの力をくれたから今の私が在るんです」
コツン、と額と額が合わせられる。
同時にコウイチの心臓の音が更に跳ね上がる。
「あなたの力を欲しがる人は沢山います。最初は隠していたのに九尾の狐が嗅ぎつけ、更にはメアリが個人的に手を出し始める。今では蒼龍皇に真祖の吸血鬼までも参戦してきた。
どいつもこいつもわたしに無いものばっかり持っていて何も勝ち目が無い。もし、この力が無かったらわたしは今ごろ自信を無くして塞ぎ込んでいたと思う」
「そんな事ないだろ。アイリスは、その……俺に好みストライクゾーンな訳ですし」
「それを言ってくれた事ないじゃない」
「そんなの言えるワケないだろ!?」
「じゃあ!? 少しの間だったけどわたしの船で寝泊まりしてたのに、何で手を出さなかったの!! お風呂だって覗きにこなかったじゃない!?」
「行けるか! お前は命の恩人だし……気になってる子に嫌われたくないだろ!?」
「そんな理由で?」
「そんな理由って……純粋な童貞のチキンハートを舐めんなよ?」
しばしばの沈黙の後、どちらからとも無く笑い声が溢れてくる。
実にくだらない。
たったひと言あれば運命は大きく変わっていたに違いない。
アイリスが精霊になる事も無ければ、創造神カノンに敗北していたかもしれない。
「遠慮した結果、ですね」
「そうだな」
肩の荷が軽くなった一方でコウイチの心に重苦しい何かがのしかかって来る。
その正体はタイミングを逃した謝罪の言葉だ。
感謝の言葉で殴られた後に謝罪の言葉なんて出せる訳がない。
「コウイチさん、今あなたの感じているソレはわたしからの罰です。一生かけてわたしに返してくださいね」
アイリスの数センチ先にある唇が悪戯っぽく三日月を作った。
「まったく、酷い女だ」
「はい、酷い女です。そんなわたしでも愛してくれますか?」
コウイチはアイリスの背中に両手を回し、
もう手放す事がないように、
しっかりと抱きしめて、
その数センチを引き寄せた。
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みんなの感想(4件)
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悪役をここで出すなら、もっとインパクトを付けた方が良いかと。
そう、空中都市を地上にぶち落とすくらいの大事件をいきなり起こして。
それも空中都市を浮かべている装置に入ってる晶石の暴走とか、主人公にしか解決出来ない問題で。
武器とスキルが強いだけに、スローライフと都合の良いラブコメ感強めなのが、読者としたは焦れてしまって、作者からの視点からすれば、設定が勿体ない。
ですが、この超魔法技術の異世界は間違いなく面白い。
面白いだけに、序盤の展開に深みが無くて惜しい。
私個人の意見は以上です。
本当に貴重な感想ありがとうございます!
ネタバレになってしまうので言いたくても言えない事ばかりなんですが、参考にさせて頂き精進して行きます!
序盤の深みの無さは重要なのに目も当てられないですね……
2話目
まず、ここで、黒龍クロが気まぐれを起こして修行を付けてやろう、と主人公を鍛えさせるべきだった
それから修行と鍛治の楽しい日々を入れて数話ほど引っ張って、最後の試練として黒竜クロを殺しに来る
死に損ないにも関わらず無茶苦茶に強いクロと、主人公と神獣ハクの死力を尽くしたバトルを入れるべきだった
その報酬としてクロの晶石を手に入れ、黒剣を作り上げる、という流れにするべきだった
そう、最序盤で異世界での出逢いと別れ、裏切りと信頼、人生の儚さなど、を何もかもをここで提示するべきだった
簡単に言うと、この序盤で黒竜クロ関連(過去、対立、洞窟で朽ちようとしていた理由)がもっと気になるようにすれば、間違いなく伸びます
参考までに
ありがとうございます。
凄く参考になります!
確かにクロ関連の内容がとても薄いですね。もっとここで過去話はいれて深みや気になる要素を提示すべきだったですね。
ただ、戦うことに関してなんですが、この物語における主人公は“添えておくだけ”なのが重要だったりするので、戦闘関係の修行パートは敢えて省いて感じです。
おかしい。そこは狼耳ロリの神獣人にして忠犬系ヒロインにするべきでは無いのか。
異世界転生オタクのボブはそう訝しんだ。
感想ありがとうございます!
あの子はまだ神獣に至って間もない子供ですので、今後に期待してあげてください!