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23.忘れていた謳い文句、解放

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「体力、多すぎですわ・・・」
「だから戦う必要なんかないって言ったじゃねぇか。」
アーニルケの街に戻ったアヤカの第一声に、俺も疲れているが一応突っ込んでおく。いや、突っ込まなきゃよかった、余計に疲れる。
「銃弾、殆ど残ってないよ。最近、こんな戦いばっかりだ・・・」
ご愁傷様としか言えないな。文句ならアヤカに言ってくれ。
それでも姫が居なかったらもっと時間が掛かっていただろうな。

とは言え、原石が揃ったので真っ先に俺らは鍛冶屋に向かう。

片手剣 【神剣ラーズアルティア】
太刀 【絶華一刀 繚乱姫媚】(ぜっかいっとう りょうらんきび)
二丁拳銃 【双幻月 朧】(そうげんげつ おぼろ)

完成。

残り1個だっただけあって全員、武器の強化が完了した。オルデラ用に作った武器は、それぞれ必要な原石が違うので、暫くは嵐皇龍の武器でクエストを進める事になるだろう。
どっかの誰かが我儘を言いださない限りはな。

武器を作成すると、システムデバイスに更新表示、確認するとシステムに何か変更があったようだ。タップすると音声が頭の中に直接流れ込んでくる。
『上級武器作成により、響力プレイが解放されました。』
ん?
「うわ、なんだこれ。」
タッキーちょっとうっさい。
「戦が可能になったのか?」
ちげぇよ。どこをどう聞いたら戦の話しになるんだよ、アホか。
『実際の操作についてはチュートリアルをご確認ください。』
なんだか分からんが、後で見てみるか。
『組み合わせの数は沢山あります、仲間との響力プレイで色々見つけてみてください。』
ま、なんか仲間と出来るんだろ、だったら。
「なぁ姫。」
「はい。」
既に上級武器を作成済みの姫に聞いた方が早い。
「響力プレイってなんだ?」
「このゲームのタイトルにもなっているシンフォニア、パーティプレイで仲間同士の攻撃が相乗効果を発揮するシステムです。」
あぁ、ああ、あったよそんなの。宣伝でそんなような事を言ってたな。
「なるほど、発売前後で謳ってたあれか。」
「はい。」
「って事は僕ら、武器が強くなったうえに、さらに追加攻撃?的なものも増える感じかな。」
聞いた感じからすればそうなんだろう。
「試してみないと分からないが、これがあったら狼も楽だったんじゃないか?」
「そうだよね!」
無駄に苦労して倒したわけか。逆にその苦労があったから、違いが実感出来るんじゃないか?そう考えれば、無駄でもなかったかもしれない。
「闘いとは常に己とするものですわ、己に打ち勝ってこそ真の勝利、戦闘において他人と手を取り合って斬り合うなど、武士としてありえませんわ。」
何時から武士になってるかわからんが。
「じゃ、一人で頑張れ。」
「冗談ですわ。」
嘘つけ!!
切り替え早すぎだろ、信念を口にしたんじゃないのか。
だけど、こいつちょっと面白いなと思ってしまった。
「まぁまぁ、折角なので今度試してみましょう。」
「そうだな。」
「ねぇ姫、二丁拳銃と弓の攻撃ってある?」
こいつはまた、露骨だな。そういうのは二人の時にやれよ。
「おそらく、組み合わせのない武器はないです。」
「ある方がおかしいよな、それを売りとしたんだから。」
「あ、言われてみればそうか。」
俺の突っ込みでタッキーは、苦笑いしながら頭を掻いた。

「それについては明日にして、今日はこの辺で止めておきますわ。」
「僕も、2戦しかしてないのに酷く疲れたよ・・・」
鍛冶屋を出てすぐに、アヤカとタッキーが疲労を隠さずに言った。まぁ、本当に疲れる戦いだったからな。オルデラに関してはいいとして、漆黒の巨狼に関しては完全にアヤカに付き合っただけだからな。
戦う事に乗った手前、言ってもしょうがないけど。
「じゃぁ、解散だな。」
俺の言葉を合図に、アヤカとタッキーのキャラは消えて言った。いつも見ている光景に、そういや俺がいつも最後だなってふと思う。
「ありがな、姫。」
「いえいえ。お役に立てたのなら良かったです。しかし、面白い人たちですね。」
姫はそう言うと微笑んでみせる。
「面白いか?」
「はい。」
俺には分からんが、姫にとってはそうなんだろう。でも考えようによっては、独特なアヤカなんかは面白いのかもしれない。俺にとってはアヤカじゃなくアホカって感じだが・・・言ったらリアルの俺が危険に晒されそうだ。
まぁいいか。
「んじゃ俺も寝るわ。また手伝ってくれると、助かる。」
「もちろんです、お休みなさい。」
「ああ、おやすみ。」

と言いつつも、気になるので少し時間をおいてから再度ログイン。システムデバイスを開いて、響力プレイの説明を確認する。
通称SSS
Symphony Sublimation Skill と、括弧書きで記載してある。
へ、へぇ・・・意味が分からん。まあそれはいいとして。
頭文字を取ってSSSなんだろうが、おそらく通称以外、ゲームをしていても俺が覚える事は無いな。
(とりあえずチュートリアルやってみるか。)
システムデバイスからSSSのチュートリアルを起動。自動的に周囲の景色が変化し、練兵場へと移動する。移動しているわけじゃなく、書き変わっただけだろうが。
練兵場は、武器の操作確認やキャラの動作、アイテムの効果などを試すことが出来る。それに、練習用の魔獣を選んで戦えたりもする。
今回は丸太に藁を巻いて作った古典的な人形のようなもので、教えてくれるらしい。
まずは武器選択から、なんだが選択肢なんか無い。持っている武器以外は選べないようだ。
次に相手の武器、これは好きに選べるようだが、上級の中でも一番下のランクだろうな、今作成可能な範囲なのだろう。
(やっぱり太刀だよな。初めから組んでるわけだし。)
そう考えると、このゲーム始めた時からアヤカと一緒なんだなぁ。現実では接点すら出来そうにない相手なんだろうが、まさか今でも一緒にゲームする事になるとは思いもしなかったよな。
まったく、物好きなお嬢様だ。
アヤカの事はおいといて、絶華一刀 繚乱姫媚を選択するととなりに太刀を持った影が現れる。

三連突きまでの攻撃をする、という表示が出たので、通常の連続攻撃から、神剣ラーズアルティアの固有攻撃である三連突きまで繋げる。隣にいる黒い影も攻撃を始め、三連突きまで到達すると同時に太刀の連撃も突きに移行した。
その直後、片手剣と太刀の刀身が光に包まれ、三連突きと太刀の突きが光の軌跡を描く。終わったと同時に片手剣の剣先に光が収束し始め、隣の影は太刀を振り上げる。
収束した光は光線となって木偶を貫通した後、続けて振り下ろされた太刀の剣閃が、眩い白光を散らしながら木偶を縦に駆け抜けていった。

(お、おぉ、すげーな。エフェクトが派手でいい。)
確かに、武器ごと、武器種などいろいろ組み合わせたら、凄い数になりそうだ。しかも、明らかにプラスアルファでダメージを稼げそうだし。
つまり、今後はこれを使えないと戦闘が厳しいのかもしれないな。だが、これは決まったら気分がよさそうだ。

チュートリアルの説明として、特定の攻撃が合わさった時に自動的に発動するらしい。つまり、プレイヤー同士が狙って合わせる必要があるという事だ。それはそれで、慣れが必要だろうな。
今回の場合付加効果として、片手剣の三連突きの攻撃力が増し、追加で光属性の光線。あの太刀は属性は無いが、片手剣の光属性が剣閃に付与され、さらに威力が5割増しになるそうだ。
このSSSに関しては、狙っていく方が良いだろうな。一回の連撃で与えるダメージが、お互い格段に増える。

ちなみに、発現させた効果についてはシステムデバイスに記録され、効果も確認出来るようになるらいし。見つけていないSSSに関しては、表示されないので、頑張って探せって事なんだろう。それも楽しみ方の一つかもしれない。

何にしろ、これからまた楽しみが増えたのは良い事だ。
(げっ、もうこんな時間かよ。)
ひと段落ついたところで、時間を確認すると既に深夜の3時。
(早く寝よ・・・)
そう思うと俺は、急いでログアウトした。




-CAZH社 自社データセンター 隔離サーバールーム管理室-

「プログラムされていない動作と、異常パラメータだね。」
「だろー。実行ログは残っているが、エラーと判断されていないため、エラーログは排出されていない。つまりだ、アプリケーション側でのエラーという認識は無いわけだなぁ。」
禍月の言葉に、美馬津は頷き八鍬は唸る。

動画を確認したあと、再開したサービスでの監視をして、今のところ問題は起きずに安定して提供できている。そこで、動画についての話しを改めて三人はしていた。

「意味がわからんな。本来であれば存在しない事象となる。」
「あたしらも同様の事を引き起こしてるけどなー。」
揚げ足を取るような禍月の態度に、八鍬は渋い顔をした。
「アプリだけじゃない。ファイアウォールの侵入検知や、ネットワークのトラフィックにも変なログは無く、通常のログしかなかった。」
禍月の話しは流して、美馬津が調べた結果を口にする。
「そうなると、アハトサーバー外から、何かしらの影響を受けたというのは考えにくいな。ネットワーク上を通過した形跡を残さず抜けるのは不可能だ。」
「そうなりますね。」
続けた八鍬に、美馬津も頷き険しい顔をする。
「だから言ってるだろー。」
険しい顔の二人に、禍月は指で摘まんだプレッツェルを向ける。
「こいつはアハトサーバーの中でだけ起きている現象だ。他のサーバーとの差異は言うまでもない、であればそっちから探った方が近道なんじゃないかぁ?」
「そこに辿り着くための地盤固めだろう。何も無かった、それを確認結果とするためのな。」
「急がば回れってやつかぁ、堅実なことだなぁ。」
八鍬に言い返されると、禍月はプレッツェルを齧りながら遠い眼をする。
「まぁ、僕らの仕事はそれが基本だからね。」
「わぁかってるって。」
美馬津の言葉を鬱陶しそうに禍月は、そう言ってプレッツェルを取り出す。そこで何か思いついたように、プレッツェルで美馬津を指す。
「そうだアッキー!あ・・・」
そのプレッツェルを美馬津が掴んで取り上げると、禍月は呆気に取られ、言葉に詰まる。
「これ、美味しくないだろ。何だよ、ハチミツ明太豆腐味って・・・。」
齧りながら眉間に皺を寄せて美馬津が言う。
「失礼だぞアッキー。今回はたまたま外しただけだ、あたしも美味しいとは思っていない。」
「普通に食べてるから美味しいのかと思った。」
「仕方ないだろぉ、いつものねぎ味噌納豆味が売り切れだったんだから。」
こんなものが売り切れるのか、と美馬津は思ったが、売れると思わないからお店での仕入れ数が少なく、買い占めたのは禍月だろうなと思った。他に買う人の想像が出来なかったからだ。
「ちなみに次点はキュウリキムチ納豆味だ。」
「いや聞いてない。」
得意気に言う禍月の言葉を、美馬津は冷たくあしらう。このプレッツェル、早々に消えていくんだろうなと思いながら。
「おのれアッキー・・・」
「菓子の話しをしている場合ではないだろう・・・」
黙って聞いていた八鍬が、額に青筋が見えそうな形相で静かに言った。

「すいません主任。」
「アッキーが余計な事をするか・・・」
謝った美馬津に追い打ちを掛けようとする禍月だったが、八鍬に睨まれて止める。
「それで禍月、何か思いついたんじゃなかったのか?」
八鍬は話しの続きを促そうと、先程禍月が何かを言いかけた事を指摘する。
「そうだった。アッキーさぁ。」
「何だよ、僕は別に何もしていないぞ。」
「いーやしてるね、アハトサーバーに物資の転送してるのアッキーだろぉ、なーんか変なもの召喚したんじゃないのか?」
美馬津に思い当たる節は無かったが、念のため再確認をしてみる。が、やはりそんなものは思い当たらない。
「無いな。」
「目に写るものがすべてではない。」
美馬津の発言に対し、八鍬が直ぐ態度に対する是正の意を込めて言う。果たして言い切れるものなのかと。
「うむ。データと物質、相容れないそこに何かがあるかもしれない。あたしもそこ、目の付け所なんじゃないかなって思うんだよねぇ。」
二人の言葉で、美馬津は顎に右手を添えると再度思考する。
「私も美馬津も、寝る間もろくになくこの場所に缶詰めだ。言い訳と取られても構わないが、状況が目を曇らせるという可能性もある。」
「人間の嫌なところですね、本当にそれが正しかったのかと問われれば、果たして本当にそうだったろうかという疑念に囚われてしまう。」
人間は完璧ではないという程度のつもりで八鍬は言ったのだが、美馬津には不安を与えてしまったかと思わされた。だが当の本人は苦笑しているので、問題はないかと懸念を払う。
「次から、気を付けて確認してみます。」
「あたしもするぞ!やる時は言え。」
「分かったよ。」
「一先ず、今はそれしか無いか。異常も出ていないしな。」
「えぇ。」
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