【完結】五年苦しんだの、次は貴方の番です。~王太子妃は許す気はありません~

なか

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5話

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「ま、待って……待ちなさい。わ、私は……」

 カミラ王妃が何かを言いたげだが、時間はあまりないの。
 彼女に付き合ってあげられるほど私は暇ではない。

「お話する気はない。商会の皆様をお呼びしているの。これ以上は待たせられないわ」

「し、商会? なにをする気で?」

「ふふ、分からない?」

 先程、文官に入城申請したのは、商会の方々だ。
「商談がある」と、書状を送って招待している。

 このハーヴィン国だけでなく、我が祖国のシルヴァン王国の商会の方まで呼んでいる。
 商会は事業として、時事的情報を民に伝える刊行物を販売している。
 つまり情報を広めるのに適した方々というわけだ。

「民に情報を広めるのって、商会の皆様にご協力頂ければ一番はやいと思いませんか。カミラ王妃」

「っ!! や、やめ」

 あぁ、どうやら私がやろうとしている事を察したようだ。
 止めようと立ち上がる王妃様。
 愛息を守るのは立派だけど、なにも分かっていないのね。

「止まりなさい。カミラ王妃」

「駄目よ、エリクに直ぐに知らせないと––」

「そうすれば、貴方に今渡した証拠を商会の皆様にお渡ししないとね」

「っ!!」

 もう詰んでいるのよ。
 滑稽ね。

 結局、愛息のために立ち上がったカミラ王妃は……自らの失態を知られたくないのか足を止める。
 そんな彼女の前で、たおやかに微笑んだ。

「理解したなら、黙って待ってなさい」

「あ、貴方……なんで」

「ここから動けば、即座に商会に全て売り渡してあげる。分かったわね?」


 カミラ王妃は悔しそうに表情を歪めて、苦悶で書類を握りしめる。
 結局、わが身可愛さを優先するのは彼女らしい。
 ……意味ないのにね。

 カミラ王妃へと背を向け、向かうべき場所へ歩む。
 私が作ったこの劣勢な状況で彼女は……あっけなく膝を落としていた––––


 その後、入城申請をしていた両国の商会の皆様を迎える。

「フィリア王太子妃様……お目にかかれて光栄でございます」
「フィリア様、シルヴァン王国にまで書簡を届けてくださり嬉しく思います!」

「皆様、稚拙な私の事業紹介にご足労いただき、大変嬉しいです」

「いえいえ、王太子妃様自らの事業計画。ぜひお聞きしたく」
「そうですな。楽しみです」

 商会の方々の瞳は、笑みや好奇と、様々な感情が躍る。
 ただ一貫しているのは、総じて彼らは私を査定している……表舞台に出なかった王太子妃からの突然の事業計画の誘い。

 私自身が信頼できるのか、商業相手として利になるのか。
 その査定は始まっているからこそ……私は彼らの査定を跳ね上げる逸品をご提供してあげなくてはね。

「では皆様、こちらへ」

「城内の応接室はあちらだと聞いておりましたが……」

「いえいえ、もっと良い場所があります。そちらの騎士様、お客様もおられますので護衛を頼めますか」

 城内を歩く傍ら、巡回中の騎士様にも声をかける。

「フィリア王太子妃様、王宮内から出ておられたのですね。護衛の任、しかと引き受けました。お付きいたします」

 王宮内にはびこっていた俗物達とは違い、騎士や文官は主従を遵守してくれている。 
 有難い限りだ、本当に……
 今から向かう場には、ギャラリーが多ければ多い程に都合がいいのだから。

「さぁ、こちらへ」

 こみ上げる笑みを抑えながら、向かうは書庫。
 誰も使っていないと思われていた、誰もいないと思われているはずの場所。
 だけどそこにある、姦淫の会合を皆様にお届けしてあげよう。

「フィリア王太子妃様、こちらは……ただの書庫では?」

 書庫に辿り着き、商会の方が疑問と共に首を傾げる。
 そんな彼らに、人差し指を立てて唇の前に置く。
 シンっと静まった静寂の中、書庫の扉から甘く、艶やかな声が聞こえ出した。

「っ!!」
「な……これは」

 皆、分かったのだろう。
 この書庫の中で何が行われているのか……しかし誰なのかまでは分かるまい。
 だからこそ、全てをお披露目してあげよう!!

「商会の皆様、実は今回私がお披露目するのは事業計画ではなく。より儲けとなる情報、そして許されざる王家の大罪となります」

 ゴクリと喉を鳴らす方々を前に、私は文官達の庶務室から取っていた書庫の鍵を持つ。
 そして……扉の鍵を開け、一切の躊躇なく開いた。

「さぁ、ご覧ください!」
 
 開かれた扉の先、我先にと商会の皆様が『情報』を求めて歩む。
 放たれた書庫の中では、似つかわしくない甘い香水の匂いが充満していた。
 そして……書庫の中央では。

「な!? どうして!?」

「きゃあ!」

 服をはだけさせた公爵令嬢ロザリンの胸を揉み、首筋にキスを落としていたエリク。
 そんな彼のベルトを外して、股座に手を入れていたロザリン。
 紛れもない、あられもない、王太子と公爵令嬢の姦淫の場のお披露目だ。

「な……な。なにを……な、なな……なにを。す、直ぐに出ていけ!」

 焦り、動揺しているエリク。
 出て行くはずがないじゃない、稚拙な王太子様。

「王太子殿下! これは一体なんですか!」
「な……なんと……妻帯の身でありながら、これは国際問題ですよ!」
「我が国の王女がいながら、何をしているのですか!!」

 商会の方々が、一斉にエリクへと責めと怒りの言葉を吐く。
 当然だ、王太子が妻帯の身ながら、こんな姿を晒しているのだから。
 そして彼は情けなくも、青ざめた表情で視線を泳がせる。

「エリク、この現場の説明をしてくださいますか? 王太子として、妻帯者として、貴方にはその責任があるはずよ」

「フ、フィリア……!?」

 微笑みと共に、エリクの前へと躍り出る。
 優雅に、たおやかに、そして悲壮を感じさせぬままに、彼を見下ろしながら。

「さぁ、皆の前で説明なさい。エリク」

 驚き、動揺、焦り、迷い、屈辱。
 様々な感情で揺れ動くエリクとロザリンだけど、皆に囲まれた状況に身体を震わせている。

「あ……あ……これは」

「答えろと言っているのよ。皆の前でね」

 さぁ、今までの雪辱を晴らそう。
 盤上の準備は整った。
 開戦といきましょう、エリク。

 両国の商会の方々が知った今、もう情報は止まらず広がっていく。
 一年の準備をしたの。
 この国、そして我が祖国すら巻き込んで、貴方の責任問題へ発展させるためにね。

 私を苦しめた暗躍を、しっかりと貴方達に報いという結果で返してあげる。
 私––フィリア・シルヴァンは、王家の誇りに懸け、民の命を背負う者として。
 貴方を決して許しはしない。
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