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22話
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頼み込むエリクに対して、私はしゃがみ込んで耳元で囁いた。
「一生そこで頭を下げてなさい。私は貴方を裁くために、最後の仕上げに向かうから」
「ま、まって……待ってくれ」
すがりつくように手を伸ばすエリクを置いて、私は吐き捨てるように呟く。
「邪魔よ、貴方の戯言は聞いてられないの」
「フィリア……俺は、俺はただ後悔して……」
「貴方の罪はもう直に定まる。全て明るみに晒してあげるから」
「ま……待ってくれ。待ってくれよ、頼むから……フィリア」
エリクは伸ばしていた手を下ろして嗚咽する。
むせび泣く彼だけど……もう結果は変わらない。
私は許す気など、ないのだから。
「ロザリン達を王城に連行します。数人は残ってエリクの監視を」
「承知いたしました」
私は騎士達に指示をしながら、ある一人に声をかける。
「それと、リューグ……一つだけ頼みたい事があるの」
「どうされました、フィリア様」
「我がシルヴァン王家の名を出してもいいから。頼みたい事があるの––––」
王城に戻る前。
私はある可能性を危惧してリューグ達に指示を出しておく。
そして、万全を期して王城へと戻る事とした。
◇◇◇
王城前にて、夕暮れになるまで時間を置いて入城する。
これだけ時間を空けたのには……最悪な可能性を危惧しているからだ。
そして恐らく、その心配は当たっていた。
「フィリア妃、帰ってきたのだな」
ロザリン達が騎士団に連行される中、ハーヴィン国王陛下が出迎えた。
偶然かのように振る舞っているが、恐らく城の中で待っていたのだろう。
白々しい態度に辟易するが、一応は礼をする。
「ハーヴィン国王陛下、お会いできて光栄です」
「実は話があってな、時間はあるか?」
「有難きお誘いですが、私の方は調査の件で立て込んでおりますので……」
「調査とは、なにか分かったのか?」
探るような言葉。
恐らく報告は受けているだろうに。
「エリク達の不義、そしてカミラの罪まで証拠は掴みました。それに……私の身を穢う診断をした医師もこれから聴取します」
ここで素直に真実を告げたのは、すでに陛下には伝わっているだろうから。
それゆえ、予防策を講じた今こそ……素直に話すべきだ。
「そうか、ご苦労だった」
「……」
「しかし、テルモンド公爵家の医師だが……申し訳ないが、彼の身柄はこちらに引き渡してもらう」
これから聴取しようとしていた、私に『子が出来ない』と診断した医師。
その身柄を渡せという言葉に、思わず顔を上げる。
「理由をお聞きしても?」
「実は我が王家にて、その医師を別件で裁くべき案件がある。カミラの証言もあり……その医師は過去に収賄の罪を犯している疑いがある」
「だからこちらが確保した身柄を引き渡せと?」
「問題があるか? これは国王である余が自ら調べている案件だ。そちらよりも重要性は高いと心得てくれ」
ハーヴィン国王陛下の言葉を聞き入れる事などできない。
民の怒りが好調な中、医師の聴取が遅れて事態を風化させられる訳にはいかない。
そんな私の不愉快な気持ちを察したように、ハーヴィン国王陛下が肩を叩いてくる。
「分かっているな。これは余の指示したものだ。背けば背反行為に等しいと心得よ」
「納得できるはずがありません。こちらが調査して手に入れた身柄です」
「自我を出し、私情での調査をしているのが分かる発言だな。自らの地位や評価のために、余の指示を聞く気もないとは……王女としても不甲斐ない行為だ」
ハーヴィン国王陛下がため息と共に、私へと呟く。
「私情で王家全体の秩序を乱す真似はやめよ。医師の身柄を渡しなさい。加えてロザリン達の調査も余が進めておこう」
「なっ!?」
「貴殿も友好のために来たのなら分かってくれ。事実が全て明るみになれば、王家の権威が崩れればその時はこの国が終わる。民に知らせる情報は全てでなくても良い」
王家の体裁のため、集めた証拠は全てハーヴィン王家に渡せ。
横暴すぎる提案に吐き気さえした。
「……この期に及んで、まだ王家の権威のため罪を隠蔽する気ですか」
「いい加減にハーヴィン王家の体裁も考えよ。民に知らせぬ方が良い事実もある。余がそれを取捨選択してやるというのだ。これは両国のためでもある」
「それは、貴方が妾を愛していた事実を隠蔽した事もでしょうか?」
「っ!!」
私が知る事実を告げた途端、ハーヴィン陛下の瞳が見開かれる。
まさかカミラから聞いていると思わなかったのだろう。
「ようやく……カミラが王宮から消えた今、余とあの子の王宮が戻ってきたというのに…………フィリア妃、全て忘れて余の言う事を聞け」
「ハーヴィン陛下。私は突き止めた事実を全て公表するだけです」
「ならん。背けば……余も手段を選ばぬぞ」
肩を掴まれて呟かれる言葉。
国王陛下の脅す言葉は低く、肩を掴む力が徐々に強くなっていく。
「陛下は私に、裁く権利はないと仰るのですね」
「あぁ……その通りだ。国家の秩序のためにも、余が情報を精査し、国が乱れぬ程度にエリク達を裁く。それでよいな? 受け入れろ」
あぁ、そう。
隠蔽体質の根深い王家、特に王家の権威を気にする陛下を警戒して良かった。
講じていた策が、大成功しそうだ。
「––––ではそれを、皆様にご説明してはいかがですか? 陛下」
「なにを言っている?」
「リューグ。連れてきて」
私の指示に、リューグは頷いて王城の外へと走っていく。
呆気にとられていたハーヴィン国王陛下だが、やがてその表情が驚きに変わっていく。
なぜか?
それはリューグに連れられ、このハーヴィン王国の貴族当主達がやって来たからだ。
中には公爵位の方まで呼んでいる。
一年の準備、味方になってくれそうな貴族は当然調べていた。
やって来た貴族達は、我が祖国とも商いで交流を持ち、此度の王家の騒ぎに怒りの声明を出し、王家に不信感を抱く方々だ。
「さて、ハーヴィン国王陛下。今の情けない王家の事情……陛下の隠蔽気質を来て下さった貴族様にご説明なされては?」
告げた言葉、迫って来る貴族家の皆様。
法の秩序を保つべき王家が、体裁のために罪の選定を行いたい……
そんな理由を、不信感を抱く貴族家の皆様が納得するはずがない。
「先程の言説、貴族の皆様に納得していただけるでしょうか? 王家の体裁、権威を保てますか?」
「ぐっ……フィリア妃。またも……余の決定を遮る気か?」
「ええ、だって私は今、王太子妃としてここにいるわけではないもの」
ハーヴィン国王陛下も理解しているからこそ、表情を歪めて悔しげに私を睨む。
そんな陛下へと、嘲笑と共に言葉を告げた。
「私はシルヴァン王家の代表として、この王家を最後まで裁くわ。絶対に止まる気はない」
「一生そこで頭を下げてなさい。私は貴方を裁くために、最後の仕上げに向かうから」
「ま、まって……待ってくれ」
すがりつくように手を伸ばすエリクを置いて、私は吐き捨てるように呟く。
「邪魔よ、貴方の戯言は聞いてられないの」
「フィリア……俺は、俺はただ後悔して……」
「貴方の罪はもう直に定まる。全て明るみに晒してあげるから」
「ま……待ってくれ。待ってくれよ、頼むから……フィリア」
エリクは伸ばしていた手を下ろして嗚咽する。
むせび泣く彼だけど……もう結果は変わらない。
私は許す気など、ないのだから。
「ロザリン達を王城に連行します。数人は残ってエリクの監視を」
「承知いたしました」
私は騎士達に指示をしながら、ある一人に声をかける。
「それと、リューグ……一つだけ頼みたい事があるの」
「どうされました、フィリア様」
「我がシルヴァン王家の名を出してもいいから。頼みたい事があるの––––」
王城に戻る前。
私はある可能性を危惧してリューグ達に指示を出しておく。
そして、万全を期して王城へと戻る事とした。
◇◇◇
王城前にて、夕暮れになるまで時間を置いて入城する。
これだけ時間を空けたのには……最悪な可能性を危惧しているからだ。
そして恐らく、その心配は当たっていた。
「フィリア妃、帰ってきたのだな」
ロザリン達が騎士団に連行される中、ハーヴィン国王陛下が出迎えた。
偶然かのように振る舞っているが、恐らく城の中で待っていたのだろう。
白々しい態度に辟易するが、一応は礼をする。
「ハーヴィン国王陛下、お会いできて光栄です」
「実は話があってな、時間はあるか?」
「有難きお誘いですが、私の方は調査の件で立て込んでおりますので……」
「調査とは、なにか分かったのか?」
探るような言葉。
恐らく報告は受けているだろうに。
「エリク達の不義、そしてカミラの罪まで証拠は掴みました。それに……私の身を穢う診断をした医師もこれから聴取します」
ここで素直に真実を告げたのは、すでに陛下には伝わっているだろうから。
それゆえ、予防策を講じた今こそ……素直に話すべきだ。
「そうか、ご苦労だった」
「……」
「しかし、テルモンド公爵家の医師だが……申し訳ないが、彼の身柄はこちらに引き渡してもらう」
これから聴取しようとしていた、私に『子が出来ない』と診断した医師。
その身柄を渡せという言葉に、思わず顔を上げる。
「理由をお聞きしても?」
「実は我が王家にて、その医師を別件で裁くべき案件がある。カミラの証言もあり……その医師は過去に収賄の罪を犯している疑いがある」
「だからこちらが確保した身柄を引き渡せと?」
「問題があるか? これは国王である余が自ら調べている案件だ。そちらよりも重要性は高いと心得てくれ」
ハーヴィン国王陛下の言葉を聞き入れる事などできない。
民の怒りが好調な中、医師の聴取が遅れて事態を風化させられる訳にはいかない。
そんな私の不愉快な気持ちを察したように、ハーヴィン国王陛下が肩を叩いてくる。
「分かっているな。これは余の指示したものだ。背けば背反行為に等しいと心得よ」
「納得できるはずがありません。こちらが調査して手に入れた身柄です」
「自我を出し、私情での調査をしているのが分かる発言だな。自らの地位や評価のために、余の指示を聞く気もないとは……王女としても不甲斐ない行為だ」
ハーヴィン国王陛下がため息と共に、私へと呟く。
「私情で王家全体の秩序を乱す真似はやめよ。医師の身柄を渡しなさい。加えてロザリン達の調査も余が進めておこう」
「なっ!?」
「貴殿も友好のために来たのなら分かってくれ。事実が全て明るみになれば、王家の権威が崩れればその時はこの国が終わる。民に知らせる情報は全てでなくても良い」
王家の体裁のため、集めた証拠は全てハーヴィン王家に渡せ。
横暴すぎる提案に吐き気さえした。
「……この期に及んで、まだ王家の権威のため罪を隠蔽する気ですか」
「いい加減にハーヴィン王家の体裁も考えよ。民に知らせぬ方が良い事実もある。余がそれを取捨選択してやるというのだ。これは両国のためでもある」
「それは、貴方が妾を愛していた事実を隠蔽した事もでしょうか?」
「っ!!」
私が知る事実を告げた途端、ハーヴィン陛下の瞳が見開かれる。
まさかカミラから聞いていると思わなかったのだろう。
「ようやく……カミラが王宮から消えた今、余とあの子の王宮が戻ってきたというのに…………フィリア妃、全て忘れて余の言う事を聞け」
「ハーヴィン陛下。私は突き止めた事実を全て公表するだけです」
「ならん。背けば……余も手段を選ばぬぞ」
肩を掴まれて呟かれる言葉。
国王陛下の脅す言葉は低く、肩を掴む力が徐々に強くなっていく。
「陛下は私に、裁く権利はないと仰るのですね」
「あぁ……その通りだ。国家の秩序のためにも、余が情報を精査し、国が乱れぬ程度にエリク達を裁く。それでよいな? 受け入れろ」
あぁ、そう。
隠蔽体質の根深い王家、特に王家の権威を気にする陛下を警戒して良かった。
講じていた策が、大成功しそうだ。
「––––ではそれを、皆様にご説明してはいかがですか? 陛下」
「なにを言っている?」
「リューグ。連れてきて」
私の指示に、リューグは頷いて王城の外へと走っていく。
呆気にとられていたハーヴィン国王陛下だが、やがてその表情が驚きに変わっていく。
なぜか?
それはリューグに連れられ、このハーヴィン王国の貴族当主達がやって来たからだ。
中には公爵位の方まで呼んでいる。
一年の準備、味方になってくれそうな貴族は当然調べていた。
やって来た貴族達は、我が祖国とも商いで交流を持ち、此度の王家の騒ぎに怒りの声明を出し、王家に不信感を抱く方々だ。
「さて、ハーヴィン国王陛下。今の情けない王家の事情……陛下の隠蔽気質を来て下さった貴族様にご説明なされては?」
告げた言葉、迫って来る貴族家の皆様。
法の秩序を保つべき王家が、体裁のために罪の選定を行いたい……
そんな理由を、不信感を抱く貴族家の皆様が納得するはずがない。
「先程の言説、貴族の皆様に納得していただけるでしょうか? 王家の体裁、権威を保てますか?」
「ぐっ……フィリア妃。またも……余の決定を遮る気か?」
「ええ、だって私は今、王太子妃としてここにいるわけではないもの」
ハーヴィン国王陛下も理解しているからこそ、表情を歪めて悔しげに私を睨む。
そんな陛下へと、嘲笑と共に言葉を告げた。
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