【完結】五年苦しんだの、次は貴方の番です。~王太子妃は許す気はありません~

なか

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22話

 頼み込むエリクに対して、私はしゃがみ込んで耳元で囁いた。

「一生そこで頭を下げてなさい。私は貴方を裁くために、最後の仕上げに向かうから」

「ま、まって……待ってくれ」

 すがりつくように手を伸ばすエリクを置いて、私は吐き捨てるように呟く。

「邪魔よ、貴方の戯言は聞いてられないの」

「フィリア……俺は、俺はただ後悔して……」

「貴方の罪はもう直に定まる。全て明るみに晒してあげるから」

「ま……待ってくれ。待ってくれよ、頼むから……フィリア」

 エリクは伸ばしていた手を下ろして嗚咽する。
 むせび泣く彼だけど……もう結果は変わらない。
 私は許す気など、ないのだから。

「ロザリン達を王城に連行します。数人は残ってエリクの監視を」

「承知いたしました」
 
 私は騎士達に指示をしながら、ある一人に声をかける。

「それと、リューグ……一つだけ頼みたい事があるの」

「どうされました、フィリア様」

「我がシルヴァン王家の名を出してもいいから。頼みたい事があるの––––」
 
 王城に戻る前。
 
 そして、万全を期して王城へと戻る事とした。


   ◇◇◇


 王城前にて、夕暮れになるまで時間を置いて入城する。
 これだけ時間を空けたのには……最悪な可能性を危惧しているからだ。
 そして恐らく、その心配は当たっていた。

「フィリア妃、帰ってきたのだな」

 ロザリン達が騎士団に連行される中、ハーヴィン国王陛下が出迎えた。
 偶然かのように振る舞っているが、恐らく城の中で待っていたのだろう。
 白々しい態度に辟易するが、一応は礼をする。 

「ハーヴィン国王陛下、お会いできて光栄です」

「実は話があってな、時間はあるか?」

「有難きお誘いですが、私の方は調査の件で立て込んでおりますので……」

「調査とは、なにか分かったのか?」

 探るような言葉。
 恐らく報告は受けているだろうに。

「エリク達の不義、そしてカミラの罪まで証拠は掴みました。それに……私の身を穢う診断をした医師もこれから聴取します」

 ここで素直に真実を告げたのは、すでに陛下には伝わっているだろうから。
 それゆえ、予防策を講じた今こそ……素直に話すべきだ。

「そうか、ご苦労だった」

「……」

「しかし、テルモンド公爵家の医師だが……申し訳ないが、彼の身柄はこちらに引き渡してもらう」

 これから聴取しようとしていた、私に『子が出来ない』と診断した医師。
 その身柄を渡せという言葉に、思わず顔を上げる。

「理由をお聞きしても?」

「実は我が王家にて、その医師を別件で裁くべき案件がある。カミラの証言もあり……その医師は過去に収賄の罪を犯している疑いがある」

「だからこちらが確保した身柄を引き渡せと?」

「問題があるか? これは国王である余が自ら調べている案件だ。そちらよりも重要性は高いと心得てくれ」

 ハーヴィン国王陛下の言葉を聞き入れる事などできない。
 民の怒りが好調な中、医師の聴取が遅れて事態を風化させられる訳にはいかない。
 そんな私の不愉快な気持ちを察したように、ハーヴィン国王陛下が肩を叩いてくる。

「分かっているな。これは余の指示したものだ。背けば背反行為に等しいと心得よ」

「納得できるはずがありません。こちらが調査して手に入れた身柄です」

「自我を出し、私情での調査をしているのが分かる発言だな。自らの地位や評価のために、余の指示を聞く気もないとは……王女としても不甲斐ない行為だ」

 ハーヴィン国王陛下がため息と共に、私へと呟く。

「私情で王家全体の秩序を乱す真似はやめよ。医師の身柄を渡しなさい。加えてロザリン達の調査も余が進めておこう」

「なっ!?」

「貴殿も友好のために来たのなら分かってくれ。事実が全て明るみになれば、王家の権威が崩れればその時はこの国が終わる。民に知らせる情報は全てでなくても良い」

 王家の体裁のため、集めた証拠は全てハーヴィン王家に渡せ。
 横暴すぎる提案に吐き気さえした。

「……この期に及んで、まだ王家の権威のため罪を隠蔽する気ですか」

「いい加減にハーヴィン王家の体裁も考えよ。民に知らせぬ方が良い事実もある。余がそれを取捨選択してやるというのだ。これは両国のためでもある」

「それは、貴方が妾を愛していた事実を隠蔽した事もでしょうか?」

「っ!!」

 私が知る事実を告げた途端、ハーヴィン陛下の瞳が見開かれる。
 まさかカミラから聞いていると思わなかったのだろう。

「ようやく……カミラが王宮から消えた今、余とあの子の王宮が戻ってきたというのに…………フィリア妃、全て忘れて余の言う事を聞け」

「ハーヴィン陛下。私は突き止めた事実を全て公表するだけです」

「ならん。背けば……余も手段を選ばぬぞ」

 肩を掴まれて呟かれる言葉。
 国王陛下の脅す言葉は低く、肩を掴む力が徐々に強くなっていく。

「陛下は私に、裁く権利はないと仰るのですね」

「あぁ……その通りだ。国家の秩序のためにも、余が情報を精査し、国が乱れぬ程度にエリク達を裁く。それでよいな? 受け入れろ」

 あぁ、そう。
 隠蔽体質の根深い王家、特に王家の権威を気にする陛下を警戒して良かった。
 講じていた策が、大成功しそうだ。

「––––ではそれを、皆様にご説明してはいかがですか? 陛下」

「なにを言っている?」

「リューグ。連れてきて」

 私の指示に、リューグは頷いて王城の外へと走っていく。
 呆気にとられていたハーヴィン国王陛下だが、やがてその表情が驚きに変わっていく。

 なぜか?
 それはリューグに連れられ、このハーヴィン王国の貴族当主達がやって来たからだ。
 中には公爵位の方まで呼んでいる。

 一年の準備、味方になってくれそうな貴族は当然調べていた。
 やって来た貴族達は、我が祖国とも商いで交流を持ち、此度の王家の騒ぎに怒りの声明を出し、王家に不信感を抱く方々だ。 

「さて、ハーヴィン国王陛下。今の情けない王家の事情……陛下の隠蔽気質を来て下さった貴族様にご説明なされては?」

 告げた言葉、迫って来る貴族家の皆様。
 法の秩序を保つべき王家が、体裁のために罪の選定を行いたい……
 そんな理由を、不信感を抱く貴族家の皆様が納得するはずがない。

「先程の言説、貴族の皆様に納得していただけるでしょうか? 王家の体裁、権威を保てますか?」

「ぐっ……フィリア妃。またも……余の決定を遮る気か?」

「ええ、だって私は今、王太子妃としてここにいるわけではないもの」

 ハーヴィン国王陛下も理解しているからこそ、表情を歪めて悔しげに私を睨む。
 そんな陛下へと、嘲笑と共に言葉を告げた。

「私はシルヴァン王家の代表として、この王家を最後まで裁くわ。絶対に止まる気はない」
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