3 / 18
3:かつての同胞
しおりを挟むそうして無事、レダの街についたミラリアとシルヴァン。
早々に簡易宿の部屋を借り、二人は作戦を練りに入る。
「君のお陰で何とかここレダの街に着いた。首都ラクティまであと少しだ。しかし、ここにこうして留まっているうちにも、奴らは行く手で私を待ち伏せているだろうな」
最低限の調度品しかない宿の部屋で、シルヴァンが息をついて言う。ミラリアはシルヴァンに問う。
「それほど重要なものなんですか?その密書は」
部屋の中でも仮面は外さずにシルヴァンは頷く。
「密書の内容は私にも分からない。封がなされているからだ。だが、死んでいった供の者達の為にも、なんとしてもこれは届けなければならないのだ。ミラリア、力を貸してくれ」
ここでも修道女姿のミラリアは、真顔で頷く。
「手を貸すと言ったのに嘘はないわ。幾ら相手がいようと、突破してみせるわ。勿論、二人でよ」
そこでミラリアはふと何かに気付いたようで、シルヴァンに聞いた。
「ところで追っ手はどこからかかっているの?エクトール?ソルドガル?もしくはその両方とか?」
「十中八九ソルドガルだな。エクトールの連中に、国境を越えてまで、私を狙う者はいないだろう」
シルヴァンは仮面に手をやり自嘲するが、ミラリアはその言にどこか引っ掛かりを覚えた。
「シルヴァンはそんなに有名人なの?私は田舎者だから良く知らないけど」
「…まあ、知らぬが花という言葉もある。それより問題は、ここをどう切り抜けるかだ」
ミラリアは察した。このシルヴァンは、素性を隠した重要人物なのだろうと。そして密書ごと、ソルドガルが葬り去ろうとしているんだと。
ミラリアがまだヘルヴァルド時代の、かつての武断的なソルドガルと違い、帝王レルギスを失い、王弟であったルグモントが引き継いだ今のソルドガルは、悪い意味で手段を選ばなくなっているのだろうかと。
「…相手次第では、手がなくはないわ。あまり使いたくないけど」
「…手段があるならこの際贅沢はいえない。その手というのを教えて欲しい」
ミラリアは神妙な面持ちで、シルヴァンに「奥の手」を話した。
シルヴァンは目を見張って驚いたが、やがて苦笑して、
「それが本当なら効果はあるかもしれないな。一つやってみてくれないか」
と、そう断じた。
☆
やがて、二人は街を出て首都ラクティ目指して街道を下った。
物陰から黒装束が次々と姿を現して、二人を包囲する。
ミラリアは、その黒装束を指さして呼びかける。
「あなた達の上官の参謀イーガンを呼びなさい!転生を果たした黒衣の剣士ヘルヴァルドが話があると!」
黒装束が慌てふためいて動揺する。ミラリアは、彼らがソルドガルの手の者だと確信した。
「なんなら特攻隊長のバルザックでも、いっそのこと今の帝王ルグモントでも構わないわよ!早くしなさい!!」
黒装束の一人が問う。
「今、上官を呼ぶ。名前は明かさないが、貴方がかつてのヘルヴァルドなら見て分かるはずだ。そして、この話が偽りであれば、即刻総攻撃をかける」
ミラリアは、黒装束に、あどけなさの抜けない顔で、にっこりと笑って見せる。
「充分よ、聞きいれてくれて、ありがと」
そうして、やや間を置いて、痩せぎすの灰色の髪をした中年の血色の悪い黒いスーツの男が黒装束をかき分けて、出てくる。
『この姿ではお初よね?相変わらず、顔色悪いわね「イーガン」」』
『貴方はずいぶん変わられましたな。修羅のような以前とは別人のようだ…。おっと、転生されたのでしたな「ミラリア」さん』
ミラリアは、ことさら真面目ぶってイーガンに言う。
「相変わらず気の利かないやつだ。こういう時は酒の一瓶でももってこいと、以前からいっているだろう」
このミラリアの言動は、イーガンにも覚えがあったようで、彼はこう切り返す。
「昔の花見の席での話でしたな…。ヘルヴァルドは転生しても、つまらぬことを覚えているようで…」
ミラリア達は互いを確認したうえで、交渉に入った。
「ここは見逃してくれないかしら?ただとは言わないわ。条件は、この場に置ける件の密書の開封よ」
シルヴァンが、ここで声を荒げてミラリアに言う。
「裏切る気か!ミラリア!!知り合いがいるから通してくれるよう頼むといったのは嘘だったのか!」
「シルヴァン、私の予想では、その密書は9割方ダミーよ。私を信じてここで開けてみてくれない?」
シルヴァンは、観念したように荷物から件の密書を取り出す。
「これが例の密書だ。間違いのないように、ミラリア、君がここで開けてくれ」
ミラリアが密書の封を開く。そして、その筒の中の紙は、白紙だった。
「こういうことよ。わざわざこんなに目立つ重要そうな人物に、少ない供で密書なんて運ばせる訳ないでしょ。多分だけど、これは囮で、本物は、別ルートでこっそり運ばれてるわね」
「ぬう…」とイーガンが忌々しそうに、呻く。
「私は、まんまとはめられたということですかな…。そういうことなら、無駄な争いをすることもない。はめられた者同士、元の立ち位置に戻りましょう。ヘルヴァルドも、来ていただけますな?」
ミラリアは、しかし、この誘いに首を振った。
「私が仕えていたのは、勇壮で、武断派で、自らの力を信じて戦ってきた前帝王レルギス様よ。今の帝王、悪名高いルグモントに仕えるのはまっぴら。転生もしたし、後は好きにやらせてもらうわ」
「次に会う時は、敵同士かもしれませんよ?」イーガンは問う。
「今さらでしょ。その時は恨みっこ無しで頼むわね」とこれに返すミラリア。
一人話から置き去りにされていたシルヴァンが立場なげに口を挟む。
「えっと、もう通ってもいい所なのかな?私は先を急ぎたいのだが…」
「好きにしろ。おい、道を開けてやれ!」
イーガンの号令で、黒装束達が、ザッ!と統制の取れた動きで二人に首都ラクティへの道を開ける。
「ありがと、イーガン。バルザックにもよろしく伝えておいてね」
「あの特攻斧男にこの話が理解できるとは思えませんが…確かに承った」
…こうして、ミラリアとシルヴァンの二人は、型破りな交渉ながらこの追手を抜けて、首都ラクティにたどり着くことに成功したのであった…。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる