【完結】貴方と離れて私は幸せになりたいと思います

なか

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人生の岐路③ スネイルside

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「いってくるよ、ミランダ」

「スネイル……終われば直ぐに帰ってきてね」

「あぁ、分かっている」
 
 カルーを学園に連れて行く。
 その旅路は片道で十日程かかるため、暫くの別れとなる。
 ミランダは惜しんでくれているが、俺にとっては彼女と離れるのは一つの気休めであった。
 休暇を取った騎士団では、きっと俺の悪口が賑わっているだろうな。

「私……大事な社交界があるから、行けなくてごめんなさい……」

「いいんだ。ミランダ」

 その社交界はミランダの父が組んだ日程だ。
 さすがの公爵家も、心が壊れた娘を他国の学園に連れて粗相をさせる訳にはいかない。
 故に身内だけのパーティーを開いて、彼女を引き止める算段だ。

「行ってきます、叔母さん」

「じゃあね、スネイル」

 カルーが別れの言葉を告げるが、ミランダはまるで居ない者かのように俺にだけ手を振る。
 八歳の子供が受ける所業ではない。

「行こうか、カルー」

「はい」

 カルーを学園に連れていく馬車に乗り込せ、御者に声をかけて走らせる。
 この子がミランダに虐待を受けている事実について、俺は公爵家には知らせていない。
 もし知らせていれば、この子はきっと学園に入る事すら叶わなかっただろう。
 
「曖昧な男だな、俺も……」

 良心の呵責に苛まれて、カルーが学園に入る手助けをした?
 違う……
 俺はただ、ミランダとカルーと過ごす屋敷での毎日が煩わしかっただけだ。
 ストレスの原因を遠ざけたかっただけの、最悪な男だ。

 学園で虐待の事実を誰かに知られたなら、騒ぎになる前にカルーは退学させて戻せばいい。
 何が不都合があればこの子は退学させる。
 それまでの、つかの間の休息だ。
 
「ミランダ叔母さんが言っていました、僕が成績優秀ならもう叩かないって。本当でしょうか?」

 馬車が走る中、カルーは無表情のまま、道中にそんな問いかけをする。
 可哀想な子だ……ミランダは約束を守るような心の余裕はない。
 だが……

「もちろん期待しているはずだ。だから頑張って学園で成績を残すんだ。公爵家の皆が喜ぶはずだ」

「っ……頑張ります」

「あぁ」

 俺も嘘を吐く。
 ミランダにそんな甲斐性はなくて、俺も期待はしていない。
 ただ煩わしい家庭環境を変えるために学園に入学させたのだ、そんな事を口が裂けても言えなかった。
 言える……はずがない。


   ◇◇◇

 十日の距離を馬車が走り、無事に目的地に辿り着く。
 
「着いたぞ、今日から世話になる学園だ」

「はい、ありがとうございます」

 ミルニア公国のマグノリアス学園。
 まるで城のような大きな学園設備に感嘆の声が漏れてしまう。
 我が国より栄えているとは聞いていたが、まさかここまでとは……

「以前、カルーはここで面接を受けたのか?」

「はい、僕の入学試験のためにここまで来ました。その時は屋敷の使用人の方と……」

「そうか……なら、職員室までの道は覚えているか?」

「はい」

 学園前では、案内の先生が来るから待っていてくれと伝えられた。
 だが俺はさっさとカルーを預けてしまいたかった。
 早く解放されて、ストレスを一つでも減らしたかったのだ。

「行こう、職員室で入学手続きをする」

「ですが……待っていろと」

「関係ないだろう。出迎えていないのが悪い」
 
 そんな言葉と共に、カルーの案内の元で職員室へと向かう。
 その最中だった。

 目の前の光景に目を疑った。
 嘘ではないかと、何度も心で思った。
 なにせ、職員室へ向かう通路に居たのは……

「レディア……?」


 信じられなかった。
 だが、だがそこに確かに彼女は居たのだ。
 探して求めて、また会いたいと願っていた彼女が……
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