紅湖に浮かぶ月

紅雪

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紅湖に浮かぶ月2 -鳴動-

終章 惰弱な心と慙愧の念

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「思うように生きれる人は稀有だ、何故なら人間社会が束縛するのだから」


昨夜、真っ盛りだった雨は今日の夕方にやっと上がった。降り続いた雨のせい
か肌寒く、淹れたての珈琲が身体を温めていく。ヤングレフカは数日振りに苦
味だけでない珈琲を味わっていた。
「いや。」
否定の言葉だけ漏らすと思案へ戻る。昼間キャヘスの死亡が確定しただけだ。
あの暴徒が死んだからといって、一つの懸念が消えただけで現状は何も好転し
ていない。これからが問題なのだと、ヤングレフカは気を引き締める。
「ただ、前に進む道が出来ただけか。」
何れ、メフェーラス国にキャヘスの死亡が知れる。そうなれば、国境の小競り
合いは激化するだろう。次の対策も考えねば、戦争にすら発展し兼ねない。
モッカルイア領との溝が深まった今、ナベンスク領やグラドリア国は静観を崩
さないだろう。であれば早急にモッカルイア領との関係を修復しなければなら
ない。現状のままでは今の流通経路が細くなり、食糧や物資の調達が減るのは
目に見えている。
やはり、それ以上に自領の危機回避が優先だろうか。国境の警備を増強しメフ
ェーラスを牽制しておかなければ、モッカルイア領との関係修復どころではな
くなってしまう。
だがそれを維持するためには物資が必要な事から、ヤングレフカは堂々巡りに
頭を悩ませる。
「危うい状況だな。」
ヤングレフカは自嘲すると、温くなった珈琲を一口飲んだ。
大気を震わす爆音が轟いたのはその時だった。ヤングレフカはまた落雷かと一
瞬思ったが、直ぐに違うと思い知らされる。続く衝撃音と爆音で領主館が揺れ、
カップに入っていた珈琲が溢れる。
「何事だ!?」
突然の出来事に椅子を蹴倒して立ち上がりつつ叫んだ直後、再び爆音が大気を
震わせる。直後に襲ってくる震激にヤングレフカは体制を崩し、執務机にしが
みつこうとしたが、書類の山で手が滑り転倒する。そこへ巻き散らかされた書
類が降り注いだ。
「くっ。」
体制を立て直し立ち上がろうした時、三再の爆音が大気を打ち震わせる。直後
の衝撃と爆発は執務室の壁に罅を入れ、扉を歪ませ、震激は硝子という硝子を
粉砕した。執務机の上にあった書類や備品は散乱し、落ちたカップは絨毯に黒
い染みを作り、書棚からは本が崩落した。
「何が、起きているんだ。」
終わったか分からない砲撃に、今度は立とうとせずに身を固めてヤングレフカ
は呻いた。その時、歪んだ扉を蹴破って背広姿の青年が飛び込んで来る。
「閣下、御無事ですか!?」
キャヘスがモッカルイアへ行ってから、報告役となっていた青年だった。
「何が起きている?」
ヤングレフカは執務机を支えに立ち上がる。
「分かりません!砲撃は間違いないですが、こう暗くては。」
夜を狙っての襲撃か。だがこの領主館を狙う為には砲台を移動して来なければ
ならない。明るいうちに移動させようとすれば目に付く。
「一体どうやって。」
そこまで口にしたヤングレフカはその正体に気が付いた。
「呪紋・・・」
青年に伝えようとしたが、その青年の頭部が床に向かって落ちて行った。鈍い
音をたて絨毯に落ちると黒い液体を広げながら転がっていく。切断された断面
からは同じ色の液体を噴出させ、ゆっくりと傾いていく。
「誰だ!?」
一人でにそんな状態になるわけがない。青年の首を跳ねた奴がいると思い、ヤ
ングレフカは誰何の声を上げた。
「なっ。」
現れた姿にヤングレフカは恐怖する。黒の背広姿だがシャツやネクタイまでも
黒く、何より異様だったのは目以外を覆い隠した覆面だった。その覆面は被る
ものではなく、黒い布を巻き付けて作られている。
「私が誰かなど、どうでもいい事だ。何故モッカルイアにあれだけの災禍を齎
した。」
ヤングレフカは苦渋に顔が歪む。襲撃され崩壊した領主館より、目の前の青年
の死より、現在の心境ではその問い詰めが苛んだ。
「我とて望んだわけではない。」
絞り出す様に言ったヤングレフカにとっても、あの様な惨事になるとは予想外
だったからだ。
「分かっている、穏剣を使う事自体が間違いだったと。」
覆面から覗いている一部が、嚇怒に揺れる。
「可能性が在るのは間違い無かった。望んだ結果でないだと、結果を知ってか
らではただの言い訳だ。むしろ危険を孕んでいるのを承知で行ったのだから、
望んでいなかったではない。同罪だ。」
覆面の言葉にヤングレフカは唇を噛んで、覆面を睨み付ける。噛んだ唇からは
薄らと赤が滲み始める。
「お前も同罪だ。分かっているのだろう、黒纏。」
覆面は黙したまま頷いた。
「キャヘスの襲撃を二度も見逃したのだから当然だな。仕来りだからか?」
「そうだ。」
ヤングレフカの問いに覆面は静かに答えたが、嚇怒の瞳は揺るがない。
「それこそ罪作りではないか。」
ヤングレフカは言葉に皮肉を込めた。事を招いたのは自身の決断だとわかって
はいるが、起きた時に対処しなかった奴に責められる謂れも無いと。
「犠牲を伴った大義など無い。結果を見れば明らかだがな。その考えに至った
時点でこの状況になるのは分かっていただろう。」
覆面は、ヤングレフカの言葉には応えずに言った。
「お互いにな。」
それに対してヤングレフカは自嘲の笑みを浮かべて吐き捨てた。
ふと床に落ちて絨毯に黒い染みを作ったカップが目に入る。寂寥を顔に浮かべ
弱々しく笑みを浮かべた。
(最後に熱い珈琲でも飲みたかったな。)
ヤングレフカのその思いと笑みは、絨毯の上に落ちて転がった。落ちた頭部の
表情は、結果を知って受け入れている様に、落ちる前と変わっていなかった。
覆面は一瞥すると、黒い風となってその場から立ち去った。



髪はいつものテールアップ。パンプスもいつもの鉄鋼入り。コバルトブルーの
膝丈フレアに白のシャツと地味な気がする。が、それを解消しているかも知れ
ないオレンジのトートには雪華。紅月は右の太腿にベルトで固定。ボルドーの
アンダーフレームのお洒落眼鏡は知的な雰囲気を演出。してるといいな。
二度目のグラドリア王城を前に、私は聳える城門を見上げる。今回も仕事をし
ている女性のイメージを作って来た私は、今度はちゃんと正門に来た。
正門の受付に行くと、カウンターの奥に居る女性に笑顔を向ける。
「リンハイアに会いに来たんだけど。」
私の言葉に怪訝な表情と冷利な視線を向けてくる受付の女性が、口を開きかけ
た時それより早く横に立っていた男が割り込んで来た。
「あ!お前は!」
知らない奴にお前呼ばわりされる謂れはないわ。
「誰?」
私はその男を睨み付ける。男は一瞬呆気に取られるが、直ぐに顔を紅潮させ怒
りの罵声を放つ。
「この女!人の事を殴ったくせになんだその態度は!」
「知らないわ。」
何こいつ。面倒臭いわね。そもそも会った事も無い人間をどうやって殴るのよ。
変な言いがかりをつけて来たその男は、私の言葉に男の顔も最高潮を迎えてい
た。
関わりたくない。
「お名前伺っても宜しいですか?」
私に向けられた冷利な視線は既になく、喚いている男にうんざりした表情にな
っている女性が聞いてきた。
「ミリアよ。アクライル・フー・ミリア。」
「少々お待ち下さい。」
女性が何処かに連絡を取り始める。
「無視してんじゃねぇぞこの女!」
男は絶好調だ。
「うるさいわね、黙らせるわよ。」
私が剣呑な視線を向けると、たじろいで黙る。行き場をなくした怒りが顔を更
に赤く染めていく。
「お待たせ致しました。」
確認が終わると、女性はこちらを見て言った。たじろいだ男に一瞬だけ喜色を
瞳に浮かべたのは気のせいではないだろう。
「迎えの者が参りますのでお待ち下さい。」
「そう、ありがとう。」
私は女性に笑顔でお礼を言うと、受付から少し離れた場所で待機する。あの五
月蠅い男はずっとこちらを睨んだままだ。なんなのよ、あいつ。
受付の女性も特に宥めようとはせず、時々うんざりした顔を見せるだけで、訪
れた人の対応している。あの男もあの態度じゃ、女性に好かれないどころか、
敬遠されるだろうな。受付嬢もうんざりしてるし、私は殴って黙らせたいもの。
いきなり私の事をこの女呼ばわりとか無いわ。
「お久しぶりですね、ミリアさん。」
私が男に半眼を向けていると、名前を呼ばれた。相変わらず腰まである綺麗な
黒髪ストレートにパンツルック。隙の無い物腰で、近寄りがたい鋭さを感じる
紅い瞳。
「久しぶり、アリータ。」
私が軽く笑みを作ると、アリータも多少表情を崩した。
「では、案内します。」
アリータはそれだけ言うと背を向けて歩き出す。私はそれに着いていく。一回
来ただけなので道は覚えていない。それに前は正門じゃなかったし。
「モッカルイア領では大変でしたね。」
前を歩くアリータが話し掛けてくる。
「うん、まあ。首を突っ込んだ自責もあるけど、良い思いではなかったわ。」
「そうでしたか。」
リンハイアの秘書だからね、事情は概ね知っているのだろう。
「それに、ユリファラがご迷惑を掛けてしまい、申し訳ありません。」
アリータから出たユリファラの名前に一瞬戸惑った。そう言えば、執務諜員な
のだから知っていて当然か。ただ実際は迷惑というか、助けられたし面白かっ
たのだけど。
「全然、そんな事ないわ。」
アリータが突然歩みを止め、怪訝な顔を向けてくる。
「主には不遜な態度ですし、出張に行けば観光と称して遊んでばかりいるんで
すよ。」
ああ、成る程。アリータは真面目だから目に余るんだな。だからユリファラに
は憤りが出るのだろう。じゃあ私は?
「私にはそんな態度しないわね?私の方が態度だったら悪いし。」
アリータ表情を緩めると歩き出す。
「ミリアさんの場合は、お客様になりますから。」
うわ、客じゃ無かったら同じか、下手をすれば命の危機か。
「それに、何故か嫌いにはなれないんです。」
ああそう。それじゃ私にも分からないわ。どっちにしろ一緒に仕事する事には
ならないからいいか。
「ユリファラはまだ此処にいるんでしょ?」
グラドリアに戻ってから、然程日数は経っていない。とういうか昨日見送った
ばかりだからまだ居るだろうと思った。
「はい、次の仕事まで数日あります。今頃街で遊んでいるかと思います。お会
いになりますか?」
「ん、いいや。何か用が在るわけじゃないし。聞いただけ。」
アリータの気遣いを私は断った。事実言った通りだし、受けた品物が出来てい
るわけではないから。
他愛もない話しをしてる間に、通路の先には執政統括と書かれたプレートが付
いた扉が見えてくる。このグラドリア国で、政治の事実上頂点にいる人物の部
屋だ。関わり合いになりたくはないが。
扉の前に着くとアリータがノックをして名前を伝えた。直ぐに入るよう促す声
が聞こ、アリータが扉を開ける。
「どうぞ。」
アリータに促され、私は部屋に足を踏み入れる。今回、リンハイアは既にソフ
ァーに座っていた。私はリンハイアを挟んでテーブルの前に立つと、テーブル
に紙袋をにっこり笑って置く。
「はい、最後の晩餐。」
私の言葉にリンハイアは相変わらずだった、微笑は変わらない。
「随分と物騒な差し入れですね。」
「なんと新作のチョコクリームもあるわ。良かったわね。」
私は言いながら紙袋、アンパリス・ラ・メーベの袋からシュークリームを取り
出して見せる。既にお茶の準備を始めていたアリータが、一瞬こちらを見て作
業に戻った。目が一瞬輝いたのは気のせいじゃないでしょうね。
私がソファーに座ると、リンハイア早速シュークリームを取ると包装を開け始
める。しっかりチョコのほうだ。
「それで、用件は。」
リンハイアはそう聞くとシュークリームを食べ始める。
「分かっているんでしょ。」
私がここに来る理由など、分かりきっているはずだ。
「此処で働く気になりましたか?」
「ふざけんな。」
私は、口調は穏やかに睨め付ける。くだらない冗談に付き合う気分ではない。
「次、私で遊んだら殺すって言ったわよね。」
「そっちですか。」
リンハイア残念そうな顔をする。嘘つけ、知っててやってるなこいつ。
「確かに、それは覚えてますが、私は遊んでなどいませんよ。」
やはり惚けるのか。
「司法裁院から依頼出させたの、あんたでしょ?」
リンハイアの表情は変わらない。そこへアリータがお茶を運んで来る。しっか
り自分の分も用意してあった。リンハイアに促され座ったアリータにシューク
リームを放り投げる。受け取ったアリータはチョコ味なのを確認すると口の端
を少し緩ませた。
「私は司法裁院に対して、権限は持ってませんよ。」
「だから灼帝を使った。」
二人とも私の事を知っている。本気か分からないけど、誘って来てもいる。ハ
イリに関してはジジイが腐れ縁と言っていたから別の意図もあるかも知れない
が。
「軍神と執政統括がそろって、一国民の為にですか?」
「そうよ。」
私は自分を特別だとは思っていない。一国民でしかない事も分かっている。た
だ、ハイリはどうか知らないが、リンハイアには私を利用する理由がある。
「その根拠は?」
「リュティが言っていたわよ。私が使えるかどうか確かめる為に、依頼を受け
たって。」
リンハイアは怪訝な顔をする。
「リュティ?」
まあ、惚けるわよね。それに私が言ったことは根拠にもなっていない。ただの
憶測だ。しかし憶測と言っても考えれば辻褄が合う気がする。だから根拠が無
いからと言って簡単に引き下がるわけにはいかない。
「それこそ、司法裁院の高査官が末端の構成員を気にかける理由が見当たらな
い。上層部なら尚更。まあ、上層部が私を知らないという根拠も無いのだけど。
最高高査官である灼帝は私を知っているけれど、こんな回りくどい事をすると
は思えない。」
そう、ハイリであれば直接来るだろう。
「成る程、確かに面白い想像ですが根拠にはなっていませんよ。」
うっさいわね、分かってるわよ。
「それに、ハドニクスの件もあんたでしょ。」
私を計る為に用意したのはリュティだけじゃない。恐らくこの件もだ。
「流石に私でも、司法裁院の仕事まで手は出せませんよ。」
それは、そうでしょうね。ハイリが司法機関の最高高査官ってだけでも問題なの
に、執政統括まで関わってるとなれば大問題だものね。
「最初の依頼。真面目なネルカに依頼したのは、ついでに仕事を片付けようとす
るからでしょうね。手頃な内容があれば、モッカルイアに依頼を届けるついでに
別の依頼もやらせようとする。」
リンハイアは黙って聞いているが、表情は変わらず微笑を浮かべたままだ。注意
して見ているが隙がない。この狸め。
「恐らくこれは灼帝が直接目の届くところに置いた。だからハドニクスに関して
は上層部も知らない。真面目過ぎるネルカが言ったのだから、上層部が私宛に用
意されたとは思ってないでしょうね。」
依頼を発行した記憶がなくとも、ハイリなら可能だ。最高高査官なのだから。回
りくどい事をしそうにないとなれば、リンハイアが頼んだとしか思えない。
「二つの依頼は同じ場所を通っていないから、司法裁院でも出所が分からない。」
「私がそれをしたとでも?」
シュークリームを取りながらリンハイアは言った。
「そうよ。想像だから根拠はないわ。」
悔しいが、私はそこまで頭が回らない。内情を把握出来ないのだから、根拠と言
われても分かるわけがない、とは思っているけれど。
「私はこれでも忙しいんですよ。与太話しを聞いてる時間は無いのですが。」
言ってる事はもっともよね。しかし、与太話しとか弄ばれてるの私なんだけど、
そんな言葉で片付けようとするなら尚腹が立つわ。
「ただ、モッカルイアの領主館であんたは言った。」
あの時は気が付かなかったが、後から考えてあの発言はおかしいなと思った。
「何か気になる事でも言いましたか。」
リンハイアは瞳に多少興味を宿した。
「そうよ。領事館を全焼させたって言った時に、燃やすなと書いて無かったと言
った私にあんたは言ったのよ。確かに、と。」
そこでリンハイアの微笑が初めて微苦笑になった。手応えあり。
「それは、国家間の問題となる為、どうしてそうなったのか司法裁院に確認した
からですよ。」
苦笑したのは私を馬鹿にしたのか、このやろ。
「それはないわ。いくら執政統括とは言え、司法裁院が詳細を出すとは思えない。
それでは権力分散している意味がなくなるから。それに、灼帝に渡した依頼をも
う一度見たいと言うのもおかしい。執政統括が見直すと言えば訝しがられる。」
もし本当に司法裁院と国政に境が無いのなら、国として駄目になってるだろう。
まあリンハイアがそれを良しとしない人物なのは分かるのだけど。
「参りましたね。モッカルイアの件は失言でした。」
やっと認めやがった。根拠は無かったが、これだけ状況が重なればと思っていた
から行けると思ったのよね。
「やはり、察しの良い人ですね。」
あんたに言われたく無いわ。
「それと、穏剣が出て来るのを分かっていて、それに私が首を突っ込む事も予想
してたでしょ。だからユリファラの手伝いをさせた。」
そう、ユリファラの手伝いをさせる事で穏剣との接点を作り、接触すれば私が首
を突っ込むと考えていたのだろう。今回の流れからいって、私が使えるかどうか
の延長で穏剣をぶつけたんだ。ハドニクスといい穏剣といい、私は死ぬ思いをし
てやっと生き残ったというのに。
「予想の一つとしては、考えていましたが。」
「つまり、穏剣でも私を計ろうとしたわけよね。」
リンハイアを睨め付けるが涼しい顔で頷いた。
「こっちは何度も死にかけてるのよ?」
「貴女なら問題ないかと思ってました。」
「嘘付け。死んだら死んだでそれまでだ、くらいにしか思ってないわよね?」
「否定はしません。」
こいつ・・・。分かった、リンハイアに取ってはどっちでもいいんだ。大きな奔
流の一部でしかない存在は、どっちに転んでも然程影響が無いのだろう。話して
いると本当に苛々してきた。私は物じゃないわよ。
それともう一つ。
「ユリファラと食事に行かせたのも、穏剣がもう来ない、殺されていると思って
いたからよね?」
リンハイアは頷いた。
「それも可能性の一つでしたが。確度は高いと思い、お願いしました。」
やっとすっきりした。これでリンハイアが、またしても私を巻き込んだ事がわか
ったわ。思いっきり休暇潰しにきやがって。
「私さ、休暇中だったのよ。」
「知っています。」
知ってるじゃないっての。折角の休暇なのだから、少しは気を使えって話しなん
だけど通じないかな。
「休暇ってさ、羽を伸ばして、自分のしたいことして、ゆっくり心身共に休める
ものだと思うのだけど。」
「その通りだと思います。」
「ほぼ潰しておいてその通りだと思いますじゃないでしょ。」
そこでリンハイアは困った顔をする。
「もう過ぎてしまった事ですので、申し訳ありませんとしか。」
まあ、そうなのだけど。不満をぶつけないと気が済まないのも事実。今までの話
しの流れで不満が出ないとでも思ってるんじゃないでしょうね。
「灼帝経由で、司法裁院からの仕事を一ヶ月くらい止めるようにしてくれない?」
「お断りします。必要であれば自分で交渉してください。」
駄目か。起きた事に何時までも文句言っててもしょうがない。やっぱりリンハイ
アは腹の立つ事しかしてくれないな。
「やはり、国としては必要な人材なのですが。休暇や給金も優遇しますよ。」
どうしても巻き込みたいらしい。
「嫌だって言ってるでしょ。」
しつこいな。私はお店やってるから辞めたくないのよ。それ以前に、公務とかや
りたくないわ。私はこれだけ怒ってるのに、何故また今その話しを持ち出したの
か。そんなに逆撫でしたいか。
「さて、そろそろ本題に移りましょうか。」
と言ってもリンハイアの表情は変わらない。まだ私が本気だと思っていないのだ
ろうか。いや、そんな筈はない、きっと何か手があるのだろう。
「本当に私を殺すのですか?」
「そうよ、こんな所で悩むくらいなら来てないわ。」
私は本当に怒ってるのよ。前回ちゃんと言ったにも関わらずちょっかい出して来
たって事は当然その覚悟があるって事でしょう。それは私も同じだ。
「国政に影響が出ても?」
「その前に忠告した筈よね?」
影響を気にするなら私にちょっかいを出さなければいいだけの事。国と私を天秤
に乗せるまでもない。
「どうしてもですか?」
「諄いわよ。」
リンハイアは目を閉じて、少しばかり黙考した。しかし、リンハイアを殺すと言
っても実際は殺せないだろう。アリータがそれをさせない筈だ。私ではアリータ
にはきっと勝てないだろうし。
リンハイアは目を開けると、睨む私の目を見返してくる。その表情に笑みは無く
普段見る事の無い真剣な面持ちになっている。
「仕方がないですね。」
やっと諦めたか。
「アリータ、代わりに死んでください。」
「分かりました。」
アリータは返事をすると立ち上がった。殺気があるわけでも、襲って来る気配が
あわけでもない。
「ちょっと、アリータは関係ないでしょ!」
私はアリータを殺したい訳じゃない。
「いいえ、私は死ぬわけにはいかない。だから代わりをお願いしたんです。」
「なんでアリータも断らないのよ!」
アリータに向かって言うと、真っ直ぐに私を見返して来た。その紅の瞳は覚悟の
色がはっきりと出ていた。
「それが、リンハイア様の意思だからです。」
意思って何よ。
「死ねって言われたら、はい死にますって死ねるの?」
たった一言で?
「そうです。」
「馬鹿げてるわよ!」
いくら上司だからと言って、死ねと言われて死にますと言い切ってしまうなんて
普通はありえない。
「それが事実です。ミリアさん、あなたがリンハイア様を殺す為には、私の屍を
越えて行かなければなりません。但し、代わりにと言った事を汲んで、今回は私
の命で引き取って頂けますか。」
どうしてそこまで傾倒する。自分の命よ?自分の為に使うものでしょ。あ、自分
の為か。それが自分の為になってしまったら、そうするか。
「じゃぁ、私が死ぬだけね。アリータには勝てないもの。」
「いえ、私は抵抗しませんので、ご心配には及びません。」
どういうこと?抵抗もせずに、ただ殺されて終わり?
「何で、そこまでするの?」
「私たち執務諜員は、リンハイア様に共感したからこそ、従っております。故に、
執務諜員は例外なく、死ねと言われれば私と同じ行動を取ります。」
は?何処かの宗教かなんかか。
「ちょっと待って、それじゃユリファラもそうなの?」
「先程言いました、例外なく、と。」
なんてこと、ユリファラってまだ少女よ。あんな悪態ついているから嫌いだと勝
手に思い込んでいた。だけどそうじゃなかった。
覚悟が無かったのは私の方か。好き勝手に生きている私と、国の為に生きている
者の差なのだろうか。アリータを殺してまでリンハイアを殺したいとは思わなか
った。だけど、アリータはリンハイアの命令なら迷いなく他人も、自分も殺して
しまえる。
「ひとつ、話してもいいですか?」
そこでリンハイアが割って入る。表情は真剣なままだ。
「いいわよ。」
私は身体の力が抜けて、ソファーに凭れ掛かる。
「現在の呪紋式の数や技術は、実用化されてそれ程の年月は経っていません。故
に普及率も低く、数も少ない。一般人にはそれほど興味のある代物とは言えませ
ん。」
「そうね。」
学校の講義じゃあるまいし、何を今更。
「百年後。その数は倍になるでしょう。」
なんだ突然。未来予想か?
「当然、新しい呪紋式や技術の普及は、それに伴って犯罪も増える。現在でさえ
鼬ごっこである状況だが、その数が増えていきます。もちろん、国家間紛争や戦
争でも利用されるようになり、今より危機感は増していく。」
そうなれば、そうでしょうね。私はとっくに死んでいるけれど。
「次の百年後。実用化された呪紋式は更に増え、量産化が可能になった小銃は安
価で一般家庭でも普通に手に入るようになる。一家に一台から数台の小銃を持つ
時代となる。」
そういう未来は必ず来るでしょうけど、今それを想像してどうするのよ。
「呪紋式犯罪が増え、貧富の差が激化した街には貧民街が増加していく。荒廃し
た街はやがて滅びに向かって行く。技術が進歩した戦争では、いかに殺さず制圧
するかではなく、いかに多く殺すかに変わっているでしょう。広範囲の破壊呪紋
式や、生物を死に至らしめる様な致死毒呪紋式等が現れれば人の住める地ではな
くなります。」
うわ、完全に空想だな。
「そこから二百年後、この大陸の半分は住むことが出来ず、人口も半分になりま
す。」
たった四百年でそこまで変わるのか?
「二百年で毒に犯された土地は毒を持ったまま、破壊された土地は肥沃さを取り
戻す事無く荒野になります。本来必要な自然の摂理が廻らない場所は、自然に還
る事が出来ないからです。そんな土地に外海は興味を失くし、断交します。それ
が、人が呪紋式を使って造るこの大陸の行く末です。」
話しが壮大過ぎる。
「更に二百年後、大陸では集落が分散され、約半分は呪紋式の技術を捨て去り原
始の生活へ回帰します。ですが、自然の回復力を失った土地で生きるのは過酷な
生活を余儀なくされるでしょう。残りはこの大陸を捨て外海に出て、技術を持っ
て新しい土地を探しに出ます。」
この土地を捨て去るのか、自分たちで招いた後始末をせずに見て見ぬ振りをして。
「大陸を災禍に招いた呪紋式と技術は、知らない土地では忌避されるでしょう。
結果は見えているのだから。捨て去られた大陸は回復することもなく、緩やかに
朽ちて、残った人間も生きる事が精一杯どころか生き残れないでしょう。それで
も呪紋式が無かった土地では、呪紋式の利便性を享受する国が出てきます。」
それって。
「次の二百年後、」
「ちょっと待って。」
妄想も結構だけど、聞かされるこっちの身にもなって欲しい。興味がない。
「なんでしょう?」
「そんな妄想聞かせてどうしようってのよ。」
私には与太話しは無駄な時間と言っておきながら。だが、リンハイアの真剣な表
情は変わっていない。
「これは事実です。数年の誤差は生じるかもしれませんが、間違い無く世界はそ
う変化して行きます。」
リンハイアの口から間違いなくと聞くのは珍しい。他国の事まで考慮して、先を
見通して考えるこの執政統括は、何年先まで事象を見ているのだろう。私はリン
ハイアの断言を聞いて、その存在が怖くなった。
「故に、私は先んじてその対策を打って行かなければなりません。事が起きてか
ら対処していたのでは手遅れになり、先程話したような結末にしかならない。そ
れはこの国だけでどうこう出来る問題ではありません。グラドリア国だけが対処
に成功したとしても、遅れた国から足を引っ張るのは目に見えています。」
駄目だ。世界が違い過ぎる。これじゃ私は、ただの駄々を捏ねる子供以下だ。
「故に今、死ぬわけにはいかないのですよ。そして出来れば、執務諜員も失いた
くはない。」
リンハイアが言っている事も駄々だ。
「死にたくない、失いたくない。それはいいわよ、だけど私を弄んでいい理由は
何処にも無いわ。」
そんな話しなら勝手にやってよ、私を巻き込まずに。
「その通りです。謝辞は幾らでも言いましょう。必要な物があれば出来る限り融
通しましょう。そうしてでも、貴女を此方に引き込みたい。」
「絶対嫌よ。」
私の時間は私の好きにさせてよ。
「ご立派な話しだけど、私にはもう関わらないでよ。」
リンハイアが拘る理由は分からないでもない。けれど、私にとっても譲れない部
分ではある。
「やはり、駄目ですか。」
真剣な顔だったリンハイアが寂しそうに笑う。だけど、いくら優遇されようと、
立派な思想が在ろうと、私に迎合する気はない。
「もう、帰るわ。来た意味も無くなったし。」
気が削がれた私はそう言ってソファーから立ち上がる。
「人死にを嫌う貴女が、どうして未来の人死にからは目を反らすのですか?」
リンハイアは問いは、問い詰めているのではなく、純粋な疑問に聞こえた。そん
なこと、私にも分からないわよ。目の前に居る現実が無いからか、未来は決まっ
ているわけじゃ無いと思っているからか、別の理由が在るのか、何も分からない。
私は寂寥を浮かべたリンハイアの瞳から逃げるように、執政統括の部屋を後にし
た。後から追い付いて来たアリータが私の前を歩き先導し始める。
「あまり気に病まないで下さい。その人の人生はその人のものですから。」
表情は見えないが、アリータの言葉には優しさを感じた。
「ア・・・」
口を開きかけて止める。愚問だ。自分の人生、アリータはリンハイアと共に往く
ことがそうなのだろう。
「ありがとう。」
代わりに気遣いに対してお礼を言う。それから正門までは無言だった。何も言え
なかった。
「送ってくれてありがとう。」
正門に着いた私はアリータにお礼を言った。
「こちらこそご馳走様です、新作が食べられて嬉しかったです。」
アリータはそう言って微笑んだ。
「リンハイア様の事は放って置いていいので、たまには遊びにいらしてください
。」
王城になんか来たくないんだけどな、アリータの気遣いには感謝する。だけど、
きっと来ないだろう。私にとって嫌な場所一番だ、ここは。
「気が向いたらね。」
私は力なく微笑んで言った。
「逆に、私がお店に顔を出すのはありでしょうか?」
そんな言葉を聞くとは思わなかった。そうか、ユリファラもそうだったが、思想
には迎合するが自分は自分なのね。皆それぞれ自分の道は歩いているのだろう。
そこに折り合いをつけているのかは分からない。でも、選んで歩いているからに
は、何かしら決めてはいるのだろう。
「いいわよ。アリータなら歓迎するわ。それじゃ。」
私の言葉にアリータは軽く一礼した。私はそれを見ると背を向けて、正門を後に
した。入る時に居た男はまだ居て、私を見ると睨みつけて来た。うざい。なんな
のよもう。
私は少し歩くと、振り返って王城を見る。勢い込んで来たものの返り討ちにあっ
ただけだった。おまけ付きで。人の思考どころか感情さえも掌に乗せてしまう執
政統括の化け物じみた存在を、改めて認識させられただけだった。これだけ状況
に翻弄され、感情を掻き乱されても、私の存在は盤上の駒にすらなっていないの
だろう。
だからと言って、私の人生弄んでいい理由になんかならない。とは言え、抗う術
が思いつかない今は、力なく帰路に着くしかなかった。



「ゲハート様。やはり、オーメラ様は帰って来ず連絡も取れません。」
復興が始まったモッカルイア領、ルッテアウラに在る領主館の本館前で、グロー
アはゲハートにそう伝えた。
「やはり、止められなかったか。」
忸怩たる思いでゲハートはその言葉を口にした。
「本日流れた報道、ロググリス領主館崩壊の事件は、オーメラ様なのでしょうか
。」
「まず、間違い無いだろう。」
グローアの言葉に、ゲハートは頷きながら答える。
「あの夜、私が気付いて止められていれば。」
後は任せた、そう言って出て行った時の事を、グローアは忘れられないでいた。
あの時、引き留めていればと後悔しかない。何故もっと気遣ってやれなかったの
か、事情は聞いて知っていた。可能性ならあった筈なのだと。
「お主が気に病む事ではない。私の不徳さ故だ。」
ゲハートも同じ気持ちなのだろうと、グローアは察した。
「それとゲハート様。」
「どうした?」
躊躇するように声を掛けてくるグローアに、ゲハートは先を促した。
「オーメラ様の机に在った物なのですが、渡してしまうと現実を認識してしまう
のが嫌で渡せませんでした。連絡が取れない事も、もう二度と取れないのだろう
と分かってしまうのが恐かったのです。」
グローアが差し出して来たのは一つの封筒だった。ゲハートはそれを無言で受け
取ると開封する。中には一通の紙片と、小さな鍵だけが入っていた。
「あの馬鹿者が・・・」
中身を確認したゲハートは、苦い表情で呟いた。その様子を見ていたグローアが
内容を気になっていた様なので、ゲハートは紙片を無造作に渡した。グローアが
紙片を手に取り内容を確認する。
[私の給料の余りは全て此処に在る。復興の為に使ってくれ]
書いてあったのはたったそれだけだった。それが別れの言葉なのだろうと思った
が、あまりに簡素過ぎる。だがあの夜のオーメラの態度を思い出す限り、もう戻
って来ないだろうとグローアは察しがついた。
「奴めの言う通りに使ってやれ。」
ゲハートはそう言ってグローアに同封されていた鍵を放り投げる。グローアは受
け取ると握りしめて頭を下げた。
「はい。」
頭を上げて返事をするグローアに、ゲハートは優しく頷いただけだった。



執政統括の部屋では、リンハイアとハイリが向き合ってソファーに座っている。
アリータはお茶を淹れると、別件で退室していた。
「兆候は見られたそうですが、どうやら本人が拒否しているようですね。」
リンハイアは何時もと変わらぬ微笑を浮かべていた。
「儂には呪紋式の事は分からぬが、穏剣を退けたのは最低限の範囲だな。」
「ハイリ老は満足でしょうね。」
ハイリの言葉にリンハイアは微かに笑い声を溢す。軍神と言えどやはり人の範疇
を超えないのだと。
「出来れば死なせたくは無い。」
「それは同意見です。」
リンハイアの言葉にハイリは視線を鋭くする。
「お主のやり方は死んだらそれまで、としか見えぬが?」
「そんな事はありません。ただ、今回の件で彼女は更に頑なになってしまったで
しょうね。」
リンハイアの微笑には多少の無念さが見えた。
「時間が解決することも無さそうだな。」
「そうですね。人の心程動かすほど難しいものは在りませんね。」
そう言って微苦笑するリンハイアに、ハイリは胡乱げな視線を向ける。
「よく言う。お主程弄んでいる者も居らんだろう。」
「酷い言われようですね。」
はっきりと苦笑に変わったリンハイアを見ながら、ハイリは用意されたお茶を飲
み干した。
「だからこそ、お主が執政統括だと思っておるのだがな。」
ハイリは鼻を鳴らして笑うとソファーから立ち上がる。
「何れ、引き込んでみせますよ。」
「期待はしておらん。」
既に向けていた背中を向きなおす事なくそう言うと、ハイリは執政統括の部屋を
後にした。



その後、ロググリス領領主ヤングレフカの死が報じられると、国境の小競り合い
は加速し紛争が始まった。牽制をしていたメフェーラス国の国境警備軍が関を切
ったようにロググリス領の守備隊に攻撃を仕掛け始める。
それに呼応する様にメフェーラス国は、即座に国軍の派遣を決定。ヤングレフカ
と共に領主館ごと崩壊したロググリスでは、命令系統が機能せず国境の守備隊が
奮戦するものの、呆気なくメフェーラス国の侵攻を許し、ついに戦争に突入した。
南に位置するラコンヌ大国へも情報が流入し、間にマガスレイト山脈が隔ててる
とは言え、国境は警戒体制に入った。マガスレイト山脈を越えてまで飛び火する
とは考えにくいが、万が一火の粉が飛んで来た場合には振り払わねばならないか
らだ。ただ、どちらかと言えば牽制の意味の方が強かった。
周囲に位置するサールニアス自治連国の、アンテリッサ国、ナベンスク領、モッ
カルイア領では即時、国境の警戒レベルを最高まで引き上げた。同時に緊急で三
国会談を実施。三国での同盟を此れまでより更に強化という認識で強く意識を一
致させ、更に国境の軍備増強までもが即日可決された。それは、サールニアス自
治連国が誕生した歴史に対して忌避するように。
これにより三国は国境への人員派遣と、物資の追加をそれぞれ速やかに実施した。
同時に他国の同盟へも有事の際には協力を仰いだ。
ロググリス領とメフェーラス国は、マガスレイト山脈と三国同盟に挟まれ、四面
楚歌の状態で泥沼の戦争へと激化していった。
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