【完結】五年苦しんだの、次は貴方の番です。~王太子妃は許す気はありません~

なか

文字の大きさ
23 / 35

22話

しおりを挟む
 頼み込むエリクに対して、私はしゃがみ込んで耳元で囁いた。

「一生そこで頭を下げてなさい。私は貴方を裁くために、最後の仕上げに向かうから」

「ま、まって……待ってくれ」

 すがりつくように手を伸ばすエリクを置いて、私は吐き捨てるように呟く。

「邪魔よ、貴方の戯言は聞いてられないの」

「フィリア……俺は、俺はただ後悔して……」

「貴方の罪はもう直に定まる。全て明るみに晒してあげるから」

「ま……待ってくれ。待ってくれよ、頼むから……フィリア」

 エリクは伸ばしていた手を下ろして嗚咽する。
 むせび泣く彼だけど……もう結果は変わらない。
 私は許す気など、ないのだから。

「ロザリン達を王城に連行します。数人は残ってエリクの監視を」

「承知いたしました」
 
 私は騎士達に指示をしながら、ある一人に声をかける。

「それと、リューグ……一つだけ頼みたい事があるの」

「どうされました、フィリア様」

「我がシルヴァン王家の名を出してもいいから。頼みたい事があるの––––」
 
 王城に戻る前。
 
 そして、万全を期して王城へと戻る事とした。


   ◇◇◇


 王城前にて、夕暮れになるまで時間を置いて入城する。
 これだけ時間を空けたのには……最悪な可能性を危惧しているからだ。
 そして恐らく、その心配は当たっていた。

「フィリア妃、帰ってきたのだな」

 ロザリン達が騎士団に連行される中、ハーヴィン国王陛下が出迎えた。
 偶然かのように振る舞っているが、恐らく城の中で待っていたのだろう。
 白々しい態度に辟易するが、一応は礼をする。 

「ハーヴィン国王陛下、お会いできて光栄です」

「実は話があってな、時間はあるか?」

「有難きお誘いですが、私の方は調査の件で立て込んでおりますので……」

「調査とは、なにか分かったのか?」

 探るような言葉。
 恐らく報告は受けているだろうに。

「エリク達の不義、そしてカミラの罪まで証拠は掴みました。それに……私の身を穢う診断をした医師もこれから聴取します」

 ここで素直に真実を告げたのは、すでに陛下には伝わっているだろうから。
 それゆえ、予防策を講じた今こそ……素直に話すべきだ。

「そうか、ご苦労だった」

「……」

「しかし、テルモンド公爵家の医師だが……申し訳ないが、彼の身柄はこちらに引き渡してもらう」

 これから聴取しようとしていた、私に『子が出来ない』と診断した医師。
 その身柄を渡せという言葉に、思わず顔を上げる。

「理由をお聞きしても?」

「実は我が王家にて、その医師を別件で裁くべき案件がある。カミラの証言もあり……その医師は過去に収賄の罪を犯している疑いがある」

「だからこちらが確保した身柄を引き渡せと?」

「問題があるか? これは国王である余が自ら調べている案件だ。そちらよりも重要性は高いと心得てくれ」

 ハーヴィン国王陛下の言葉を聞き入れる事などできない。
 民の怒りが好調な中、医師の聴取が遅れて事態を風化させられる訳にはいかない。
 そんな私の不愉快な気持ちを察したように、ハーヴィン国王陛下が肩を叩いてくる。

「分かっているな。これは余の指示したものだ。背けば背反行為に等しいと心得よ」

「納得できるはずがありません。こちらが調査して手に入れた身柄です」

「自我を出し、私情での調査をしているのが分かる発言だな。自らの地位や評価のために、余の指示を聞く気もないとは……王女としても不甲斐ない行為だ」

 ハーヴィン国王陛下がため息と共に、私へと呟く。

「私情で王家全体の秩序を乱す真似はやめよ。医師の身柄を渡しなさい。加えてロザリン達の調査も余が進めておこう」

「なっ!?」

「貴殿も友好のために来たのなら分かってくれ。事実が全て明るみになれば、王家の権威が崩れればその時はこの国が終わる。民に知らせる情報は全てでなくても良い」

 王家の体裁のため、集めた証拠は全てハーヴィン王家に渡せ。
 横暴すぎる提案に吐き気さえした。

「……この期に及んで、まだ王家の権威のため罪を隠蔽する気ですか」

「いい加減にハーヴィン王家の体裁も考えよ。民に知らせぬ方が良い事実もある。余がそれを取捨選択してやるというのだ。これは両国のためでもある」

「それは、貴方が妾を愛していた事実を隠蔽した事もでしょうか?」

「っ!!」

 私が知る事実を告げた途端、ハーヴィン陛下の瞳が見開かれる。
 まさかカミラから聞いていると思わなかったのだろう。

「ようやく……カミラが王宮から消えた今、余とあの子の王宮が戻ってきたというのに…………フィリア妃、全て忘れて余の言う事を聞け」

「ハーヴィン陛下。私は突き止めた事実を全て公表するだけです」

「ならん。背けば……余も手段を選ばぬぞ」

 肩を掴まれて呟かれる言葉。
 国王陛下の脅す言葉は低く、肩を掴む力が徐々に強くなっていく。

「陛下は私に、裁く権利はないと仰るのですね」

「あぁ……その通りだ。国家の秩序のためにも、余が情報を精査し、国が乱れぬ程度にエリク達を裁く。それでよいな? 受け入れろ」

 あぁ、そう。
 隠蔽体質の根深い王家、特に王家の権威を気にする陛下を警戒して良かった。
 講じていた策が、大成功しそうだ。

「––––ではそれを、皆様にご説明してはいかがですか? 陛下」

「なにを言っている?」

「リューグ。連れてきて」

 私の指示に、リューグは頷いて王城の外へと走っていく。
 呆気にとられていたハーヴィン国王陛下だが、やがてその表情が驚きに変わっていく。

 なぜか?
 それはリューグに連れられ、このハーヴィン王国の貴族当主達がやって来たからだ。
 中には公爵位の方まで呼んでいる。

 一年の準備、味方になってくれそうな貴族は当然調べていた。
 やって来た貴族達は、我が祖国とも商いで交流を持ち、此度の王家の騒ぎに怒りの声明を出し、王家に不信感を抱く方々だ。 

「さて、ハーヴィン国王陛下。今の情けない王家の事情……陛下の隠蔽気質を来て下さった貴族様にご説明なされては?」

 告げた言葉、迫って来る貴族家の皆様。
 法の秩序を保つべき王家が、体裁のために罪の選定を行いたい……
 そんな理由を、不信感を抱く貴族家の皆様が納得するはずがない。

「先程の言説、貴族の皆様に納得していただけるでしょうか? 王家の体裁、権威を保てますか?」

「ぐっ……フィリア妃。またも……余の決定を遮る気か?」

「ええ、だって私は今、王太子妃としてここにいるわけではないもの」

 ハーヴィン国王陛下も理解しているからこそ、表情を歪めて悔しげに私を睨む。
 そんな陛下へと、嘲笑と共に言葉を告げた。

「私はシルヴァン王家の代表として、この王家を最後まで裁くわ。絶対に止まる気はない」
しおりを挟む
感想 238

あなたにおすすめの小説

6年前の私へ~その6年は無駄になる~

夏見颯一
恋愛
モルディス侯爵家に嫁いだウィニアは帰ってこない夫・フォレートを待っていた。6年も経ってからようやく帰ってきたフォレートは、妻と子供を連れていた。 テンプレものです。テンプレから脱却はしておりません。

実兄の嘘で悪女にされた気の毒な令嬢は、王子に捨てられました

恋せよ恋
恋愛
「お前が泣いて縋ったから、この婚約を結んでやったんだ」 婚約者である第一王子エイドリアンから放たれたのは、 身に覚えのない侮蔑の言葉だった。 10歳のあの日、彼が私に一目惚れして跪いたはずの婚約。 だが、兄ヘンリーは、隣国の魔性の王女フローレンスに毒され、 妹の私を「嘘つきの悪女」だと切り捨てた。 婚約者も、兄も、居場所も、すべてを奪われた私、ティファニー16歳。 学園中で嘲笑われ、絶望の淵に立たされた私の手を取ったのは、 フローレンス王女の影に隠れていた隣国の孤高な騎士チャールズだった。 「私は知っています。あなたが誰よりも気高く、美しいことを」 彼だけは、私の掌に刻まれた「真実の傷」を見てくれた。 捨てられた侯爵令嬢は、裏切った男たちをどん底へ叩き落とす! 痛快ラブ×復讐劇、ティファニーの逆襲が始まる! 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

もう、今更です

ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。 やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢アリスは他に想う人のいる相手と結婚した。 政略結婚ではあったものの、家族から愛されず、愛に飢えていた彼女は生まれて初めて優しくしてくれる夫をすぐに好きになった。 しかし、結婚してから三年。 夫の初恋の相手である王女殿下が国に帰って来ることになり、アリスは愛する夫から離婚を告げられてしまう。 絶望の中でアリスの前に現れたのはとある人物で……!?

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

処理中です...